映画レビュー0869 『メトロマニラ 世界で最も危険な街』

今年最初のネトフリ終了間際シリーズですよ。お待ちかねの。

待ってないよっていうね。

メトロマニラ 世界で最も危険な街

Metro Manila
監督
脚本
フランク・E・フラワーズ
原案
ショーン・エリス
出演
ジェイク・マカパガル
ジョン・アルシラ
アルセア・ヴェガ
エリン・パンリリオ
音楽
ロビン・フォスター
公開
2013年7月13日 フランス
上映時間
115分
製作国
イギリス・フィリピン
視聴環境
Netflix(PS3・TV)
メトロマニラ 世界で最も危険な街

ドキュメンタリーのようなリアルさで惹きつける良作。

8.5
仕事を求めてマニラへやってきた一家、そこは地獄への入口だった
  • 農業では食っていけないと都会へ出た一家が搾取され、格差を目の当たりにする
  • なんとか得た職は“マニラ一危険”な仕事だった
  • 追い詰められる一家、残された手段は…
  • ドキュメンタリーのようにリアルで胸に迫る良作

あらすじ

主人公のオスカー・ラミレスは農業を営んでいるんですが、今年の作物は買い叩かれてしまい「来年の種すら買えない」状況に追い込まれてしまいます。

これはもうマニラへ行って仕事を探すしか無い、ってことで一家揃ってヒッチハイクでお引越し、マニラへ到着。

しかしその日の宿すらままならない状況の中、職探しで職安的なところに行ったオスカーは、そこで知り合った男に「安い部屋を貸してる男を紹介してやる」と言われありがたいと持参した全財産で契約を結んだところその男たちは偽物で、早々に一文無しに。

その後も日雇いの肉体労働に従事したものの報酬は食料だけだったりと「マニラの搾取と格差」を目の当たりにするラミレス一家。

その日暮らしのお金すら無い一家ですが、なんとか妻はいかがわしいバーで職を得ることに成功、オスカーは警備会社の運転士の仕事を得るんですが…この仕事は「マニラ一危険」と言われる、いわゆる現金輸送車の警備のお仕事。

「強盗なんて日常茶飯事、元相棒は銃殺された」という先輩社員・オングとともに働くことになったオスカー、しかしこれは彼の人生の歯車を狂わせる始まりでしか無かった…というお話です。

凶悪事件が多発する都市圏にやってきた一家の物語

タイトルの「メトロマニラ」って言うのはですね、当然ながら東京メトロ的な地下鉄というわけではなく、「マニラを中核としたフィリピンの政治経済その他の中心地」のことらしいです。広さ的にも意味合い的にも東京23区に近いイメージの模様。

ただその治安は日本と比べるまでもなく非常に劣悪で、普通に目の前で若い女子がさらわれていくような環境。

劇中でも引っ越し早々に搾取される主人公一家の姿が描かれますが、それ以外でも住まい一つとっても日本からすればとても厳しい環境で、「普通に水が出る」ことでも恵まれているような、かなり貧富の差が激しい都市圏のようです。

この映画は、その「メトロマニラ」で最も危険な職業とされる現金輸送車の警備員(兼ドライバー)の仕事を得たオスカーとその家族の姿を描いたスリラー映画になります。

現実と思わされるリアルな描写

主人公のオスカーは、とにかくクソがつきそうなぐらいに真面目で実直な人物で、お酒も飲み(飲め)ません。まあ本当に真面目な人。

やむにやまれず都会に出てきてなんとか得た職、しかも相棒となる先輩社員はとても良くしてくれる…ということで「この職にすべてを捧げる」覚悟で仕事に精を出すんですが、仕事が仕事なだけに危険も誘惑も多く、いろいろ嫌な予感ばかりがよぎります。

奥さんも働かないと暮らしていけない、ってことでこれまた裏風俗的なバーで働くことになり、夫婦揃ってキツイ仕事で働きつつも先が見えない辛い状況。

そんな姿を近接ショット多めの密接ドキュメンタリー風の映像で追っていくこの映画、本当に生々しくてですね。あまり見慣れていないフィリピンの日常&映像ということも合わさって、これマジで現実なんじゃないかと不安になるぐらい観ていて痛々しい映像でした。説得力がすごい。

「この先は地獄の道しかないのかもしれない」

中盤、奥さんが「この先は地獄の道しかないのかもしれない」的なことを言うんですが、そのセリフがものすごくキツい。観ているこっちも「絶対そうだよ」と思わされるぐらいに過酷な“メトロマニラ”での生活。

「この一家、全滅する以外に道あるの?」としか思えない手詰まり感漂う生活の中、少しずつ動き始める物語、果たしてその結末は…と。

リアルな劇中から映画的ラストへ

すごく抑圧された、しかも現実にある世界の中で、なんとか幸せになってほしいと願いながらもどんどんと堕ちていく一家の姿は観ていてとても辛いものがあるんですが、ただラストの展開はかなり映画的でもあり、まさかこんな幕切れがやってくるとは思いもよらず、かなり驚きました。「うわやるなフィリピン!」って。

監督はイギリス人だし、この映画自体イギリスとの合作なので純粋な「フィリピン映画」というわけではないんでしょうが、しかし漠然と抱いていた「東南アジアの映画って安っぽそう」みたいなイメージを完全に裏切るよく出来た映像とその幕切れがとても見事で、これは新年早々かなりやられたぜと嬉しくなった次第です。

ネタバレ回避のためにあまり書けないのが惜しいところですが…ちょっと観てみて欲しい映画の一つになりましたねこれは。映画通気取れそうなポジションの映画でもあるし。オススメです。

ネタバレマニラ

最終的には「壮絶なまでの家族愛」がテーマだった、ってことでしょうか。前フリもちゃんとあったのにまったく予想していなかった解決策に、普通に声出ましたからね。「うわーそういうことかー!」って。大どんでん返し系の映画としてもオススメしたい。

ただ「大どんでん返しとしてオススメ」の時点でネタバレになるので、このジャンルでオススメする機会がないという不条理もまた見逃せません。

「俺だったら会社に正直に話して許してもらうなーオスカーバカだなー」と思って観てたんですが、最後まで観ると自分にはその覚悟がないただのチキン野郎だったんだなということがわかります。

自分がオスカーと同じ環境に追い込まれた時、果たしてこの策を実行する…どころか思いつくことすらできるのか怪しいところ。これは頭の良し悪し以前に、家族に対する思いが無ければ無理な話だと思うので、それだけ家族を愛せた、愛する家族を持てたオスカーが立派かつ幸せだった、ということなんでしょう。そう思うとなおさら自分の不甲斐なさが悲しい。

一つ気になった点としては、ちょっと先輩社員・オングさんのネタばらしというか、リアルな顔が登場するのが早いんじゃないかな、あっけないんじゃないかなって気がしたんですが、まあその後の展開の尺を考えれば妥当だったのかな。

このシーンがイイ!

奥さん初仕事&オスカー歓迎会的飲み会のシーン。音楽だけで二人の姿を写す、そこでいろいろ考える観客…とても良いシーンだと思います。

ココが○

メトロマニラという環境に身を置いた一家がどういう生活を送り、次第に追い込まれていくのかという描写がとにかくリアルで、正直マニラ行きたくねーな感がすごい。

もちろんここまで極端ではないんでしょうが、実際日本の外務省も危険地帯として注意喚起しているそうなので、あながち作り物とも言い切れない部分が怖い。

本当に日本とは雲泥の差で、僕も「金ねーなーしんどいなー」とか言っててごめんなさいレベルですよ。この辺の描写はかなり強烈でした。

そういう面では社会派的な要素も多分に含まれるし、観て良かったと思います。

ココが×

うまく言語化できないんですが…もう一歩高められそうな感じがあったんですよね。ちょっとだけあっさりしている場所が何点か気になった部分はありました。すごくいい加減な感想としては、その辺がほんのりイギリスっぽい感じ。

それと上記の通り、とにかくずっとリアルで生々しいドラマが展開するんですが、最後の最後ですごく映画的になるんですよ。それはこの映画の良さでもあると思うんですが、そこが気になる人もいるような気はしました。急にジャンルが変わる感じ。

MVA

一家のお姉ちゃんがとてもかわいくてねー。歯が痛いって泣いてるときは本当に胸が痛かった…。

主人公のオスカーもなかなかのイケメンだし、良かったんですが…一番表情豊かで演技力が光ったと思われるこの方にします。

アルセア・ヴェガ(オング役)

オスカーの相棒。

この人が狂言回しでもあるし、ある意味ではこの映画における最重要人物でもあるのでまあ納得の人選ですよ。自分で言っちゃうけど。

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