映画レビュー1397 『悪いやつら』

おそらくこれがJAIHO休止前最後の1本になると思われます。当日追加されていた映画で面白そうだったので即観ました。

悪いやつら

Nameless Gangster: Rules of the Time
監督
脚本

ユン・ジョンビン

出演
音楽
公開

2012年2月2日 韓国

上映時間

133分

製作国

韓国

視聴環境

JAIHO(Fire TV Stick・TV)

悪いやつら

普通のおっさん故の面白さ。

8.0
コネと血縁をフル活用して裏社会でのし上がっていくただのおっさん
  • 不正税関職員が“最後の仕事”で暴力団ボスと知り合い、裏社会で生きていくことに
  • コネと血縁と口先で居場所を確保、次第に勢力を拡大していくが…
  • 一風変わった主人公による韓国ノワール
  • ハ・ジョンウがさすがすぎ

あらすじ

相変わらずこの手の韓国ノワールは面白くて好きなんですが、ただ「うおおおおお!」レベルになるにはもう一歩ほしいかな、といったところ。

1982年の話。主人公のイクヒョン(チェ・ミンシク)は税関職員なんですが、おおらかな時代の税関あるある…なのかちょっと役得的に押収品を着服したりするいわゆる汚職役人です。

しかし度重なる不祥事の影響で見せしめとして税関職員の“生贄”が必要となり、一番扶養家族が少ない(という理由でしたが他にも裏がありそうな感じで)イクヒョンがクビになることに。

解せないイクヒョンですが、ちょうどその頃偶然港に不法に持ち込まれた大量の覚醒剤(ヒロポン)を摘発した彼はどうせやめさせられるんだし、とそれを日本のヤクザに横流しすることを画策、そのコネを持つ釜山最大の暴力団のボス・ヒョンベ(ハ・ジョンウ)と知り合います。

話すとヒョンベは遠戚ということが判明したことでイクヒョンは親戚のツテを利用してヒョンベを丸め込み、次第に2人はパートナーとして裏社会での勢力を拡大していきます。

役人時代のコネとヒョンベの武力を利用して裏社会を渡り歩くイクヒョンですが、言ってみれば「ヤクザでも堅気でもない“半端者”」の彼はコネと己の機転こそがすべてであり、その足場は脆いものであることに気付かないまま調子こいてたらいろいろありまして…あとはご覧ください。

ただのおっさん成り上がり

裏社会でのし上がっていく“ただのおっさん”が主人公の韓国ノワール。珍しいタイプのお話です。

最初は「ヒロポンの横流しで一稼ぎして退職金代わりに」ぐらいだったんだと思うんですが、そこでつながった相手が遠戚だったことがターニングポイントとなり、どっぷり裏の人間になっていく…んですが表のコネクションも存分に活用して「他にない」オンリーワンのポジションを確立していくという。

本当にただのおっさんなので、もう本当にひょんなことから“誰もがこうなる”可能性も感じられるところが非常に面白いですね。自分にも起こりえそうなぐらい普通の人間が裏の権力を握っていく、でもそれがあまり嘘くさくない(韓国の家父長制の重さも手伝ってそう)のが良くできているなと思います。

そこに例によって検察の手(またもクァク・ドウォン)が迫ってきたりするのもおなじみな感じではありますが、それすらも丸め込もうとする“籠絡の鬼”感漂う主人公がまた面白い。主人公として観ていくとマジでただのクソ野郎なんですが、きっと近くにいていろいろ良くしてくれたら気に入っちゃうだろうなというのもわかりますね。いかにも世渡り上手の人たらしなんですが、それが文字通りの“表裏一体”で裏では有力暴力団のボスとつながっているというのがポイント。

ちなみに彼の妹の結婚相手、つまり義弟を演じているのがマブリーなんですが、今よりも若い頃だからか細い…! おまけにちょっと情けない感じの役でめちゃくちゃかわいいです。ちょい役っぽいなと思ったら地味にあとの方でも出てくるのでマブリーファンも必見の一本と言えるでしょう。

主人公を演じるのはチェ・ミンシク。僕の数少ない鑑賞経験では重厚な脇役のイメージなので主役の「ただのおっさん」は結構意外でした。お腹もポチャポチャなんですがこの翌年は激渋な「新しき世界」なので役作りなのかな?

彼の遠戚でもう一人の主人公と言える暴力団のボスを演じるのはおなじみハ・ジョンウ。物静かだけどキレると怖い、いかにもなボスですがさすがに非常にお上手。怖すぎる。当時30代前半とは思えない迫力です。情けないマブリーとの対比が素晴らしい。(絡みはないけど)

映画はこの2人の“成り上がり”の物語でもあり、その関係性の変化を追った物語でもあります。それ故ちょっとしたバディものでもあるし、関係性の揺らぎにいろいろ考えてしまう面もあったりして、「男の友情もの」的な見方をしても面白いものがありました。いくら名家的な血縁の問題があるとは言え、その辺のおっさんを立ててきっちり筋を通すヒョンベの男らしさたるや。

もちろんヤクザなので手放しで褒められるような人物ではないんですが、ただ昨今の自己中連中ばっかりな社会を見ていると、この「筋を通す」生き方ができる人のカッコよさというのは感じずにはいられません。

少しコメディっぽさも

ノワールだし暴力団だしで基本的にバイオレンスだし、痛そうなシーンもいっぱい出てくるんですが、ただどこかちょっと抜けた面白さもあってそこのバランスも良かったです。

シーンとしては痛そうでも劇伴がちょっとゆるかったりしていい感じに力を抜いてくれるんですよね。特に前半は深刻さも薄いし、裏社会の話なのにちょっと笑える感じがエンタメしていてさすがだなと。

オチも考えさせるいいオチだし、総じて「韓国ノワールらしいエンタメ」感が“外さない”映画でした。この手の映画が好きな人はきっと楽しめるんじゃないかなと思います。

このシーンがイイ!

イクヒョンが銃を手に、一人鏡の前でイキるシーンがあるんですよね。あれ絶対「タクシードライバー」のオマージュだと思うんですよ。

アレをやっちゃう一般人っぽさって言うんですかね…。小物ほど調子乗ってやりそうなマネなので、その意図込みでめちゃくちゃいいシーンだなと思います。

ココが○

やっぱり“ただのおっさん”が主人公なのは他にないものなので、まあよくこんな面白い話作るよなと感心しました。

オープニングで「フィクションです」ってわざわざおことわりが出てくるだけに、もしかしたら(逆に)モデルがいるのかもしれませんが、本当のところはわかりません。

ココが×

どうしても今まで観てきたこの手の映画に似通った部分が結構あるので、もう一歩「やられたー!」となるような何かが欲しかったような気はしました。それが何かはわかりません。

MVA

本当にハ・ジョンウは相変わらずお見事だったんですが、この人は割と何に出てきてもさすがだから安易に選んでもつまらんな、ということもあってこちらの方に。

チェ・ミンシク(チェ・イクヒョン役)

主人公のおっさん。

「普通のおっさんが裏社会でのし上がっていく」役ってなにげに難しい気がするんですが、この人もさすがで実にお上手でした。情けない感じだったり人たらしっぽさだったり何より小物っぽさだったり。

かっこよくもないし嫌われ者だしで役者的にあんまり美味しくない役だと思いますが、まー見事に演じていて素晴らしかったですね。義弟のマブリー含めてカッコ悪いんだけどそれがいいし面白かった。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です