映画レビュー1388 『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
最近妙にキン・ザ・ザの閲覧数が多いんですが何なんでしょうね。多いとは言っても相対的な話で、せいぜい1週間に10件とかなのでバズったとか誰か有名人に紹介されたとかでもないのは間違いないんですが、微妙に多いのって逆になんだか気持ちが悪いというか…。闇の依頼でも埋め込まれてるんでしょうか。(ゴルゴ13読みすぎ例)
さてこの映画はディカプリオ×デ・ニーロ×スコセッシってことで劇場行きたかったんですが結局行かなかったやつです。と思ったらAppleTV+で配信する系だったのでラッキー、と解約前に観ました。
ちょっとね…ここまで来ると劇場で観るのはしんどい長さだよね…。
キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン
エリック・ロス
マーティン・スコセッシ
『花殺し月の殺人 インディアン連続怪死事件とFBIの誕生』
デヴィッド・グラン
レオナルド・ディカプリオ
ロバート・デ・ニーロ
リリー・グラッドストーン
ジェシー・プレモンス
ブレンダン・フレイザー
タントゥー・カーディナル
ルイス・キャンセルミ
ジェイソン・イズベル
ジェイド・メイヤーズ
ジャネー・コリンズ
ジリアン・ディオン
ウィリアム・ベロー
スタージル・シンプソン
スコット・シェパード
2023年10月20日 各国
206分
アメリカ
Apple TV+(Fire TV Stick・TV)
長いのに最後サボるのマジで謎。
- 戦争から帰還し、利権を持つ先住民女性と結婚した男
- 街では先住民の不審死が相次ぎ、石油利権が次々と白人の手に渡る
- あまり長尺さを感じさせない序盤からの不穏さが◎
- ディカプリオとデ・ニーロの顔芸対決
あらすじ
さすがに長いとは思うんですが、それでも内容としては好き。好きなんですが…最後がまったく納得行かず、不満の残る“力作”でした。
第一次世界大戦から戻ってきたアーネスト(レオナルド・ディカプリオ)は、つてを頼って先住民・オセージ族が暮らす街の有力者である叔父の“キング”(ロバート・デ・ニーロ)の元へやってきます。
そこで運転手の仕事を得て土地に馴染み、やがて出会ったオセージ族の女性・モリー(リリー・グラッドストーン)と結婚。子どもも生まれ、順調な人生…なんですが、しかし街ではオセージ族の人々が不審死を遂げる事件が相次ぎ、不穏中の不穏。
オセージ族からも信頼されているキングは彼らをサポートしていくことを約束しますが、実際は(やっぱり)裏の顔を持つヤバい男なのでしたとさ…! 物騒すぎるこの街、今後どうなるんでしょうか…。
ゼノギアスかよ
序盤は丁寧にオセージ族が(確か)全米一の富裕層と目されるような存在になったこと、そしてそのオセージ族の住む土地と、彼らと共生する白人であるキング、そのキングの傘の下で暮らすアーネストとバイロン兄弟の姿を描き、ちょっと事件はあるけど普通のコミュニティのお話だよねと観ていると後半…! みたいな映画です。
一応実話を元にした原作本の映画化になるので実話ベースではあるそうなんですが、元々の主人公はニセマット・デイモンでおなじみジェシー・プレモンス演じるFBI捜査官で、それをディカプリオが「俺はキングの甥を演じるからそっちを主役にしようぜ」みたいな流れがありこの形になった模様。なので大枠の話は実話ベースではあるものの、ドラマ部分は創作が多いのではないかな…と予想しております。(本当のところはわかりません)
主人公が変更になったぐらいだからさぞかしかっこいい男なのでは…と思うところですがまるでそんな役ではなく、一言で言えば“風見鶏”という感じの情けない男。「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」といい、最近ディカプリオはこの手のダメ男づいていますがさすがに上手い。
一方のデ・ニーロは人格者で街の有力者、周りから信頼されていて誰もが愛する“キング”なんですが裏の顔は…的なよく見るパターン。でもこれまたさすがデ・ニーロ、めちゃくちゃいい人そうだしでも実際はめちゃくちゃ悪いやつだしで二面性がお上手すぎます。
二人とも表情筋が発達しているのか顔芸も見事であり、特にデ・ニーロのヘの字口は相変わらず他の追随を許しません。への字にも程がある。
上映時間は3時間半近い、今どきなかなかインド映画でもお目にかかれないレベルの長さなんですが、序盤はフツーの街の話っぽく見えて終始不穏さを漂わせており、そのおかげかあまり飽きずに観られました。
ただでさえ腹に一物抱えてそうなデ・ニーロがいい人っぷりをアピールしまくってくれるので余計に「これ絶対ヤバいやつだろ…」と構えてしまい、それが怖いもの見たさで引っ張ってくれるという巧みさ。
一方でそんな叔父に良いように使われるダメ男のディカプリオも「しっかりしろよおまえ!」的に観ていたくなる不思議な魅力があり、さすが大物俳優2人の共演は見応えあるわねと思った次第です。
「ウインド・リバー」もそうでしたが、最近(と言ってもあれはもう7年前の映画なんですね…)あちらではネイティブ・アメリカンに対する差別を問題視する作品が流行りなんでしょうかね? なんとなくその文脈上に位置するような映画のような気がするし、実話ベースであることを踏まえると、もう一度そういう過去に向き合いましょうみたいな意識を感じてこれはこれでいい流れだなと思います。またヘイト野郎が大統領になりそうだしね…。
ただですね、この映画には巨大な不満がありました。
散々書いている通り、上映時間がめちゃくちゃ長い映画なんですよ。3時間半超えの。
なので序盤から丁寧に人物描写を重ねて理解させてくれる内容になっているんですが、なんと終盤もうちょっと観たいぞ、どうなったんだ気になるぞというところでナレベ(厳密にはナレーションではないんだけど)に転換します。ゼノギアスかよ。
「えっ!? ここまで長いこと付き合わさせておいてナレベになるの!?」とめちゃくちゃビックリしました。おまけにそのナレベシーンが妙に力が入ってるんですよ。昔の舞台劇みたいな感じで。
力入れるのそこじゃねえだろ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ってめちゃくちゃ文句言いました。声に出して。もう超ガッカリ。
その上監督ご自身が出てきて語り入れたりしちゃうんですよ。ある意味ネタバレだけどこれはいいでしょ書いちゃうよもう。
監督本人が出てきてそれっぽいことを語り始めたら、もう「これを言うために作りました」感が強く出ちゃうじゃないですか。そこですごく政治色が定まってしまうというか。
それがもうつくづく残念でした。そんなことしないで最後まできっちり作り込んでほしかった。金だって時間だって使ってるんだから。
なんで最後サボるかなーーーーーーーーーー別にサボっていい「余談」かもしれないけど、そこまでの丁寧さ&ナレベの力の入れっぷり(そこじゃないだろ感)から違和感がすごくて、本当にもったいねーなとつくづくガッカリした次第です。
あれあそこまで「ナレベの演出」に力を入れている以上、何らかの意味があるってことなんですかね…? 僕は無知なのでわかりませんでしたが。ネイティブ・アメリカンの人たちがSE用の機材を作って飯食ってたとかそういう系…? まったくわからん。解せぬ。
これから観るのも割と大変
ということでね。大枠は非常に面白かったんですが、最後が最後なので不満で満たされる損な映画でしたよ。
それまでの料理は全部美味しかったのにデザートが不味くてその印象でお店を後にする感じ。もったいない。
物語から得た教訓としてはですね、僕は人生負け組なのでそのお慰みとして思っているだけかもしれませんが「結局お金がすべてになると人間って本当に貧しくなるよね」というお話でした。
本当に大切なものが何なのか考えさせられると同時に、それがわかっていたはずの主人公(ディカプリオ)が最終的にどうなるのか…というのが非常に皮肉めいたお話だったと思います。
さすがにこれだけ長いとなかなか観づらいし、おまけに配信はおそらくAppleのみになると思われるので劇場で観ていない人にはかなりリーチしにくい映画だと思いますが、僕が稀に発症する「短い映画ばかり観てるとバカになっちゃいそう病」をお持ちの方はぜひ適切なタイミングのときに観て頂いて、「長いのになんで最後これなんだよ」と一緒に憤って頂きたいと思います。何も感じなければそれでいいです。
このシーンがイイ!
最後まで観てから振り返ると、アーネストが「結婚する」って伝えたときのキングのそっけない感じが妙に引っかかって記憶に残ってますね。そのくせおまえ…! っていう。
ココが○
こういう話があったこと、歴史を知る上で非常にいい教科書だと思います。
もちろん脚色も創作部分も多くあると思いますが、大枠として「石油が出たことで富裕層になった先住民と、それを奪おうとする白人」という構図があったこと自体知らなかっただけに、まあいろいろ考えさせられましたよ。
ココが×
これはもう本当に最後のナレベがすべて。「ブラック・クランズマン」と似たものを感じる。
MVA
顔芸コンビのどっちか…と言いたいところですが今回は初見だったこちらの方に。
リリー・グラッドストーン(モリー・カイル役)
アーネストと結婚するオセージ族の女性。
穏やかで静かな役ですが非常に難しそうな場面も多く、見事な演技だったと思います。
とこれを書いているときにアカデミー賞候補になったと聞きましたが、しかし受賞はならなかったようですね。
この映画自体いくつか候補に挙げられていましたが、結果無冠だったようでやっぱり最後のナレベのせいじゃない? って気がするんですがどうなんでしょうか。まあ敵(オッペンハイマー)が強すぎたのかな…。