映画レビュー1200 『映画大好きポンポさん』
ただいま2月限定(なのでもうこの記事公開時には終わりました)でU-NEXT無料お試し会員になっておりまして、目的はドラマ(チェルノブイリとフレイザー家の秘密)なんですが、せっかくだし映画も…と調べたところ公開時から観に行きたかったこの作品がU-NEXT限定で配信中、でも有料だよと言われ悩んだ結果買って観ました。無料ポイントもついてきてたし。(そして今アマプラ無料で観られるという悲劇)
ちなみにもうドラマは両方観終わったので簡単な感想も書いておきましょう。
「フレイザー家の秘密」
- 引っ張った割にあまり意外ではない話に終わって結構ガッカリ
- ただ今回もおヒューの仕事の幅が広がる役柄だったのでファンとしては満足
- 全体的な雰囲気は好きだけど、それだけに期待させすぎな感はあった
- オープニングの歌が印象的…と思ったらニコール・キッドマンが歌ってるらしい
「チェルノブイリ」
- 超がつく傑作。映画で言えば年間ベスト級
- かなりしんどい話ではあるものの、現代に生きる人間としては観ておく価値がある
- 主演3人が渋くてキャスティングも最高
- 奇しくもロシアのウクライナ侵攻直前に観たタイミングの妙に震える
ということで「チェルノブイリ」に関しては無理してでも観たほうがいいレベルで傑作でした。
あんなドラマ作れるのすごい。
では気を取り直して。
当ブログ1200本目はいかにも映画好きっぽいチョイスになりましたが偶然です。
映画大好きポンポさん
平尾隆之
平尾隆之
『映画大好きポンポさん』
杉谷庄吾【人間プラモ】
清水尋也
小原好美
大谷凜香
加隈亜衣
大塚明夫
木島隆一
松隈ケンタ
『Dance On Fire』
新妻聖子
『窓を開けて』
CIEL
2021年6月4日 日本
90分
日本
U-NEXT(Fire TV Stick・TV)

原作忠実かつ間延びしないテンポの良さに衝撃すら受ける傑作。
- 映画オタクのアシスタントが予告編作成から監督へ
- 新人女優のデビュー作も兼ねる
- ものづくりに対する強烈なメッセージ性
- 短編と言える原作にほぼ忠実ながらきっちり映画として成立している見事な構成
あらすじ
原作漫画は最初にバズった頃に読んで「これは…!」といろんな人に読め読めと勧めたぐらい好きな作品だったんですが、その原作の良さはもちろん活かしつつさらにその上を行くデキでとんでもなくよくできてました。映画好きであれば必見でしょう。
ヒット作を生み出すことにかけては業界随一のプロデューサー・ポンポネット(ポンポさん)のアシスタントとして日々忙しく働くジーン。
彼はある日新作B級映画の予告編制作を指示され、“友達は映画しかいなかった”青春時代の知識を総動員して作り上げ好評を得たことでポンポさん脚本の新作映画「MEISTER」の監督に抜擢されます。
同作には引退状態だった“伝説の俳優”マーティン・ブラドックが主演を担当することが決まり、ヒロインにはオーディションに落ち続けていながらポンポさんが“引っかかった”俳優志望のナタリーが起用されることに。
かくして「伝説の俳優復帰作としてヒット間違いなし」の映画に新人監督と新人ヒロインが挑む新作映画、果たしてどのようなものになるんでしょうか…!
特殊な映画を真っ向から作り上げる強さ
確か以前何かのレビューに載せたような気もするんですが、無料で読めるWeb漫画が原作の映画になります。今もここで読めます。(当然ながら映画のネタバレになるので気になる方は要注意)
これを見ればわかる通り、内容にしてたかだか単行本1冊分ぐらいの長さです。(実際単行本も持ってます)
それをまず映画として広げるとなると、それなりに映画オリジナル要素を盛り込んで“引き伸ばす”必要があるんじゃないか…と思ったんですが、これがびっくりするぐらい原作忠実なのに間延びした感覚も無く、なんならテンポの良さでグイグイ惹きつけてくる作りにまず大げさでなく衝撃を受けました。あの原作の世界を無理なく広げ、同時に原作ファンにもまったく違和感のない内容にしつつ映画として成立しているという衝撃。
これが小説なら逆パターンでいろいろ削らないと収まらないよくあるパターンになると思うんですが、この映画は原作のほうがどう考えても尺が短いものなので、それをどう料理するのか気になっていたところここまで上手くやられるともう「すごい」としか言葉が出てこないぐらいによくできていて本当に驚きました。
おまけに映画(アニメ)ならではの演出もキレッキレで勢いがあり、まさに原作の正当進化版としての映画になっていると思います。
ちなみに終盤近くで物語上重要な要素として映画オリジナルの話が展開する分「足したもの」があるのは事実なんですが、そこに至るまでは本当に原作忠実だし作画もイメージ通りにも関わらず確実にこの世界の広がりを感じさせる作りのセンスには本当に脱帽しました。
僕はアニメに詳しくないのでよくわかりませんが、それでも一見して「これはちょっと力の入り方、こだわりが違う」と感じられる絵と演出の強さがあって、相当なこだわりを持って作られた作品であろうことがすぐにわかりました。
これにはこの原作漫画の特殊さも手伝っていると思うんですよね。
「自らハードルを上げている原作」と言うか…「名作の条件」「制作者のこだわり」みたいなものをテーマに内包した物語なので、そもそも下手なものが作れない、下手なものを作ったら普段以上に叩かれる特殊な話なんですよ。
この映画(原作)が語る価値観には賛否両論あって当然だと思うし、それに文句を言っている人も実際見ました。特にオチについてはいろいろ思うところもあるでしょう。(僕は好きですが)
ただその価値観云々を除いた単純なアニメの作りの時点でこの映画はとてもレベルが高いと思うんですよね。
それはこの物語のテーマが上記のように特殊なために、価値観以前に作品として手が抜けないという大前提があるために余計にその辺り力を入れたのではないかなと思います。そしてそのこだわりが観ていて伝わってくるからすごい映画だな、と。
物語として好き嫌いはあって当然ですが、ただそれ以外の「原作を映画として作り変える」「アニメ表現としての良さ」辺りはきっちり評価して然るべき作品ではないかと思います。僕は原作を読んでいただけに、余計にそこの凄さを感じました。
いろんな人たちへの応援歌
ちなみに僕の観測範囲では、映画評論家のような「より映画に詳しいうるさい人たち」が否定的な意見を言っているように見えました。例えば「監督が一人で編集なんてしねーよ」みたいな。
でもそこは創作のファンタジーとして突っ込む必要がない部分だと思うんですよね。気になるのもわかるんですが。
なまじ物語のテーマへの理解が強すぎると違和感が先に出てきてしまうのは仕方がないとは思いますが、そこ以外のアニメとしての良さも評価して欲しいところではあります。
ある種「オタクの応援歌」的な側面もあるし、現実はそんなに上手く行かないよ…と野暮なことも思いますがそれはそれ、これはこれで純粋に楽しんで、多少なりとも自分の背中を押す物語として受け取れれば良いのではないかなと思いますがどうでしょうか。
何かを作る、ものづくりに携わる人たちを励ますものでもあると思うし、もっと広く「何かを目指す」人たちへのメッセージにもなっている作品なので、ぜひ一度観て頂ければと思います。オススメ。
このシーンがイイ!
ジーン君が編集するシーンは動きもあって印象的。アニメの演出的にもよくできていたと思います。
ココが○
原作は好き好きあるでしょうが僕は好きなので、それに忠実に作りつつさらに映画的な演出の良さも素晴らしく「これぞ待っていた映画化」と言った感じ。文句ありません。
自分が使っているiMacと同じモデルのロゴが猫になっていたり(あれはおそらくnyaiMac)、小さい遊び心もちゃんと取り入れていて嬉しかったですね。
ココが×
特にありませんが、上記の通り“うるさ型”にはいろいろ気に入らない点もあるようなのでその辺は人によっては注意、でしょうか。
僕としてはそのうるさ型には「うるせーよ」とうるさい返ししてやりたいところですが。
MVA
声優さんも皆さんお見事でしたが…やっぱりこの人かなー。
小原好美(ジョエル・ダヴィドヴィッチ・ポンポネット役)
謎の(?)敏腕プロデューサー・ポンポさん。年齢不詳。
声も喋り方もまさにイメージ通りのポンポさんで文句なしです。
ただ人によってはポンポさんのキャラ設定(少女っぽい見た目)が嫌だったりするとは思うので、その辺好き嫌いがわかれそうではあります。
ちなみに余談ですが小原さん、歳は違うものの僕と同じ誕生日でした。