映画レビュー0703 『奇人たちの晩餐会』
今回はNetflix配信終了間近シリーズでございます。
最近は本当にレコーダーがパンパンなので、ネトフリ配信終了で観たいものがない限りは基本録画モノというルーチンで動いております。
というかレコーダーはもう完全に間に合ってなくてですね。やむなくブルーレイに落とした映画がもうすでに50枚近くあるんですよね…。平均すると1枚大体5〜6本は入っているので、それだけでもう300本分、自分のペースであればがんばってこれだけ観てても2年は保つという…。
おそロシア。いやロシア映画はないんだけども。たぶん。
奇人たちの晩餐会
愛すべき人物はどっち?
「奇人たちの晩餐会」というタイトルから、もっと奇抜なキワモノたちが登場するのかとちょっと身構えていたんですが、実際はそのタイトルから感じられるようなキワモノ感や文学的な雰囲気はまるでなく、至って普通に楽しめるコメディ映画でした。
主人公のピエールはパリの出版社の社長。仲間内で毎週(多分)水曜日に「奇人たちの晩餐会」と称する晩餐会を開くのを趣味にしています。その晩餐会は、各人が「こいつはマジでバカだな…!」と“素質”を見出した人物をご招待し、彼らに趣味その他を語らせることで誰が一番バカなのかを仲間内で決める、というひじょーに悪趣味なもの。もちろん、招待された人たちはバカにされていることを知りません。
ゴルゴ13でもカイジでもこの手の屈折した悪趣味な金持ちが出て来ますが、まーなんなんでしょうか。こういう人たちは。
そんな屈折したピエールが「まだ候補が見つからない!」と焦っていたところ、彼の親友であるコルディエが偶然電車で知り合ったフランソワ・ピニョンという人物を「こいつなかなかバカっぽいぜ」とご紹介、じゃあいっちょ呼んでみるか、と彼を招待し、家に招きます。しかしその直前、ゴルフのスイング中にギックリ腰をやっちゃったピエールは動けない状態になってしまい、やむなく家に来たピニョンに「また来週招待するので」と追い返そうとするんですが、そこで奥さんが出ていったりなんだかんだといろいろあってなかなかピニョンは帰らず、事態がどんどん悪化していく…というお話になっております。
そう、実は「奇人たちの晩餐会」というタイトルではありますが、本線はその晩餐会ではなく、実際はピエールの家でのアレコレが中心になった舞台劇のような映画です。と思ったら実際に原作は舞台劇だったらしく、その舞台劇を作った人が映画の監督・脚本もやっている模様。
一部他の登場人物の家なんかも出てきますが、基本はピエールの家のシーンだけの(ほぼ)ワンシチュエーションコメディ。低予算・アイデア勝負のいかにもなコメディ映画と言えますが、80分というかなり短めの尺もあって飽きずにとても楽しめました。
まずピエールが呼んだピニョンという男、彼は税務局に勤めるお役人なんですが、趣味がマッチ棒を素材にした模型作りで、最初に出会ったコルディエに延々とその趣味について話して呆れられるような…やや空気が読めない人、という感じでしょうか。ただこの時点で「これはバカだな」という感じもなく、そんなに張り切って晩餐会に招待するような人物のようには見えないんですが…実際にピエール宅に来たところでバカ爆発。すげーバカ。
ただ鼻水垂らして「ワハー!」とか言っちゃうような…この前観た「グレートレース」のおバカ王子みたいなベタなバカではなく、すごーくリアルなラインでのバカっぽい振る舞いを見せてくれます。一つのことに注力するとすべてを忘れちゃうようなタイプというか。「こう言えよ」って指示されて電話をかけても、電話相手との会話に熱中して全部忘れちゃうとか。
単純にコメディとしてはその「バカの見せ方」が笑いにつながっていくわけですが、この辺りはやり過ぎて醒めちゃうようなこともなく、絶妙に相手(ピエール)をイラッとさせるレベルのバカの描き方が良く出来ていたと思います。
ただ、じゃあ観客もピエールと一緒にピニョンをバカにしてゲラゲラ笑うだけという映画そのものも悪趣味な映画なのか、というとそうではなく、導入で「悪趣味な会合」という前提が描かれているので、そもそもピエールに対してあまりいい感情を持てないわけです。観客的には。なので「ピニョンはバカだけどちょっと気の毒だよなー」というややピニョンに寄り添う形で観る格好になってくるので、ピニョンがやらかす=ピエールにとって困る事態、というのもまた笑えるわけですよ。こりゃピニョンもひどいけどピエールは性格悪いし仕方ないよね、みたいな。
「ピニョンバカだなーwwww」→「困るピエールざまぁwwwww」という二度美味しいコメディというか。その辺の観客の感情の置き場所をすごくうまく利用したストーリーだな、と思います。
また触れずにいられないのはピニョンを演じるジャック・ヴィルレの容姿ですよね。これはもう完璧過ぎるキャスティングですよ。小太りでうすらハゲっていう。その彼が申し訳なさそうにヘタを打つ哀れさがより笑いを生んでいたのは間違いないでしょう。
逆に彼がゲラゲラ笑ってる様も絶妙にイラッとさせてくれるんですよね。小憎たらしい感じで。「愛すべきバカなんだけど愛しきれない雰囲気」とでも言えばいいでしょうか。FF11の白豚っぽい立ち位置。
だからひどい目にあっても「かわいそうだな…」とはならない、その匙加減たるや。本当に良い役者さんを配したな、と思います。
はてさて、そんなピエールとピニョンの織りなすドタバタ劇はどのような結末を迎えるのか。たまたまこの日、出ていく宣言をしたピエールの奥さんを始め、ピエールの愛人、さらに疎遠になっていたピエールの親友にピニョンの友人と様々な人を巻き込みつつ、最後はしっかり綺麗に…でもコメディらしく閉じていく、なかなか良い映画だと思います。
同じワンシチュエーションコメディ的に、ちょっとだけ「おとなのけんか」っぽい。ああいう映画が好きな人ならきっと楽しめることでしょう。
このシーンがイイ!
「トイレは最初のドアの左」のシーンで一番笑いましたね。何度か出てきますが、最後のやつで。ホントバカだな、っていう。でもその“バカ”を期待しちゃう観客。
あとアナログ感溢れるオープニングもステキ。
ココが○
良い意味で「しっかり作られたコント」を観ているような感じで、まさにコントライブの舞台を観に行っているような楽しさがありました。こういうアイデア勝負のコメディっていいなーと改めて思いましたね。
あとはやっぱり80分という尺。映画の中でも最短に近い短さでサッと終わる感じ。ダラダラ引き伸ばさない潔さ。素晴らしい。
ココが×
特にコレと言った欠点は無かった気がしますが、反面「めっちゃ面白かった!」っていうほどの盛り上がりは無いかもしれません。ヨーロッパの映画らしい、欲のない感じっていうんですかね。サラッと楽しめればいいんじゃない、っていう。そこがまたいいんだと思います。
MVA
これはもう満場一致でこの人でしょう。
ジャック・ヴィルレ(フランソワ・ピニョン役)
上に書いた通り、絶妙なキャラクターで絶妙なバカを演じてくれました。
これほどまで役とビジュアルがマッチしているのはなかなかお目にかかれないレベルだと思います。走り方からしてピッタリ過ぎるし、そこがまた愛おしいという。
しかしすでに他界してしまったとのことで…。残念です。