映画レビュー1078 『フラワーズ』

本日は例によってネトフリ終了間際シリーズです。観ても観ても無くならない終了間際シリーズ。

ただ最近はひっそり戻ってきた映画がまた終わるようなケースも多いので、そのうち終了間際だけど「これ全部観たわ」ってケースが出てくるかもしれません。いつか。

フラワーズ

Loreak
監督

ヨン・ガラーニョ
ホセ・マリア・ゴエナガ

脚本

ヨン・ガラーニョ
アイトル・アレギ
ホセ・マリア・ゴエナガ

出演

ナゴレ・アランブル
イツィアル・イトゥーニョ
イツィアル・アイスプル
ホセアン・ベンゴエチェア
アネ・ガバライン

音楽

パスカル・ゲニュ

公開

2014年10月31日 スペイン

上映時間

99分

製作国

スペイン

視聴環境

Netflix(PS4・TV)

フラワーズ

花を贈る、花を手向ける意味を考える。

8.5
突然送られ続けるようになった花と、一つの事故
  • 主婦の元にある日から突然、毎週花が届くようになる
  • しかし同僚の交通事故以降花が届かなくなり、3人の女性の人生が動き始める
  • 地味で静かで語りすぎない映画ながら、芸術的すぎない物語性
  • 映像の綺麗さも見事

あらすじ

本当に地味で「うわこれ久々に興味持てない系かな」と怖かったんですが、この手の雰囲気の映画の割にはしっかりドラマを感じる内容になっていて、「面白かった!」と言うようなビシッとハマる映画ではなかったものの、しみじみといろいろ考えてしまう良作でした。

主人公のアネ(ナゴレ・アランブル)は40代ぐらいの主婦で、旦那と二人暮らし。ある日突然差出人不明でメッセージ等も入っていない花束が贈られてきます。

普通に考えればワイコー、ホラー要素丸出しなので不審に思い、花屋さんに買った人物を聞いてみたりもしますが結局は特に害があるわけでもなく、その後も毎週同じ曜日に届く花束がむしろ楽しみになっていくアネ。

それからしばらく経った頃、アネの同僚であるベニャト(ホセアン・ベンゴエチェア)が交通事故で死亡。それ以来花束が届かなくなったこと、彼がいつも高所で作業していた場所に彼女が無くしたネックレスがあったことから、花の送り主が彼だったのではないかと考えますが…あとはご覧ください。

花を手向けることの意味

その他の主要メンバーとしてはベニャトの妻・ルルデスと、彼女とはソリの合わないベニャトの母・テレ(ルルデスの義母)、というおなじみの嫁姑問題的な関係性も描かれ、ベニャトの死を境にこの二人とアネの3人の人生が少しずつ近付き、動いていく物語になります。

ちなみにこの映画はスペインの映画ですが、スペイン語ではなくバスク語の映画だそうです。他国の人間としてはあまりその辺りの違いについて気にしない部分はありますが、日本で言えばアイヌ語で作られた映画のようなイメージでしょうか。

バスク語の映画としては極めて珍しく、各映画祭や賞レースにノミネートされたそうで…それだけ評価の高い作品ということなんでしょう。

もうしょっちゅう書いてますが「映画としては非常に地味」で、地味な映画の中でも格段に地味レベルが高いぐらいに地味でした。印象としては…内容はほとんど覚えていませんが「めぐりあう時間たち」辺りに近い感覚。

僕は割とこの手の地味で、かつやや芸術寄りな印象を受ける映画は苦手…というか単純に理解力がないために眠くなってしまって評価できないダメ人間なんですが、この映画はそういうタイプの映画としては比較的理解しやすく、登場人物の心情を推し量れる最低限の描写があり、むしろ「語りすぎないドラマ」として良かったぐらい。

この辺りはテーマになっている「花」、そしてそれが人の死に結びついているところが、誰でも理解しやすい身近な話として捉えられたのが大きかったのかもしれません。

どうしてもタイトルを知った状態で観る以上、最初の「差出人不明の花束」がメインなのかな、と思いがちですが、実際はその花束はきっかけにすぎず、メインとなるのはそれ以降の「手向ける花」の方。これがいろいろと考えさせられる物語で、それ故今後の自分の人生にも影響を与えるかもしれないなと受け取るものがありました。

個人的な話になりますが、つい最近愛犬ビビの一周忌があったので当日家に帰る途中に花屋さんに寄って手向けるための花を用意してもらったんですよね。

なにせそういうものを買うのは初めてだったので自分でもいろいろ貴重な経験になったんですが、そのおかげで「花を手向ける」行為そのものがすごく身近になったばかりだったので、この映画の内容にもいろいろと感じ入るものがありました。

当然ながら、亡くなってしまった存在にとってその花自体に物理的な価値はありません。そもそも生きている人間には死後の世界がわからない以上、亡くなってしまった存在にとってはまったく意味のない行為である可能性すらあります。

ただ、仮にその行為が彼らにとってまったく意味がなかったとしても、そこに意味を見出すことができるのは生きている側なんだというのをこの映画は改めて教えてくれます。在りし日を思い出し、その想いを抱き続けることの大事さ、価値を教えてくれます。

そこにものすごくグッと来てしまい、最後はじんわり泣きました。現在の僕にとっては対象が人ではなく犬ではありますが、それでも文字通り家族としてとても大切な存在だったので、数年続けて終わりではなく、命日ぐらいは今後もずっと花を買い続けようかなと思いましたね。

悲しみから少し時間が経った人に

僕自身の経緯から思うに、やっぱり大切な存在を亡くした経験がまだリアルに残っている人にとっては、結構感じる部分のある物語ではないでしょうか。

非常に地味、ですがそれだけに実直で何が大切なのかをわからせてくれる作りは見事だと思います。

陰か陽かで言えば明らかに“陰”だし、どうしても明るく楽しめる映画ではないのでオススメもしづらいし面白いと言うのとも少し違うので評価としては低くなりがちだとは思いますが、しかしとても良い映画だと思います。

さすがに大切な存在を失った直後はオススメしにくいですが、僕のように「悲しみから少し時間が経った」人には改めていろいろ思うところが出てくるだろうし、一回観てみて欲しい映画だなと思います。

静かにじんわりと、思い出すことの大切さを胸に刻む時間になりました。

ネタバーレ

せっかくの良い映画も台無しなダジャレです。

この映画の深さと言うか残酷さと言うか…やっぱり終盤テレが痴呆症になっちゃうというのがね…重いですよね。

劇中で一番ベニャトを思っていた母親のテレ本人が劇中に言った「死者は忘れない限り生きている」というセリフがまさかこんな形で返ってくるとは…。

結局そのテレを見て、また一時的に寄り添う形になったアネを見て、最も彼を小さい存在と見なしていたであろう奥さんのルルデスが“最後に”花を手向ける、という展開。その胸中を思うと複雑で複雑で…でも彼女もやっぱり後ろめたさと二人の姿に対する歯がゆさとがあって、そして何より反省があってああいう行動になったんでしょう。

もちろん「愛していた頃を思い出した」とかそんな陳腐な話ではなく、結婚して子どもも作った=大事な息子の父親であるという事実と、最終的には自分が忘れないでいることでしかこの人が生きていた証が無くなるのではないか、という最後の最後の部分で「私がやらなきゃ」と思ったのかな、と。

それはやっぱり恋愛のような愛とは違うもので、だから「夫だから」ではなく「息子の父親だから」という視点なのかなと思ったんですが…結婚も子どももいない人間が語ったところで信憑性は皆無です。

すごく文章で説明するのが難しいんですけどね。まどろっこしくて。

好きとか嫌いとかではない部分…もしかしたら哀れみかもしれない。しかもそれはベニャトに対してでもあるし自分に対してでもあるかもしれない。とにかく(中盤までの彼女のように)綺麗サッパリと忘れましょう、さようならで済ませるにはどうにも居心地が悪くてつらい、そういう負の感情のようなものもこもったエンディングだと思うんですよね。そこがすごく人間臭いし良いな、って。

そこには「こういう自分でいたい、こういう自分でいなければいけない」という美学のような、ある種の(寝付きが悪くなるような)強迫観念のようなものもあったのかもしれないし、きっとこの「花を手向ける」以外の部分はまったく変わらないでしょうが、その一点できっと自分を許せる部分が出来てくるんでしょう。それによって死者を弔う、想うことの意味が生者に跳ね返って来るという重みがとても良かったですね…。

花を手向ける行為そのものは、亡くなった彼らのためではなく自分のため。しかしその行為で思い出すことによって、彼らが“生き続ける”ことになる。

この死生観のようなものはすごく響きました。この先の人生においてまた来るであろう別れに対しても、自分の行動が変わる気がします。だからきっと、この映画はずっと忘れないでしょうね…。

このシーンがイイ!

ルルデスがテレに会いに行ったシーン。あそこでいろいろわかりすぎて…あのシーンはすごく考えさせられる要素が多かったですね。

ココが○

撮影にかなり気を遣っているのがすぐにわかるぐらい映像が綺麗で素晴らしいです。物語を引き立たせる撮影。

ココが×

やっぱりとても地味で静かな物語なので、しっかり理解しようと観ていないとあっさり「つまらん」で片付けてもおかしくない映画ではあります。

ただ観終わってからジワジワ「良い映画だったな…」と思うので、一度しっかり観ておくと良いのではないかなとも思いますね。

MVA

皆さん地味ながらリアルな良いお仕事っぷりでぶっちゃけ誰でもいいっちゃ誰でもいいんですが…この人にしようかなぁ。

イツィアル・イトゥーニョ(ルルデス役)

ベニャトの奥さん。テレと不仲。

物語的には最も重要な役なのでベタと言えばベタです。あんまり好きになれない「良い人ではない」感じがありましたが、それ故にリアルだしまた一番感情が揺れている部分が見えたのが良かったかなと。

ある意味最も人間臭い人でもあるんですよね。そこがまた良かったな。綺麗すぎないところが。

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