映画レビュー1343 『ペトラは静かに対峙する』

適当に配信終了が近い映画の中から気になる一本をチョイスといういつもの流れで今回はこちら。

ペトラは静かに対峙する

Petra
監督

ハイメ・ロサレス

脚本

ハイメ・ロサレス
ミシェル・ガスタンビデ
クララ・ロケット

出演

バルバラ・レニー
アレックス・ブレンデミュール
ジョアン・ボテイ
マリサ・パレデス
ペトラ・マルティネス
カルメ・プラ

音楽

クリスティアン・エイドネス・アナスン

公開

2018年10月19日 スペイン

上映時間

107分

製作国

スペイン・フランス・デンマーク

視聴環境

JAIHO(Fire TV Stick・TV)

ペトラは静かに対峙する

淡々と描かれる不幸の連鎖がしんどい。

8.0
著名な芸術家が父親であることを確かめるために近付くもクソ野郎だった
  • 見知らぬ父親を探すために手がかりから著名な芸術家にたどり着いた画家
  • しかしこの芸術家がなかなかの御仁で様々な不幸の連鎖が起こる
  • 7章立てながら順序が前後する作り
  • 爺さん初演技だそうでびっくり

あらすじ

なかなかのムナクソ映画ではあったんですが、ただなんとなくあまり他にないタイプのムナクソ感で妙に惹きつけられてしまうものがありましたね。なかなか面白かったです。

画家のペトラ(バルバラ・レニー)は、著名な彫刻家のジャウメ(ジョアン・ボテイ)と作品制作をするため、彼の屋敷にやってきます。

ジャウメはかなり有名な芸術家らしく、屋敷もめちゃくちゃ広いので彼女は一部屋を間借りするような形でしばらく滞在する模様。

彼女はジャウメの妻・マリサ(マリサ・パレデス)や息子のルカス(アレックス・ブレンデミュール)、家政婦のテレサ(カルメ・プラ)といったこの家の面々と親交を深めていきますが、問題のジャウメは自らの地位の高さから来る横暴さを隠しもしない人物で、何やら不穏な雰囲気が常に漂っております。

そんな中、最も優しく接してくれていた家政婦のテレサが自殺する事件が起き、衝撃を受ける人々。その裏にはあの人の影が…!

ちょっと変わった構成の映画

最初に「第2章」から始まるので「えーこれ2作目なの? 1作目観てないしやめとくか…」と一旦再生を止めたんですが、調べたところそういうわけでもなさそうなので観続けた結果、「7章立ての2章から始まる」変則的な映画でした。

順番としては2→3→1→4→6→5→7の順で進みます。ちょっと「手遅れの過去」っぽいですね。

もちろん順番が前後することには意味があり、あとになって(時系列的には先なんだけど)なるほどなぁとわかったりする例のパターンです。

ただこの手の手法を取っている映画の割にはそこまで込み入った感もなく、どちらかと言うと「実はこういうことやったんやで」と後出しで嫌な話を突き付けてくるような内容になっている印象で、それがこの映画の悲劇性を高めているなと納得しつつも監督性格悪いねと思ったりするわけです。ゼッタイイイヒトジャナイ。

物語の発端としては、主人公の画家・ペトラは母子家庭で育っていて、当然父親が誰なのかはずっと気になっていたんだろうと思うんですが、母親はその件については一切口をつぐんで頑なに話そうとしないわけです。

このエピソードも途中で出てくるんですが、ちょっと「いくらなんでも」と思うぐらいに頑なに拒むんですよ。

なのでよほど嫌な思い出なんだろうと思うわけですが、なんやかんやあってペトラはその「父親候補」が自分の調べる限りではジャウメではないか、という結論に達し、「共同制作」という名目で実際は自分の父親であることを確かめるためにジャウメの元にやってきたところから映画が始まるよ、と。

で、このジャウメがなかなかのクソ爺なもんで…。一見すると「まあ著名な芸術家だしこれぐらいの尊大さはよくありそうではあるな」ぐらいの感じなんですが、ところどころでサイコパスじゃねーか、ってぐらい人の心をまったく顧みない発言をしてきたりするので油断ならない。

彼の人の悪さがこの映画で描かれるあらゆる不幸の元凶にあると言っても過言ではないぐらいになかなかの胸糞爺さんなんですが、ただ「よく見る悪役」のような作り物感が無い、「マジでいそう」なリアルな胸糞加減が非常にお上手に思いました。

それは物語そのものもそうで、ものすごく淡々といや〜な感じが続くドラマで、ところどころ大変な不幸が起こるものの、淡々としているからこそリアルに感じられるような…声高に「こういう話だぞ! 観ろ!」と訴えてこない巧みさがあり、静かに静かに不幸のスパイラルをなぞっていく作りはなかなか他にない経験でした。絶対監督性格悪い。(二回目)

ジャウメは本当に嫌なヤツなんですが、ただ実際いそうなレベルなんですよね。そこがすごく上手くて。

正直自分としては「そんな嘘つく必要ある??」と思うような意味のわからない嘘で他人を不幸に陥れたりするんですが、ただひねくれきっちゃうとこうなっちゃうのかもしれない…と妙に納得させる説得力があり、それは芸術家という職業に対する偏見なのか、はたまたこじらせたまま歳を取るとこうなるのかな的な爺に対する偏見なのか、本当のところはわかりませんが、その「観客の持っている固定観念」みたいなものを見事に突いてくるいいキャラクターだなと思いました。

監督は…

本当は「この不幸はジャウメがこう言ったからだぞ」とかいちいち突っ込んでやりたいんですが、当然ネタバレになるので控えます。

しかしそんな巨悪・ジャウメが根底に存在するとは言え他の人が原因ではないかと思えるような部分もいくつかあるし、またジャウメはクソだけど受ける側が少し違った選択をしていればもっと…みたいなもどかしさもあり、その辺も含めてかなり意地が悪いですが面白いお話でした。監督は絶対性格が悪いと思います。(三回目)

内容が内容なのであまり気軽にオススメできるものでもないんですが、ちょっと重めのドラマを観たいな、というようなときには良いかもしれません。

ペトラは静かにネタバレする

これ…結局ペトラのお母さんが「ジャウメがお父さんだよ」って一言言っていれば済んだ話では?? という気がしないでもない。

つまりすべての元凶がジャウメなのは確かなんですが、別の見方をすればすべての元凶はペトラ母とも言えるんですよね…。

ペトラがジャウメ家に行かなければテレサの自殺以外の不幸はきっとなかったはずだし。

しかし最後パウがジャウメを殺した動機がいまいちわからず、そこはもう少しフリが欲しかったような気もします。

ジャウメが宣言した通り、テレサを抱いたって話をしたのかもしれないけど…。その辺りの描写がなかったので、パウがジャウメを恨む理由がよくわからなかったのがちょっと惜しい。

このシーンがイイ!

映像的には結構どのシーンも綺麗だったんですが、何分話が暗いので「ココが良いぞ」とか安易に言えない面があり…該当無し、かなぁ。

ココが○

見せ方によってはもっと気が滅入る話にもなっただろうし、話の割にいい塩梅というか…意外と気になって観ちゃう作りがあったような気がします。覗き見たい感覚というか。

ココが×

まーやっぱり終始暗いのはどうしてもねぇ…。ずっと暗いからFF16みたいな気分になっちゃった☆

MVA

クソ爺ジャウメ役を演じた爺さんはなんと演技初挑戦だそうで、普段は農業系のエンジニアなんだとか。全然そんな感じがなくてお上手だったのが驚きですが、しかしこの映画は結局この人にします。

バルバラ・レニー(ペトラ役)

主人公の画家。

どっかで観たことあるなぁ…と思っていたんですが、「マジカル・ガール」の人でした。ああ!

まあやっぱりお上手で、結構複雑な役柄(もはや描かれる人生が複雑すぎる)だと思うんですが淡々と、でも力強く演じていてお見事でした。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です