映画レビュー0843 『殺したい女』
ネトフリ新作にも観たい映画は山ほどあるんですが、どうしても終了間際のものばっかり観ていくと「終了間際に観たいものがない」時は反動で少し古い映画を観たくなるんですよね。
ということでそんなときに重宝します、BSプレミアムより。密かに楽しみにしておりました。これ。
殺したい女
バカだらけのゆるい事件が綺麗に収まる80年代らしさが最高。
- 殺すはずの妻が誘拐され「殺すぞ」と脅され大喜びのおっさんが主人公のコメディ
- 登場人物みんなバカでゆるゆるの世界ながら最後は綺麗に収束する気持ちよさ
- いかにも80年代らしいチープさが好きな人にはたまらない
- オープニングがサイケで超クール
いやぁ最高ですねぇ80年代コメディ。
一応コメディはコメディなんですが、世界観がコメディ的にゆるい以外は割とちゃんとした(?)犯罪含みのドラマだったりします。ドコメディよりこういう方が好きなのでこれまたドンピシャだったんですけどね。
オープニングは主人公のサム・ストーンが愛人のキャロルに愚痴っているシーンからスタート。
彼の妻であるバーバラの父は何らかの組織のボスらしく、莫大な金を持っていたんですが彼がバーバラと知り合った頃にはもうすでに余命幾ばくもないような状況だったため、彼は好きでもないバーバラと結婚し遺産をせしめよう…と思っていたら義父が完全復活して長生きしちゃってもう大変、最近ようやくお亡くなりになったとのこと。
サムもただ義父の死を待っていても仕方がないということでビジネスに精を出した結果うまくいってそれなりに裕福な身分になったようですが、とは言え当然金は欲しい。もっと欲しい。
でも遺産を継いだのは妻のバーバラ…ということでもう我慢ならんぞと。なんであんな好きでもない腹の立つ嫁と暮らし続けなアカンねん、と愛人に不満を吐露し、ついに今日、バーバラを殺してやるぞと息巻いております。んで、愛人のキャロルと一緒になるぞという計画。
よしじゃあいよいよ決行じゃ…! とクロロホルムの瓶を片手にご帰宅したサム、家中探せどバーバラの姿はありません。おかしいぞ…と思ったら電話が鳴りましたはい取りました「バーバラは誘拐した」と驚きの展開。
誘拐犯曰く、「番号の揃っていない紙幣をいついつまでに50万ドル用意しないと妻は殺す。警察・マスコミにバラしても死ぬことになるぞ」。これを聞いてサムは大喜びで一人祝杯を上げ、当然のように警察に通報するわマスコミが押し寄せるわでバーバラ死亡待ったなし、いよいよ遺産は俺のもんじゃー! っと大興奮の同じ頃、誘拐犯たちは狼狽しておりました。
「なんでこんな騒ぎになってるわけ!?」フツーのオーディオショップ店員であるケンとその奥さんのサンディは、バーバラを誘拐したはいいものの狙い通りに行かずに困惑。おまけにバーバラは傍若無人で手に負えない人質だった…!
迫る期日、身代金を払うつもりが一切ないサム、フツーの冴えない二人の誘拐犯、そしてサムの愛人もまた腹に一物持っていて…はてさてどうなるこの事件!! ってなお話です。
僕がこの映画を観ようと思った最大の理由は、「ダニー・デヴィートが主演」っていう点だったんですよね。
ダニー・デヴィートですよ奥さん。あの。ハッシュハッシュ親父(まったく浸透していない呼び名)ですよ。彼はすごく味のある良い脇役俳優だと思っているんですが、まさか彼が主演した映画があったとは、という驚きとともに観てみたいな、ということで観たところこれがえらい面白かったぞと。
で、彼の演じる主人公がですね、完全にお金目当てで奥さんを殺そうとしていたところに勝手に他人が殺してくれるって言うから大喜び(こういう話もありそうな気がしないでもない)、自分は金もらって愛人とよろしくやっちゃうぜ、ってな感じであんまり良いやつじゃないわけですよ。
一方誘拐された妻のバーバラもなかなかふてぶてしいクソBBA感が漂っていて、この妻にしてこの夫あり的なある意味お似合いの夫婦なわけです。
もはや彼女を誘拐してしまったこと(夫が身代金を払うつもりがないことも含め)自体が気の毒に見えるという「被害者圧倒的有利」な立場で加害者側に立つ誘拐犯コンビ、それが気の弱いフツーの兄ちゃん姉ちゃん的な夫婦であるケンとサンディ。
サンディを演じるのはこの前観た「摩天楼はバラ色に」のヒロインを演じたヘレン・スレイターですからね。かわいいですから。こりゃただの加害者じゃないだろ…と思って観ていたところ…っとこれ以上はやめておきましょう。
ただこの二人がなぜバーバラを狙ったのかにも実は理由があって、その他サムの愛人キャロルと彼女の本命アール(ビル・プルマン若ぇ!)の思惑も混ざり込み、サムの思い描く「バーバラ殺してもらって狙い通り」なんて簡単に行くようなお話ではないわけで…その辺二転三転しつつの込み入った、でもわかりやすい展開はなかなか今観ても巧みだと思います。すごく面白かった。
正直、ところどころ80年代っぽい安っぽさがチラホラ見え隠れする映画ではあるので、ちょっと最近の作りに慣れていると戸惑うまでは行かないもののノリにくい面はあるかもしれません。ビル・プルマンの演技とか超オーバーで嘘くさいし。
ただ僕は何度も書いている通り「80年代のアメリカ映画が最高」だと思っているので、その辺含めてまたたまらなかったぞというのは言っておきたいところ。
何なんでしょうね、この感じ。安っぽくても迷いがなく、「この話面白いでしょ!」って自信満々満面の笑みで見せられる感じ。好きだわー。
多分ある種の拙さがあるのが良いんでしょうね。逆に言えば計算高く感じられない点が。でも実は最後はなかなかの仕掛けで「おおっ、そう来ますかー」という終わり方なので大満足、ニッコリ「面白かったなー!」と言えるこの感じがたまりません。
登場人物は(警察含めて)軒並みバカばっかりだし、現実には起こり得ない=リアルさとは程遠いお話ではあるんですが、それがまたいい感じにコメディ感にもつながっていて気楽に楽しませてくれるし、最後はしっかり綺麗に閉じてくれるしでタイトルの不穏さが似つかわしくない、とても良い映画だと思います。
アラも目立つので誰しも好きになるかと言われれば微妙だとは思いますが、しかし僕のように80年代のアメリカ映画が好きな人であれば間違いなく楽しめる映画ではないかと。
「警察がバカ」な部分とかラストの印象とかを振り返ると、話は全然違うもののほんのり「ミッドナイト・ラン」のような映画と言ったら…ちょっと言い過ぎでしょうか。
隠れた名作、と言っちゃって良い気がする! 超好き。この映画。
このシーンがイイ!
ラストシーンのスッキリニッコリ感も好きですが、一番グッと来たのはオープニングのスタッフロールかな〜。
いかにも古い、時代を感じるアニメーションなんですが、これが今観るとすごくクールでかっこいいんですよね。サイケでぶっ飛んでる感じで。これは一見の価値があると思います。
ココが○
基本はコメディだし本当に登場人物バカばっかりだなーと思って気楽に観ていると…意外と巧妙な展開を見せてそのギャップにやられます。
その辺の先入観もうまく利用したよく出来た映画だと思うなぁ。
あと会話の妙というか、ちょっとアンジャッシュのコントのような会話の通じなさも良かったですね。
ココが×
やっぱりやや古さは感じるので、極端な話「マーベル映画しか観てないけど映画好き!」とか言う人はキツそうな印象。なんとなく。
ちょっとノリが古いんですよね。それも含めて楽しめるかが大事かもしれません。
MVA
お目当てのダニー・デヴィートはさすがの演技で当然ながら文句なし。憎たらしいぐらいの名演でしたが、でもこの映画はこっちの人かなー。
ベット・ミドラー(バーバラ・ストーン役)
誘拐された妻。
ふてぶてしいクソBBAだったのが…徐々に変化が見える、文字通り“役者”だなーと思わせるこれまた名演。素晴らしいヒロイン(?)でした。