映画レビュー0946 『プリデスティネーション』
今回もネトフリです。終わりかけです。終了当日です。
「デイブレイカー」の監督・脚本+主演のチームということでちょっと期待しておりました…が!
プリデスティネーション
『輪廻の蛇』
ロバート・A・ハインライン
ピーター・スピエリッグ
2014年8月28日 オーストラリア
97分
オーストラリア
Netflix(PS4・TV)

映画外への妄想も膨らむ傑作SFじゃない!?
- “世を忍ぶ仮の姿”の捜査官の元に一人の人物が現れ、半生を語る
- その人物の願いを叶えるべく、ともにタイムスリップする捜査官だが…?
- SFサスペンス+人間ドラマ+他にない新鮮なストーリーで目が離せない
- SFらしい面白さに溢れる傑作
あらすじ
いやもう久しぶりに鑑賞後に興奮状態でしたよ。「これは良いの観たな!」って鼻息が荒くなってましたね。たぶん鼻毛も飛んでたんじゃないかなぁ。なんなら。
これは熱く語りたいぞと息巻いておりますが、まあ待てと。まずはあらすじからやないかやすしくんと。あらすじ終わったら好きなお酒でも飲めばええやないかと。きよし師匠もおっしゃっておられます。
主人公はとある組織の一員で、この組織は「時標変換キット」なるアイテムを用いて時空を移動しつつ、極力歴史に影響が出ないような形で犯罪を取り締まる「時空警察」的な組織です。詳細は忘れましたが、「時標変換キットが開発された年を起点とした前後20数年(確か23年とかだった気がする)」を行き来できる模様。
んで、彼らが追い続ける宿敵のような存在に連続爆弾魔の「フィズル・ボマー(不完全な爆弾魔)」という人物がいまして、その彼を追って一人の捜査官が爆破阻止直前まで行くも失敗し、なんとか組織の本部に戻ることはできたものの顔面の損傷が激しく、大手術の末に命を取り留め「別人の顔」となって任務に戻って行ったのがおなじみイーサン・ホークですよと。
彼は復帰後に最後の任務につくため、1970年のとあるバーにバーテンダーとして潜り込みます。ちなみに彼は役名が出てこないので便宜的にバーテンダーと呼ぶことにしましょう。
ある日、彼が働くバーに一人の人物がやってきます。男装女子のような雰囲気のこの人物は、バーテンダーとやり取りを交わす内に自らの過去について話し始めます。
そこでバーテンダーは「面白かったらボトル1本やる」という賭けを提案。受け入れたこの人物は、自らの数奇な半生を語り始めるのでした。
その過去に大きな悔いがあることを伝えられたバーテンダーは、その人物にある一つの提案を持ちかけ、その「悔いの源」である過去に一緒に向かうんですが…あとは観てチョーダイと。おなじみタケモトピアノ風のまとめでございます。
SF版「カメラを止めるな!」?
ネタバレしないようにこの映画を一言で言えば「時空を移動しながら爆弾魔を捕まえる捜査官の話」なんですが、観始めるとその字面から受ける印象とはだいぶ違う印象になると思います。なんかガジェット使ってアクション駆使して犯人を追い詰めるぜ、みたいな要素がほとんどないんですよ。
むしろオープニングの任務失敗から最後の任務に入った後は、謎の人物(ジョン)の半生を語るシーンが結構長く続くので「え? こんな映画なの?」となるかもしれません。
謎めいちゃいるけど、なんでこんな通りすがりの人物の半生をたっぷりと…? ってことはこいつが爆弾魔じゃね…? ときっと誰もが思うと思うんですが…まあその辺の答えは当然ながら書きません。
で、その“過去語り”が終わってからが本番みたいなもので、この仕組みはなんならちょっと「カメラを止めるな!」に近いかもしれない。最初にジョンが語る過去フェーズの答え合わせをその先でしていく感じ。
とは言えそこからまた観客の想像を超える展開が待ち受けていて、最終的には「これドエライ話だな…」と息を呑むわけです。いやー良く出来てる。素晴らしい脚本ですよこれ。
読めたとしても面白い、骨太な物語
一応ですね、「観客の想像を超える」と書いておいてなんですが、途中で読める部分はあります。丁寧に観ていると、自分の中に残った疑問から自ずと答えが導かれるような面はある話なんじゃないかなと。
実際僕も「実はこういう話」というのはある程度読めたんですが、ただ読めたところでってヤツですよ。読めたところでスゴイしよくこんな話思いつくよなと。
また全体の構図を理解した上で振り返ると、これまた僕が好きな映画でおなじみの傾向ですが「物語外の部分に思いを馳せたくなる」内容なんですよ。ここがねー。好きでしたね。
登場人物の心情を思うと「ああそういう話ね」と軽く済ませるには切ないというか、「そうは言っても本人の気持ちを思えばアアーッ!」みたいな。感情移入が強くなっちゃう“仕掛け”が際立つものすごい話だと思います。
加えてこの内容はSFでしか描けない内容なので、「これだからSF観るのはやめらんねぇぜ」とヨダレ垂らしちゃうようなSF的良さに溢れているのも素晴らしいですね。近未来的なビジュアルで中身が薄っぺらいSFとは大違い。
どうしてもSFはビジュアルが先行しがちな印象ですが、実際はそこじゃなくてアイデアの方に価値があるんだぞと改めて感じさせてもらいました。
なんならおそらくこの映画は低予算映画だと思われるので、その意味でもまた素晴らしい。低予算SF+上映時間短め+イーサン・ホークってことであの名作「ガタカ」の横に置いても良いぐらい、グサッと来ましたね。
年に一回出会えるかどうかレベル
口コミを見ると、人によっては「ややこしい」という人もいるようなので、ある程度人を選ぶ可能性はあります。ただ登場人物は少ないし、時空が前後する分ある程度込み入ってはいるものの話自体は難しいものではないので集中力の問題ではないかなと。
ぜひきっちり集中できるタイミングで、じっくり考えながら観て欲しい映画ですね。個人的には年に一回出会えるかどうかというレベルのSFだと思います。
このシーンがイイ!
えーと…ネタバレ的に詳しく書けませんが…アノ人がアノ人と出会ったシーン。
ここで一気に脳味噌が沸騰したような感覚ですごく気持ちよかったんですよね。「うわそういう話なのか!!」って。
ココが○
素晴らしくよくできた脚本だと思います。
さして理解力のない僕が1回観ただけでの判定とは言え、この手の話で致命的な破綻がほとんど無いように見えるのはすごい。これ一歩間違うとすぐわかっちゃって驚きが無くなったり面白く無くなったりしそうな話なので、話の組み立て方の上手さはかなりのものだと思います。
ココが×
人によっては複雑に感じるかもしれない内容でしょうか。
確かに時代の前後の仕方とかは少し込み入ってはいるので、話の筋はそうでもないんですが構造的に複雑に感じてもおかしくはないかもしれません。
多少なりともウトウトしながらとかだと一気につまらなくなるかも。
それと一部展開の感情的な面(ネタバレ防止のためにあえてぼかして書いてます)に納得がいかない、っていう意見も見受けられました。その気持ちもよくわかります。
僕は「(登場人物の心情に対して)まあそういう人もいるんじゃない」ぐらいに思ってましたが…人によっては感情移入を妨げる要因にはなるかもしれませんね。
MVA
イーサン・ホークは相変わらず良いんですがこれまた面白みのないチョイスなので、今回はコチラの方に。
サラ・スヌーク(ジョン役)
物語のキーマン、バーにやってきた謎の人物。オーストラリアの方だそうです。
興を削がないようにあんまり内容に触れられないのがつらいところですが、見た目の変化と感情面の表現と、なかなか今後が楽しみになる良い演技でした。何より大半がイーサン・ホークとほぼ二人芝居みたいなものなので、彼ときっちり渡り合っただけでもすごいなと。
あとはやっぱりノア・テイラーですよねー。しょぼいおっちゃん役も多い人ですが、今回の怪しい紳士感がありつつ中身が見えないある種の気持ち悪さみたいなものがとても良かった。