映画レビュー0874 『ミルドレッド・ピアース』

ネトフリネトフリBS。このテンポ感。

ということで今日はBSから。モノクロ映画が観たいぞと思い、録画済みの中から古めのこちらをチョイスしました。

ミルドレッド・ピアース

Mildred Pierce
監督
脚本

ラナルド・マクドゥガル

原作

『ミルドレッド・ピアース』
ジェームズ・M・ケイン

出演

ジョーン・クロフォード
ジャック・カーソン
ザカリー・スコット
イヴ・アーデン
アン・ブライス
ブルース・ベネット

音楽
公開

1945年10月20日 アメリカ

上映時間

111分

製作国

アメリカ

視聴環境

BSプレミアム録画(TV)

ミルドレッド・ピアース

脚本力で見せる見事な骨太サスペンス。

8.5
ある日の殺人事件の犯人と動機を、被害者の妻の半生から描く
  • 地元の名士が殺される事件が発生、犯人とその動機は?
  • 取り調べを受ける主人公の回想の形で事件に迫る
  • 陳腐な裏切りもなく真っ当な作りでかつ意外性のあるエンディングは見事
  • 見た目でごまかさない骨太サスペンスに大満足

あらすじ

僕は毎週BSプレミアムの映画番宣も録画して観ているんですが、「傑作サスペンスです!」とご紹介されても「いつも言ってんじゃん」とあんまりアテにしない空気感を醸し出していたところこれは本当に「傑作サスペンス」だったな、と一人頷きましたよ。

ある夜バンバンバーンと銃声が鳴り響いて一人の男が殺されます。彼の名はモンティ・ベラゴン。その地域の名士としてなかなかに有名な方だったようですが、捜査に乗り出した警察が彼の交友関係を片っ端から事情聴取、その中の一人が被害者の妻であり、映画のタイトルにもなっているミルドレッド・ピアースという女性です。

しかし彼女の事情聴取は「あなたに聞きたかったことは確認が取れた」とかで即終了。警察が言うには凶器となった銃の持ち主でもある、彼女の元夫バート・ピアースが犯人であることがわかったからもういいよ、と。

しかしミルドレッドは「あんなに優しいバートが犯人なはずがない!」と主張、「じゃあ奥さんなんで別れはったんや」と聞かれた彼女は、ポツポツとバートと結婚していた頃からの身の上話を語り始め、なぜバートと別れたのか、そしてなぜモンティと結婚することになったのか、さらにはなぜモンティが殺されることになったのか…事件の核心部分を語っていく、というお話です。

日本ではマニアックなポジションなのがもったいないほどの名作

1945年の映画ということでかなり古い映画にはなりますが、日本では長らく劇場未公開だったとのことで、別の邦題でたまにテレビ放送があったレベルの映画だそうです。日本でDVDが発売になったのは2013年らしいんですが、まあそれだけ長いこと埋もれさせておくにはもったいないほどに良く出来たサスペンスだと思います。

主人公のミルドレッド・ピアースさんは、元々は容疑者として挙げられたバートの妻として専業主婦として暮らしていたんですが、バートが失業したことを契機にいざこざありつつ娘2人を養っていくため、自ら働きに出ることになります。バートの妻だったのがパートになったよ、みたいな。

なんでもミルドレッド(とバート)はそれなりに上流に属するタイプだったようですが、そうも言ってられないってことでなりふり構わず働きに出るものの、上流志向の強い娘・ヴィーダは「母親がパートなんて許せない」と思うタイプらしく、なかなか家族のバックアップもない状態でしんどい環境。

いわゆる「生活の質が落とせない」ってやつですかね。おまけに自分は良くても娘がとにかく「お金がないと嫌」という生意気ガールなので、相当に苦労していくことになります。

そんな彼女も新しい愛を見つけ、うまくいくように見えていたわけですが…。

上流志向で金がかかる娘がマジクソだけど…

主人公が女性で、彼女の立身出世的な側面も多分に含まれるだけに、印象としてはほんのり「シマロン」っぽさもあるなーと思います。

ただこの映画はオープニングで殺人事件が起こる、という不穏映画なので、シマロンのように「何があっても頑張るわよ!」と爽やかな女性主人公に励ましてもらいました的な話では当然無く、なんとも物悲しさをまとったお話だなぁと思います。

夫ともうまく行かず、娘(長女)はひたすら金がかかるタイプ。そんなの甘えさせなければ良いって話なんですが、でもそれはやっぱり外野の意見なんでしょうね。娘が一番大事、私なんてどうでもいいというタイプのミルドレッドが健気で泣けます。親の愛は偉大だぜ…。

上流階級は辛いよ

時代的に上流階級だの名士だの、って話の辺りは少々古さを感じさせる面もあると思いますが、でも僕が縁遠いだけで今でも(形を変えて)こういう世界ってあるんでしょうね。

麗しのサブリナ」のように信じられないほどのお金持ちってわけでもないし、名家の名前を守るだけで精一杯の人だったり、“身分に恋する”少女だったり、っていうのは今もどこかにいるのかもしれません。

この辺の「身分問題」は劇中終始付きまとってくるので、お金が無くても平凡な一市民っていうのも気楽で良いもんだね、と適当なコメントを残したくなるような「上の方の人たちの辛い話」だなと思います。

やっぱり完全に余裕がある状態なら人生イージーモードなんでしょうが、一旦落ちてしまうと周りの目もあるしそもそもの付き合いが上流モードだしでいろいろしんどいじゃないですか。

ミルドレッド本人にはそういう部分のこだわりはなさそうなんですが、なにせ一番大切にしている娘が現状維持どころかもっと上に行けないと我慢ならないタイプなだけに、お母さんの苦労たるや相当なものだなと気の毒になります。

“一番の友人”ウォーリーの報われなさ

また一応苦難続きながらそれでもやっていけているのは、ミルドレッドにゾッコンの友人・ウォーリーの存在がかなり大きいんですが、彼はミルドレッドにかなり協力しつつも彼女の態度はそっけなく、これまたとても悲しい。

自信家っぷりが少々鼻につきはするものの、いつも明るく協力的でそれなりに財力もある彼の存在はかなりミルドレッドの助けになっているはずなんですが、しかし一向に報われない彼の気の毒さもちょっと考えさせられる部分がありますね…。

俺多分このタイプだな、とか。財力はないけど。いつも明るくもないけど。じゃあ違うよ? っていう。

彼はひどいことに散々協力しているのにオープニング(時間軸で言えば終盤に近い)で罠にハメられてますからね。気の毒すぎる。それまで何年も貢献してきてたのにハメられる、ってちょっとひどすぎでしょう。

サスペンス好きなら一見の価値あり

そんな登場人物たちの人間描写もしっかりありつつ、古い映画の割に退屈することもムダに長いシーンもなく、きっちりと作られた脚本に痺れる良作でした。

古いモノクロ映画ではありますが、だからこそ映像面の迫力等の見た目でごまかさない、物語一本で勝負する力強さのあるサスペンスだと思います。

サスペンスが好きな人であれば、わざわざ探して観てみるぐらいの価値はあると思いますよ。

ネタバレッド・ピアース

途中で「どうせ娘とモンティできてんだろ?」と思っていたので、そこに関しては意外でもなかったんですが…素直にミルドレッドが犯人と思っていただけに、そこからもう一捻りは「なるほどそうかー!」と結構してやられた感。ってかもう終盤のモンティがクソ野郎すぎて笑いますね。

まあ振り返ればどう考えても一番悪いのはヴィーダなので、結末も納得がいくものではあるんですが…それでも最後までかばおうとしていた母の姿は気の毒を通り越して惨めかもしれない。もっと早く、ヴィーダのことを見切ることができていれば…当然ながら殺人事件は起こらなかったし、それ以前にモンティと結婚することもなかっただろうし。

あ、でも結局モンティは殺された可能性はあるか…。ただそこにミルドレッドは絡んでこなかったはずだし、二人と縁を切っていれば事業もうまく回せていたはずだしで…仕方がないんだけど「母親の情」が悲劇の引き金になってしまったのは悲しい。

最も断腸の思いで縁を切っていたとしても殺人事件が起こっていたとしたら、結局母親として最悪の結末を迎えていたわけだし、元を辿れば「ワガママに育ててしまった」ことの罪なんでしょうか。甘やかしすぎない教育が大事、と…。深い。

妹ちゃんが死んでなければねー。お姉ちゃんも違った人間になっていたのかもしれません。

いろいろ考えるとやっぱり悲しい話だな…。

このシーンがイイ!

ネタバレになるので詳しくは書けませんが、最終盤のあるシーン。「マジで!?」と「うわーやっぱり」が入り交じる感じ、好きです。

ココが○

最初は「この自分語り関係あるのかよ」と退屈気味に観ていたミルドレッドの過去話、実はそれがすべて事件につながる話だったという無駄の無さは素晴らしいですね。本当に筋肉質な脚本だと思います。

いやぁ良く出来た話ですよ。その時々の動機と行動がすごく自然だもん。

ココが×

真犯人についてはある程度読める人もいるんじゃないかなと思います。そんなに難しい予想ではありません。ちなみに僕は惜しいところまで行きましたが外してました。

ただそれは「いや誰だよコイツ」っていう興醒め真犯人ではないわけで、それこそ良く出来た部分とも言えると思うんですよね。

いきなり知らないやつ出てきたよとか最後の方に登場したコイツかよとか、そういうのが一番問題なので、この「予想できる」のは良いサスペンスの証拠だとも思います。

MVA

主演のジョーン・クロフォードはこの映画でアカデミー主演女優賞を受賞したそうで、なるほど確かにとても良い演技だったと思います。

その他ウォーリー役のジャック・カーソン、姉御肌の右腕アイダを演じたイヴ・アーデンもとても良かったんですが、一番印象に残ったのはこの人かなー。

アン・ブライス(ヴィーダ・ピアース役)

ミルドレッドの長女でお金大好きガール。

調べたら当時17歳ということで、あどけなさもありつつでもどこか品がある“上流”の雰囲気もよく出ていて良かったと思います。

もー本当にイライラさせられるんですよ。一番イラつくキャラでした。でもかわいいんですよ。ムカつくことに。いわゆる「男ウケするかわいさ」が絶妙。

そんな「ギリギリ許したくなるようなかわいさ」が絶妙だなと。これでブサイクだったら誰からも見向きもされないでしょうからね。

かわいいは罪だ。ムカつくけど。

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