映画レビュー0751 『とらわれて夏』

今回はネトフリ配信終了間際の映画から。

とらわれて夏

Labor Day
監督
脚本
原作
『レイバーデイ』
ジョイス・メイナード
音楽
公開
2013年8月29日 アメリカ
上映時間
111分
製作国
アメリカ
視聴環境
Netflix(PS3・TV)

とらわれて夏

心に傷を負い、あまり外出もできなくなったシングルマザーのアデル。ある日息子を連れて月に一度の買い物に行った時に逃亡中の男に目をつけられてしまい、彼を連れ帰って自宅で匿うことを強制される。

サスペンス的な見せ方のうまさも相まって、終盤の展開には落涙必須。

9.0

「そこそこ評判良さそうだぞ」以外の事前情報は特に無く観たんですが、オープニングで監督がジェイソン・ライトマンと知りました。

ジェイソン・ライトマンと言えば「サンキュー・スモーキング」「JUNO/ジュノ」「マイレージ、マイライフ」「ヤング≒アダルト」と“軽めのリアル痛コメドラマ”の名手としてかなり好きな監督さんなので、まさか(と言ったら何ですが)こんな真面目で情感豊かな良い映画を撮るとは思いもよらず、結構な涙を流しつつの大満足映画でした。

主人公はケイト・ウィンスレット演じるシングルマザー、アデル。久しぶりに観た気がしますが、役にあったいい感じの“くたびれ感”を感じさせつつ、所々はやっぱりそれなりに綺麗に見せる部分もあったりしてさすがの演技。

その彼女が演じるアデルは夫と離婚後、ある理由によってあまり外に出られない精神状態になってしまい、一人息子のヘンリーと古い家で静かに暮らす毎日。出かけられない割にあまりお金に困っている様子が無いのが若干不思議ではありましたが、とは言え家の古さから考えてもやはりあまり良い生活はできていないようです。

そんなわけで彼女は「頑張らないと外に出られない」人のため、生活上やむなく月に一回買い物に出かけて大量に買い込んでくる、というような生活を送っている模様。

ある日、その月に一回の買い物に息子ヘンリーを伴って出かけたところ、一人マンガを物色していたヘンリーのもとに怪我をした男が現れます。彼がジョシュ・ブローリン演じるフランク。

フランクはヘンリーに助けを求め、家に連れて行ってくれないかと頼みます。当然ながらただならぬ雰囲気であからさまに怪しい男な上にあまり他人と関わりたくない母親・アデルは無理だと伝えますが、最終的には彼の脅しに負け、家まで連れて帰ることに。

やがて家で観ていたニュースによって「刑務所から脱獄した殺人犯」というフランクの素性が明らかになりますが、彼は二人に危害は加えないと約束するにとどまらず、家や車の修理作業や力仕事を率先してこなすことで、次第に二人との距離も縮まっていく…というお話になっています。

どことなく「パーフェクト・ワールド」を彷彿とさせる「殺人犯っだけど悪くないやつなんじゃね?」的な人間との関わりを描いた映画ということで、正直まあ結構ありきたりな流れではありました。どうせ最終的にはああなるんでしょ、みたいなのも浮かんじゃうし。

ただ、それなりに謎がありつつそれを少しずつ解明していくサスペンス的な流れの巧みさもあって、思ったよりも惹きつけられる内容だったと思うし、そういう「どっかで観たことある話」を構成のうまさで上手に既視感を消して進んでいく感じがなかなか試合巧者感があって良かったな、と。さすがライトマンやるじゃない。

謎としては大きく2点あり、一つは「アデルはなぜ外出恐怖症的な状態になってしまったのか」という点、もう一つは脱獄囚・フランクの過去。たまにどうやら過去らしい映像が挟まってくるんですが、これが誰のどういう状況を説明したものなのかがわかりづらく、それがまた良い感じに物語への引力になっていたように思います。それらがすべて種明かしされる時、観客の登場人物に対する感情の置き所が定まり、そこからラストまではノンストップでグイグイ見せてくれるという素晴らしい手仕舞いっぷりでした。

序盤から終始不安を誘う劇伴と穏やかではない状況に、いつどう事態が動くのかハラハラしながら見守る感じになるんですが、それらがその別軸の物語への理解とともに「きっとこうなる」予想を決定付けた上で、そこからさらに動いていく物語は目が離せません。特に終盤の焦らしまくりのピークタイムからエンディングまでの見せ方がとても素晴らしく、もちろんネタバレになるので詳しくは言いませんが非常に良くできているお話だと思います。

基本はアデル&ヘンリー親子とフランクの距離感が中心なんですが、そこにヘンリーがイヤ〜な予感を誘う謎の少女との関わりだったり、ヘンリーの父でありアデルの元夫でもあるジェラルドとの関係性も何やら思わせぶりだったりもして、「脱獄囚と成り行きで一緒に過ごすことを強いられる親子」だけではない広がりもまた不安にさせてくれて良かったです。

エンディングについて、良い感情なのか悪い感情なのかを言ってしまうともうそれがネタバレになるので避けますが、なかなかの涙が流れたことは書いておきましょう。オススメです。

参考までに一つお伝えしておくと、時間を気にして観ないほうが良いということだけは書いておこうと思います。「残り●分ぐらいだな…」とか確認しちゃうとまだ続きそうで興を削いじゃうかもよ、ということで。

ネタバレて夏

やっぱり大体の人がそうだと思うんですが、「逃げ切れるのか」「捕まるのか」の2択で観ているとどっちのパターンも昔あったな…的に思えてどっちになってもウーン、みたいな部分があったと思うんですよね。もちろん、フランクをヘンリーが撃っちゃって的な「パーフェクト・ワールド」まんまじゃん、みたいなのも無いだろうと思いつつ予想したりもして。

で、結果捕まっちゃって「そうかバッドエンドか…」と思ってからの展開が素晴らしかったですね。マジかそういう話だったのか! と。おっさんだけど素直に観すぎちゃってごめんね、みたいな。

特にパイの話をヘンリーの成功に結びつけるのはやられたな〜。野球はありそうだなと思ってたんですよね。さすがにメジャー入ったよとかは嘘臭すぎて無いですが、子どもができて一緒にキャッチボールやってますエンディングみたいなのは考えました。でもそれより全然上の良いエンディングだったので、もう完全にやられちゃいましたね…。

それにしても捕まった時のヘンリーの行動は気になりました。警官に送ってもらう段階では不安感も出てたから、多分一緒に逃げるつもりでいたと思うんですけどね。でも最後の最後で「部屋にお別れ」はどう考えても時間稼ぎだし、ってことはやっぱり逃げたくなかったと見るのが正しいんだと思うんですが…。

逃げたいなら父親への手紙も危険なことは理解してたはずだし、じゃあやっぱり警官に送ってもらう時の態度だけがちょっと不可解な気はします。「引っ張りのための見せ場」と言ってしまえばそれまでなんでしょうが。

所々で性への目覚めも描きつつの初キスの流れから考えれば、やっぱりあの女の子と別れたくない気持ちが勝っちゃったのかな…。年頃の少年としてはそれも当然だろうと思うので責められないのがまたより悲しみを誘って涙しましたが…。

でもその後もっと大きい涙が喜びで訪れ、結果的に悲しみの涙を喜びの涙で流してくれるというなかなか他にない感覚は…やっぱり良い映画だったなぁと思います。

世の中的な評価はイマイチみたいなんですけどね。もはやおなじみですね。僕の世間とのズレっぷりは。

このシーンがイイ!

いろいろあったと思いますが、ネタバレ的に差し支えのない部分で言うと、ゲーム機ごしに二人を見るヘンリーのシーンはとても良かったと思います。

ココが○

序盤の不安感と、終盤の展開のうまさ。ジェイソン・ライトマンは本当に良い監督だと思いますね。僕の中ではかなりトップクラスの監督です。

あとはすごく安っぽい感想になりますが、単純に子どもを生む・育てることの大変さを改めて感じるお話だったのが良かったです。「生まれただけで奇跡」もあながち大げさじゃないよなぁ、みたいな。

ココが×

やっぱり先読みしちゃう、既視感のある物語というのは否めないと思うので、その辺で好き嫌いは分かれそうな気がします。

あとこれはやっぱり触れておかないといけないと思いますが、邦題が絶妙に安っぽいんですよね…。メロドラマ調というか…。これはなんとかならなかったのかなぁ。この得も言われぬ安っぽさでものすごく損してると思う。

MVA

もう本当に主演の二人がめちゃくちゃ良かったので二人とも、と言いたいところですが選んでこちらの方に。

ケイト・ウィンスレット(アデル・ウィーラー役)

外に出られなくなったシングルマザー。

今更ですが…やっぱりこの人はベラボーにうまいですね…。女優の中でもトップクラスにうまいと思います。

やや疲れを感じるうらぶれシングルマザー感から、「ちゃんとすると魅力的」な雰囲気の出し方もさすが。(役柄的に)やや控え目ながら感情のこもった演技もお見事で、静かな魅力をきっちり演じていたと思います。文句なし。

そして一応書いておきますが、もう一人の主役、ジョシュ・ブローリンも当然ながら文句なし。いろいろできそうな器用感、只者ではない怪しい雰囲気、そして男らしさとすべてにおいてこの人らしく、これまた適役だったと思います。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です