映画レビュー0766 『すれ違いのダイアリーズ』
久々(?)ネトフリ配信終了シリーズ。これはタイの映画なんですが…初めて観ますね。
アジアの映画は少し安っぽいんじゃないかなーとものすごくいい加減な先入観がありつつ、結構評判が良いようなので観てみました。
すれ違いのダイアリーズ
マンガのように純粋なストーリーにタイの風景と子どもたちの純粋さがマッチした傑作。
やられましたね。完全にやられました。めちゃくちゃ良かったです。ぜひ観てほしいですが、その前におさらい。
主人公は二人。一人は女性教師・エーン。ちょっと面長ですが戸田恵梨香っぽくてカワイイ。オープニングで「スカート短すぎじゃねーかよ先生!!」と大興奮、男性諸氏はすでにここでガッチリハートを鷲掴まれたも同然です。
彼女はいかにも若手教師らしい「こういう教師になりたい!」思いが溢れた熱い先生なんですが、その分組織や権威(校長先生)にもおもねらない面が災いし、あえなく生徒7人の水上学校(分校)に左遷されます。
この学校がまたすごくてですね、文字通り水上にある移動できる学校でもう見るからにオンボロ。トイレは川に垂れ流しというなかなかな環境である上に、街からは結構遠いんでしょう…なんと帰るのは週末の休みのときだけ、ですよ。先生も生徒も。つまり平日は全員泊まり込みで学校にいるわけです。年中合宿状態。もちろん食事は自炊。雨が降らない日の方が珍しく、携帯もほぼつながりません。
そこでの生活は当然過酷なものなんですが、日記に思いの丈をぶちまけて自分を鼓舞しながら次第に適応するエーン先生。過酷な環境故にまた愛着も増すんでしょう、大きなやりがいとともに教師としての喜びを感じながら途中離脱だらけの前例を覆し、きっちり1年間勤め上げます。
舞台は変わって1年後、同じ水上学校に赴任した新人教師のソーン先生。こちらはいかにも爽やか好青年な男性教師なんですが、彼もエーン先生と同じく過酷な環境に滅入りつつ、せっかく得た教員の仕事をきっちり全うしようと頑張るぞ…ってなところでエーン先生が残していった日記を見つけるわけです。
日記には自分と同じような感情を正直に吐露する女性の思いが書かれていて、次第に自分の思いとシンクロしていくうちに彼女への想いが募り、一度会ってみたいと願うようになるわけですが…以下割愛。
さて、説明ではわかりやすく前後に分けて書きましたが、実際はエーン先生・ソーン先生それぞれの学校での生活が交互に描かれながら物語は進みます。当然ながら時間軸は1年ずれているので、ずっとお互いは交錯しないままそれぞれの生活が描かれ、「すれ違い」のまま二人の時は流れていきます。
基本的にコメディタッチで明るく展開し、生徒も無邪気でカワイイしのほほんと観られるんですが…ちょっとずつ疑問が浮かんで来るんですよね。
エーン先生は優秀な教員として頑張っていたっぽいんだけどなぜか1年で学校を辞めちゃったみたいだし、代わりにやってきたソーン先生はどうやら教員としてはダメっぽいから続かなそう。じゃあその後の水上学校は? 二人がいつか会うときは来るの? そもそもなんでエーン先生はやめたの? っていうかエーン先生は生きてるのか…!?
少しずつ頭の中にハテナマークが浮かびつつ、何やら「君の名は。」っぽいぞ…! なんて興奮しながら観ていたんですがそもそもまだ「君の名は。」を観ていないというね。いい加減なレビューになっております。
そんなわけでいろんなハテナに応えながらいくつか山場を盛り込みつつ、素晴らしいエンディングでオイオイとおっさんは涙を流したわけです。
基本は間違いなく「ラブコメ」に入る映画だと思いますが、交錯する二人の時間とそれを消化しながらの成長物語になんならちょっと(移動しないけど)ロードムービーっぽい雰囲気があったりしてですね。多分この感覚って伝わらないと思うんですが。まあものすごく良かったですよホントに。
なんとなく先入観で感じていた「アジア映画っぽい安っぽさ」みたいなものは一切皆無で、なんならその二人の時間をつなぐ演出もものすごく洗練されていてテンポもよく、不安どころかすごく安心して観ていられる巧みな映画でした。劇伴もものすごく雰囲気にマッチしていてよかったし、「タイ映画ってこんなに良く出来てるのか!!」って衝撃なレベル。やっぱりインドと良いタイと良い、カレーが美味しい国は映画も美味しいんでしょうか。(いい加減な推理)
またこの水上学校を始めとしたタイの風景がむちゃくちゃいいんですよ。ただただ綺麗で。最初は「おっ、ちょっとどうでしょうのマレーシアジャングルに向かう途中っぽいね」なんて思ってましたが、そんなお前はバカヤロウだと藤村Dに怒られるぐらい、景色の良さにまず胸を打たれましたね…。個人的にタイは特に行ってみたいと思うような場所でもなかったんですが、この映画を観た後では感覚が文字通り180度変わりました。行ってみたい。すごく。
そんな景色の良さと、生徒たちの無邪気さが良くも悪くも純粋なストーリーに説得力を持たせていて、「この舞台だからこそこの話が生きるんだな」というような感覚もまたうまいなぁ〜と唸らされました。前時代的な生活を余儀なくされる水上学校だからこそ起こり得るストーリーなんだな、と納得させられる舞台装置の良さというか。
他の方のレビューにチラッと書いてあったんですが、ソーン先生が「なんで会ったことも見たこともない女性に惹かれるのかわからない」みたいなご意見もあって、それはそれでよーくわかるんですが…ただそれを考えていた時に思い出したことがあって。
星新一の作品で…確か「ラブレター」とかそんなようなタイトルだったと思うんですが…宇宙飛行士たちが宇宙旅行の長さの退屈しのぎとして、決められた相手を好きだというテイでラブレターを交換する、っていうお話があるんですね。最初は冗談でやっていたのが次第に嫉妬とか入りだして、最終的には本当に好きになっちゃうっていうお話なんですが。僕は観ていてこの話を思い出したんですよね。
自分しか大人がいない中、会ったことも見たこともない女性が綴る日記を励みに日々暮らしていて、彼女も自分と同じような境遇の中頑張っていたのを見るにつれ、次第に親近感が沸いてくる…って至って当然だと思うんですよ。で、当然そういうのって良い方に想像しちゃうので、勝手に頭の中で「美人のエーン先生」を思い浮かべてしまい、それを日々の癒やしとして頑張る、っていうのはすごく真っ当でありえるお話だと思うんです。
なにせ追体験のしようがないお話なので推測しかできませんが、こういう特殊な状況下で唯一つながりの持てる大人が同職の異性で、その日記には自分の考える良い教師が投影されていたら、それは親近感を持つなって言う方が無理だよなぁ、と。
もっと言えば、これで実際に会ってみてかわいくないとかおばちゃんだったとかならもうそこで終了なんでしょうが、裏を返せば“一目見るまでは”その想いって継続するんですよね。だから「会えるのか」がテーマの物語として、想いを持ったまま展開するのは無理がない話だと思います。
恋愛物語としては至ってノーマルな筋かもしれませんが、そういったちょっと変わった環境に、生徒という存在+教師という職業をうまく混ぜ込んだとても良くできたお話だと思います。もっといろいろ書いても良いんですが、こういう良い映画はあんまり事前情報を入れずに観た方が良いと思うので、この辺にしておきましょう。
超オススメ!!
このシーンがイイ!
いくつかあるんですが、ネタバレ的に差し障りのないところで言えば、やっぱりタイの伝統的なお祭り「ローイクラトン」(だったと思う)のシーンがねー。ものすごくグッと来ましたね。めちゃくちゃ綺麗で。「コムローイ」と呼ばれる熱気球を夜空に飛ばすアレです。もうあの光景だけで涙が出ちゃう。確か「ハングオーバー!!」のエンディングでも出てきた記憶があります。情感がまったく違ったけど。
あとはもうエンディング。何も言いませんが、最高のエンディングでした。
ココが○
本当に舞台設定とタイの風景が抜群ですね。
演出も素晴らしいし、スキのない映画だと思います。
ココが×
どうしても“綺麗すぎる”物語だとは思います。うまくハマりすぎているというか。
でもそれがいいじゃん、とも思うんですけどね。素直に感動できた自分に安心しましたよ。またも。
MVA
主演のお二人どっちもとても良かったんですが、となるとやっぱり男的にコチラの方になるでしょう。
チャーマーン・ブンヤサック(エーン役)
純粋に美人だし泣きの演技も上々で文句なし。他の映画でも観てみたい!