映画レビュー0282 『マネーボール』
今、僕が家で使用しているPCはノート(ダイナブック)なんですが、この前爆速にしたいぜ! とSSDを導入してみました。これがビックリするほど簡単で、まさに文字通りの爆速で感動。HDDとSSDの入れ替えは本当に抜いて差し替えるだけ程度の作業で、むしろSSDに入りきるようにドライブの容量を削るほうが大変だったという。1万(プラス外付けHDDも買ったので合計2万ぐらいですが)程度でできるので、興味のある方はやってみるといいかもしれません。
そして最初からSSDが入ってるPCのボッタクリっぷりはハンパじゃないのがわかりました。あんなの買ったらもったいないぜ!
マネーボール
野球を知らなくても大丈夫! 真面目ないい映画です。
「ド野球」の映画っぽい感じがあるので、野球を知らない人は尻込みしそうな部分がありますが、でも実はそんなに野球の知識は必要なく(あった方が楽しめるのは間違い無いと思いますが)、スポーツドラマのようでいてビジネスヒューマンドラマのような趣き。実話を元に、真面目にしっかり作られたいい映画でした。
善戦した年のオフに一気に3人の主力選手を他球団に持っていかれたアスレチックスのGM・ビリーは、「限られた資金で勝てるチームを作る」ため、インディアンズのスタッフだったピーター・ブランドが語る理論「セイバーメトリクス」に注目、これを駆使しようと奔走しますが、「出塁率はいいものの守備ができない」とか「能力はあるけど私生活に問題がある」とか「実績は十分だけどもう歳でピークを過ぎている」とか、いわゆる“曰くつき(=だからこそ年俸が安い)”の選手を活用することを目指した結果、周りからは大反対の抵抗にあい、監督も自分が望む選手起用はしてくれません。
段々と孤立を深める中、それでも自分たちが正しいと信じるビーンは、それまで避けていた選手たちとの関わりを持ちながら、理論の浸透を図っていくことでチームを軌道に乗せようと奮闘していく…というお話。
さて、まず野球を知らない方に簡単にわかりやすく説明しますが、主人公であるビリーの職業「GM(ゼネラルマネージャー)」というのは、日本では(一部球団にはいますが)あまり馴染みのあるポジションではなく、そういう意味で結構わかりにくい部分があるんですが、簡単に言えば、テレビ番組で言うところのプロデューサーみたいなもんです。決められた予算があって、その中でどういう人員を抱えてチーム作りをしていくのか、というお仕事。
その上にいるのが「オーナー」で、これはテレビ番組で言うところのスポンサーです。要はお金を出すだけ。あと「勝て勝て」文句を言うだけ。
「監督」は現場指揮官で、同じくテレビ番組で言えばディレクター。今ある素材で勝つには何が最善かを考えながら日々采配する人、という感じでしょうか。
実はこの映画、この3つの役割分担を知っていれば、もう十分楽しめます。野球自体は詳しくなくても全然問題ありません。
それぞれの役割分担があって、そこには当然それぞれのポジション故の考え方があって、そこをどう折り合いをつけながら「勝利」という目標を達成するのか…というドラマです。
序盤で話が出ますが、割とお金に困らないヤンキースやレッドソックスのような球団と、ヒーヒー言いながらカツカツの状態で見所ある選手を育てては高いお金で持っていかれる“草刈り場”になってしまうアスレチックスのような貧乏球団とでは、もう「やっているゲーム」が全然違うんですよね。同じ野球でもルールが違うというか、常にワイルドカードだらけのプレイヤーと、常に出せる札が1枚しか無いプレイヤーがUNOでガチンコ勝負するようなもんです。入口からして不公平なんですよね。
それだけにビリーの苦労は想像できますが、逆に「そういう制限があった方が面白そうだな」と思える部分もあって、その面白そうな部分=工夫のしどころが、この映画の中心になります。(ちなみに日本で言えばヤンキースは巨人、アスレチックスは広島とイメージすれば間違い無いです)
映画としては、野球どうこうよりも「ビリー・ビーンの仕事を追う」ような内容で、もっと言えば映画を通して提示される彼の価値観に共感できるか否か、が結構大事だったりするような気もします。劇中にも出てきますが、結局はビジネスなので、非常にドライに「クビだ」ってこともあるわけです。
彼は「うちは金が無いからこうするしかない」と信じて、ビジネスライクに「弱小球団を勝たせるためのパズル」を進めていくんですが、途中出てくる、電話を使ったスピーディーなトレード戦略なんかも、選手が文字通りコマのような扱いなので、“情”という観点からすれば「それでいいのかなぁ」と思わなくも無い部分があって、観る側があまり感情に寄り添い過ぎるとイマイチな映画になりかねません。
当然、その辺はうまく「選手に寄らない、選手の顔が見えない」構成にしているので、あまり意識することなく観ることが出来ると思いますが、「ビリーが主人公である」だけで、あまりこの考え方を賞賛しすぎるのもちょっと危ないよな、なんて思いながら観てはいました。そう考えると、劇中ではあまり描かれていませんでしたが、選手たちのモチベーション管理もひとつの問題になりそうだな、という気も。
きっとその辺の漠然とした不安感は、統計学を基本とした理論の先に、僕が今最も懸念している「システム化されすぎた世界」が見えたからだと思います。
理論は正しいし、ビリーと同じく試してみたい、がんばって欲しいと思いながら観てましたが、でも振り返ると「こういう球団ばっかり」になった時に、数字に現れない魅力を持った選手たちが減っていって、野球全体の魅力低下になるんじゃないか…なんて気もしたりして。
劇中では“たまたま”能力はあるもののクセのある選手たちが“拾われた”形になっていたので割とスンナリ受け入れられましたが、でも実際のところは「数字ありき」の人材チョイスなだけに、「クセのある選手でもいい」というよりは、「求める数字を持っていただけ」の選択なので、結局行き着く先はドライなシステム化社会しか出来上がらないような怖さが潜んでるような気もしました。
で、この映画は野球でしたが、それが現代社会に拡大されていくと、それこそ「ガタカ」のような、入口で全部答えを決めていく世界になりそうな気がして、ヴィンセントのような人間が日の目をみない世界が出来上がるんじゃ…みたいな。
まあ、この話でそこまで考えるのは確実に考えすぎですが、「ビリー目線」の話でその理論を全肯定しちゃうのは危ないかもよ、というお話です。映画自体はすごく面白かったんですが。この「ビリー・ビーン」その人のやり方は、メジャーのGMならいいけど、もっと大きなカテゴリーに持っていかれると怖いな、という不安も覚えました。
ただ、ラストのピーターが見せたビデオとそのやり取りを観ると、「ビリーの野球への思い」が汲み取れて、そこに共感を覚えたのも事実で、その辺のバランス感覚(最後のオファーの件も含めて)が優れていて、やっぱり他にない才能を持ったGMなんだろうなぁという気もしましたね。
ちょっと考え過ぎなレビューになりましたが、そんなわけで実は単純な爽やかスポーツサクセスストーリーではなくて、そういう複雑な価値観を内包したドラマだったりすると思うので、単純に「いいねー」で終わらせるともったいない映画な気がします。すごく敷居は低いので、単純に楽しんでおしまいでもいいとは思うんですけどね。
このシーンがイイ!
ビリーが選手の控え室に入って話をするシーンはどれも良かったですね。
あとはやっぱり、ラストのピーターが見せたビデオのシーン。良かった。ただ、このシーンは上に書いたような“システム化”へのフォローみたいなニュアンスもあったような気がしないでもないような気がしないでもないです。(どっち)
ココが○
上に書いた通り、野球の知識がなくても結構楽しめる映画で、しかも地味になりがちなところをブラピが演じることでうまくバランスを取ってしっかり惹きつけてくれるのはスバラシイ。主演を地味にしたら一気にもっと地味になって全然違った印象になりそうですね。
ココが×
特にこれといった欠点は無い気が。
MVA
いいなーこの監督なんかノムさんっぽいな…と思って観てたらまさかのフィリップ・シーモア・ホフマンだった、っていう。さすが…この人も結構な変幻自在っぷりですね。で、選んだのはコチラ。
ブラッド・ピット(ビリー・ビーン役)
今回2連続で久々のブラピとなりましたが、共通して思ったのは、この人は細かい仕草がすごくいい。
目立たないところですが、ちょっとした動きを差し込むそのタイミング、見せ方がすごく惹きつけてくれるなぁ、と。親しみが沸く感じ、というか。カッコイイんだけど、人間臭いような雰囲気があって、そこが他にない存在感を醸し出してるなぁと思います。
やー、ほんとくどいようだけど役者辞めてほしくない。爺になっても観たいよこの人。