映画レビュー0710 『手紙は憶えている』

レンタル5本目。

エキサイトイズムの「今週末見るべき映画」で紹介されていて気になっていた一本。激渋設定サスペンスでございます。

手紙は憶えている

Remember
監督
アトム・エゴヤン
脚本
ベンジャミン・オーガスト
出演
ハインツ・リーフェン
ヘンリー・ツェニー
ディーン・ノリス
ソフィア・ウェルズ
音楽
公開
2015年10月23日 カナダ
上映時間
95分
製作国
カナダ・ドイツ

手紙は憶えている

老人ホームに暮らすゼヴは、自分の妻が死んでしまったことも忘れてしまうほどに認知症の症状が進行していた。しかし彼は一人のナチスの男に対する復讐を成し遂げるため、その男にともにアウシュビッツで家族を殺された、同じホームに暮らす親友のマックスが用意した手紙の手順を元に旅に出るのであった。

背景が考え抜かれた良いサスペンス。

8.5

主人公・ゼヴは90歳という設定、演じるのは名優クリストファー・プラマー。1965年の「サウンド・オブ・ミュージック」に出ています。ヨボヨボ。

彼に指示を与える形になる、手紙を書いた親友マックスを演じるのはこれまた名優マーティン・ランドー。こちらは1959年の「北北西に進路を取れ」に出ています。ヨボヨボ。しかし残念ながらマーティン・ランドーは今年お亡くなりになってしまいました。この映画が遺作のようです…。寂しい。

この二人を軸に、かつて二人の愛する家族を殺したナチスの男「オットー・ヴァリッシュ」という男を探し、そして復讐を遂げようとするサスペンスです。

さらっとおさらい。

老人ホームで暮らす主人公・ゼヴは、毎朝起きては「ルース? ルースどこいった?」と愛する妻を探しますが、その最愛の妻はすでに故人。認知症故、ちょっと寝るとその事実を忘れてしまうようです。

彼とともに復讐を遂げようとする彼の親友・マックスも同じ施設で暮らすヨボヨボですがこちらはまだ認知症にはなっておらず、ゼヴ以上に一刻を争いそうな雰囲気ながら記憶の方はしっかりしているご様子。

二人はなんとかしてお互いの最愛の家族を殺害したナチスの男「オットー・ヴァリッシュ」の天寿を全うさせまいと最後の力を振り絞って行動に移すわけですが、マックスは車椅子で身動きが取れない身のため、認知症という大きなハンデがありつつもまだ一人で出歩けるゼヴにその任を託します。

当然ながら認知症のため、コレをやれアレをやれと伝えたところでリセットされてしまうということで、マックスはすべての手順を細かく記した一通の手紙をゼヴに渡し、「終わったものには線を引いて順番に片付けろ」と指示。

かくしてゼヴはマックスの手紙だけを頼りに復讐の旅に赴き、果たして彼らの復讐はなるのか…というお話です。

おそらくご本人たちはもっとしっかりしていると思いますが、まあこのクリストファー・プラマーとマーティン・ランドーの二人の爺様がですね…本当にヨボヨボなんですよ。「ゼヴは一人で出歩けるから」とは言いつつも、その歩みも当然ながらおっそいおっそい。おまけにこの映画一番の特徴である「認知症」という大ハンデがあるため、ちょくちょく計画が停滞します。ほんのり「メメント」っぽい感じ。

ただそこはそれを見越して手紙を用意したマックスの功績なんでしょう、危なっかしいながらも少しずつターゲットを狭めていくゼヴ。観客に「こんな状態で復讐なんてできるんかいな…」と思わせておいて…のなかなか秀逸なラストには唸りましたねー。なるほどこういう話でしたか…。

この手の話はあんまり詳しく書くと興を削ぐのは間違いないので、他に特に書くこともないんですが。

とりあえず、「認知症」という現代らしい問題をサスペンスに利用する巧みなシナリオは間違いなく他にない新鮮さを持っていると思います。

爺さん二人が主役、っていうのも新鮮ですからね。それでサスペンス、復讐をやろうっていうんだからなおさら。

最初にゼヴがオットー・ヴァリッシュと思しき人物を脅した時、プルプル震える手で銃を構えて「窓際に立て」と言うゼヴも、言われてプルプル震えながら立ち上がって窓際に立つ爺さんもとにかく動きが緩慢で、申し訳ないんですが笑っちゃいましたね。なんかシュールだなこの映像、って。

ですが最後まで観れば…なるほどと。そういうことかと。いや、良いサスペンスだと思います。素直に。

一応ネタバレにならない程度に言いたいことを書きますが、まずこのお話、エンディングを観て「まあそういう話かなと思った」みたいな感想を抱く人もいるとは思うんですよ。決して読めない最後ではないです。

ただ…なんて言うんでしょうかね。ラストの展開についてどうこうよりも、そのラストを導き出した計画そのものがすごいと素直に感心したんですよね。いろいろと周辺事情を織り込んだこの計画について考えたとき、劇中語られるもの以上の物語が頭の中に展開する感じで。劇中の情報以上の情報が、そのエンディングから一気に読み取れるような構造になっていて。そこがすごく好きでした。

僕自身、この手のサスペンスは先読みしちゃうクセがあるので、なるべくそういう方に頭を持っていかないように観ていたんですが、ただ上に書いたような意味からも、別に読めても味わい深さは変わらなかったんじゃないかな、という気もします。また「先読みさせない」という意味でも「認知症」という設定はすごく効いている気がして、そこがまたうまいな~と感心しました。

もう危なっかしくて先なんて読んでられないんですよね。しっかりやれよ爺さん! って感じが先行しちゃって。だからこそ観客はなおさら主人公を応援する気持ちになるし、その辺も含めてのエンディングの秀逸さなのかな、と思います。

なにせ老老介護のような映画なので、興味を持てる人もそれなりに限られてきちゃう気はするんですが…サスペンス好きなら楽しめる映画だと思います。

オススメ!

手紙がネタバレしている

一応ラストをおさらいすると、ゼヴが「オットー・ヴァリッシュ」だったことが判明、ともに悪事を働いていた元同僚を射殺後に自らも自殺し、マックスの復讐が成し遂げられて幕を閉じる、ということですが。

マックスはゼヴが施設に入ってきた時点で彼が復讐対象であることに気付き、彼を利用してもう一人のナチスと同時に葬りたいとこの計画を練ったものだと思われますが、それにしてもやっぱり認知症を利用しつつの計画はかなりギャンブルでありつつも、自分はほぼノーリスクというとてつもなく賢い計画に唸りましたね。

最終的にこんなにうまくいくとは思っていなかったかもしれませんが、細かい部分を突っ込んだらキリがないので、結果うまく行ったから映画化しました、うまく行ってなかったらボツってましたということにしておきましょう。(創作だけど)

やっぱり本レビューに書いた通り、結末で全容が明らかになった時点でブワッと劇中で語られない情報が頭に入ってくる気持ちよさがすごく良くて、結末まで観るとどうやってマックスが計画したのか、その辺がいろいろ想像できて楽しいんですよね、こういう映画は。

ゼヴが同じ老人ホームに入居してきた時(劇中「君が来たときにすぐにわかった」と言っていたので、認知症を利用した嘘でない限りはマックスは先に入居しているはず。ここで嘘をつく必要も無いのでおそらくこれは事実でしょう)、認知症と聞いてすぐにこの計画を考えたんだと思いますが、しかし認知症とは言え彼自身に元ナチスの記憶が無いとも限らないので、慎重に確認しながら計画を練ったものと思います。加えて物語は奥さんの没後少し経ってからのことなので、おそらく奥さんが亡くなるまでは待っていたわけです。

冒頭、介護士(?)さんが「奥さんの担当からあなたに変わったんですよ」的なことを言っていたので、奥さんもまた同じホームに入居していたことがわかります。ということは、マックスは奥さんに遠慮していたのか、はたまた奥さんがいては邪魔になると思っていたのか(多分こっち)、どちらにしても「奥さんに先立たれてゼヴが残る」ケースでしかこの計画は遂行できなかったわけです。

また、劇中マックスがゼヴに対し「やめるか?」と問う場面があります。あそこでなんとなく二人の友情を垣間見た気がしたんですが、あれが単なるミスリードのシーンではなかったとすると、やっぱりマックスはマックスで、ゼヴに対しても憎さ一辺倒ではなかったような気もするんですよね。それなりに憐れに思う気持ちもあったんじゃないかと思うんですよ。なんとなく。

なので結局片方だけでも遂行できればよし、ぐらいに思ってこの計画を実行に移したんじゃないか、と思うんですよね。マックスは。ゼヴは普段から接していて認知症がひどくなってきているのも見ているだけに、「もうかつて自分が憎んだ男ではなくなってきている」ような感覚があったんじゃないかなーと勝手に予想しました。

もう一人のターゲットは施設から出られない自分には復讐しようがない、となるとゼヴを利用して復讐してもらい、そのままゼヴも捕まってくれればいいぐらいに思っていたのかもしれません。当然認知症なので施設に戻ってくる可能性もありますが(その辺アメリカ司法の詳しいことはわかりませんが)、その時はその時でまた何か手を考えていたかもしれません。もちろんマックスにとっての最上の結果がこの映画の展開なのも間違いないでしょう。

…ってな具合にいろいろマックスの考えを推測していくと、この映画で語られる以上の世界が見えてくるのが面白いなーと思います。こういう想像の余地がある物語は良いですね…。

このシーンがイイ!

病院での1シーンがとても良かったですね。少女に手紙を読ませる展開。あの少女役の子がまたびっくりするぐらい聡明で大人っぽいかわいい子でびっくりしました。(そのまま)

ソフィア・ウェルズさんというお名前だそうです。要チェックやで!!

ココが○

やっぱり設定の勝利でしょうね。ただその認知症も飛び道具として使っているだけじゃない、理由がある設定というのが素晴らしいと思います。

あとはちょくちょく書いてはいますが、説明無しで復讐の題材として据えやすい「ナチス」「アウシュビッツ」といういわゆる“記号化された悪”はやっぱり映画の素材としては使いやすくて(語弊がありますが)良い素材なんだろうな、と思います。

世界的に特に説明無く単語を出しただけで設定を終えられる、ってこれほど創作物に優しいものは無いですよ。

当然ながらナチスやアウシュビッツそのものを肯定するつもりはまったくありませんが、あまりにも強烈な悪故に使い回しやすい、っていうのはなかなか興味深いものがあります。

ココが×

やっぱり絵的に地味にならざるを得ない部分が一つ。ただこれは人によりなのでそんなに問題ではないと思います。

もう一つは、どうしても展開が遅く見えがちな点。主人公が90歳の老人なので、当然ながら歩くのも遅いしいちいち行動が遅いわけです。設定上わざと遅めにやっている部分もあると思います。そこをカバーするようにしっかり編集はしているし、全体を通して別に間延びした感じも特に無いんですが、ただやっぱりどうしても動きが遅い故に同じ1秒でも遅い1秒に見えてしまう面は否めないので、気になる人は少し気になるかも、という気はしました。

MVA

ほぼ登場人物が限られる中、どうしたもんかと思いつつ…この人かなー。

クリストファー・プラマー(ゼヴ・グットマン役)

結局主役というありきたりチョイス。

でもねー、やっぱりすごいですよこの人。絶対こんなヨボヨボじゃないもん。実際はわからないけど。

マックス役のマーティン・ランドーもそうですが、この二人をキャスティングするにあたって、それなりの年齢の現役俳優二人、となるともうこの二人しかいねーじゃんっていう説得力がすごい。

「セリフ覚えてる? 大丈夫?」って謎の心配をしたくなるほどの爺さんぶりでしたが、そこはやはり名優。亡くなってしまったマーティン・ランドーの分まで、いつまでもお元気で、できるだけまた映画にも出続けていただきたいものです。

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