映画レビュー1138 『小公女』

本日はJAIHO終了間際シリーズ。と言うかこれもリトル・ダーリングと同じく終わる前に観ないとと思ったので急いで加入したぐらい、目的と言っても良いポジションの映画でしたが、さて。

※また表示がずれてますが気にしないでください。

小公女

Microhabitat
監督

チョン・ゴウン

脚本

チョン・ゴウン

出演

イ・ソム
アン・ジェホン
キム・グクヒ
カン・ジンア
チョイ・ジェイヒョン
チェ・ドクムン
キム・イェウン
イ・ソンウク

公開

2018年3月22日 韓国

上映時間

106分

製作国

韓国

視聴環境

JAIHO(Fire TV Stick・TV)

小公女

過去と現在をつなぎ、強く美しく生きる主人公に何を見るか。

10
出費を減らす必要性に迫られ、選んだのは家でした
  • 家よりも“嗜好品”を選び、かつての仲間たちに泊めてもらいに行く女性の物語
  • 各人それぞれ何かしらうまくいかない現実に直面しているのを知り、寄り添う主人公
  • なんてことのないセリフや風景ながら、絶妙の“間”とリアリティで終始惹きつけられる
  • 物の価値や生き様に思いを馳せざるを得ない傑作

あらすじ

いやこれはねぇ…とんでもなく良かったですね…。JAIHOが日本で初めて配信した作品なんですが、この1本を持って加入する価値があるサービスだなと思えるぐらいに良かったです。

主人公のミソ(イ・ソム)は家事代行業でギリギリ生活費を稼いで暮らしていますが、あるとき家賃が上がり、嗜好品も値上がりして生活費が足りなくなる状況に直面。

何を削るか思案した結果、何よりもタバコとウイスキーが好きな彼女は「家に住むのをやめよう」と今住むアパートから出ることに決め、キャリーバッグに必要なものを詰めてその日暮らしを始めます。

最初に頼ったのはかつてのバンドメンバーたち。久しぶりに再会する彼ら・彼女らは大企業に就職していたり結婚していたり状況は様々ながら、それぞれなんとなくうまく行っていない部分があったり引け目があったりで「変わっていない」ようで変わってしまった面々。

現在と折り合いをつけつつ生きているかつての仲間たちに、“変わらない”ミソは優しく寄り添い、そしてまた次へと移動します。

新しい住まい、かつての仲間、そして愛する彼氏…様々な関係性の中に生きるミソの物語はどのようなものになるんでしょうか。

心のロードムービー

一応補足しておくと、当然ながらミソは完全に「家はいらない」と思っているわけでは無く、「一時的に家を放棄してお金を貯め、新しい住まいに引っ越す」ことを目標にしています。その間いろんな人に協力してもらおうと頼って行くお話です。

ちなみに彼女は何度か「敷金を貯める」と言うんですが、実際途中で出てくる不動産屋さんは「敷金が500万ウォン、家賃は25万ウォン」とか言うんですよ。概算でウォンは円の10分の1なので、つまりこの場合は敷金が50万円で家賃が2万5千円と言うことになります。そりゃ敷金貯めないと無理だわ…高すぎる。

これは彼女がソウルで暮らしていると言うのもあるんだろうとは思います。都会ですからね。身軽になったんだからもっと田舎の安い家にすればいいんじゃない? とも思いますが、なんらかの理由でそれも選択肢に入らないんでしょう。家事代行の仕事が無かったりとか。

あとは彼女の最も大きな“癒やし”が彼氏なので、そこもまた住む場所に関係してきてもいるんでしょう。きっと。

まあなんてことない普通の人たちの普通の会話で展開するお話ではあるんですが、その「普通の人たちの物語」に非常に弱いタイプの人間としてはその時点でまずたまらない面があり、またなんだかわからないけどすごく惹かれる自然で良い会話ばっかりなんですよ。誰もが共感できるような「昔と今のギャップ」だったり「自分と相手の立場の違い」だったりを考えさせられ、いちいちしみじみしちゃうような。

ちょっと「列車に乗った男」を観たときを思い出しちゃうような、なんでかわからないんだけどすごくグッと来るし惹かれてしまう地力の高さがものすごく印象的でした。

ただこれは僕の情報理解力とその出力解像度が低いだけで、おそらくきちんと説明できる人が観ればどこがすごいのか説明できるんだろうと思います。

ご存知の通り、僕はイギリスのヒューマンコメディの「市井の人々の普通の話」が大好きなんですが、それにもちょっと似たような、自分たちと同じ等身大の人たちの、誰もが抱える悩みを優しく包み込んでくれるような物語が本当に素晴らしかったです。ちょっと笑っちゃう面白さもあれば、ウルっと来ちゃう感情移入もできて。なんならもうずっとウルウルしてるぐらい、それぞれの会話がたまりませんでしたね…。

僕はこれを観て、まず最初に「これは形を変えたロードムービーなんじゃないか」と思ったんですよね。長旅ではない、心のロードムービーなんじゃないかと。

昔の仲間たちのところに行って、再会と同時に現在の状況を知り、そこでまた交流してまた別れてを繰り返す感じがロードムービーっぽいなって。それぞれの“うまく行ってなさ”がなんとも言えないリアリティを感じさせ、そこになんとなく自己投影してしまうと同時に、自分にもミソが寄り添ってくれているような気がしてくる。

そしてその寄り添ってくれたミソは相変わらず家も無く大変な暮らしをしているものの、芯がブレずに強く生きていて、その姿にまた勇気付けられ、励まされている気がしてくる。なんなんでしょうね、この優しさは。ことさらに何かをアピールするわけでもなく、しなやかな柳のような生き方をするミソの姿に妙に感動しちゃうんですよ。

そして、自分にはミソが大切にしているタバコやウイスキーのような、「これさえあればいい」と思えるほど好きなものがあるんだろうかと自問したりもする。

途中で言われるように、常識からすれば嗜好品を優先して家を捨てる判断は人から見ればいい加減でダメな判断と言われても仕方がないかもしれませんが、しかしミソの姿を見ていると、それが間違っているのではなく、むしろそこまで好きでいられるものがあることがすごく羨ましくも感じるわけです。

一見すればほわほわして柔らかい女性っぽいミソですが、その内面はとても強いし、きちんと優先順位を持った生き方をしていて、そこがすごく素敵だし「こうありたい」と思わせる憧れも抱かせてくれます。

自分が悩みの穴に落ちたとき、彼女を思い出して「ミソのように強く生きるにはどうすればいいだろうか」と考えてしまうぐらい、一つのロールモデルとしての魅力を持っている人物にも感じられるし、穏やかながら強い価値観を、強い光を持って照らしている映画だなと思います。

再公開を待て!

なにせJAIHOでも配信が終了してしまったため、現状日本では(おそらく)観る手立てがありません。

ただJAIHOは配信終了した作品も再公開があるっぽいので、待っていたらもしかしたらまた配信するタイミングが来るかもしれません。むしろかなりの傑作だし話題にもなっていたので結構な確率で再公開が来そうな予感。その時はぜひ加入して観てみて欲しい。非常に考えること、受け取るものの多い映画でした。

ちなみにJAIHOにおける企画上のカテゴライズでは「韓国インディーズ」とのことで、つまりこの映画は韓国でもメインストリームではないややマニアックな映画と言うことになるんですよね。それでこの傑作っぷり…恐ろしい。

監督が女性と言うのもなんとなく頷ける、なんてことない普通の物語のようでとても繊細で丁寧な映画だと思います。カットもいちいち良いし、会話の“間”も素晴らしいし、たまに出会う「作りからして説得力を持った地力のある映画」そのものでした。

こんな良い映画がなかなか観られないのはなんとももったいないです。すでにもう一度観たい。観た人といろいろ語りたくもなる映画ですね。

このシーンがイイ!

きっと誰もが上げるのは劇中最後になる彼氏とのシーンじゃないかなぁと思うんですが(確かにそこも素晴らしかった)、僕は雇い主のお姉さんと一緒に茹で鶏を食べるシーンがたまらなかったですね。その前のシーンも含めて、一連のシーンの流れがもうすごくよくてずっとウルウル来てました。

あとドラム担当の後輩君(名前忘れた)と一緒にタバコを吸いながら話すシーンと、キーボード担当の奥さんと学生時代のように昔を話しながら笑い、泣くシーンもものすごく良かった…。

ココが○

上に散々書いたのでそれ以外で挙げるとすれば、料理。

ミソは料理上手でたまに料理を作るシーンが出てくるんですが、どれもすごく美味しそうで料理の見せ方もうまいなぁと思います。

その辺も含め、韓国の一般社会の文化が伺い知れる映画なのも良いですね。マフィアとかじゃないからね。

あとそうそう、もう一度強く書いておきたいんですが、この映画グッと来るだけじゃなくて笑えるんですよ。コメディドラマっぽさも強いんです。でもすごく考えさせられるし、自分の中の価値観が揺らぐ何かがある深さを持っているところが素晴らしいなと。それは物の価値のみならず、結婚含めた人生についての尺度も含めて。

ココが×

無しかなー。改めて振り返ったら何もなかったので、最初は9.5点にしてたんですが満点にしました。それぐらい良い映画でしたよ本当に。

MVA

皆さん良かったんですが、やっぱりこの人でしょう。

イ・ソム(ミソ役)

主人公。

「この人めちゃくちゃ美人だな…!」ってハッとするような韓国の女優さんたちとは違い、もっと等身大で身近なかわいさが役にピッタリでものすごく素敵でした。例えば大家さんに退去を告げるときに階段に伏せて話す感じとか、力が抜けたかわいさが最高。

語りすぎない、でもしっかり表情で訴える演技もとてもレベルが高かったと思います。この人の演技、もっと見てみたいですね。

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