映画レビュー1053 『ファニア歌いなさい』

2日連続で重めの映画はちょっとなぁ…と思いつつ、でもやっぱり配信終了が迫ってきている映画の中でこれは観ておかないといけないかな、と思い観ることにしました。ジャケ絵の人物がやたらガタイがいいですがヴァネッサ・レッドグレイヴです。

余談ですが早くもOculus Quest2で映画を観るのはやめました。結局テレビで観るのが一番楽だよねっていう。ただ別の用途(意味深)が素晴らしいので買ってよかったです。

ファニア歌いなさい

Playing for Time
監督

ダニエル・マン
ジョセフ・サージェント

脚本

アーサー・ミラー

原作

『ファニア歌いなさい』
ファニア・フェヌロン

出演

ヴァネッサ・レッドグレイヴ
ジェーン・アレクサンダー
モード・アダムス
ヴィヴェカ・リンドフォース
シャーリー・ナイト
メラニー・メイロン
マリサ・ベレンスン
クリスティーン・バランスキー

音楽

ブラッド・フィーデル

公開

1980年9月30日 アメリカ

上映時間

150分

製作国

アメリカ

視聴環境

Netflix(PS4・TV)

ファニア歌いなさい

生きるために選んだ道の違いが心に残る。

8.0
ナチスに連行されたユダヤ人音楽家、収容所内の楽団で囚人を“見送る”
  • 著名な歌手が強制収容所に連行され、所内の楽団に入ることに
  • “生きる”ためにそれぞれ違う道を選ぶ女性たちの対比が見事
  • テレビ映画として放送された作品で、原作は本人が書いた伝記
  • 女優陣の演技が素晴らしい

あらすじ

少し変わったナチス映画の一つ、と言ったところでしょうか。

上記の通り、元はテレビ映画として放送されたもののようですが、内容としては通常の映画とまったく遜色ない素晴らしいものでした。主演は今も活躍する大女優、ヴァネッサ・レッドグレイヴだしね。

主人公のファニア・フェヌロン(ヴァネッサ・レッドグレイヴ)は、パリのバー的なところでピアノの弾き語りをしているシーンからもわかる通り、プロの歌手としてそれなりに名の知られた存在だったようですが、例によってナチスによって連行され、強制収容所へ行くことになります。

何もわからないまま丸坊主にされ、このままガス室送りが待っているのか…と不安になっていたところ、突如としてお呼びがかかり、歌を歌えと指示されます。

なんでもこの強制収容所には「女性囚人のみで構成された楽団」があるらしく、その歌い手として彼女に白羽の矢が立った、というところでしょうか。パリで評判だった彼女の歌は当然のように評価され、入団を打診されます。

スカウトされた彼女は条件を一つ出します。それは、強制収容所に向かう列車内で知り合った、一人の少女・マリアンヌ(メラニー・メイロン)と一緒であれば入る、というもの。この楽団にいれば少しでも命を長らえることができるだろうという“読み”から、自分を頼ってきたマリアンヌを救おうと出した条件でした。

その条件が認められた彼女は、マリアンヌとともに入団。ときに冷徹で厳しい指揮者、アルマ・ロゼ(ジェーン・アレクサンダー)と口論しながら、ナチスの将校を感動させるほどの歌を披露するファニア。

楽団が捧げる音楽によって“慰問”されながらガス室に送られていく囚人たちを見てショックを受けたりしつつも、ここで歌い続けることが生き残る道と信じ、音楽を使って“戦い”続けます。

果たして彼女たちの戦いはどのような終わりを迎えるのでしょうか…あとはご覧くださいませ。

三者三様のエピソードが秀逸

最初にちらっと書きましたが、この映画は同名タイトルの原作を映画化したもので、著者も「ファニア・フェヌロン」さんです。つまり実在の人物による(個人の記憶ではありますが)ノンフィクションが原作、ということになります。

この映画がどこまで原作に忠実なのかはわかりませんが、例えば“冷酷な指揮者”として登場するアルマ・ロゼも実在する人物だそうで、実際にファニアとともに強制収容所に入り、そして同じ楽団にいたとのこと。なので個々人の性格描写等はファニアの主観が入っている可能性はありますが、概ね史実に則った話なんでしょう。

強制収容所内を描いた映画は多数あると思いますが、その中でも「女性楽団」に絞った話は珍しく、僕もその存在自体この映画で初めて知りました。

基本は楽団の中のやり取りと、彼女たちに直接関わりのあるナチス将校とのエピソードが中心で、当然悲劇的な話ではあるんですが、他のこの手の映画に比べるとだいぶマイルドというか、「いつ殺されるかもわからない」ような緊張感のようなものは希薄です。

とは言えそれが悪いというわけではなく、(この手の映画としては)やや残酷さからは距離を置いた物語であるが故に、戦争犯罪やナチスの残酷さをことさら強調するような映画というよりは、収容所内・楽団内の人間ドラマに重きを置いた形なので、似たような映画を観てきている人でもまた違った感想を抱くことができる映画ではないでしょうか。

特に中心として描かれる3人の結末が非常に印象的で、主人公であるファニア、指揮者のアルマ、そしてファニアを慕って共に行動をしてきたマリアンヌのそれぞれが取る行動と、それがもたらした結末はなかなか思うところがありました。この3人の見せ方、帰結こそこの映画の特徴なのかな、と思います。

価値観によって3人の評価が変わりそう

人生にいろいろ不満を抱きつつ、それでもやっぱりこういう話を見ていると…自分は恵まれているんだなと改めて思いますが、そんな自分がファニアたちのような極限状態に置かれたとき、果たしてどの選択肢を取るのかというのを考えるのも一興でしょう。

3人それぞれ、人間的な好き嫌いはありましたが、でもこの状況下で取った選択肢としてどれも間違っているとは思えないし、どの人も理解できる辺りがこの話の面白さ…というか良さというか、深さなんだろうと思いますね。

実は一番“受け身”に見えたファニアが最も消極的な“生”を歩んでいるようにも見えるし、観ている人の価値観によってそれぞれの評価が変わりそうなのがまた面白いところ。

なかなか観るには環境が限られてしまう(おそらくネトフリで終わったら日本で観る方法は無さそう…と思って調べたらネトフリにまた来るっぽいなんだよチクショウ)のがネックですが、ナチス関連の映画を追っている人にはぜひ観て欲しいところ。

原作本もなかなか深いもののようなので、こちらも機会があったら読んでみたいところです。

ファニアネタバレしなさい

まあ「原作を書いた」以上、ファニアが生き残るのは当然なんですが…しかし上に名前を挙げた3人中、観ていて一番流されていたようにも見えるファニアのみが生還したというのは、世の中の複雑さを感じるとか感じないとかですよ。

ファニアはすごく強くて誇りを持った素晴らしい方だと思いますが、一方で本人が言っていたように「なんとしても生きる」意志はあまり感じられなかったし、その意味ではアルマとマリアンヌの方が人間臭いというか、より生々しい人物に見えました。ファニアはいかにも主人公的というか、考え方、立ち居振る舞いが綺麗すぎるんですよね。

この辺はもしかしたら「自分を少し良く見えるように書いた」原作本だったりして、それが原因なのかな、とか。実際はきっとファニアももっと人間臭い人だったのかもしれません。

物語としては、ファニアに頼ってファニアに引き上げられることで生き長らえることができたマリアンヌが、最終的には袂を分かった上で“ナチス側”の人間として裁かれてしまう様になんとも言えない悲劇性とやるせない気持ちを抱くものですが、僕としてはそれ以上にアルマの物語が響きました。

誰も味方を作らず、孤高の天才とばかりに楽団員に厳しく当たった彼女ですが、ファニアが言うように「彼女のおかげで皆生き延びることができた」のも事実で、彼女の真意がそこ(皆を生き続けさせること)にあったのか、それとも自身の功績を認めさせ転属することにあったのかはわかりませんが、結果として彼女の行動はファニアをはじめとした楽団員を救ったのは事実だし、それ故に喜びから一転して死ぬことになってしまう彼女の運命というのはいろいろと感じるものがあります。

まあ、映画としてはフラグ満載というか、食事に招かれた時点で嫌な予感はしましたが…。強い願いを持っていた彼女が死に、彼女と反目しつつ生き残ることになるファニア他の楽団員たち、という対照的な結末は「意志が強ければいいってもんじゃない」的な教訓も感じます。

自分がこの状況に置かれたとき、果たしてどういう道を選ぶのか…。正解なんてないですが、考えたいテーマではありますね。

このシーンがイイ!

劇中でファニアとアルマが最後に交わす会話、かな。反目しつつも冷静に評価できるファニアの優秀さに憧れる。

ココが○

これだけ過酷な物語でありながら実話ベースというのは、もうその時点で文句なんて言えませんよ。

テレビ映画が悪いというわけでもないんですが、なんとなく印象的に「テレビ映画とは思えない」ような、しっかりとした重みのある映画なのも素晴らしい。

ココが×

まあやっぱりテーマがテーマなので気楽に観られないというのはあります。地味でもあるし、鑑賞のタイミングは要注意かな、と。

MVA

女優陣皆さん素晴らしかったですが…一番良かったのはこの人かなぁ。

ジェーン・アレクサンダー(アルマ・ローズ役)

冷酷な指揮者。

ただただ厳しい…ように見えてほんのり弱さも伺える感じ、とても良かったですね。

ヴァネッサ・レッドグレイヴもすごく良かったし、この二人のバチバチした会話がたまりません。結末を思えばなおさら。

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