映画レビュー1207 『サラエヴォの銃声』

今回もJAIHOです。

この数日前にロシア軍のウクライナ侵攻が始まってしまい、「第一次世界大戦絡み」と見かけたこの映画を観るべきタイミングだと思って観ました。

サラエヴォの銃声

Smrt u Sarajevu
監督

ダニス・タノヴィッチ

脚本

ダニス・タノヴィッチ

原作

ベルナール=アンリ・レヴィ

出演

ジャック・ウェベール
スネジャナ・ヴィドヴィッチ
イズディン・バイロヴィッチ
ヴェドラナ・セクサン
ムハメド・ハジョヴィッチ

音楽

ミルザ・タヒロビッチ

公開

2016年5月12日 ボスニア・ヘルツェゴビナ

上映時間

85分

製作国

ボスニア・ヘルツェゴビナ/フランス

視聴環境

JAIHO(Fire TV Stick・TV)

サラエヴォの銃声

前提となる知識が必要なかなりハイコンテクストな映画。

6.5
“サラエボ事件”から100周年の記念式典当日、会場となるホテルの一日
  • 会場のホテルに集まってきた人たちによる群像劇
  • 前提となるサラエボ事件の知識がある程度ないと理解しづらい内容
  • メッセージ性が強すぎるのか、理解できない人間には面白みが薄い
  • 己の不学さを呪う映画

あらすじ

僕は勝手に第一次世界大戦のきっかけとなった「サラエボ事件(サラエヴォ事件)」の背景を描いた映画なんだと思って観ることにしたんですが、実際は100周年記念式典を舞台にした話でした。これを持って知識を得られると期待して観たら逆に知識を持って観ないといけない映画で、結局知識の無さ故に楽しめずに終わる、という残念な結果になったことをお知らせします。

舞台はサラエボ事件100周年記念式典が行われるとあるホテル、要人らしき男性を支配人が出迎えるシーンからスタートです。

その要人らしき男性・ジャック(ジャック・ウェベール)は部屋につくなり早々に一人演説の練習を始め、部屋の外にはガードマンが。

ホテルの屋上では100周年を迎えた特別番組と思しき有識者への対談の撮影が行われております。

フロントのラミヤ(スネジャナ・ヴィドヴィッチ)は酔った勢いで一夜を共にした調理人を冷たくあしらいながら忠実に業務をこなしておりますが、このホテル自体は経営が芳しくないようで、2か月無給で働く従業員たちはストを計画中。

この日のホテルに会した面々がそれぞれの思惑で動く一日、果たして式典は無事終わるのか、はたまた…。

それなりに知識が必須

そんなわけでホテルが舞台の群像劇、まさに「グランドホテル」方式…!

舞台が狭いだけに群像劇としてはかなり登場人物の距離が近く、群像劇として観るよりかは普通の「ホテルの1日」的な感覚の方が強いかもしれません。

この日を無事終わらせたいホテル支配人、彼の元で働く“右腕”的なフロント女性、メディアの注目も集まるこの日だからとスト決行を目論む従業員グループ、謎の要人とその警護に当たる警備員、特別番組の司会者、そしてその司会者とバチバチにやり合うことになる「サラエボ事件」犯人の子孫…と言った面々が主な登場人物になります。

一番わかりやすい部分としては、その特別番組の司会者と対談に呼ばれたサラエボ事件犯人の子孫のやり取りだろうと思うんですが、ここで「サラエボ事件」の意味するところや現地における政治的な意味合いを語らせることで背景の理解を深めることになる…んでしょうが前提となる知識が不足しているためにほとんどピンと来ないまま乗り切れず、まずその時点でこの映画に向いていないような気がしました。

これはやっぱりボスニアの人たちであったり、せめてヨーロッパに生まれた人間であれば無理なく理解できるものだったんでしょうが…日本人にはちょっと遠い話になってしまうのが残念。

何より第一次世界大戦絡みの知識を持ち合わせていない自分の学のなさが情けなく感じられましたね…。

その他描かれるホテルでの出来事や格差のようなものも、ボスニアの現状を暗喩したものなんだろうとは思うんですがその辺も詳しくはわからず、わからないからとただ「普通の群像劇」として観る分にはそこまで深いものも感じられないので、知識がないと本当に理解できないかなりハイコンテクストな映画だと思います。

おそらくはそれこそが監督の狙いで、前提知識があってこそ意味のわかる内容を入れ込んでそれによって語りが完成する作りになっているんだと思いますが、その手法が前面に出てしまっているせいでわからない人にはさして面白く感じられないなかなかしんどい映画でした。

よほど世界史に興味があるか、あの辺の政治や国の歴史に詳しくない限りは「映画として」楽しむのはなかなか厳しいと思います。

ただこれをきっかけにして学ぼうと思うことは十分あり得るので、そのきっかけとして観てみるのは良いかもしれません。面白いかどうかは別ですが…。

教養の大切さ

もっとも「群像劇として面白いかどうか」は置いといたとしても、文脈がわからないとまったくわからないと言うほどハードルが高い話でもないので、「なるほどこういうことってありそうだよね」ぐらいの簡単な感想は抱けます。

ただそれが知識に結びつかないとどんなメッセージが込められているかの部分がわからないだけに深みが出ず、だったら他の群像劇観といた方が良いんじゃないのというお話。

この映画の否定と言うよりは己の知識の否定ですよ。お前みたいな無学野郎はしょうもない映画でも観て笑っとけよ、みたいな。

この映画を観たことで、当たり前ですが「知識があれば楽しめる、より深いものを受け取れる映画」っていっぱいあるんだろうな…と、教養の大切さを改めて感じました。

何せ「サラエボ事件」は世界的な事件なだけにドキュメンタリーとかもありそうだし、まずはそっちから入ってみたいところですね。そうすればこの映画から感じるものが結構変わりそうな気がします。

このシーンがイイ!

ラストシーンはなかなか印象的でした。

ココが○

僕はわからなかったので「面白くはなかった」と言いますが、ただこういうハイコンテクストな映画って大事だと思うので作られたこと自体は否定したくないですね。

むしろ日本こそこういう映画を作って過去の事件をしっかり総括するような文化が育ってほしいと思いますが…難しそう。

ココが×

やっぱりちょっと日本人には遠くて理解しづらい面があるのは否めません。これを「面白かった! 深い!」って言える人は相当学があると思う。

MVA

まあ順当にこの人でしょうか…。

スネジャナ・ヴィドヴィッチ(ラミヤ役)

フロントの女性。一応主人公と言っていいでしょう。

何が良いって歩くときの姿勢の良さがすごくホテルマン(ウーマン)っぽかったんですよね。凛としていて。

職務にも忠実で出来る人っぽいのも良かったし、それ故後半の展開もなかなか味があるな…と。

映画レビュー1207 『サラエヴォの銃声』” に対して2件のコメントがあります。

  1. momoji より:

    戦争と関連した映画見るたび、自分も無知を痛感しています。
    でも最近は、もう辛いの分かってるから、そーゆーのお腹いっぱいだから、とそれ系の映画は(最近のニュースも)敬遠しております。

    サラエボの映画と聞いて、私は『サラエボの花』を思い出しました。
    こちらも「ボスニア・ヘルツェゴヴィナ紛争」をよく知っていたら、より受け取るものがあったのかもしれません。でも知識薄くとも、観て損は無かったです。配信に同タイトルがあった際、観たい映画が見つからなかったときのため、頭の片隅に留めておいていただけたら幸いです。

    本レビューに関係ないコメでスミマセン。

    1. しゅういち より:

      「サラエボの花」は初めて聞きました!
      あっちの方の映画はなかなか縁がないので
      観ることで学んでいきたいところではありますね🤔
      ありがとうございます!

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