映画レビュー1593 『サタンタンゴ』

U-NEXT入会直後にこの映画が配信されていることを知り、今年のGWの目玉として結構前から観ようと決めていました。
7時間超えの超大作です。
ちなみにアマプラにもあるそうですが、CMが入るクソ仕様なのでU-NEXTの方が良いのは当然です。7時間で何分CM入るのかも気になるけど。1時間は観させられそう。

サタンタンゴ

Sátántangó
監督

タル・ベーラ

脚本

タル・ベーラ
クラスナホルカイ・ラースロー
ヴィーグ・ミハーイ
ドバイ・ペーテル
ミホーク・バルナ

原作

『サタンタンゴ』
クラスナホルカイ・ラースロー

出演

ヴィーグ・ミハーイ
ホルヴァート・プチ
セーケイ・B・ミクローシュ
ペーター・ベルリング
デルジ・ヤーノシュ
ボーク・エリカ
フェルゴッシ・ラースロー
エーヴァ・アルマーシ・アルベルト
サイキ・イレーン
ヤーライ・アルフレード
ガール・エルジェーベト
カモンディ・ゾルターン
ドバイ・ペーテル

音楽

ヴィーグ・ミハーイ

公開

1994年4月28日 ハンガリー

上映時間

438分

製作国

ハンガリー・ドイツ・スイス

視聴環境

U-NEXT(Fire TV Stick・TV)

サタンタンゴ

面白くはないんだけど観た意味はあった。

6.5
限界集落に死んだはずの男が戻ってくると噂が流れ、浮足立つ村人たち
  • 舗装された道路すらない孤立した集落で、村人たちに因縁あると思われる男が戻って来るのか来ないのか
  • 異常なほどの長回しシーンばかりで構成された類まれなる長編映画
  • 物語自体にはカタルシスもなく、ひたすら驚異的な長回しを押し付けられる苦行
  • ただしそこに意味がある…のかもしれない

あらすじ

この長さがありながらかなり評価が高いので実はめちゃくちゃ面白いのでは!? と若干期待したんですがめちゃくちゃ苦行でした。「サクリファイス」を思い出させるぐらいには苦行。なるほどこれがサクリファイス(犠牲)…!

とある限界集落的な村。
詳細不明ですが村人たちが1年間稼いだお金が溜め込まれているらしく、それを持っていって山分けしよう的な悪巧みをする男女、フタキ(セーケイ・B・ミクローシュ)とクラーネル夫人(サイキ・イレーン)。
二人は不倫関係のようで、そこに突如として夫のシュミット(フェルゴッシ・ラースロー)が帰宅します。
ギリギリバレずに逃げ出したフタキは直後に素知らぬ顔をしてシュミットを訪ね、金をどうするだのなんだの話し始めます。
しかしそんな村人たちが口々に「あいつはやばい」と言う男、イリミアーシュ(ヴィーグ・ミハーイ)が帰郷するとの噂が。
1年以上前に死んだと聞いていた彼が生きているはずがない、でも見た人がいるとなるとヤバいんじゃないか…と浮足立つ村人たち。
一方そんな村人たちを一人(趣味で)監視し続けるアル中の医者がいたりしまして、この村人たちはどうなるんでしょうかね…っと。

映画も長ければシーンも長い

ぶっちゃけ話の内容自体はどうでもいいというか、映像と(上映時間の長さを含めた)演出が9割でその他は1割、そんな映画だと思います。
実に7時間18分、諸説ありそうですが商業映画としては2026年時点で世界最長の映画です。(他に実験映画的なドキュメンタリーで何十日も続く映画はあるらしい)
僕はこの日午前9時から鑑賞を始め、途中2度の食事とトイレやらを挟んで観終わったのが20時頃でした。正直に白状しますが途中に2度あるインターミッションで「許された」と解釈し、30分ぐらい昼寝もしました。公式に許される時間、それがインターミッション。長さはこっちの自由です。
そもそも「映画好きのアチーブメント」として観ようかな程度の気持ちで観ることを決めたので、裏を返せば「映画好きならサタンタンゴぐらい観てるんでしょ? プ」という(架空の)マウント勢に対する防御策として「観ましたけど?」と言い返せるように観た程度のことなんですが、鑑賞後にリアルタイム検索してみると「劇場で観てないやつは観たと認めない」だの「家で観るならスマホの電源も切ってインターミッション以外は席を立つな」だの結構な“サタンタンゴガチ勢”が目に入ってしまい、観たら観たでこんな厄介なやつらを相手にしないといけないのか…と暗澹たる気持ちになりましたがそれらも含めてバカバカしいというかこの映画を無駄に持ち上げ過ぎだと思いますね。
終始地味、かつ長回しが延々と続く映画なので、いわゆる娯楽映画好きとしては苦行としか思えない時間が長く、この日の夜には尻の肉がボロボロ取れる夢を見るぐらいに尻が痛くなる一日になりましたが、それはそれとして言ってしまえば「所詮映画」以上でも以下でもないものなので、「きちんと束縛された状態で観ないと観たと認めない」と言われようがこっちは半分寝たりしながらでも観たんじゃボケと文句を言っておしまいです。
国家資格でもあるまいし、観たときの環境で他人にあーだこーだ言われる筋合いはないですよ。
一方で劇場で同じ時間を過ごした“戦友”のような一体感が得られた、というような口コミは理解できます。そういうのはありそう。
だからと言って配信で観た人間にマウント取るのも違うだろうとは思いますが。ちっせえやつだな、てめえの価値観がサタンタンゴだわ、みたいな。(よくわからない例え)
なのでこれから観ようかな、という方は好きに観ればいいと思います。例えば1本分の映画の感覚で1日2時間程度を4日かけて観てもいいでしょう。それでも観たんだから。
ただ鑑賞日を分けちゃうと「…もう…良い…かな…」となりかねない気はします。なんというか、一旦切れた気持ちをつなぎ直すほどのモチベーションが湧きにくい映画なので。その意味では一日で済ませちゃったほうが楽(楽って言うな)な映画ではあるでしょう。

いきなり話が逸れたので戻しましょう。
まず最初のシーンは農場のような場所に牛たちがワラワラ出てきてそこから移動していく彼らをカメラで追っていく一連のシーンなんですが、このシーンだけでも(体感で)10分ぐらいあり、これはなかなカウだぞ、と。牛だけに。なかなカウって。
一般的な90分〜2時間程度の映画は少ないもので600カット程度、多いもので3000カットぐらい行くそうなんですが、この映画は7時間超えで150カット程度しかないそうでいかに長回しが多いかがわかります。
7時間18分=438分なので、単純計算すれば大体1カット3分弱ですがこの計算をしたときに「えっ、3分のシーンなんてあったっけ??」と思ったぐらいにとにかく長いシーンが多い。ひたすら。
例えば途中に出てくるアル中のお医者さんのシーン。
お酒(ブランデーらしい)を小さなグラスに入れ、もう一つのグラスには割材の水を入れ、一緒に飲む用のグラスに入れてお酒を作って飲み、もう一杯…と思ったら酒が切れたので貯蔵瓶のようなものから移そうと瓶を取り出すとそっちも空、仕方なく「外に出るしかなさそうだな…」とひどく億劫そうに呟いたあと立ち上がり、ノロノロと服を着込んで部屋を少し往復し、ゆっくりとした足取りで部屋を出ていく…ような一連のシーンがカットもなくひたすら流されます。すごい。
終盤近くではタイプを指示する警官とタイプライターを打つ警官が調書的なものを相談しながら作成するシーンがあるんですが、口述→ここを直そう→タイプする、の相談を数人分繰り返したのちおもむろに立ち上がって席を移動したと思ったらデスクからパンを取り出し何かを切ってサンドイッチ作成、それをちゃんと最後まで食べた後「じゃあ続きやるか」とまた席を移って残りの人数同じことを繰り返す…みたいな(当然ノーカットの)シーンがあって度肝を抜かれました。
あとは特に代わり映えのしない1人の表情をぐるっと1〜2周回ってじっくり見せてくれたりとか。
また移動のシーンも多く、ただひたすらカメラ前にいる人間が歩き続けるだけのシーンだったり、画面手前から奥に向かって見えなくなるまでただ歩いている人物を写しているだけのシーンだったりもあります。
そんな感じで万事長回し、とにかく無駄が多く見えるわけですよ。多分普通にカットしてたら2時間にもならないと思います。それぐらい内容が薄いものを長く見せてくる。
となると当然そこに意図があるはずで、まあその辺詳しい話は詳しい方のレビューを見てくださいねという話なんですが、結局「人生は無駄な時間ばかり」みたいな話に帰結するんだろうと思うんですよね。
これと言った答えが明示されずに終わっていく最後といい、全体的に「人生とはこういうもの」を“たった”7時間ちょっとで見せてくる映画なんじゃないかなと。
言ってみれば映画(この作品の話ではなく映画全般)を観る時間だって無駄と言えば無駄です。
「人間は人生をかけて壮大に無駄な時間を過ごし、答えのない最期を迎える」比喩のようなものなのかなと。
いやわかんないけど。そんな気がしました。

たかが7時間

一方でですよ。
見方を変えると、「たかが7時間」なんですよ。
じっと座って映像を眺めているだけの時間とすれば7時間は相当な長さですが、例えば旅行に行くとしたらどこにも行けないぐらい短い時間だし、座ってるだけの作業に限定してもゲームだったら余裕で7時間ぐらいやれます、って人も多いでしょう。
映画だから特異さが際立ちますが、とは言え所詮7時間です。
でも、その「たった7時間」で観る前と観た後とで少なからず自分に変化があるので、その意味では実はかなりタイパが良いものなのでは!? と思ったとか思わなかったとかいう噂です。
まだレビュー前ですが、僕はこの2日後に3時間近い映画を観ました。
今までだったら「3時間か…うーんちょっと億劫だなぁ…」と尻込みしていたのが、「3時間? サタンタンゴ観た俺には怖くないね!」みたいな。全然チョロくなったんですよね。
かつてFF11で伝説的な“苦行”と言われた「(通称)アレキサンドライト終身刑」というコンテンツがあったんですが、それをだいぶ緩和されたあととは言えコツコツと続けてクリアしたことがあります。
それ以来、ゲームのコツコツ系は大体できるようになったんですよね。「アレキサンドライト終身刑と比べれば全然楽だわ」みたいな。FF14では同じように苦行のプテラノドン(マウント)も取ったし。
そんな感じで、時間に対する耐性がちょっと変わった気がするんですよ。一時的な可能性もかなり大きい気はしていますが。
なので「物語が面白かったのか」と問われればぶっちゃけ面白くは無かったんですが、観て無駄だったとかやめときゃよかったみたいな風にも思っていなくて、やっぱりこれはこれでオンリーワンの得難い経験だったなと思っています。
それは「時間を無駄にしたと認めたくない」からかと思われそうですがむしろ逆で、さっき書いたようにたった7時間、休み1日分で得る感情と経験からすれば逆にタイパが良いものではないかなと。
もっとも鑑賞直後は「貴重なGWを一日無駄にしちまったぜ…」と思ってましたが。数日経って改めて振り返ると、意外といい経験になったなと熟成されました。
やっぱり特異な経験をすると、その中身がどうであれ経験の強烈さ故に日常に食い込んでくるようになるので、結局観ていたときよりもその後のほうが意味を持ちやすいような面はあるんだと思います。それが人間の構造なのかもしれません。
まったく意味がないことでも意味を見出そうとしてしまうサガというか。
その辺込みで考えると、なるほど確かに評価が高いのも頷けます。
が、映画単体として観たらこれを面白い、傑作だと言える人はすごいと思います。僕はそこまで達観できていません。
この映画を観た人とお酒を飲みながら話してみたいけど、いかに良かったかを熱く語ってくるようだとちょっとめんどくさそうだなと移動したくなるような。それぐらいの温度感です。
「あのシーンが長すぎてしんどかった」とかで盛り上がれるようなら最高なんですけどね。

このシーンがイイ!

これはやっぱりひたすらお酒飲んで騒いでいるシーンでしょう。
いろんな人が言及していますが、特におでこにパンを乗せてただただ歩いているシュミットの異様さ。
ちなみにこのシーンは実際に演者も酒を飲んで撮影したらしいです。どこまで演技なのかはわかりませんが、ナチュラルにアレをやっていたんだとしたらすごすぎます。

ココが○

オンリーワンの体験。
ただのアチーブメントだとしてもたかが半日で(一般的な人からすれば)異常人扱いされるのであればお安いもんですよ。
物語的なことで言えば、意外と(?)「実はあのシーンは裏ではこうなっていて」みたいな別角度の視点が結構入ってくるので、終始ただ退屈というわけでもないのは書いておきましょう。この手の芸術的な映画からすればまだ観やすいというか。長さを除けば。
正直現時点ではまだ「サクリファイス」の方がしんどかった記憶があります。内容まったく覚えてないし。

ココが×

これはもう猫の虐待シーン一択。本当にしんどかった。
例によって長回しなので虐待シーンもめちゃくちゃ長いんですよ。本当に嫌になりました。
猫好きの方は要注意だと思います。あそこだけ飛ばしてもいいぐらい。どれだけ飛ばせば良いのかもわからないぐらい長いけど。
ちなみに真偽不明ですがあの猫は撮影後にタル・ベーラ監督が飼い猫にしたそうです。本当ならまだ救いがありますが、とは言え撮影中も猫にとっては芝居ということも知らず現実なわけでやっぱりつらい。

それともう一つ、世界が終始暗く、整備された道すらないぬかるんだ土地に転々とボロ家が建ち、周りは枯れ木のみというロケーションがずっと続くのもかなりしんどかったです。絵面が地味すぎる。モノクロなのでなおさら。

MVA

この人かなー。

セーケイ・B・ミクローシュ(フタキ役)

一応主人公になるんですかね? 何をやっているのかは不明ですが最初に夫人と浮気してたおじさん。
なんかねー、得も言われぬ渋い顔をしてるんですよこの方。苦み走った。
その存在感がなかなか良かったです。なかなカウ。

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