映画レビュー0534 『毛皮のヴィーナス』
やぁ。お馴染みの一人で家にいるだけ野郎だよ。(誰)
ということでまた少しズレますが、例のシルバーウィーク。当然のごとく何も予定がないためTSUTAYAに行って5本ほど映画を借りて参りました。その第一弾、ちょっと気になっていたコチラの映画。
毛皮のヴィーナス
なんとも評価が難しいけど…面白かった。
あの「マゾ」の語源となった作家、マゾッホの代表作を脚色し、舞台化するのでオーディションをやるよ、ってなことで募集をかけてやってきた、くたびれた女優と演出家の、オーディションと現実の曖昧な境目をさまよう危うく幻想的な物語でございます。
いわゆる“劇中劇”というやつで、「オーディションを受ける女優」と「オーディションを審査する演出家」が、お互い二人芝居の役を演じる姿を(映画として)演じている、というその時点ですでにちょっと役者的に難易度の高い演技な気がしますが、そこからさらに劇中劇の登場人物とその演技をしている役柄の人間性が絡みあい、攻守入り乱れ、立場もぐるぐる入れ替わっての「オーディション」は、“全編二人芝居”とは思えないほどに複雑で、また味わい深い面白さがありました。まるでオセロのように二人の立ち位置がめまぐるしく変わっていく駆け引き。コレはなかなかスゴイですよ奥さん。
「オーディションでサドマゾ的な演劇を演じる」という設定が抜群に面白く、その人の演じている性癖・性質が果たして演技なのか、それとも本質なのか、いやその辺の答えはハッキリしているんですが、「ただの演技」なのか、「演技のフリして本性が出てる」のか、「演技を忘れて本性が出てる」のか、その辺の線引きがとても微妙で、繊細な(映画としての)演技と表情からコロコロ入れ替わる関係性を観るのが楽しく、とても刺激的な映画でした。
僕はSMには興味が無いんですが、ただ別のラインで多少なりとも変態ではあるので、劇中の演出家・トマがおそらく感じているであろういろいろな感情が想像できて、その感覚が他の映画にはない不思議な楽しさを与えてくれていたのは間違いありません。
「これ以上行ったら危ないかもしれないけど先が見たい」というような感情を持っていたことは想像にがたくなく、期待と自己防衛のせめぎ合い、ジレンマの描き方が素晴らしい。そういう意味では、かなり男向きの映画かなぁという気はします。
女性の気持ちは当然ながらわからないので、女性には女性なりの、ワンダ目線での楽しみ方みたいなものがあるのかもしれませんが、僕としてはやはりトマの方の目線で物語を観てしまい、男なら誰しも持っているであろう「興味が身を滅ぼす可能性」を理解しつつも興味が勝ってしまう状況、というのが痛いほどよくわかって、深い映画だなぁと感心しきりでした。
ただ、パッケージにも「エロティック・サスペンス!」とか安っぽく表記されていましたが、エロを期待するとまったく肩透かしを食らうと思います。視覚的には、50近いおばちゃんの下着姿とおっぱいがちょっと出てくるだけ。しかもエロく見せないから我らがおチンコ様も立ちません。(だらしない肉感的なエロさみたいなものはあったけど)
が、それでも内容はエロいという。全然普通に(内容がわかるかどうかは別として)親子で観てもいいぐらいのレベルのエロさでしか無いんですが、ただしっかり観ていると、登場人物の心情とその起伏、高まり方がとてもエロいというなかなか興味深い内容。
なんですかね。
普通の二重丸(◎)なんだけど、これが一回おっぱいとして認識しちゃうとそれ以降はすごくエロく見えてくる、みたいな。
いや、この例え違うぞ。多分。
おそらくは想像力の問題で、やっぱり変態だったら変態に共感できる分「うわー、これエロいわー。わかるわー」みたいな点を見出だせる映画なんだと思います。そしてそれはきっと男なら大部分がわかるんじゃないかな、という気もします。
かのさまぁ~ず三村氏が以前、「コカコーラのボトルに興奮しないやつは男じゃない」とものすごい名言を吐いていましたが、それと一緒でエロくない場面でもエロさを見い出せてしまう“エロサラブレッド”であれば、この二人のやり取りの意味、それぞれの立場的な強弱が理解できてより楽しめるんじゃないでしょうか。
ちなみに僕はコカコーラのボトルでは興奮しません。当たり前です。
えー、だいぶエロについて語ってしまいましたが、実際のところはエロい映画というわけでもなく、言ってみれば「大人の心理戦」という感じかと思います。
たまたまテーマがサドマゾで、それがまた物語の性質上とてもいい題材だったというだけで、“登場人物の考えを想像してどういうやり取りをしているのか理解する”映画の変化球の一種みたいなものだと思います。
また、そういう話に面白さを見出だせる人であれば、この映画の持つ一風変わった不思議な魅力を感じることができるでしょう。ただの二人芝居を延々と観ているだけなのに、飽きないし面白い。特に大きな出来事も無いのに、力関係の変化にドキドキする。
さすがロマン・ポランスキー、監督としての力量をまざまざと見せつけられた感じがします。変態だしね。あの人。多分。変態じゃないとこんな映画は間違いなく作れません。
ただ、ラストはかなりシュールなので、そこで「ううむー」と悩んでしまったのも事実です。
言ってみればファンタジーな内容でもあるので、終わらせ方としては「そういうもの」かもしれないと思いつつも、ただもう少しビシっと決めて欲しかったな、という気はしました。でもそうするとこの映画特有の不思議な感じも薄まるだろうし、これはこれでいいのかもしれない…と思いますがモヤモヤはしました。
難しい。
そんなわけで、(エロいとかではなく、理解できるという意味で)とても万人にオススメできる映画ではありませんが、ヤァヤァヤァ我こそは変態なり、というような方にはぜひ観てみて欲しいところ。
もっとも、かのタモさんも言っている通り人間なんてみんな変態なんですよ。変態じゃない方がおかしいのです。だからこそ、この映画は面白い。
ラストに不満はあれど、それを補って余りあるほどの感情対決が観られてとても楽しめました。
このシーンがイイ!
ワンダの2度目のドレス装着シーン。最初と比べるといかに“進んでいる”かがよくわかる、名シーンでした。
ココが○
「芝居を演じている」のが一番かな、と思います。「いや、これ演技だから」と言える逃げ道を用意しつつ進む男と、その良い訳を見通して罠を張る女の戦い。超面白い。
ココが×
エンディング。シュール過ぎます。ちょっともったいない印象。
MVA
主演女優のエマニュエル・セニエは監督の奥さんだそうで。さすが変態の奥さん、変態への理解がすごい。この人も素晴らしかったですが、選出はこちらの方に。
マチュー・アマルリック(トマ・ノヴァチェク役)
細かい表情、ごまかし方、進行具合の表現が素晴らしい。
この役は相当な力量が必要だと思いますが、その力を見せてくれたと思います。そして彼もまた、きっと変態なんでしょう。
そうじゃないとこんな演技、説明が付きません。