映画レビュー1310 『キラー・ジーンズ』
今回はウォッチパーティより。この手のB級は人気になりがち。
キラー・ジーンズ
エルザ・ケプハート
パトリシア・ゴメス
エルザ・ケプハート
ロマーヌ・ドゥニ
ブレット・ドナヒュー
セハル・ボジャーニ
スティーブン・ボガート
Delphine Measroch
2020年9月11日 カナダ
77分
カナダ
Amazonプライム・ビデオ ウォッチパーティ(iMac)
意外と社会派、バカにできない。
- “曰く付き”のジーンズが従業員を襲う
- 為す術もなく順番に殺されていく店員たち
- おまけに店長が狂ってるので救いようのない事態に
- ファストファッションを始めとした現代資本主義社会への風刺
あらすじ
タイトルからして「くだらねー!」と言いつつゲラゲラ笑っちゃうコメディを期待していたんですが、いやいや全然マジなホラーで風刺も入っていて割とちゃんとした映画でびっくり。
もう店舗の雰囲気からディスプレイまでまんまユニ●ロっぽいファストファッションショップ、CCC。
主人公のリビー(ロマーヌ・ドゥニ)はキラキラな眼差しでクソみたいなルールにも従いながら憧れのCCCに今日から勤務。
そのCCCでは「誰にでもフィットする」新作ジーンズの発売を翌日に控え、一足早くインフルエンサーに宣伝してもらうために店舗を封鎖し、また翌朝のオープンに向けてスタッフ総動員で準備中。
しかしその準備中に姿を消した女性従業員を店長に探せと命じられたリビーがトイレを探すと、そこには下半身を切断された彼女の姿が…!
その後も一人また一人と姿を消していくスタッフたち。そこはもちろんタイトル通りに「動くジーンズ」によって殺されていくわけですが、彼(?)の狙いやいかに…!
購買行動について考えさせられる
そんなわけで話としてはシンプルです。
とある目的をもったジーンズが、ショップの店員たちを次々と血祭りにあげていくホラー。バカバカしいタイトルとビジュアルに反して意外と真面目にホラーしていて、そこそこグロい。綺麗な店舗とグロさのミスマッチがいい塩梅とかいう噂です。
一致団結してジーンズに立ち向かうぞ! 的な話かと思いきやそうではなく、ジーンズは割と隠密気味でなかなかバレない中、出世欲に絡め取られたキチ●イ店長のせいで「お前が犯人じゃねーの?」と疑わざるを得ない絶妙な立ち居振る舞いによって事態はややこしくなってしまい、それによってまた被害が拡大していくというリビーにとってはなかなか厳しい初仕事です。なかなかどころじゃない。
厳しいのはジーンズがオフェンシブだからというだけでなく、そもそも「今日から勤務の新人」に対しても誰もがあからさまにめんどくさそうに接するクソみたいな先輩ばっかりな環境だったり、「最新の自社ブランド製品を自腹で購入して着ないと働けない」アパレルあるある搾取だったり、もうのっけから「ここで働くのやめとけよ」状態。
ちなみに自社製品を自腹で買わせるのは(カナダはわからないけど少なくとも日本では)違法らしいので、もし今そういう義務を課せられている人は黙って公的機関に相談しましょう。
他にもなんならちょっと宗教じみてすら見える“意識高い系”店舗運営スタイルだったり、もうあちこちにファストファッションの“それっぽさ”が満ち満ちた地獄ですよ。嫌でもユ●クロが思い浮かびました。
そして例によって製品の生産は発展途上国の違法労働によって支えられている、でも「フェアトレードだよ」とアピールしていたりする…というとにかく今のファストファッション、引いては資本主義そのものへの皮肉のようなものがゴリゴリに込められています。見てるか!? SH●IN!?
そんな感じでとにかく現状の業界や社会に対する批判、皮肉が強いお話でした。そしてそこが良いし考えさせられるよね、と。ただのバカ映画じゃないんだぞ、と。
とは言えこの手の企業が生き残り、あまつさえ評価される(この映画でも主人公の“働くのが夢だった”という形で世間的な評価が示される)のは消費者の支持があってこそ、なのも言うまでもないことで、そこに対する皮肉もまた込められた映画になっています。
観ていてもうこういう商売はやめてみんなが普通に暮らしていけるような「きちんと対価を払う」、いわゆる持続可能な社会にしていかないとダメだよな…と思いはしますが、しかし自分にもそんな余裕はないために翌日笑顔でユニ●ロに行っちゃってたりもするわけで、これはなかなか根深いし難しい問題だなとも思います。
実際「皮肉だねー」なんつって上から目線で感想を垂れ流しつつ、自分自身働き始めてからファストファッション以外で服を買った記憶がほとんどないんですよね。振り返ると。
記憶を辿ればユニクロはもちろん、GAP、ZARA、H&M、GU、COMME CA ISM、全部ファストファッションですよ。高くても無印、みたいな。一時期JOURNAL STANDARDが好きでよく行ってましたがセレクトショップはそれぐらい。ハイブランドはもちろん無縁です。
あまりファッションに興味を抱いてこなかった人生というのもありますが、それ以上にやっぱり経済的な理由で「服にそんなに高い金は払えない」のが正直なところで、そしてそう考える人も珍しくないと思うんですよ。今の時代。
自分がもっとイケメンだったらもっとそっち方面に力を入れていたかもしれないんですが、丸みを帯びた柔らかなフォルムが自慢なので路線としては雪見だいふくに近い。雪見だいふくがハイブランドなんて着ないでしょう。
だからこそ「比較的安くてクセがなく質も悪くない」ユニクロ辺りの使いやすさに依存してしまうんですが、しかしその路線も「社会や地球に対する配慮」を考慮するようになると、そろそろ無視できない悪影響にも目を向けないと責任ある大人とは言えませんよね? というメッセージが感じられて、そこが非常に刺さりました。
もちろんユニクロがそうだと言っているわけではありません。まったく別問題ですが一律に従業員の給料上げて偉いよねとも思うし。ただ一方でいろいろな問題を見聞きする企業であることも事実です。
大事なのは、自分がお金を払う企業がどんな企業なのかを知ることで、その上で今までは価格(≒コスパ)だけ見ていたものをもう少し視野を広げて、企業の理念や目指す社会像も考慮に入れた選択をするべきだな、という点ではないでしょうか。
例としては創業者が持ち株すべて(30億ドル相当ですってよ)を環境NPO等に寄付したパタゴニアのような企業が挙げられますが、やはりそういった「自分がお金を出したくなる企業」の商品を買うようにする、という意識が今後大事になるのかなと思います。それとその0.1%でいいからくれよ、という意識も。おれも頑張って自然守るぜ、っていう。
B級のようで真面目
ちょっと待ってこれキラー・ジーンズのレビューだから。
まあそんな感じでね、とてもB級映画とは思えない真面目な方向に思考が広がっていってしまう不思議な映画でございましたよ。
絵面としては本当にバカバカしいものではあるんですが、その裏のテーマ性のおかげで意外とバカにできない映画になっているのは…なんとなくカナダ映画らしいな、という気がするとかしないとかいう噂です。
「ザ・スタンド」もそうでしたが、ものすごいB級っぽく売り出されている割に中身は真面目にちゃんと作ろうとしている感じがするんですよね。カナダ映画って。
時間もかなり短く余計なものを入れ込まないところに潔さを感じるし、本当に「バカにできないぞ」というのが正直な感想です。終わり方も嫌いじゃない。
とは言え「観ろ!」と熱量高くオススメするほどの映画でもないのが残念ですね。
それにしてもなぁ…やっぱり今の経済環境はいろいろ考えないといけないと思うんですよ。
「安いけど企業が良くないから買わない」というのも一つの考え方ですが、反対に「応援したいから買う」、つまり値段以外の選択肢を重視するような、いわゆる“推し活”に近いような経済活動が今後のポイントになるかもしれないですね。
推されるような仕事をして儲けよう、と意を新たにしました。お金が欲しいです。安西先生。
このシーンがイイ!
メイキングがある映画はいい映画。よってエンドロールのメイキングです。好き。
ココが○
やっぱりテーマ性があるところ、でしょうか。
ラストシーンがああいうシーンになっているのはテーマ性を大事にしているから、のような気がするんですよね。本当の“怪物”は誰なんですかね? っていうね…。
ココが×
突き抜けて面白いぞ、という映画ではないのでどうやっても評価は程々にならざるを得ないんですが、しかし取り立ててここが良くないと文句を言いたくなるような面もないのでやっぱり悪い映画ではないなと思います。
ただいくらホラーだからってバックヤードが暗すぎるぞ。この店。
MVA
主人公の女の子、表情豊かだしかわいいしで良かったんですが、この映画はこの人でしょうね。
ブレット・ドナヒュー(クレイグ役)
店長。及びクソ野郎。
マジで狂ってるしクソ野郎だし完全に悪役なんですが、その狂ってる感じを強調しすぎず「普通にヤバい人」みたいな感じがとてもお上手でした。
微妙にイケメンなのも腹が立って良かった。ちょっと(もう少し若い頃の)おヒューに似合いそうな役だなとか思ったり。