映画レビュー0700 『男性の好きなスポーツ』

この映画を観終わった直後、NHKを付けて作業していたら「みんなのうた」をやっていまして、へぇーこんな時間(ちょうど日付越えたぐらい)にやってるんだーと付けたまま作業を続けてたら「ラジャ・マハラジャー」って曲が流れてきたんですよ。

まさにこれが流れるその瞬間まで30年近くは忘れていたはずなんですが、始まった途端に「あっ!!!」とまさに雷に打たれたように過去の記憶がよみがえり、かつてこの怪しい切り絵を使った映像(今観るとすごく良いデザイン)と、戸川純(すでにこの人が懐かしい)の歌うこれまたちょっと怪しい曲調に得も言われぬ恐怖感のようなものを抱いていたことを思い出し、しばし懐かしさでじっくり観てしまいました。急に昔に引き戻されたようなあの感覚、歌ってすごいですね。やっぱり歌と匂いは記憶を呼び覚ます力がすごいと思うなー。

さて、記念すべき700本目はBSよりこちらの映画。もうタイトルがすげーなと思いつつ、ご紹介番組で観てちょっと面白そうだったので録画。

男性の好きなスポーツ

Man’s Favorite Sport?
監督
脚本
ジョン・フェントン・マレー
スティーブ・マクニール
原作
『The Girl Who Almost Got Away』
パット・フランク
出演
ロック・ハドソン
ポーラ・プレンティス
マリア・ペルシー
ジョン・マッギーバー
シャーリーン・ホルト
音楽
公開
1964年1月29日 アメリカ
上映時間
120分
製作国
アメリカ
視聴環境
BSプレミアム録画(TV)

男性の好きなスポーツ

釣具販売の会社に勤めるロジャーは、釣りマニアのバイブルとされる書籍も執筆し、顧客から絶大な信頼を受ける“釣りのプロ”。ある日ロジャーは会社の社長から、宣伝のために競技会に参加するよう言われるも頑なに固辞する。それもそのはず、ロジャーは知識だけの“エセプロ”で、実際に一度も釣りをしたことがないド素人だった。

笑撃の面白さに打ち震える。

10

打ち震えるはちょっと大げさですが。(いきなりの否定)

でもホント、さして期待もせずに観てたこともあってか「うわこの映画めっちゃおもろいわ」とずっとニヤニヤしながら大変楽しませて頂きました。過去に観てきたコメディの中で一番好きな映画かもしれない。いやきっとそう。

この映画はいわゆる「スクリューボール・コメディ」と呼ばれるものらしいです。「スクリューボール・コメディ」とは、今で言ういわゆるロマコメ・ラブコメのようなもので、野球の変化球(スクリューボール)のようにちょっと変わった男女が喧嘩をしながら恋に落ちるコメディのことを言うそうな。

最近「俺も映画詳しくなったなーうへへへ」と一人満足感に浸っていたんですが、スクリューボール・コメディの意味はまったく知りませんでした。えへ。てっきりもっとシュールで文字通り変化球な感じのコメディ映画のことかと…。まだまだ日々勉強でございます。

ここでご説明だ!

主人公のロジャーは釣具販売の会社に勤めるトップセールスマン。多分。「釣りベーシック」的な本も出版し、これが釣りマニアたちのバイブルとして親しまれていて、さらに「10時頃にフライを使ってマスを狙うと良いですよ」等のアドバイスも的確という、釣りマニアたちの間では教祖様的な存在と言えましょう。

そんな彼が、会社の社長から「ワカプーギー湖で今度行われる競技会に参加してくれ」と頼まれます。しかし彼は「釣りのプロ」面をしていながら実は一度も釣りをしたことがなく、魚を触るのも嫌というただの頭でっかち野郎だったためになんとかして参加したくないとゴネるんですが、その社長経由で彼にオファーをしてきたワカプーギー湖にあるロッジの社長令嬢と広報係の二人の女子に「私たちが教えるから」と説得され、渋々承諾。

そりゃあね、若くてかわいい女子が二人がかりで「私たちが手取り足取り教えるわよ(はぁと)」なんて言われたらおっけーしますよね。最終的に最も男性の好きなスポーツが頭に浮かびますからね。

ただオープニングで描写されるんですが、その彼女たちとロジャーはちょっと曰く付きの出会いをしてしまったためにロジャー自身はあまり良い印象を持っておらず、特に広報係の方の女子(アビー)に対してはことあるごとに「後で絶対殺してやる」と独り言を言うという物騒な状態。これがまた笑えるんですが。

そんな感じで最悪の出会いから体面を繕うために協力を余儀なくされる男女が、いろいろ周りを巻き込みつつ交流を深めていくというコメディになっています。

「嘘をついていたのがやらざるを得ない状況に追い込まれ、仕方なく共同作業をさせられる」という流れはベタでもあり、また笑い自体も結構ベタな部分はあるんですが、しかしどうしてめちゃくちゃ面白いんですよこれが。もう単純に「水に落ちるって面白いなー」って思ったよね。もう。超ベタだけど超笑った。

なんでかなーと振り返って思ったんですが、まずフリがしっかり利いているのが大きい気がしました。そもそもこの映画を観ようと思ったのは紹介番組の予告を観てだったんですが、その予告でも水に落ちるシーンって観てるんですよ。

で、「なんかベタなコメディっぽいけどタイトルすごいし観てみるか」って感じで録画したわけですが、知ってても笑っちゃうっていうのはやっぱり作りが巧みなのかなぁという気がして。あからさまに「あ、落ちるね」ってわかるようなフリがあるんですが、逆に言うとそれで期待しちゃうわけですよ。「落ちるぞ落ちるぞキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!」みたいな。期待にしっかり応える清々しいまでの勢いがまず好きでした。

で、当然それだけじゃなくてですね。ちょっとシュールな笑いとかも織り交ぜられています。もう本当にどうでもいい、そこで笑いを拾いに行く必要があるのかというような場所でも細かく笑いを拾いに行く貪欲さもあって、まーとにかくサービス精神旺盛で2時間ずっと楽しませてもらいました。

そのサービス精神の象徴としては、やっぱりロジャーの勤め先の社長と、ワカプーギー湖でうろつく謎の族長的な存在(マジで目黒祐樹なんじゃないのかと思ったぐらい目黒祐樹似)のお二方ではないかな、と。

もうね、本当にお腹いっぱいになるまでこの二人を活用してくるんですよ。これでもかって。このお二方にはコメディ界の骨付きカルビの称号を与えたい。よくわからないけど。骨のギリギリまで肉をそぎ取って食べさせてくれるかのようなサービス精神、みたいな。

僕自身もまさかこんなに古い映画の、しかもコメディでここまで笑える、楽しめるとはまったく思っておらず、鑑賞後は興奮状態になっていたほどめちゃくちゃ楽しめましたね。「最高だわこの映画!」って。

主演のロック・ハドソンも「この時期の二枚目」らしい、いかにもアングロサクソン系二枚目っぽい王道の佇まいだったので、その雰囲気から来るベタなコメディに対するギャップでまた笑いを増幅させていたのもミソじゃないかと勝手に思いました。ダメだよあんな人が勢い良く水に落ちたら。そら笑うよ。何度も期待しちゃうもの。「また落ちねーかなー」って。

いい男だけど中身がない感じは若干我らがおヒューに通ずるものもあり、そこがまた僕としてはツボでした。

相手役のポーラ・プレンティスも初めて観ましたがこれまたすごく魅力的で、ちょっとネジが外れ気味な部分はあるものの、それがまたスキにつながるかわいさで見事に映画を引っ張ってくれましたね。同じく若かった頃のシャーリー・マクレーンにちょっと似た雰囲気のコメディ適正を感じました。

他にも唐突な(メタファー的な表現ですが)列車のシーンや、いきなりのエンディングに新鮮な驚きもあり、「この映画新しいなー!」と思わず唸ったんですが公開は50年以上前という。恐ろしい。

なぜかWikipediaにも項目がないややマニアックな映画っぽいですが(この辺は「テキサスの五人の仲間」にも通ずるものがある気がします)、観る機会があったらぜひ観て頂きたい映画ですね。

僕もタイトルすらまったく聞いたことが無い映画だったんですが、これほどまでの傑作だとはまさに衝撃を受けました。某Amazonで調べても日本版のDVDすら見つからないというなんとも不遇なタイトルなのが惜しまれます。

手元に置いておきたい…! 元気が無い時に何度も観たい…!

男性の好きなネタバレ

やっぱり結局タイトルは、オープニングの歌で歌われていたように「なんだかんだで最終的に男は女が好き」、つまりセックスのことなんでしょうね。 釣り自体、あんまり「男性の好きなスポーツだぜ!」って感じで描かれてもいないし。

あの列車が衝突するシーンはやっぱりそういうことなんでしょう。もちろん第一にはキスの衝撃を表現したものなんでしょうが、ダブルミーニング的にセックスを表現しているような気がします。壊れちゃってるけど。激しすぎるのはダメよ。

それにしてもあのエンディングはびっくりしたなぁ。マジシャンどうこう、ってサブタイトルがあったけどよく意味もわからず。きっとあれも意味があるんだろうなぁ。

このシーンがイイ!

タイポグラフィを駆使した映像から始まるオープニングがまずとてもオシャレで良かったです。「結局男はスポーツに打ち込んだところで最終的には女〜♪」的な歌詞も最高。

他にも社長初登場となる社長室でのやり取りや、期待通りにスカッと水に落ちる魚釣りのシーンも最高。ほんとに笑った。

ココが○

今のコメディと何が違うのかと言うと…まあ僕もよくわからないんですが、やっぱり時代的に変にこねくり回さず、ストレートに面白いと思うものをぶち込んできている潔さ、みたいなのはある気がします。上で書いたように勢いがあるしサービス精神旺盛だし。

もうね、終盤むくれてる社長の登場シーンとかズルいですよ。あれ「絶対その必要ないじゃん」ってツッコミながら笑いましたよ。本当にズルい。最高。

ココが×

唯一、アビーが最初からなぜロジャーに惹かれているのか、っていう部分だけはちょっと引っかかりはしたんですが、まあ言ってみればロマコメですからね。その辺はご愛嬌というところなんでしょう。

あとはもう文句なしですが、もう一つ…この映画自体の問題ではないものの、DVDにせよレンタルにせよ、おそらくなかなか観る機会を作りにくいというのはすごく残念だしもったいないと思います。

今調べたらTSUTAYA DISCASにすらなかったので、それこそまたBSででも放送してくれるのを待つしかないかも…。血迷ってブルーレイで復刻、とかしてくれないかなー。

MVA

特に良かったのは上に挙げた、ロジャー役のロック・ハドソン、アビー役のポーラ・プレンティス、そして社長と目黒祐樹の4人かなと思います。どの人もとても良かったんですが、一人選ぶならこの人でしょう。

ポーラ・プレンティス(アビゲイル・ペイジ役)

彼女にとっては最も成功した役の一つだったようで、そこまでスターになりきれなかった女優さんのようですが、しかしこの映画での彼女はとてもとても良かったと思います。

やや大げさなぐらい表情豊かで、少し頭のネジがゆるみ気味で良い感じにスキがあるキュート女子、っていうのはもう弱いオッサンだらけでしょう。オレだよオレ。彼女あってのこの映画だと思います。

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