映画レビュー0922 『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』

今年下半期最大の話題作とか言う話ですがそんな宣伝文句は山程目にするのであんまりあてにすることもなく。ただ話題であることは間違いないでしょう。

やっぱり映画好きとしてはディカプリオとブラピが初共演、ってだけで興味をそそられるわけで、正直タランティーノの映画はハマれるか怖さもありつつ、公開翌日の土曜日に観に行って参りました。

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド

Once Upon a Time in Hollywood
監督
脚本

クエンティン・タランティーノ

出演
公開

2019年7月26日 アメリカ・イギリス

上映時間

161分

製作国

イギリス・アメリカ

視聴環境

劇場(IMAXレーザー2D)

NO IMAGE

愛があるなぁ…。

8.5
停滞期に入った元スター俳優とその相棒のハリウッドでの日々
  • 「シャロン・テート殺害事件」当時のハリウッドを描く
  • 落ち目の俳優とその相棒のなんてことのない日常がメイン
  • タランティーノ映画としてはかなり観やすい印象
  • 事件についての下調べ必須!

あらすじ

考えてみたら僕がタランティーノの映画にあんまり良い印象がないのは、初めて観た「キル・ビル Vol.1」が好きじゃなかったから、ってだけで他は割と面白かったんですよね。と言いつつ他に観たのは「レザボア・ドッグス」と「イングロリアス・バスターズ」だけなんですが。

一応「ジャッキー・ブラウン」「パルプ・フィクション」は確か録画してあったはずだし、「ヘイトフル・エイト」も確かネトフリで観られたような気がするので追々と観ていこうと思っていますが、とりあえず現状では「最も観やすくオススメしやすいタランティーノの映画」でした。って毎回言ってる気がするけど気にしない。実際そうだったんだもん。

主人公はディカプリオ演じる俳優、リック・ダルトン。

彼はTVシリーズ「賞金稼ぎの掟(バウンティ・ロー)」で人気を博した俳優で、過去に映画も(少なくとも)2本は主演しているんですが、現在はシリーズも終わって人気も下降線を辿る一途。当然ながら本人もその事実は認めたくなかろうと直視せざるを得ない現状に、やや情緒不安定でメソメソしがち。酒もタバコも量が増えます。

彼には専属のスタントマンのクリフ・ブースという相棒がいて、いつも二人で行動する親友同士。演じるのはブラッド・ピットです。55歳にして衰えを見せないその肉体美は、まったく脱ぐ必要のないシーンで裸体を披露するサービス精神で証明してくれます。

リックが落ち目ということは、イコールでクリフも仕事が少なくピンチ。しかし焦ったり急かしたりすることもなく、「スタントの仕事がないか声をかけといてくれないか」ぐらいにリックに声がけを頼む程度。あとはリックから頼まれた雑用をやったり運転手をやったりして割とのんびり過ごしています。

しかしクリフは「妻を殺した挙げ句不問になった」という噂があり、ハリウッド界隈でも評判がよくないため余計に仕事にありつきにくい状況のご様子。ただリックは親友なのでそのことを気にもかけておらず、極めて良好な友人関係の二人です。

仕事をもらって気合を入れて撮影に望むもセリフを忘れたりしてイマイチ冴えないリック、自らの不甲斐なさに涙しつつも毎日を懸命に生きているわけですが、そのリックの住む家の隣に一組の夫婦が引っ越してきます。

夫は今も活躍中で当時は新進気鋭の監督と言われた、あのロマン・ポランスキー。そしてその妻がマーゴット・ロビー演じるシャロン・テート。もちろんこの二人は実在する人物です。

シャロン・テートは26歳のときにカルト指導者チャールズ・マンソンの信者たちによって惨殺されるんですが、この映画はその前後が舞台。

分け隔てなく誰にも優しいシャロン・テートは、お忍びで自分が出ている映画を観に行ったりと歳の割に無邪気なほどかわいらしい人物。そんな彼女と、彼女とは直接関わりのないリック&クリフの日常を交互に描きながら、徐々に近付く「シャロン・テート殺害事件」のXデー。

リックの役者としての未来とクリフとの関係、そしてシャロン・テートの運命やいかに…。

事前学習が絶対に必要な映画

ということで若干触れましたが、改めて念押ししておきます。

マーゴット・ロビーが演じる実在の人物、シャロン・テートが殺害された事件については鑑賞前に事前に調べて情報を仕入れておきましょう。これを知らないと何が言いたいのかさっぱりわからない映画になります。ディカプリオ or ブラピのファンだったとしてもキツイと思います。たぶん。一番訴えたいことがまったくピンとこないので。

映画の公開に合わせてその手の情報がたくさん出回っているので、ネットで軽く検索すればすぐ見つかるとは思いますが、ここでも簡単に触れておくと

チャールズ・マンソンを教祖とするカルト集団の信奉者たちがロマン・ポランスキー宅に侵入、当時妊娠8か月だったシャロン・テートと彼女の友人たちがナイフで滅多刺しにされ、殺害された事件

です。ちなみにこのときロマン・ポランスキーはロンドンにいて不在。

おそらくアメリカ人にとっては「シャロン・テートが出てる=事件を思い出す」ぐらいの共通認識がある固有名詞なんだろうと思うんですが、日本人はそうではないので事前に調べておかないとダメです。

はっきり言って、この映画で描かれるアレコレは筋があってないようなもので、正直そんなに起伏のある話ではないんですが、ただこの「シャロン・テート殺害事件の前後を描いている」という事実だけでなんとも言えない緊張感があります。

本当になんてことのないリックとクリフの日常なんですが、そこに問題のシャロン・テートの姿も挿入され、また事件の犯人と目される集団らしき人たちとのやり取りも登場する、と。ただ観ている分には「普通の日常」なんだけど、事件を知っていると「そこに向かって少しずつ動いているなにか」の存在を否が応でも感じ取る、この感覚がなんとも言えずつらい。

全体的には少しコメディ寄りのドラマと言った感じで、ところどころ笑いどころも多いし、単純に観ていて楽しい話でもあるんですが、しかしその背景にあるタイムリミットによって終始「嫌な予感」に支配されながら観るようなこの感覚はなかなか他にないものでした。

リアルとフィクションが混ざることで、知らない話に笑いながら“知っている観たくない答え”に向かって突き進む、奇妙な“おとぎ話(ワンス・アポン・ア・タイム)”。軽快なテンポで展開する(かつての)ハリウッドの日常に映画好きの血が騒ぎつつ、別の血が騒ぐ。なんとも不思議な体験でした。

ディカプリオがスゴイ

リックとクリフの日常は「落ち目俳優あるある」的な感じ。言ってみれば「俳優の知られざる日常」みたいな感じで裏話的に楽しめます。特に映画が好きであればなおさら面白いんじゃないでしょうか。

監督自身がハリウッド出身で、自分が見ていた当時のハリウッドへの並々ならぬ愛情を投影させているようなので、この当時のアメリカ文化に詳しければかなり細かく楽しめる映画だと思います。

さすがに僕は世代が違うのでほとんどわかりませんでしたが、それでもちょい役でマックイーンやブルース・リーが出てきたりしてそれだけでも楽しい。

またこの「落ち目の俳優」を演じるディカプリオが素晴らしくてですね。すぐメソメソするんですよ。目に涙ためて。

「俺様がリック・ダルトンだー!」ってドヤ顔したかかと思ったらその直後に目が真っ赤になっててスゴイ。笑っちゃうけどスゴイ。

「俳優を演じる俳優」って二重構造はなかなか難しそうですが、その辺さすがディカプリオ。見事に演じていてその演技も間違いなく見ものです。若干月亭方正みがあった気もしましたが気のせいです。

一方、クリフ役のブラピの方は割と「いつものブラピ」なんですが、これがまたここに来てかっこよさが極まった感があり。

世の中は「ファイト・クラブのブラピが男の理想」って感じですが、正直僕はこっちのブラピのほうが憧れるしかっこよかったですね。美味しい役だったせいもあるんでしょうが。

程よく力も抜けていてガツガツしてない、でも決めるときは決める。ちょっとねー、かっこよすぎてズルいぐらいでしたよ。今回のブラピは。50歳で俳優引退しなくてよかったね。

問題(?)の意味もなく裸になるシーンも、その前にジャンプでトントンと屋根まで登るんですが、ジャンプして塀に乗ってそのまますぐジャンプして…って体幹の強さがハンパじゃなくて驚きました。編集力もあるかもしれませんが、ジャンプして塀に乗って落ちない、ってだけでスゴイ。

愛を感じてまさかの涙

「タランティーノらしさ」についてはそんなに詳しくないので割といい加減な情報ですが、これまた監督自身も歳を取ったからか、程よく力も抜けてそこまで「タランティーノが作りましたアピール」も無かった気がしたのが良かったなと。

序盤のディカプリオとアル・パチーノの絡みに別のカットを差し込んでくる辺りにタランティーノみを強く感じましたが、逆に言えば目立ってそれっぽさが出ていたのはその辺りぐらい。鼻につくような自己主張は特に無く、またエログロバイオレンスの類による過激さもほぼ無いので、誰にでも観やすいタランティーノ映画と言って良いでしょう。

むしろ全編通して非常に愛のある映画だと思いました。それは舞台がハリウッドであることも無関係ではないでしょう。

自他ともに認めるシネフィルの監督が、自らも世話になったハリウッドに対して、恩返しの意味も込めての愛情を叩き込んだ作品なんでしょうね。きっと。

彼も(もう和解しているようですが)ユマ・サーマンから過去の所業について糾弾されたり、ワインスタインの問題もあったりして、ハリウッド自体が揺れているここ最近の状況も重なって、なおさらこういう映画で恩返しして「俺たちの好きだったハリウッドを思い出そうぜ」みたいな側面もあるのかもしれません。

そんな諸々いろいろ考えながら観ていたら、エンドタイトルが表示されたときは自分でも予想外なことに涙が出ました。まさかこの映画で泣くとは…。

観ている人によっては伝わり方に差が出てくるとは思いますが、ただ「愛のある映画だ」ということは書いておきたい。そしてできればその愛を感じ取ってほしい。

とても良い映画だと思います。

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ネタバレ

この話はきっと…ハリウッド史上に悲しく残る「シャロン・テート殺害事件」を、「こうだったら良かったのに、こういう運命もあったのに」という意味で願望込みで塗り替えようとするタランティーノの愛だったんじゃないかなと思います。

ラストシーン、落ち目の俳優であるリックを優しく迎え入れるシャロン・テートの姿を見て、「ああ…現実もこうだったら良かったのに…ポランスキーもそう思うだろうな…」とポランスキーの気持ちを思って泣きました。

ポランスキーは観たのかなぁ…。観たのであればどう感じたんだろう。現実の過酷さを思い出してやっぱり泣くんじゃないだろうか…。

調べたらまだ結婚して1年ぐらいだったようで、夫婦ともに若い頃だしこんな時期にあんな凄惨な事件(しかも人違い)があったら…僕だったら立ち直れないですね…。過酷すぎる。その過酷さもまたつらく、涙につながったんですけどね…。

さっき調べたらこの事件があった日、マックイーンやブルース・リーも呼ばれていたらしいんですよね。行かなかったおかげで難を逃れたらしいんですが、もし行っていたら…クリフのように撃退してたり…しないかなぁ。

それもまた“おとぎ話”の範疇ですけどね。しかし彼らが同じように被害にあっていたとしてもそれはそれで歴史は変わっていたわけで、歴史の綾のようなものを感じますね…。

このシーンがイイ!

リックが子役の女の子と会話するシーンはたまらなかったですね。笑っちゃうんだけどリックの気持ちもよくわかって。

あとネタバレになるので詳細は書きませんが、プールでのシーンは爆笑しました。持ってきた瞬間爆笑しました。

ココが○

現実に起こった出来事をうまく利用して緊張感を生み出しつつ、愛に溢れた映画になっているのが新鮮で良かったです。

話としてはあまり起伏がないんだけどそれでも惹きつけてくれたのはやっぱり「事件」が予備知識としてあったからなので、つくづく舞台装置の作り方がお上手ねと。

ココが×

好きな人は「あっという間!」と言ってますが、僕はやっぱりちょっと中だるみ感を感じたのも一応お断りしておきます。もう少し短くできたんじゃないの? って気もする。

やっぱり2時間半超えてくるとなかなかしんどいですからね…トイレとかね…。

MVA

ブラピがねー。本当にかっこよくて最高だったんですが、やっぱり演技という意味ではこちらの方でしょう。

レオナルド・ディカプリオ(リック・ダルトン役)

俳優としては二流と言って差し支えない「感情を抑えられない」俳優(役)なんですが、それを見事に演じきるディカプリオの力量たるや、ですよ。

ほんとにドヤ顔からノーカットで即座に涙出してるの見て衝撃的でしたね。なんつー演技するんだと。しかもそれが滑稽で面白いっていう。

基本的にダメで弱い人なんですが、その「ダメで弱い」感じの見せ方がさすがさすが。思わず二度言っちゃうぐらいのさすがぶり。

ブラピが目立ちがちな映画なので少々不憫な気はしますが、演技力は図抜けてますね。ホントに。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

CAPTCHA