映画レビュー0488 『カティンの森』

【おことわり】

年明け一発目はお馴染みの例のアレなので、今年観た映画のレビューはこれから全部(と言っても数本ですが)アップします。

私事ですが年末を直前に控えて体調を崩してしまい、またも鑑賞本数が減りつつあります。最悪入院かなと思うほどひどかったんですが、一応そういう事態は避けられ一安心、じゃあまた映画観るか、と選んだ映画がこの重い映画という…。いやー、観てて胃が痛かった。

カティンの森

Katyń
監督
アンジェイ・ワイダ
脚本
アンジェイ・ワイダ
ヴワディスワフ・パシコフスキ
プシェムィスワフ・ノヴァコフスキ
原作
『死後 カティン』
アンジェイ・ムラルチク
出演
マヤ・オスタシェフスカ
アルトゥル・ジミイェフスキ
ヴィクトリア・ゴンシェフスカ
アンジェイ・ヒラ
ヤン・エングレルト
音楽
公開
2007年9月17日 ポーランド
上映時間
122分
製作国
ポーランド

カティンの森

第二次世界大戦が勃発。ソ連・ドイツ双方から攻め込まれ、分断したポーランドで、ポーランド軍将校である夫・アンジェイ大尉を探し歩くアンナ。彼のもとに辿り着いた彼女は一緒に帰ろうと諭すが、軍への忠誠を誓うアンジェイはそのまま軍にとどまり、捕虜として移送されていくのであった。

史実だけに引き込まれる名作。

8.0

僕が「カティンの森事件」を初めて知ったのはゴルゴ13でした。こんなひどい事件が実際にあったのか、と結構な衝撃を受け、その後少し調べたりして大体の概要は知っていました。この事件は当然ながらこの映画最大のテーマであり、軸となる事件ではありますが、何分そうしていろいろなところで語られている有名な史実でもあるので、事件内容に関わる話に関してはネタバレ云々関係なく書こうと思います、というご説明からスタートです。

主人公はポーランド軍将校・アンジェイ大尉と、その妻アンナ。この夫婦のそれぞれを追いながら、同じくポーランド軍に所属する兵士とその家族たちも絡めた、やや群像劇の色合いを持った戦時下を描いたドラマです。果たして夫は帰ってくるのか、兄は、旦那は? 消息のわからぬまま、戦争が終わり、やがて…というお話。

戦時下を描いているだけに、全体を通して非常に(内容・映像共に)暗く、観ていて気が沈む映画ではありました。

何と言っても「カティンの森事件」。

そのとても人間の所業とは思えない残酷かつシステマチックな殺戮の舞台は映画の終盤に描かれ、文字通り見るに耐えない印象を抱かされます。これが実際にあったことだと言うのはなかなか今の時代からすると信じがたいものがありますが、反面、この手の残酷な戦争犯罪はかなり時間が経たないと判明しないことも多く、公になっていないだけで、今まさにどこかでリアルタイムに起こっている可能性もあると思うと、改めて戦争は最も避けるべき事柄であると感じます。

ネトウヨ的感情しか持ちえていない、どこぞのお子様首相もこの映画を観た方がいいのではないでしょうか。最も、瞬間湯沸器の彼にこの映画のメッセージを受け取るだけの頭脳があるとも思えませんが。

ついでに言えば、この「カティンの森事件」というのは、ソ連軍(厳密に言えば秘密警察のようなものらしいです)が行ったものですが、第二次世界大戦でドイツが敗れ、ソ連統治下に入ったポーランドでは「ドイツがやった」と喧伝され、またそのことがこの映画のストーリーでも重要な意味を持ってくるんですが、現実ではあのゴルバチョフがソ連のトップとなった時代に、グラスノスチ(情報公開)の風潮が高まったことで結果的に「スターリンの犯罪である」と、一応はソ連が行ったものであるとソ連自体が認めるに至りました。

対するドイツも、ナチスドイツに対する反省は言わずもがなであり、そういった内容の映画もたくさん作られています。こうした諸外国の戦争犯罪に対する向き合い方を見ると、やはりどうしても日本で今流行っている「歴史修正主義」が頭をもたげざるを得ません。

ここでそういう話を書いても仕方がないので詳細は避けますが、彼ら歴史修正主義者たちの言う「自虐史観」的な映画(この映画は純粋に被害者であるポーランドの映画なので別ですが)を作れる土壌、そしてそれが評価される世界、その土壌が文化として他国に与える影響を考えると、やはり今のあのお子様首相を始めとしたネトウヨ的思考のみっともなさと言ったら恥ずかしいなんてもんじゃないですね。彼らは映画を観ないんでしょうか。その親玉の一人でもある某ハゲ作家の映画がヒット、とかブラックジョークにも程があります。

えー、だいぶ話が逸れました。

そんなわけで映画としてはだいぶ暗く、重い映画なので、かなり人を選ぶ内容ではありますが、個人的にはこの事件そのものに興味があった(からこそ観た)こともあって、終始集中してじっくりと鑑賞することが出来ました。

かなり地味ではあるものの、情感豊かな内容は鼻につかない程度にドラマ的で観やすくもあり、どこかクリント・イーストウッドの映画のような「なんでかわからないけどじっくり観ちゃう力がある」映画でしたね。

あまり万人にオススメできる内容ではありませんが、戦争映画や歴史に興味がある人は一度観てみることをオススメします。

このシーンがイイ!

やっぱり「カティンの森事件の実際」を描いた終盤のシーンは壮絶。ベルトコンベアーのようなシステマチックな殺戮は言葉にならないほど残酷で、戦争の狂気を語るのにこれ以上相応しい映像はない気がしました。

もう一点、「私は被害者の側にいたい。殺害者ではなく」というセリフがすごく響きましたね。

ココが○

父親が実際にカティンの森事件の被害者である監督が作った映画ですが、お涙頂戴の「かわいそうでしょう」的な展開ではない、きっちりと冷静に事件を描いた内容は素晴らしかったです。

ココが×

固有名詞がわかりづらい、覚えづらいのは間違いないと思います。突然出て来てこの人誰? みたいなのも結構あって。最後でつながりはするんですが、群像劇っぽさも相まってよくわからないまま進みかねないので、少し気をつけながら観た方がいいでしょう。

それとオープニングで「配慮が必要な映像がありますがオリジナルを尊重して」的なメッセージが出ることもあり、やや残酷なシーンがあります。特に事件の捜査のシーンは当時の資料映像をそのまま使用しているらしく、大量の遺体が出てくるので、苦手な人は少し気をつけたほうがいいかもしれませんが、ただ資料映像自体はモノクロということもあってそこまで生々しいわけではありません。

逆に僕としてはオープニングで予告するほど残酷な描写もなくて安心した面はありました。

MVA

ポーランドの俳優さんがメインということもあって、どの人も初めて観た人ばかり。そんな中、この人に。

アンジェイ・ヒラ(イェジ中尉役)

主人公アンナの夫・アンジェイ大尉の同僚で親友。

彼の存在が非常に物語に深みを増していたと思いますが、すこーしダニエル・クレイグに似た感じのこの方、深い深い悩みを内包しつつ表に出さない感じ、良かったですねぇ…。

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