映画レビュー1217 『乾いた花』
今回もJAIHOより。
正直言うと差別主義者の石原慎太郎は大嫌いなので彼が原作の時点で観るべきか迷ったんですが…スコセッシが30回は観たとかコッポラが「ゴッドファーザー PART III」で引用したとか言うエピソードを聞いて興味があったので観てみました。
乾いた花
価値観的に古い男像がイマイチ。
- 出所したばかりのヤクザの若頭的男が賭場で若い女性と出会う
- 肝っ玉の座った女性の立ち居振る舞いに興味を持ち、やがて知己の間柄に
- 古いものの観やすい話ではある
- 女優二人がどっちも魅力的
あらすじ
イマイチ「どこが」とは言いにくいんですが、あんまりこう…グサッと刺さることもなく、「まあそういう男もいるよね」的な感じで流れていったような物語でした。単純に価値観が合わなかった感じかな…。
三年の刑期を終えてシャバに戻ってきたヤクザの村木(池部良)。特に変わらない環境の中、ある日賭場へ出向くと見慣れない若い女性・冴子(加賀まりこ)が堂々と勝負しているのを見て興味を持ちます。
何度か顔を合わせた後に話を聞くと、「もっと大きな勝負がしたい」とのことでツテを頼って別の賭場に彼女を連れて行くことに。
そこには怪しげに佇む葉という男(藤木孝)がいて、聞けば危ない噂ばかり。しかし危険な男ほど惹かれるのか、彼に興味を持ち始める冴子。
一方村木は組の抗争によってまたも戦いの場に駆り出されることになるんですが…あとはご覧くださいませ。
葉さんあんまり出てこない
なーんかイマイチだな…と思っていたところにあらすじを思い出しつつ気付いた点が一つありました。
JAIHOの紹介でも主要人物的に登場する謎めいた男「葉」なんですが、実は劇中この人の描写がかなりうっすいんですよね。
座ってる姿が数回、あとは噂話程度+αであんまり話に食い込んでこないんですよ。
もちろん描かれていない部分で重要なポジションを担っているのも事実なんですが、むしろそれだけ重要な割にかなり扱いがあっさり目なので「うーん、そう言われましても…」みたいな。
いやまあ古い映画でもあるので「察しろ」的な世界観であろうこともわかるんですが、僕はむしろ古いからこそ“役者の格”によって出演時間が割り当てられてるんじゃねーの…的な穿った見方をしてしまい、本来であればもうちょっと画の中に食い込んでくるべき登場人物じゃないのか…とモヤモヤしたのもイマイチだった理由なのかな、という気がしました。
早い話が裏で葉と冴子にいろいろありつつ、それを知らない(観客と同じような状況の)村木が冴子を気にかけつつ“お仕事”に向かっていって終盤を迎えるお話なんですが、結局村木目線でヤクザの日常を眺めながら淡々と進んでいった先の“オチ”がどうにも微妙で、いやわかるんだけどそこまでの感じ出してなかったやん、みたいな。
きっとそれが「男の美学だ」的なお話なんでしょうが、その「美学を察しろ」感からして古いのも否めず、どうしても時代的にしんどいよな、というのが思ったところ。全然的外れな可能性もありますが。
あのオチで行くのであれば、もう少し村木の心情を感じさせる何かが欲しかったと思うんですよね。「それがないから良い」んでしょうが、僕はちょっとこのタイプとは遠い人間なのでピンときませんでした。残念。
映像は素晴らしい
今回4Kデジタルリマスター版だったこともあって映像面はモノクロですが非常に綺麗で、カメラワーク含めた演出も非常に良かったように思います。
話自体も価値観はピンとこなかったものの特に古いから間延びしているような感覚もなくて、観やすいものだと思います。ヤクザだけどバイオレンスでもないし。
なのでもう単純に話が合うか合わないか、なんでしょうね。僕はサッパリ入り込めませんでしたが。意地になってカーチェイスした相手と爆笑するシーンとか全然意味わからん。
このシーンがイイ!
やっぱりコッポラが引用しただけあって“殺し”のシーンはすごく良かったですね。「おお、これが」と。
ココが○
まあ公開年を考えれば今観ても「(テンポ的に)古さが気にならない」だけですごいなと思います。もっとも邦画はこの頃のほうがよくできていた説もありますが…。
ココが×
上に書いた以外で言えば、自分のせいですが花札が結構出てくるもののルールがサッパリわからなくて参りました。
わかっていたところで評価が変わるわけでもないとは思いますが、やっぱり知ってる方が面白かっただろうなとは思います。
MVA
まあ順当にこの人でしょうか…。
加賀まりこ(冴子役)
賭場に出入りする謎の女。
「加賀まりこの若い頃は本当に綺麗だった」と良く聞いたんですが、まー確かにお人形のような美しさでびっくり。見た目だけで説得力が出るタイプですね。本当に綺麗でした。
ただ個人的な好みで言えば、村木に惚れちゃってかわいそうな新子を演じた原知佐子の方が好きでした。
薄幸そうな人、好きなんだよな…。