映画レビュー0858 『孤独のススメ』
今回もネトフリ終了間際シリーズでございます。これも何かで知って観たいと思っていた一本。
孤独のススメ
すごくシュールなコメディかと思いきや、終盤一気に輪郭が見えてくる巧みさが光る。
- ろくに喋りもしない男となぜか一緒に暮らし始める男
- 男との関わりを通して次第に明らかになる主人公の境遇とは
- 中盤まではシュールコメディ、終盤は人間ドラマ
- とっつきにくさは否めないものの、妙な味のある不思議な映画
いやー不思議な映画でしたね…。独特の間もあるし、ストーリーなんてあってないようなものだし…と思ってたら終盤ググッと動き出して「なるほど」的なお話でした。いかにもヨーロッパ映画っぽいなぁ。
主人公のフレッドは妻に先立たれた初老の男性。若干似ているのでオランダの板尾創路と呼びましょう。奥さんがまたすげーかわいいんですよ。マジで。かなり未練がある雰囲気でしたが、それも納得のかわいさでこりゃつらいわと。
彼は6時きっかりに食事を始める習慣からもわかる通り、かなり自己ルールが徹底されたいかにも面白みに欠けるような人物。毎週日曜にはちゃんと近くのコミュニティの人々と一緒に教会に行ったりしてるんですが、必要以上に近所付き合いも持たず、一人で淡々と日々を過ごす人生のまま死ぬまで暮らしてそうな雰囲気です。
そんな彼の隣に住むカンプスの家に現れたテオ。どうやら「ガス欠になっちゃったのでガソリン代を恵んでくれないか」と言ってきたようなんですが、実は前日にも同じ手口でフレッドにお金をもらっていたらしく、「二日連続はあり得へんやろ!!」と怒った彼はテオの嘘(車が無い)を暴き、罰として自分の家の庭掃除をさせます。
ろくに言葉も発せず会話にならないテオを一応家に入れてお菓子をあげたり一緒に食事を取ったりしたフレッド。気付けば何日も一緒に暮らしてます。なんで!?
まあずっと一人暮らしで寂しかったっていうのもあるんでしょうね。一緒に食事をし、やがて一緒に買物に行き、スーパーで延々とヤギのモノマネをするテオに「うちの娘の誕生日に余興やらない?」って誘ってくるお父さんが出てきたりとシュール展開が続き、おまけに超つまらないっぽいその余興もうまく行っちゃって微妙に売れるという謎の迷コンビ誕生を経て、果たして二人はどうなるのか、そして最終的にどんな話になんねんこれ…! と目が離せません。
この家にやってくるテオがですね、見た目はみすぼらしく汚らしいおっさんで、会話もまともに成立しないような人物なので、正直「なんで住まわせてるの!?」って違和感はすごいんですよ。最初。
でもまあコメディなんだろうしその辺つっこむのも野暮なんだろうな…と思って観るわけです。たまに「ヤッ」とか「ンアッ」とか言葉にならない相づちのような発言のタイミングが絶妙で笑っちゃうんですが。
すごく不思議な共同生活に、シュールな笑いが混ざって「何の話なのこれ?」と時々笑いつつ困惑気味に観ていると、後半になってようやくフレッドが“隙”を見せるんですよね。自分を出してくるんです。それまでは頑なにルーチンを守って人と交わろうとしなかった彼が、テオという謎の存在によって世界への扉を開くと。
そうやって最後まで観てどういう話かを理解するんですが…なんでしょね、一応は「フレッドの成長物語」と言えなくも無いんですが、ただ成長とはちょっと違う気もするし。
僕はもう単純に、「やっぱり人間って一人じゃ生きていけないんだよなぁ…」としみじみ思いました。フレッドの姿は数十年後の自分と重なりそうでもあるし。
僕も行動原理は保守的…というかめんどくさがりなので、ルーチン化して同じ日常を延々と繰り返しそうな気がするんですよ。現に今もほぼそんな感じだし。
そこにテオという異物が入ったことで、彼の人生が少しずつ進み始め、やがて封鎖的なコミュニティの外に繋がりを持つに至るわけですが…その最初の「受け入れる」工程がまったく理解できなかったものの、結果としてそのために拓けるものがあるのであれば、その第一印象で拒絶しちゃうのはもったいないのかもしれない、とちょっとした学びがあったような気がします。
もちろん受け入れる危険性もあるので、単純に「違和感があっても受け入れなさい」って話でもないとは思うんですが、ただ孤独で凝り固まっていった男の日常に波を起こす“何か”が訪れたとき、それを受け入れるのか拒絶するのかで人生が変わり得る、その可能性の描き方としてなかなか秀逸なお話だったと思います。
ただぶっちゃけ面白いかと言われると微妙なところで、大部分はかなりシュールな物語なだけにとっつきにくいのは否めません。
それでも笑える面が多いのでなんとか観ていられましたが、ちょっとせっかちな人だったら「いやこれ無理だわ」って途中でやめてもおかしくなさそう。それぐらいに不思議な雰囲気のある映画ではありました。
でもなんなんですかね…こういう不思議なある意味では寓話っぽい雰囲気のお話なんですが、そこにはやっぱりリアルな生活に落とし込める学びが込められていて、そこの部分を観ると「こんな話ないわー」とか「つまらない」ってバッサリ捨てられない価値が感じられるんですよね。
これもまた映画だなぁ、いやむしろこういう話こそ映画なんだなぁと思います。不思議な魅力のある映画でしたね…。
このシーンがイイ!
「良いシーン」で言えば終盤にいくつかあるんですが、最初にすごく笑っちゃったのがお菓子を急いで取るテオのシーン。あそこだけ急に機敏になった感じでうまいなぁ、と。
ココが○
凝り固まっちゃった人間が変わっていく姿はいろいろと思うところがありました。自分もこういうタイプなだけに余計に。
やっぱり誰かとつながっていることの大事さを改めて感じましたね。本当に自分もフレッドのようになりそうで怖くなりました。
ココが×
とにかく中盤までは何が言いたいのかわからないしシュールすぎるしでなかなかついていくのも大変。短い映画なんですが妙に長く感じるぐらい、間が長く感じる映画なので割と鑑賞には注意が必要でしょう。
日曜の昼間に観てたら絶対寝てたと思う。
MVA
オランダの板尾創路もとても良かったですが、やっぱりこの映画はこの人になるのかなぁ。
ロネ・ファント・ホフ(テオ役)
フレッドの家に居候する謎の男。
無表情で不気味な存在感が印象的。何より時たま発する声の間が絶妙。「ンワッ」とか一言で笑わせる強さね。すごい役者さん使いますねと。
「奇人たちの晩餐会」のおハゲさんに近い個性の強さを感じました。