映画レビュー0796 『美しい湖の底』
今回はネトフリオリジナル映画でございます。去年だったか何かで目にして観たいと思っていたサスペンス。
この映画含め、ネトフリオリジナルはトップクラスではない役者陣の映画が多い気がするんですが、たださすがに流通経路がネトフリのみということも手伝ってか、ビジュアル(サムネイルに使われる静止画とか)に対する意識が強い=ひと目で観たくなるような良いビジュアルを据えてくる印象がありますね。
この映画も静止画一発でサスペンス好きを引き込む美しさと不気味さがあって、おかげでまんまと乗せられるように鑑賞に至りました。
美しい湖の底
見せ方は上手だけどロジックが少し雑?
- 物語は金曜日から始まり、1日ずつ戻りながら火曜日で終わる時間逆行型サスペンス
- 誰もが顔見知りの田舎町で起こった銀行強盗とその容疑者を巡るアレコレを振り返っていくことで徐々に浮き彫りになる事実
- 登場人物が少ないために理解しやすく、時間も短いので観やすいサスペンス
- 話自体は普通、ただ逆行型にしたために飽きさせないアイデアは○
よくある「誰もが顔見知りの田舎町で起こった大事件」を、逆の流れで見せることでちょっと込み入った展開に見せるサスペンス。いわゆる「メメント」方式ですが、あれほど行き来が激しいわけではなく、1日単位で戻っていくお話です。
流れとしては、まずスタートが金曜日の朝。そこから金曜日の夜まで描いて次は木曜日の朝。そしてまた木曜日の夜まで描いて…という感じで火曜日1日を見せて終わります。
そんなわけでまずは金曜日。この後に明かされる銀行強盗の容疑者の一人、アンディが目覚めるところからスタート。
彼は返り血なのか怪我なのか…少し身体に血がついた状態で、もうこの時点ですでにただ事では無さそうな雰囲気。どうやら自宅の地下室に“隠れて”いるようで、すぐさまやってきた娘は「ここにパパがいるのは二人だけの秘密だぞ」と追い返し、その後すぐに保安官のジークがやってきたことを察知し、隣家の車を盗んで間一髪で逃走。助手席には大金が入ったバッグがあり、誰かに「金を手に入れたぞ」とご報告。
…とあんまり序盤を説明したところで伝わりにくい構造の映画でもあるので、あとは観てくださいまし。
そんなわけで当然ながら話自体は徐々に明かされていくため、初日(であり時間上は最終日でもある)の金曜日を観たところでよくわかりません。後部座席に乗せられるジークの相棒がブチギレるのはなんで? とかこの時点でわからないことばっかり。当然それは順を追って振り返っていくうちに理由が明かされていくわけですが…。
「メメント」を観たことがある人であればよくわかると思いますが、やはりこういう逆行型の映画というのはとにかく観ながら頭の中で状況を整理するのが精一杯になりがちなので、それ故か登場人物も少なめに、関係性を絞って“謎”に焦点を合わせやすくするのがセオリーなんでしょう、この映画もそういった形を踏襲していて、「主要人物の少なさ」から来る単純な構造=閉鎖的な田舎町が舞台、というこの手の映画としては割とオーソドックスな作りという印象。
その分「なんでこの人は殺されたのか」「犯人は誰なのか」「名前だけでなかなか出てこないあいつが鍵を握るんだな」と観客をうまくリードしてくれ、割と誰が観ても同じように疑問を抱き、同じように誰が怪しいかを嗅ぎ取り、そして同じように「そういう話かー」という最後を迎えるんじゃないのかな、と思います。なので割と平均値が高いというか、この手のサスペンスが好きであればそこまで外すこともない、割と安定してそこそこ楽しめる映画のような気はしました。
ただ、正直結末まで観た後に振り返ると「じゃああれは誰と話してたんだ?」「となるとあれはおかしくない?」とかいろいろとボロが見えてくるのも事実で、そこまで巧妙に作られた映画でもないとは思います。逆行型で惹き付けやすい分、話としては超がつくほど普通の話だし(この辺はメメントもそうですが)、やはり見せ方、構成でうまく嵩上げしている映画なんでしょうね。
そんなに珍しい手法ではないものの、しかしこういうやり方に合いやすい環境を作った上で普通の話を一応それなりに観られるものに仕上げた、という意味ではなかなか試合巧者ぶりが伺える映画かもしれません。
最終的な完成度という意味ではまだまだだと思うので、「うおー! 騙された!!」みたいな衝撃を受けるほどの話ではないんですが、ただ90分無い短い上映時間でコンパクトにまとめ、「わかりやすい環境でそれなりに頭を使わせてくれる」という面で、ガッツリじゃなく気楽に「ちょっとサスペンス観ようかな」という時には悪くないチョイスのような気がしました。
ちなみにネトフリオリジナル(おまけにサスペンス)というと、あんまり制約がない分グロくなりがちな印象があるんですが、この映画は当然のように死体も何度か登場しますが無駄にグロいような場面も無く、至って普通に観られるサスペンスになっている、というのはとても良かったと思います。そういう意味でも「気軽に観られる」サスペンスですね。
このシーンがイイ!
捜査方針についてジークがFBIに説明するシーン。「田舎の保安官が上でFBIが下」っていう構図の珍しさが際立つ面白いシーンだと思います。コメディでもないのにああいうボンクラなFBIが登場する、っていうのはなかなか観ないので面白かったなと。
ココが○
構成で引っ張って見せきる展開は素直に面白かったです。やっぱり観ている方が気になる点をフォーカスしやすい作りになっているのがポイントなんでしょうね。
あとは上にも書きましたが、グロく無いのが良い。ネトフリオリジナルだから、って過激描写を張り切られるとウンザリですからね。
ココが×
ネタバレ項に書いたような気になる点が一番でしょうか。
あと別に湖あんまり関係無くね?
MVA
ビタッとハマったぜ、っていう人はいなかったんですが…まあ割と素直にこの人かな。
レイン・ウィルソン(アンディ・サイキス役)
最初っから出ずっぱりの物語のキーマンと言っていいでしょう。というか狂言回しになるのかな。
彼も彼で相当なボンクラっぽいんですが、明確に抜けている他のメンバーと比べると割と普通の人っぽさもありつつダメさが際立つという、なかなかいい塩梅に「田舎のダメおっさん」をきっちり演じていたと思います。