映画レビュー0647 『ニュースの天才』
タイトルは知っていて、とても観たかった映画の一つ。
こういう中途半端に古い社会派映画はレンタルも少ないし放送もなかなかしないしで観られる機会がほとんどないので、こういう映画を配信してくれるのは大変ありがたいところですね。
ニュースの天才

テーマは良いのに盛り上げ不足。
この映画に登場する「ニュー・リパブリック(ザ・ニュー・レパブリック)」誌も、ヘイデン・クリステンセン(最近観ないな)演じる主人公、スティーブン・グラスも実在する人物で、実際に彼が起こした記事捏造事件を元にした実話ベースの社会派映画です。
「今だったらすぐに調べられて炎上しちゃうだろうになー」なんて思いつつ観ていましたが、でも実は今まさにトランプ大統領誕生によって注目されている「フェイク・ニュース」の先駆けのような話でもあるし、別にテクノロジーが進歩したからと言って無くなるような話でもない、というなかなか背筋が寒くなるような背景を持ったお話ではありました。まあ、洋の東西を問わずこの手の話はおそらくどこにでも、いつの時代でもあることなんでしょう。
主人公のスティーブン・グラスは、“エアフォース・ワンに唯一置かれている雑誌”として名高い「ニュー・リパブリック」誌の若手記者。この頃のニュー・リパブリック誌は(おそらく同業他社も似たようなものだったんでしょうが)、いわゆるインターンっぽい「学生がバイトで記事書いてます」みたいな記者を安い賃金で大量に雇っていたようで、その中の一人がスティーブンなんですが、彼はなかなか優秀な記者として(実は真贋に問題がある)面白い記事を量産していたようで、気の利く人柄も相まって非常に評価の高い人物だった様子。
ところが、彼がある時書いた「ハッカー天国」という…少年ハッカーが大手企業を脅し厚遇で雇われたという記事を書いたところ、ライバル誌の記者が「これホントか?」と調査したことで彼の「フェイク・ニュース」が発覚、「ニュー・リパブリック」誌の存続に関わる大問題に発展する…という物語。割と核の部分に触れちゃってますが、事実を元にしたお話でもあるのでご容赦を。
そんな概要からすれば、社会派映画、しかもジャーナリズムがテーマの映画が大好物の僕としてはいかにもタマラン、ヨダレが垂れそうなテーマだなと楽しみにしていたんですが、まあとにかく全体的に掘り下げ不足のあっさり目な印象で、思ったほど惹かれる内容ではありませんでした。おそらくは時代から来る表現の乏しさというか…良くも悪くも洗練された現代の映画とは違い、力点の置き方がちょっとズレちゃってるような感じがしましたね。事実の社会的影響よりも、登場人物の浅い人間関係に矮小化した物語にしちゃった印象。
一番気になった点としては、この映画はあくまでもスティーブン・グラスその人の目を通した物語として描かれていて、彼がやったこと、そのことで動いた周りのアレコレや検証の一部は見られるものの、なぜ彼がそういう行動に出たのか、どういう風に事実として記事を構築していったのか…という、要は彼が“悪いことをしている”部分の描写がほぼ丸々抜け落ちているため、事実は事実としてよく分かるんだけどその背景はサッパリ、という一番興味をそそられる部分が出てきません。彼を糾弾し、彼が反論する絵はあっても、彼の行動面での真実のところは何も描写されず、ただ単に事実として「これは嘘でした」という話しか提示されないので、「あ、そう。大変なことしちゃったね」しか感想が出てこないというか。
こいつやっちゃったよ感とか危ない橋渡ってるよ感、一言で言えば背徳感みたいなものがまるで無いので、やっていることの大きさの割に観客に対する訴求力が非常に弱い気がしました。そこがすごく残念。事実の大きさとしてテーマは評価できるんですが、映画としては正直かなり中途半端な内容だと思います。
もっと「足を踏み外している」感じだったり、そこに至る葛藤だったりが見えていればまた違うと思うんですが、そういう部分がごっそり抜けちゃってるので刺さらないわけです。もったいないなー。
事実を隠してのお話であればまだ「え!? あの記事嘘だったの!?」みたいな意外性もあったかもしれませんが、入り口でもう「フェイク・ニュースを作った人のお話」って告知されちゃってる上でのこれはちょっとつらい。
また、同僚の人物描写含め全体的にあっさりしていることに加え、なーんか主人公のスティーブンが「悲劇のヒーロー」的な、被害者っぽい描写になっているのも気になったところ。
これも「真面目に頑張る」→「評価されない」→「偽記事に手を染める」みたいな段取りを踏んでいればまだいいんでしょうが、物語のスタートからもうすでに評価されている人物っぽく描かれているので、彼の人生に起伏を感じられないのも良くない点でしょう。そこで被害者面されてもねぇ、っていう。
うーん、惜しい。テーマがテーマだけに、描き方でまるっきり違う良作になり得た作品だと思うので、非常に残念でした。
このシーンがイイ!
チャックとケイトリンがエントランスで言い合うシーンでしょうか。チャックの思いが見える感じが良かった。
ココが○
実話としてこの話自体がかなりいいテーマであることは間違いないので、返す返すも描き方がもったいない。
ココが×
やっぱり上に書いたように、描く内容をミスっちゃって盛り上がらない作りになっちゃっている点でしょう。
あと終盤の拍手してるシーンさぁ、あれ絶対おかしいでしょ。編集部の拍手。実際あそこで働いてたら「そんなことしてる場合かよ!!」って頭にきちゃうと思う。お偉いさんまで拍手しててバカなの? って思った。
あれをピークに対照的なシーンを見せつけて余韻を…みたいな流れはスジが悪すぎませんかね。
MVA
ヘイデン・クリステンセンはやっぱりスター・ウォーズ新三部作がイマイチ、みたいな烙印を押されて若干日陰者になっちゃったんでしょうか。今作では青臭い、大人になりきれない記者をしっかり演じていてよかったと思いますが、今回はこちらの方にしましょう。
ピーター・サースガード(チャールズ・“チャック”・レーン役)
新任編集長の嫌われ者。
この人とても悪役っぽい嫌な感じが似合う気がするし、実際この映画でも嫌な感じだったんですが、実際は彼なりに真面目に、実直に仕事に取り組もうとしていた感じが出ていてよかったな、と。でも悪役っぽかったけど。


