映画レビュー0785 『エンド・オブ・ザ・ワールド』

今回もネトフリ終了間際シリーズなんですが、この週は(終了間際の)観たい映画が多くてすごく悩んだ末に、前回の「ハッピー・ゴー・ラッキー」とコレをチョイスしたんですよね。

前回イマイチだっただけに、これも外したら結構ショックだなぁと思いつつ…。

エンド・オブ・ザ・ワールド

Seeking a Friend for the End of the World
監督
脚本
ローリーン・スカファリア
出演
トニータ・カストロ
ウィリアム・ピーターセン
音楽
ジョナサン・サッドフ
公開
2012年6月22日 アメリカ
上映時間
101分
製作国
アメリカ
視聴環境
Netflix(PS3・TV)

エンド・オブ・ザ・ワールド

地球の人々の最後の望みも絶たれ、小惑星の衝突によりあと3週間で地球が滅亡することが決定。妻に出て行かれた中年サラリーマンのドッジは、誤って隣人のペニー宅に送られていたかつての恋人からの手紙を読み、死ぬ前に彼女に会いに行こうと旅に出る。

ロマコメ&ロードムービー&設定最高。

9.0
この世の終わりに誰と過ごす?
  • 設定が最強なので多少のアラも許せるコンセプトの強さがイイ
  • 恋愛が強すぎないから観やすくて誰にでもオススメできる
  • ロードムービー感も素敵
  • 謎のエロレストラン「フレンジーズ」行ってみたい

やってくれましたよ。ええ。やってくれました。もうめっちゃ良かった。

テーマもわかりやすい上にコメディタッチで観やすいので、いろんな人にオススメできるとても良い映画でしたねぇ…。タイトル自体知らない映画だったんですが、それだけに物陰からいきなりガツンと殴られたような不意打ち感に鼻血も出んばかりの喜び。最高でした。

物語冒頭で…いわゆるアルマゲドン的なプロジェクトが失敗したっぽいニュースが流れます。小惑星が地球に衝突しそうなところを止めに行ったシャトルが無残に散り、もう手立てがないよと。あと3週間で人類(というか地球上の生命)が滅亡ですよ、と。

そのニュースを車で一緒に聞いていた妻はさっさと逃亡、一人残されたのは中年サラリーマンのドッジ。スティーヴ・カレル演じる本作の主人公です。

友人たちは思い思いにクスリでハイになったり抱いたり抱かれたりと好きなことをやる中、そんな気分にもなれないドッジは無気力に残りの日々を過ごしていたんですが、ある日隣人のペニー(キーラ・ナイトレイ)がドッジ宅の窓の外で号泣、声をかけて家に招き入れます。

どうやらイギリスの実家に帰る飛行機に乗り遅れたらしく、地球最後の日に家族と一緒にいられない絶望から泣いていたようで、ひとまずドッジは彼女が落ち着くまで慰めその日は一旦終了。

その後、ちょっとした知り合いになった彼女から「実はずっと渡そうと思って渡せなかったの」と彼女の家に間違って届いていたドッジ宛の郵便物を渡されるんですが、その中にはドッジが密かにずっと想いを寄せていた若い頃の元カノからの手紙があり、「会いたい」と綴られていたよ、と。

いよいよ地球最後の日も近付いてきたせいか治安も悪化、家の近くでは暴動が起きて家にいると危ないということもあって追い出されるように家を出たドッジは、「ここにいたら危険だから」とペニーを連れ出してかつての彼女の家に向かうと同時に、自家用機を持つ友人を頼ってペニーもイギリスまで送り届けてもらおうとする、というお話です。

「地球最後の日」っていうのはなかなか使い古されたベタな設定だとは思うんですが、でもこういう恋愛映画は初めて観たので意外と新鮮に観られたのがまず良かったですね。

何が良い、ってやっぱり(実際地球が滅ぶのかどうかは置いといて)最後が見えてるのが良いんですよ。

文字通り後がない、これで最後だから後悔はしたくない、っていうのはどうしても劇中ずっと、すべての登場人物について回るわけで、それ故に背中を押され、取捨選択をして「死ぬのがわかっているからこそ一番しっかり生きることになる期間」を描いている辺りがとても濃密で素敵なお話でした。

やや感情描写が弱いかな〜という気はしたんですが、ただ自分では同じ環境にならない限りはどうあがいても到達できない「地球の終わりが見えている日々」での感情なので、そりゃある程度ブーストがかかって当然だし、少し無理があるような展開でもそう見えなくさせる設定の力強さの勝利かなという気がします。

主人公が冴えない中年サラリーマンっていうのがまた良いんですよ。いや自分がそうだから自己投影して希望を、とかそういう安っぽい意味でなくて。

やっぱり序盤に描かれていたように、ある程度達観しているようなギラついてない人間だからこその優しさが根底にあるお話なので、これで若い兄ちゃんだったらちょっと鼻につく部分があったような気がするんですよね。イケメンでひたすら優しい若い兄ちゃん=ただの完璧超人にこんな物語を紡がれても面白味がないしケッてなもんですよ。

ところが主人公はくたびれた中年ですから。そりゃ優しいのも納得だし、必要以上に性的な要素を感じさせないのも良い。おまけにスティーヴ・カレルっていうチョイスもピッタリで、この辺りの説得力がだいぶ映画の完成度に影響を与えていたと思います。

もう一点やっぱり書いておきたいのは、ロードムービーでもある点ですよね。

ベースはもちろんロマコメなんですが、ただ地球最後の日に向けて旅をするロードムービーっていうのがまたロードムービー好きにはグッとくるものがあって。

当然ながらロードムービーらしく行く先々で出会いがあって…ではあるんですが、やはりこの映画特有の設定上「過去との対話」もいくつか出て来るわけです。ドッジの旅の目的である元カノにしてもそうですが、それ以外にもいくつか昔会った人とのエピソードがあり、そこでまたその都度何らかの選択をしていくのが物語に奥行きを与えていたような気がします。

別に「どっちを選ぶんだ!」みたいなわかりやすい選択じゃなくてですよ。やっぱり過去と向き合って、それでも今最後の日に向けてこうするんだっていうのは大事な選択じゃないですか。言い換えれば「後悔しないように」選択するというか。

その「死ぬとわかった時にやるべきこと」をそれぞれが考え、ある時は言葉で、ある時は表情で伝えてくる雰囲気にたまらないものがあってですね…。やっぱり作り物とわかっていても、死に直面した人間が取る選択というのは重みがあるし、深みがあると思うんですよ。

ベースは恋愛映画でありつつも、そういう人間としての生き様みたいなものが垣間見えるストーリーがすごく良かったです。

ちなみに僕は、最後は「結局なんだかんだあって大丈夫でした」みたいな展開なんだろうと予想しながら観ていましたが…その辺の答えも含めてぜひ観て欲しいなと思います。この映画こそ「恋愛映画嫌いなんだよねー」って言って観ない人はもったいないなーと思いますね。

重くなりがちな設定を良い感じに軽くしてくれるコメディタッチのうまさも含め、素直にとても良い映画だと思います。ぜひ!!

ネタバレ・オブ・ザ・ワールド

本レビューには詳しくは書きませんでしたが、そもそもペニーが「戻ってきた彼氏を捨てる」ところからしてそれなりに大きな選択だと思うんですよ。

Tシャツボロボロだし超ダメ彼氏っぽかったから当然じゃん、と思いつつも、とは言えやっぱり地球最後の日が迫ってきてますからね。一人で最後は絶対嫌だからしょうがないか、っていう選択肢もあるじゃないですか。イギリスに帰れる保証だって無いわけだし。もちろん「最後だからこそこいつじゃない」も正しい判断だと思うんですが。

ペニーとしては他には元カレとのエピソードも大きな選択ですよね。あそこに残ればもしかしたら生き残れるかもしれないし。別にドッジは一人でも元カノのところに行けるだろうし、「彼を送る」ために去るというのはちょっと弱い。車だけ貸してあげればいいわけだし。となるともうすでにあの時点でちょっとドッジに惹かれてたんでしょうね。

ドッジ側としてはやっぱり「元カノに会わない」のが大きな選択。

僕は観ている最中はちょっとだけ納得できなかったんですよね。結局若い女子がいいのか的な気もしつつ。いやわかるけど。自分だったら絶対ノータイムでキーラ・ナイトレイ選ぶけど。でも物語としてはどうなのっていう。

ただよくよく考えると、よくある「思い出は綺麗なままにしたい」みたいな面もあったんだろうと思うんですよ。やっぱり向こうも歳を取ってどう考えたっておばちゃんになってるし、ずっと密かに思っていたのであればなおさら会わない方が甘酸っぱいままでいられるかな、って。会ったらしょっぺぇな、ってなっちゃうじゃないですか。どうしても。

おまけに助手席には若い女子がいるし、彼女を飛行機に乗せないといけないし。上記のペニーの選択とは違い、こっちはドッジが行かないと絶対無理な話でしたからね。責任感的に彼女を送らなければ、っていうのは自然だと思います。

まあ「元カノと会ってさよならしてから送ればいいじゃん」っていう説もあるんですが、でも会うともしかしたら一緒に残りたくなるかもしれない=ペニーを送ることへの躊躇が出てくるかもしれないし、いろいろ考えるとやっぱり“ペニーを選ぶために”元カノには会わない、っていう選択を取ったのかなと。

この時点では「ペニーを選んだので会わない」ではなくて「ペニーを選ぶために会わない」というのが大事なポイントかなと。微妙な違いですが、まだドッジはペニーを選ぶと決めてないと思います。ここでは。

ただ、選びたいんですよ。ペニーを。でもどうなるかはわからないし、その後の彼の行動(飛行機に乗せてさようならのつもり)を考えれば、悲劇のヒーローとまでは言いませんが、(元カノとペニー)どっちともお別れしてどっちも綺麗な記憶のまま一人死ぬ、っていうのもそれはそれで尊いんじゃないか、と考えていたような気がします。男の強がり的な。わかりみ。

もう一つ、興を削ぐのでこの話はメインレビューでは一切触れませんでしたが、ドッジは「父親を許す」という選択もしたわけで、それがまたこの物語にすごく深みを与えていたと思うんですよ。

死ぬ前にやり残したこと、その一つに父親との不仲があったというか、向き合わざるを得ない気持ちにさせられたんだと思うんですよね。彼は。

きっと奥さんも逃げずにそのままだったらまったくそのつもりがなかったと思うんですが、自家用機の一件で会う必要が生じて、そこで「これにもケリをつけなきゃダメなんだろうな」と大げさに言えば宿命のようなものを見たんじゃないでしょうか。

それもまた地球滅亡というベースがあってこそなので、やっぱりベタでも良い設定だな、設定を活かした良い話だなと思います。

このシーンがイイ!

この映画のメインテーマとも言える、「This Guy's in Love with You」のレコードをかけながら二人で語るシーンがとても好きでした。あそこでやっぱりだいぶ二人の感情が動いたのかなと思います。

この曲なぁ…絶対他の映画でも聞いてるはずなんですが、何の映画だったのか思い出せずモヤモヤ…。(検索するとパイレーツ・ロックじゃないかって出るんだけど多分あの映画じゃなくてもっとさり気なくかかってたような記憶)

最後のニュースのシーンもしみじみ良かった。

あとは詳細は書きませんが、「いつも時間は足りない」っていうのはものすごく良いセリフだと思いますね…。

ココが○

上記以外で言えば…僕はタイトルから真っ先に同タイトルの曲を思い出してですね、例の「17歳のカルテ」のシーンが浮かんでは震えていたんですが、あの曲はさすがに(タイトル的に)まんますぎるだろうと思ったのかこの映画ではかからなかったものの、「音楽」の存在自体が結構重要なポイントというか、良い使われ方をしていて劇伴のセンスの良さは書いておきたいところです。

シチュエーション的に「自分だったらどうするかなぁ」と考えやすいのも密かなポイントだと思います。実際はどうかわからないものの、想像はしやすいじゃないですか。「あと何日で地球が終わるよ」ってなった時、自分ならどういう行動を取るのかな、って。そういう自分の身に置き換えやすいテーマっていうのもグッと入り込みやすくなって良いですね。

あとすっかり書き忘れましたが、成り行きで同伴することになったワーンの存在がとても良かった。犬好きとしてもたまらない要素で。「ソーリー」っていう名前がね。また良いよね。

ココが×

もう一歩、二人の感情の高ぶりを感じさせる何かが欲しかったような気はします。上に書いた通り状況的には無理がないとは思うんですが、それでももう一つあざといまでの何かが欲しかったかな〜。

それと車がぶつかりかけてからのエピソードはやや強引感があり、そこもちょっと残念。

あと自分で言うのもなんですが、割と素直な人じゃないと受け入れにくい話かもしれないですね。それなりに陳腐に感じる人もいそうな気はします。

MVA

ぶっちゃけ女子(ペニー)はそれなりに旬の女優さんなら誰でも良いような役だなと思ってたんですが、ただそれでもキーラ・ナイトレイは適役だったと思います。

なんというか、綺麗すぎないのが良い。綺麗なんだけどちょっと角ばってるし、ちょっとかわいくなくなるしょぼくれた顔とかもきっちり良い演技で見せてくれてとても良かったです。強さも強がりも不安そうな表情もバッチリでしたね。

でも今回はこっちかな〜。

スティーヴ・カレル(ドッジ・ピーターソン役)

中年男性としての悲哀感、あきらめムード、そして包容力とすべて完璧。この人やっぱりウマイよな〜。

よく見るといい男なのもポイントだと思います。ブラピはなんと同年代なんですが、彼だったらまったく違う話になりますからね。“よく見ると”いい男なのが良い。

やっぱりコメディアン出身の役者さんは味のある役者さんが多い気がする。この映画でもチョイ役でパットン・オズワルトが出てますが、彼も同じく味があるし、こういう役者さんたち好きだな〜。

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