映画レビュー1071 『ローマンという名の男 -信念の行方-』

今回のネトフリ終了間際シリーズはアフロのデンゼルさんが衝撃ビジュアルなこちらの映画。

事前に調べた世間的な評価はイマイチなんですが、社会派映画っぽいしデンゼルだし「ナイトクローラー」の監督だし、ってことで観てみることにしましたが…。

ローマンという名の男 -信念の行方-

Roman J. Israel, Esq.
監督
脚本

ダン・ギルロイ

出演

デンゼル・ワシントン
コリン・ファレル
カルメン・イジョゴ
リンダ・グラヴァット
アマンダ・ウォーレン

音楽
公開

2017年11月17日 アメリカ

上映時間

122分

製作国

アメリカ

視聴環境

Netflix(PS4・TV)

ローマンという名の男 -信念の行方-

この映画に対する評価が現代社会を写す鏡なのかもしれない。

8.5
信念を持った人権派弁護士の分岐点
  • 突如仕事が無くなってしまった人権派弁護士が、相容れない弁護士の元へ
  • ある一つの過ちを通して語られる、一人の人間の生き様
  • 非常に地味ながらとても大事な価値観を描いている
  • この映画に対する評価が価値観の裏返しなのかもしれない

あらすじ

とても良かったですね。素直に。すごく感じるところがありましたよ。綺麗事だけで美学を語らせない作りはいかにもダン・ギルロイらしい巧みさがあったと思います。

なかなかファンキーな髪型の弁護士、ローマン・J・イズラエル ESQ.さん(デンゼル・ワシントン)は、友人であるウィリアムと共に法律事務所を経営していて、彼自身はちょっと特殊なタイプ(後述)のため法廷には立たずに裏方として法律アドバイザー的な立場で働いていたわけですが、ある日突然ウィリアムが心臓発作で倒れてしまい、植物人間に。

イズラエルは一人でこの事務所をやっていこうとしたんですが、ウィリアムの姪であるリンから「慈善事業のような案件ばかりで赤字続きだし事務所は閉鎖する」との通告を受け、あえなく無職に。

イズラエルは事務所閉鎖の手続きを進めるためにやってきた、ウィリアムの元教え子で大手弁護士事務所を率いるジョージ・ピアス(コリン・ファレル)に「うちに来ないか」と誘われますが、大手事務所らしい儲け重視の方針が気に入らず、自ら転職先を探し始めますがこれも難航。

やむなく彼のもとで働くことにしたイズラエル、しかし当然事務所の面々とも反りが合わずにいろいろ問題が発生しますが…あとはご覧ください。

正直めんどくさいタイプ

上に「ちょっと特殊なタイプ」と書きましたが、主人公であるイズラエルはとにかく正義感が強く、人権擁護活動にも熱心かつ…早い話が「空気を読まない」タイプなので、いわゆる“手打ち”のような打算ができない人なんですよね。間違っているものははっきりと間違っていると言うし、それ故周りからは「めんどくさいタイプ」と思われがちな人っぽい感じ。

もちろん観客的には「こういう“正義の弁護士”みたいな人、いて欲しい」と思うんですが、ただ現実としてある程度効率的に動くように暗黙の了解となっているような一連の流れを遮って正論をぶつけてくる存在というのはなかなかめんどくさいだろうな、というのも理解できます。きっと直接関わると鬱陶しいであろうタイプ。

それと同時に…というかそれ故に、なのかもしれませんが、彼は“サヴァン症候群”であるために並外れた記憶力があり、日本で言えば「六法全書全部記憶してます」みたいな人なので、裏方としては非常に重宝される人材なんでしょう。だからこそウィリアムが表(法廷)担当、イズラエルは裏担当という役割分担をしていたわけです。

しかしウィリアムが倒れてしまったことでそのコンビも解消を余儀なくされ、おまけに次の職場は彼が最も嫌悪するであろう「売上重視」の大手弁護士事務所。そこでも彼は当然のように自らの信念に従って行動しますが、とは言え今までのように行くわけもなく、さらにそこで関わった一つの事件によって彼の“生き方”そのものに大きな影響が現れる、というお話になります。

信念について考える

割と邦題で若干のネタバレ感が出ちゃっているのでそれを踏まえて書きますが、やっぱりこの映画の主題はイズラエルの“信念”なわけですよ。もちろん。

そして序盤で彼の“信念”は非常にわかりやすく語られ、とても真面目で正義感の強い人だな…と誰もが理解します。となるとそれが揺らぐんじゃないか、(ナイトクローラーの監督だし)どんどん凋落していって悪人となるんじゃないか…と思うわけですが…まあこの辺は観てもらうとしてですね。

僕としては、そのキーとなる“信念”の拠り所でもあったかつての事務所が閉鎖され、環境が変化し対応を迫られる状況に陥った人間がどう変わるのか、はたまた変わらざるを得ないのか、それとも変わらずにいられるのか…といった命題がとても良く描かれた映画だなと思いました。

まあ話としては当然ながら地味なんですが、僕はとかく(おそらく普通の人よりも)美学や信念のようなものを大事にしたいと考えながら生きている(そしてそれが年々強くなってきている)ので、この物語はむちゃくちゃ刺さりましたね。とにかくその信念や美学というものを考えて大事にしたいと思っている人にとっては、必見と言ってもいいぐらいの映画だと思います。

なかなかこういう地味なテーマで、うまくドラマ性のある物語に取り込みつつ味のある着地を見せる、というのはあまり記憶になく、やっぱりダン・ギルロイって人はすごいんじゃないかと改めて思いました。

と同時に、この映画はネット上での評判を見る限りはあまりいいものではないので、それはつまりそのまま現代社会における“信念”という価値観がいかにおろそかにされているのか、軽視されているのかの裏返しに感じられて、それがとても悲しくもなりました。

確かに創作の人物の信念がどうこう、って一笑に付したくなる気持ちもわかるんですが、ただそうされがちな現代だからこそ、このテーマってものすごく大事になってくると思うんですよ。

言っていることは陳腐かもしれないし、「映画的」な展開ももちろんあったんですが、それでもやっぱり今この時代にこの物語を描いて世に問う、観た人それぞれがもう一度自分に問う時間を作る、っていうのはものすごく大事だし尊い価値を持っていると思うんですよね。

思えば「ナイトクローラー」はこの映画で言いたいのであろうことの逆で、「損得だけ」の人間が行き着くところを描いていたと思うんですよ。それに対するカウンターとしてイズラエルという人が描かれて、「じゃああなたはどっちの人生を選びますか?」という話なんだと思います。

そこで自信を持って「イズラエル」と言えるかどうか。その問いこそがこの映画の価値でしょう。

この先、より重要になってくるテーマを描いた価値のある映画

この手の精神的な話になってくると語りたくなっちゃうタチなので少々熱くなってしまいましたが、僕はむしろこの映画に熱くなれるぐらいの方がいいと思いますよ。自分がそういうタイプだからですけど。

今、割とこの「信念か損得か」というのは社会の重要なテーマとして大きなウエイトを占めていると勝手に思っていて、この先どんどん貧しくなっていくであろう世の中、そしてその影響を受ける形で同じく沈んでいくであろう自分を含めた個人に対して、どこまで信念というものを大切にしておけるのか、そしてそう思える人がどれだけいるのかによって今後の社会の形が決まっていくんだろうと思います。

そういう意味でもかなり大きな問いを投げかけている映画だと思うし、強がりだろうと損得の枠の外で生きられるかが問われている時代だからこそ観るべき映画でしょう。

きっとこの映画の価値は年々増していくはずです。今から10年後、20年後にはもっと評価される映画となっているかもしれません。

ネタバレというなの男

大雑把に言ってしまえば、「一度踏み外した“信念”の道を戻ろうとしたイズラエルが殺され、それに“感染”したジョージが遺志を引き継ぐ」という形だったわけですが。

まずこの「一度踏み外して“戻る”」というのがなかなか珍しい気がしましたね。大体は踏み外して落ちていくだけだったり、逆に改心して善人となる物語が多いんじゃないかと思うんですよ。“信念の切り替え”は一度きり、というのが定番なのかなと。

この話はそうではなく、2回心変わりがあるわけです。IターンではなくUターン的な。そこが珍しいし良いなと。

ジョージがイズラエルの信念に“感染”して彼の進めていた仕事を引き継ぐ、というのは間違いなく良い話なんですが、まあ言ってみれば「良いオチを用意するための映画的展開」だしそれをもって評価が下がる、というのは気持ち的にはわからなくもないです。そもそもイズラエルが勧誘する時に言ったように、「歴史に名が残る」からこそ引き継いだ、というような“純粋な気持ちからの行動”ではない可能性もあるのでなおさら。

なのでやっぱりこの映画は「イズラエルが道を踏み外し、戻ろうとした」ことが最大のテーマだしそこを観て何を感じるのか、ということなんでしょう。というか観客こそがジョージのように“感染”するための話というか。

やっぱり先行き不透明な貧しい生活を送る中で、いわゆる“役得”に面したときに揺らいでしまう、というのはどうしても人の性として仕方のない面があると思うんですよ。

しかもそこにはお金だけではなく「真犯人(と思しき人物)の逮捕」という大義があるわけで、逆に言えば「これはお金のためじゃない、犯罪を犯した人物を裁くための行為なんだ」と正当化できてしまうところにこの問題の難しさ…というか“いやらしさ”がありますよね。

いわゆる「正常性バイアス」のように、人間誰しも自分の望む方向性が正しいと見なしがちな傾向があるのは仕方のないことでもあるし、そこで弱さが出た後でも戻って来られる“信念”というのは、実はただ踏み外さずにいること以上に難しいことなのかもしれません。

このシーンがイイ!

スタッフロールにかぶせるラストシーン、すごく良いですね。長回しなんですがその長回しの意味がとても大事で。

ココが○

“信念”というある意味では青臭いし、ややもすると説教臭くもなりかねないテーマでありながら、きっちり一般社会を舞台にドラマとして描いた内容はもっと評価されて良いのではないかと思います。

ココが×

くどいようですが非常に地味ではあるし、テーマがテーマなので人を選ぶ面はあるでしょう。常日頃から「こういう時にどういう人間でいたい」か考えているかどうかによって評価は変わりそう。

MVA

当然ながらデンゼル・ワシントンは素晴らしくて、この人は相変わらず最強だなと思うんですが…今回はこちらの方に。

コリン・ファレル(ジョージ・ピアス役)

事務所閉鎖後、イズラエルを「使える男」と見なして雇った大手弁護士事務所の所長。

さすがにコリン・ファレルも良いお歳、落ち着いた知的な雰囲気がとても良く出てましたよ。やんちゃイメージが強いからそのギャップの振れ幅で評価が上がる感じ。

人物像的にもとてもリアルで、現実的かつ弁護士としての核も忘れていないところが良かったですね。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

CAPTCHA