映画レビュー0758 『レッド・スパロー』
1回予告編を観ただけでもう観に行こうと決めていました。決してジェニファー・ローレンスの裸が観たかったわけではありませんが良いおっぱいしてました。
昨日観たばっかりの久々にホットなレビューです。
レッド・スパロー
現代版ジョン・ル・カレ的リアルスパイ映画。
初めて予告編を観た時にですね、まず浮かんだのが「ゴルゴ13でこういう話あったよな…!」でした。
「モスクワ人形(ドール)」ってタイトルだった気がします。かなり初期の作品。最後に読んだのがかなり昔なので記憶もおぼろげですが、確か母親の治療費を稼ぐためにKGBにハメられ「スパイにならざるをえない」状況に追い込まれた女性がスパイとなり、適応していくも最終的にはゴルゴに殺されるという物悲しいお話でした。
この映画の主人公、ジェニファー・ローレンス演じるドミニカもまさに同じようなケースで、母親はなんらかの病気のために治療費が必要な状況。物語スタート時点では、彼女はアクロバティックな謎のクマでおなじみボリショイ・バレエのバレリーナだったため、国(ボリショイ)からの援助により特に問題なく過ごせていたんですが、途中で彼女は(陰謀により)演技中に怪我をさせられたことでバレリーナとしての人生を断たれてしまいます。
ボリショイにいられなくなると母親の治療費はおろか今住んでいる家からも追い払われてしまう…という状況になってしまった彼女は、ロシアのスパイ組織(要はKGBの後継組織的なものと思われます)の副長官である叔父に誘導されるように罪を犯し、その事実を隠滅するために彼を頼ることで今度は別のとある犯罪行為に加担させられてしまい、「証拠を見たお前がこの先も生きたいのであればスパイになれ」と選択肢のない状況に追い込まれた結果、「人の心を操るスパイ」としてロシアが育成に励む「レッド・スパロー」としての人生を選ぶ…というお話です。
日本での売り方がもうとにかくエロ一辺倒な雰囲気で、必ず枕言葉には「妖艶な」がついて回るような品のないプロモーションに辟易するぐらい安っぽい売り方が気になった映画ではあったんですが、実際はかなりシビアでリアルで容赦のないスパイの世界を描いた力作と言って良いでしょう。まさにジョン・ル・カレ原作映画のような味わい。もっとも東西冷戦時代がメインのジョン・ル・カレ原作映画と違い、この映画は(ちょっと古そうな雰囲気はあるんですが)現代が舞台です。
確かにジェニファー・ローレンスは全裸のシーンもあるぐらいに覚悟を決めた脱ぎっぷりが潔いぐらいなんですが、ただそれもエロエロした雰囲気はまるでなく、むしろ「任務上必要なセックスぐらい抵抗がないようでなければ生きていけない世界」であることを知らしめるための観客への意識付けの意味合いが強いシーンが多く、至極真っ当な内容だったと思います。フィンチャーの映画の方がよっぽど(無駄に)エロい。
なので逆に言えばジェニファー・ローレンスのエロを観たいぜ! と元気に股間を膨らませたい御仁にはむしろ向いていないレベルでリアルガチなスパイ映画だと思います。いかにスパイの世界が厳しいか、一般的な倫理観の外に位置するものなのかがよくわかる骨太なストーリーでした。
彼女の任務は平たく言えば「ロシア高官とつながっているCIAエージェントを籠絡して裏切り者が誰なのかを調べる」ことなんですが、その狙いとなるCIA側も早い段階で彼女をスパイと知り、逆に彼女をこちら(アメリカ)側に引き込もうと画策します。
それぞれがそれぞれの陣営に引き込もうと暗躍する中、スパイになりたての“半素人”スパイのドミニカが、果たしてどっちを向いて何を狙っているのか…を最後まで観客に察知させない二転三転のストーリーがとても巧みで、想像以上に重いスパイ映画として楽しませてもらいました。
思うに、やっぱり“半素人”と言うか、まだスパイの世界に染まりきっていない(と思える)ドミニカが、その時その時で迫られる選択というものに等身大感があるのが大きかったのかな、と思います。
スパイと言えど当然ながら一人の人間なので、完全にプロのスパイとしてベテランの域に達してるならまだしも、半ば強制的にこの世界に足を踏み入れさせられたばかりの彼女が、どうやってその中で生き長らえるのか、命の危険と隣り合わせでその都度迫られる選択というのは観客にも同じく考える機会を与えてくれるようなリアリティがあり、「ゴーストライター」で感じたような「自分もこの立場なら同じ選択を取っている気がする」生々しさが響く物語だと思います。
ただところどころで彼女はいわゆる普通の女子とは違う強さを覗かせることがあり、それが彼女にある「スパイの素質」なのか、はたまた命取りとなる見通しの甘さなのか…最後まで観ないとわからない綱渡り感がまた素晴らしかったですね。
そう、かなり綱渡りしてるんですよ。彼女。叔父が副長官という恵まれた環境がなければとっくに殺されていてもおかしくない展開を何度も見せていて、それはつまり敏腕スパイとは程遠いようにも見えるわけです。その「うまく行きすぎない」面もまたリアルでもあるし、それ故アメリカ側に付け込まれる弱さにつながる…というストーリー的なうまさもまた光ります。
プロモーションから感じられるような「女性としての武器」はもちろん所々で感じさせるんですが、むしろ彼女はそこから脱却したいようにも見えるし、でもその武器を利用して騙そうとしているようにも見えるし…と観客自身もいろいろ疑心暗鬼にさせられる彼女の人間性の複雑さがまたお見事でした。お色気で男を取り込んでのし上がっていく、というような単純なスパイのお話ではありません。もっと複雑でリアルで“恐ろしい”世界のお話でした。
正直、中盤はちょっと中だるみ感も感じたんですが、エンディングも僕の予想とはちょっと違った展開でまた唸らされたし、総じてとても良く出来た真面目なスパイ映画だと思います。これを観て、こういう売り方しかできない=こういう見方にしか興味を持てない(と配給会社に思われている)日本の観客のレベルにちょっと悲しくなるぐらい、ハードなスパイ映画でしたよ…。
オススメです。
このシーンがイイ!
訓練所のシーンはなかなかどれも印象的でしたが…でも一番はやっぱりあそこかなぁ。終盤のキスシーン。
あと「皮剥機」のシーンはここが分水嶺だと思って食い入るように観ていたので、そこもまた良いシーンだったと思います。
ココが○
上に書いた通り、かなりマジなスパイ映画だったというのが嬉しい誤算でした。今でもこういう世界あるんだろうなと感じさせるリアリティが良い。
確実に「(性的な意味ではなく性別的な意味での)性を武器」にするスパイでありながら、重要なのはそれ以外のパーソナリティという彼女の適性の描き方も良かったと思います。
ココが×
結構大きな部分として腑に落ちなかった点はネタバレに書きましたが、それ以外だと…別に無いかなぁ。最初はちょっとバレリーナとしてはわがままボディだなとは思いましたが、まあそこは大した問題でもないので…。
一つだけ、もう少しドミニカとネイトの男女的な関係性を説得力ある形に見せてくれた方が良かったような気もします。「惚れてるんじゃないか」と思わせるにはちょっと弱かったような。ただそれが疑心暗鬼にもつながった面もあるので、一概に良いとも悪いとも言えないんですけどね。
あとはやっぱり本編関係なく、映画の売り方が気に入らなかった、ってぐらいでしょうか。あと。
それと「グロい」とまでは言いませんが、それなりに痛そうなシーンはあるのでその辺が苦手な方は要注意かも。生々しい遺体もちょっと出てきます。
「ロシア人中心なのに英語なのかよ」みたいなことは言わないであげるのがお約束かなと。
余談ですが「スパイのくせにあんな目立つ水着を着るのはおかしい」というレビューを見かけたんですが、あれはネイトを引っ掛けるための餌なのでむしろあれぐらいおっぱいを強調しない方がおかしいと思いますがどうでしょうか。
MVA
ジェニファー・ローレンスは文字通り体を張って素晴らしい演技だったと思います。やっぱりこの人もすごいですよね…。ただ終始無表情な役だったのが少し残念。それでもお母さんの前では良い笑顔を見せたりはしたんですが。
ジェレミー・アイアンズも相変わらずシブくて良かったんですが…今回はこの方にあげたい。
マティアス・スーナールツ(ワーニャ・エゴロワ役)
ドミニカの叔父さん。
スーナールツさんのKGB感(KGBじゃないんだけど)は異常。あの煽り気味のアングルでスタスタ歩く姿の様になりっぷりがハンパない。
名前の語感含めて常にロシア人感が強い方ですが実はベルギー人っていうね。ワッフルとかチョコレートとか好きなんでしょうか。そう思うとかわいく見えてくる不思議。
冷酷さを漂わせつつ、常に姪には甘い…というか下心が垣間見える雰囲気の出し方もお見事で、これでまたこの人はもう一段売れていくんじゃないかなーと推測します。ただKGB役多そう。
反面、残念ながら今回もジョエル・エドガートンはパッとしなかったような気が…。いや、悪くはなかったんですがソツがない感じが強くて。もっとも彼に関しては常に僕が「キンキーブーツ」のイメージに引っ張られすぎている説はあります。