映画レビュー0852 『七人の侍』

もはやこれほどまで説明不要の映画も無いと思うんですが。お恥ずかしながら初見です。

この前、BBCが「最も偉大な非英語圏映画TOP100」を発表した、ってニュースを見たんですね。なんでも世界43カ国・地域の映画評論家200人超にアンケートを取ってまとめたらしいんですが。

あの「ニュー・シネマ・パラダイス」ですら26位というなかなか濃いランキングなんですが、その1位に燦然と輝く映画がこの映画だったわけです。すごくねっすか。

結構前にBSプレミアムでやっていたのを録画してあって、ずーっと観ずにいたんですよね。どうも長いのでなかなかタイミングがなくて。

でもこのランキングを見て、いよいよ観るべきなんじゃないか、日本人映画ファンとして観てないとか草的な雰囲気を感じ、一念発起して鑑賞しました。

七人の侍

Seven Samurai
監督
脚本
黒澤明
出演
津島恵子
木村功
加東大介
宮口精二
稲葉義男
土屋嘉男
高堂国典
島崎雪子
音楽
早坂文雄
公開
1954年4月26日 日本
上映時間
207分(オリジナル版)
160分(短縮版)
製作国
日本
視聴環境
BSプレミアム録画(TV)

七人の侍

戦国時代末期、収穫の時期に野武士の集団が自分たちの村を襲おうと話していたことを聞いた農民たちは絶望するが、村の長老の案で「米を報酬に、腹を空かせた侍を雇って守ってもらう」計画を立てる。やがて4人の農民が侍を探しに宿場町に赴くが、「名誉にも金にもならない」仕事を受ける侍もいなかった。そんな中、盗賊が子供を盾に立てこもった民家へ、一人救出に向かう侍の姿が…。

いちいちかっこいいぜ、あんたたち。

8.5
40騎の野武士から村を守る侍七人の戦い
  • 侍スカウトから村防衛戦終了までを描く
  • 侍七人も農民もそれぞれに個性があるからドラマも生まれる見事な構成
  • 豪雨の中での戦いは当時新鮮だったらしい
  • あまり長さを感じない濃密な内容

まあご承知の通り、いまさら僕のような低レベル野郎がどうこう言うような映画じゃないので、正直とてもレビューしにくい映画なんですけどね…。

ちなみに僕が観たのは当然ながらオリジナル版です。

短縮版は過去に不本意な編集を食らった黒澤監督が自ら納得できるように編集を行った「ヴェネツィア国際映画祭」用のものらしいんですが、今となっては観るのが難しいもののようです。160分ってなかなかいい塩梅っぽいのでこれも観てみたかったなぁ…。

オープニングは村の近くで野武士たちが会話しているところをたまたま聞いてしまった農民のシーンから。

「あの村襲うか」「いや今は旨味が少ないから収穫終わってからにしようぜ」ってな話を聞き、村に帰って伝えるとお通夜モードで「もうわしらもおしまいやで…」としょぼくれてたところに一人のイケメン農民(利吉)が立ち上がり、「戦うべきだ!」と。

んなこと言ったって勝てるわけねぇべや、とりあえずじさま(村の長老的存在)に相談に行くべやってことで相談したところ「腹を空かせた侍にたらふく米食わせるから守ってけろってスカウトすればええべや」っつーことで4人の農民が宿場町へゴー。

しかしどのお侍さんも聞く耳を持たず、そんなたわけた仕事なんてできねーよってことで断られ続けて憔悴していく農民たち。つらみ。

まあ実際問題いくら米がそれなりに貴重だった時代とは言え、「報酬は米のみで地位も名誉もお金も何一つ手に入らない命がけの仕事」ですからね。そりゃ普通は断られるわなって話ですよ。

もう諦めて村に帰るべか…と思っていた矢先に宿場町近くで事件が発生、大量の野次馬が気になった4人が現場へ行くと、どうやら「盗賊が子供を人質にとって立てこもっている」らしいぞと。

そこに通りがかった一人のお侍さんが頭を丸め、僧のフリして油断させといてバッサリ行って事件を解決させるわけです。

この人なら…! と懇願する農民たちに一度は断るお侍さんですが、同宿で農民を散々バカにしていた人足(今で言う佐川的な?)が彼らの窮状を訴えたことで翻意、「この飯、おろそかには食わんぞ…!」ってなわけでこの侍・勘兵衛が計画を立案し、「最低でも7人は必要だ」と彼がリーダーとなって残り6人をスカウトしようと行動を開始する…というお話でございます後は観てどうぞ。

タイトル通り、最終的には結局7人の侍が集まるわけですが、そのスカウトの模様なんてまんま「オーシャンズ11」辺りが影響受けてそうな感じがしましたね。こういう「プロフェッショナルを集める」話の走りなんじゃないかなぁ。知らないけど。

僕はあのオーシャンズの集めていくところとか地味に好きなので、まずもうこの入り口からしてたまらんぞと。っていうかもうね、勘兵衛さんがかっこよすぎるんですよ。マジで。

演じるのはおなじみ志村喬先生でございますが、正直ルックス的には老け顔でイマイチパッとしない印象なのにとにかくかっこいい。「侍はこうあるべし」を体現したキャラクターというか、まさに己に課した美学と哲学で生きている姿は全男子憧れること間違いなし。

彼は最初にオファーを受諾した侍であり、同時におそらく年齢的にも経験的にも侍たちの中で最も上位に位置する人物のようで、名実ともにリーダーとしてこの戦いを引っ張ることになるわけですが、その侍としての技量はもちろんのこと、なんと言っても知略に長けた雰囲気がまたすこぶるかっこいいんですよ。

いわゆる文武両道的な能力の高さと、落ち着いた佇まいにカリスマ性、そして情の深さ。侍としてすべての能力を持った完璧超人的な存在なんですが、なんでこの人が浪人だったのか、そして過去の戦もことごとく負け戦だった(本人談)のかが非常に不思議。その辺が詳しく語られる勘兵衛のスピンオフが観たいぐらい。

っていうか今の時代に作られた映画であれば、侍全員のスピンオフが作られてもおかしくなさそうなぐらいにどの侍もキャラが立っていて良いバランスのチームになっていたのが印象的でした。

もう一人の主役はこれまたおなじみ“世界のミフネ”、三船敏郎演じる菊千代。

この人はながーい刀を持った偉丈夫と言った雰囲気で、見るからに強そう…なんですが実は農民出身のニセ侍。この「農民と侍をつなぐ」ポジションとしてとても重要なキャラクターなんですが、実際の性格も侍然とした佇まいとはまったく違っていて、とにかく騒がしいしガサツだしズケズケ物は言うしで今で言うルフィみたいな感じ。

僕の中では三船敏郎はもう少し落ち着いた印象だったんですが、若い頃っていうのもあるんでしょうが実際の性格もかなりこのキャラに近かったらしく、それも納得の自然で勢いのある演技はこれまたお見事でした。

菊千代はその「農民と侍の架け橋」としての役割もありつつ、映画においてはコメディリリーフ的な役割でもあるんですが、彼によって笑わされる観客はそのまま農民が「侍に対して抱く壁」を少しずつ壊していく作業とシンクロしている面があり、農民・侍双方にある程度の疑心暗鬼がある状態において、いかにこの菊千代の存在が大きかったかがよくわかる見事な言動と演技がとても良かったですね。

そう、表面上は「野武士が来るからヤバイんでお侍さんたちお願いします」「よしわかった引き受けよう」と普通に上下関係も成立しているように見えるお話なんですが、その実やっぱり結構複雑な思いが双方にあるんですよね。

農民側としては、大事な娘が「侍が来たら何されるかわかったもんじゃない」と危惧して男装させちゃう万造を始め、少し侍に対しても警戒心があるわけです。

一方侍側も、農民が落ち武者を襲って装備を強奪していたことが判明した時に激怒したりと、やはり農民をあまり信用していない面があります。

そんな状態から次第に打ち解け、協力して戦いに挑んでいくさまもまた…後の様々な映画で観られる「困難がありつつ協力し、仲間になっていく」流れの源流に見え、今でも古くならない理由はこの辺にもあるのかな、と。

この映画が初出のものがどれだけあるのかはわかりませんが、とにかくそんな感じで観ていて「ああ、これあのパターン」みたいなのが結構あるんですよね。それはもちろん悪い意味ではなく、理解しやすいという意味で必要だなと思う使われ方で。

おまけに「あのパターン」と思いつつも既視感が強いわけでもなく、あくまで後から振り返ればそういう流れだったなとわかるような作りなので、特に観ていてベタだなぁとか王道だなぁって感じでもないんですよ。そこがすごいなと思いました。

もちろん鋭い人はそう感じるのかもしれませんが、僕としてはこういった古い映画を観た時に感じる「あの映画っぽい」が頭に浮かばず、でも振り返るとアレはアレだなってわかる、みたいな巧みさはやっぱり素直にすごいなと感動しましたね。これが世に言う七人の侍か、と。

ご存知の通り、洋の東西を問わず様々な監督・作品に影響を与えた映画として文字通り歴史に残る映画なので、やっぱり一度は観ておくべきなんでしょう。

僕は正直言うと、(無知と観察眼の鈍さ故)そこまで言われるほど強烈に響いたわけでもなく、同じ黒澤作品で言えば「隠し砦の三悪人」の方が面白かったんですが、それでもこの長尺でありつつしっかり見せきる作りの良さには唸るものがありました。

モノクロだし長いしセリフは聞き取りづらいしで、実は母国語の映画でありながらなかなかハードルが高い映画でもあると思いますが…機会があったらぜひ観て欲しいですね。

僕の事前のイメージではもっと復讐劇のような、侍たちに強い動機がある物語なのかと思っていたんですが、そうではなくて良い意味で「なぜ戦うのか」を見出すのが難しい話だったのが、結果的に美学や哲学と言った思想を浮かび上がらせる舞台装置としてよく出来ていたんじゃないかなと思います。そういった精神面を考えると、なるほどこれは日本で作られるべくして作られた映画なんだな、と言う気もしましたね。

これでようやく、「荒野の七人」そして「マグニフィセント・セブン」を観られます。やったぜ。

ネタバレの侍

ラストがちょっとほろ苦い感じなのが良いですよね。勝ってアッパレじゃないのが。勘兵衛の「今度もまた、負け戦だったな…」のセリフが最高でした。

実はお昼休憩挟んで観ちゃったせいか、後半ちょっと眠くなっちゃったこともあって五郎兵衛の死があっさり過ぎちゃったような気がしてそこが少し残念でした。かと言ってこの映画で「侍、死す!」っていちいち煽るのも違うだろうし、しょうがないところなんでしょう。

平八の死もちょっと早めだったのが残念。もうちょっと観たかったなー。千秋実。

正直勝四郎と志乃の色恋だけはいらないような気もしたんですが…それはそれで無かったら寂しいのかな、やっぱり。

まあ僕なんかがああしろこうしろ言うのはおこがましいにも程があるので何も言えません。

このシーンがイイ!

久蔵の登場シーンがすごくかっこよくて好きですね。ああいうの多分男はみんな好きだと思う。

あとはやっぱり終盤の菊千代の尻ですかね。あの絵が多分一番見せたかった絵なんじゃないかなと言う気が。すごく印象的なシーンでした。

ちなみに雨の戦いのシーンでは雨の中に墨汁を混ぜていたらしいです。その工夫あってこその名シーンなんでしょう。

ココが○

何より価値観、美学の部分がまったく古びていないというか、むしろ今の時代だからこそこういう仕事を見つめ直すべきなんじゃないかという意味で、今なお価値が高い物語なのは間違いないでしょう。

毎年クリスマスに「素晴らしき哉、人生!」を観て育つアメリカ人があの映画の精神性を持って大人になっていくのであれば、日本では毎年正月にこの映画を流して経済合理性よりも情を大切にできる人間を育てるべきじゃないのかな、とか偉そうに思います。それぐらい今の日本人(のリーダー層)には欠けてる大事なものを描いた話だと思う。

ココが×

唯一にして最大の欠点は、古い邦画によくある問題ですが「セリフが聞き取りづらい」点。こればっかりはもうどうしようもないんですけどね。でも本当に聞き取りづらい。

オープニングの農民たちが落ち込んでどうするって話し合いしてるところなんてほぼ理解できませんでした。音の悪さとセリフの訛りとダブルできつかった。ただ侍たちのセリフは理解しやすかったし、やっぱり訛りとか古い言葉とかが大きいんだろうとは思うんですけどね。

もしかしたら字幕の方が良いんじゃないか、ってレベルでわかりづらかったのは気になるところ。

MVA

初めて観たメンバーとしては久蔵役の宮口精二がね。とてもかっこよかったですね。見た目としてはそんなにだと思うんですが、役がもうとにかくかっこいい。孤高の侍、って感じで。アレはいいキャラだなぁ。

結局やっぱり主演二人のどっちかで悩むわけですが…今回はこちらの方に。

志村喬(島田勘兵衛役)

我らがリーダー。

まあ本当に、久蔵以上にかっこいい。っていうか出のシーンからズルすぎるかっこよさ。

普段は飄々と好々爺っぽいけど決めるところは決める、そのギャップもまたずるい。こういうおっさんでありたいと思わされますねぇ。

もちろん世界のミフネもとても素晴らしかったです。映画として大事なのは菊千代の方だったと思うな。役割としてとても重要なポジションだったし、それを見事に演じていた三船先生もまたスゴイぞと。

終始ほぼ半ケツでしたからね。しかも撮影は冬場だったとか…。それもまたかっこよき。

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