映画レビュー0904 『テロリストのゲーム』

大人の都合なんでしょうか、この映画を観た週はネトフリで大量にトルコ映画が終了予定でして、んじゃせっかくだし観てみるか、と評判が良さそうなやつを2本ほどチョイスしてご紹介です。

ちなみにトルコ映画と言うと、一時期ネットで話題になった「カラテガール」という映画がありまして、ここに登場する“なかなか死なない悪役”がンマーひどくてですね。くどいし血糊袋自分で握りつぶしてお披露目するしでとても見応えがあってゲラゲラ笑えるんですが、しかしその分「トルコ映画大丈夫なのか」という一抹の不安もあり。期待半分不安半分で観ましたよと。

ただこの映画に関してはドイツも制作に関わっているようなので、純粋なトルコ映画というわけではないようです。

テロリストのゲーム

Labirent
監督

トルガ・オルネック

脚本

トルガ・オルネック

出演

ティムシン・エセン
メルテム・カンブール
サープ・アカヤ
リザ・コカオグル

音楽

カビト・エルガン
カン・ゴックス
エルデム・タラバス

公開

2011年12月22日 ドイツ

上映時間

123分

製作国

ドイツ・トルコ

視聴環境

Netflix(PS3・TV)

テロリストのゲーム

地政学的に重要なトルコだからこそのリアリティ。これはトルコ版“24”だ!

7.0
トルコの対テロ諜報作戦に従事する人たち
  • 大物テロリストが計画している大規模なテロ作戦を阻止する諜報機関メンバーのお話
  • 構図的には“よくある対テロ”映画ではあるものの、舞台がトルコであることに意味がある
  • 全体的に過不足なく、程よくまとめられた対テロスパイ映画
  • 分析と現場双方がスピーディに描かれて「24」っぽい

あらすじ

いやほんとにね、「なかなか死なない悪役」はなんだったんだと。あれも結構昔の映画っぽいですけど。

最近ネトフリのおかげで今までとはちょっと違った国の映画をいくつか観る機会が増えてきて嬉しい限りなんですが、どこも一昔前のイメージとは全然違ってとても洗練され、レベルが上ってきている印象が強いですね。嬉しい誤算。

これはサッカーなんかにしてもそうだし、やっぱり情報伝達速度とか移動速度とかが詰まったおかげで「世界が近く」なってきたために全体的に底上げされてるんだろうなぁと当たり前過ぎる感慨を抱くわけですよ。

そもそも日本で劇場未公開のトルコの映画を観る機会が持てること自体がその証左みたいなものだし、映画として観ればそこまで突出した良いものではないとは思いますが、意義的なものは大きいよなぁと改めて思った次第です。

主人公はフィクレトさんというトルコの対テロ捜査機関の…おそらく現場指揮官みたいな感じでしょうか。基本は彼がテロ対策の捜査を指揮しているようですが、彼より上の立場の長官的な人もいる模様。

ある日イスタンブールで自爆テロが発生、その犯行声明を過激派「アルワヒッド」が流し、背後にはトルコの伝説的テロリスト“ザワス”がいると見たフィクレトさん他諜報機関メンバーは、次なるテロが起こる前に彼を逮捕しようと捜査し、小さい情報から徐々に“ザワス”に迫っていく…というお話です。ちなみにメンバーの一人はやや椎名桔平似です。(いらない情報)

トルコが舞台だからこその価値

ということで舞台はトルコ。

ご存知の通りトルコはイスラム教の国であり、かつアジア・中東とヨーロッパの間に位置する地理的な“妙”もあるので、テロや移民問題とは切っても切れない、現代の世界的な社会問題の最前線に位置する国と言っていいと思うんですよ。

つい最近でもよく耳にする話ですが、ヨーロッパに向かう中東の難民がほぼトルコ経由でヨーロッパに渡るために、トルコがどういう政策を取るかでEU諸国の対応も変わる、というかなり世界的にも重要な意味を持つ国なんですよね。

そういう“地政学的に”とても重要な国が描く対テロ映画だけあって、そのリアリティはアメリカ映画の「最終的にアメリカ最強だぜ」みたいなものとはだいぶ違う、なかなかの生々しさをまとっていると思います。

最も話自体はそこまで独特なものを見せてくれるわけでもなく、良い意味でも悪い意味でも「オーソドックスな対テロ映画」の範囲にあると思います。

“良い意味”としては、「これがトルコ映画である」ということ。上記の地政学的な価値もさることながら、普通にアメリカ映画だと言われても信じるぐらいにまったく安っぽさも違和感もなく、素直に見られる仕立ての良さがあります。

“悪い意味”としては、そこから抜けられてない点。「普通に観られる作りの良さ」は、同時にそれ以上の際立った何かがない点にもつながっているので、これを観て「ぐわーマジかー!!」となるほどの衝撃は無いかなと思います。

ただそれでもよく出来ていることは間違いないでしょう。

トルコ版“24”

主人公のフィクレトは銃器を携行して現場にも出るし、オフィスで捜査の指示も出すし、記者会見にも出席するし、スパイとして利用している学生のイスラム教徒とのやり取りもするし、ちょっかいを出してくるイギリスの諜報部員との折衝もするしで八面六臂の活躍なんですが、その辺の活躍っぷりとオフィスで彼(ら)をサポートする解析班的な存在とで結構“24”っぽい雰囲気があってですね。そこがまた24好きとしてはたまらなかったわけです。ちなみにクロエ的立場っぽい分析担当のメガネ女子がとても美人だったことでたまらなさが倍増しております。ただ残念ながら分析場面は少なめです。

全体的にテンポも早いし、振り返ると「なんでそこに行き着いたの?」みたいな万能感も良い意味で24っぽく、それだけ(言葉は悪いですが)「対テロ娯楽」として成立している映画でしょう。

またくどくない程度に主人公周りの人間関係も描かれるので、対テロ一辺倒ではない「リアルな人間感」のおかげで感情移入も高まり、鑑賞前後でトルコに対する見方が変わるかもしれません。

何せ「イスラム教国でイスラム教徒のテロリストを追う」ことの意味合いは、やっぱり欧米のそれとは全然違うじゃないですか。

その欧米との違いを見せるために存在するのが、“敵味方”の構図とは少し外れた場所に位置するイギリス諜報部員のおっさん(ダンディ)のような気もするし、彼らの「トルコは知らんけどこっちには被害を及ぼしてくれるな」的な立ち位置の酷さを浮かび上がらせる“当事者感”というのは、やはりトルコ映画ならではのものでしょう。

対テロだけではない国家間のバランスが隠し味

全体的に過不足なく、「今世界で何が起きているのか」の一端を垣間見ることができる良い映画だと思います。

これをアメリカ辺りでやっちゃうともう本当に純然たる娯楽映画になっちゃう(それはそれで好きなんですが)ところですが、やっぱりこれをトルコが作ったというところに大きな意味があるのは間違いないわけで、その意味では実は一番の見所は「対テロ作戦」ではなく「対欧米(この映画で言えばイギリス)」なんだと思うんですよね。

文字通り最前線でテロと戦う人たちが、もう一歩後ろにいる(けど強大な力を持っている)欧米諸国とどう渡り合うのか、それを一人の主人公だけで描くのはなかなか力技ではあると思いますが、しかしそこにこそ、この映画ならではの視点があるんでしょう。

いやいやなかなかでしたよ。

このシーンがイイ!

やっぱりラストですかねぇ…。フリからしてそうだろうなとは思ってましたが、しかし綺麗な良い閉じ方だったと思います。

ココが○

「トルコが頑張ってハリウッド的映画を作りました」ではない、トルコだからこその視点が含まれている点でしょう。演出はそれらしく、中身は少し自分色を出す感じで、観やすさとオリジナリティを両立しているかなと。

ココが×

ただやっぱりこの手の映画の枠からは抜け出せていないので、なんならもっと欧米を悪く描くぐらいにしてもらった方が印象的だったかなぁという気も。

それとわかりやすいフラグがいくつか見られたのと、音楽がやや大げさなのが少しもったいなかったですね。

あと最後のものすごく良いシーンである登場人物の鼻毛が出ちゃってたのが…撮り直すか後工程で消してあげるなりしてあげればいいのに…。

MVA

主人公がそこまでかっこよくない、ややハゲなおっさんなのが逆に良かったですね。

ただ一番かっこよかったのはこの人かなぁ。

メルテム・カンブール(レイハン役)

主人公の右腕的存在の女性。

最初見た目的にはややおばちゃん感が強いなぁと思ってたんですが、中盤以降すげーかっこいいの。もう。格闘とか強くて。

女性が強いのはズルいなーと思いつつやっぱり選ばざるを得ませんでした。

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