映画レビュー1285 『最善の人生』
今回はちょっと特殊な形というか、なんプロアワードでも書いた通りなぜかレビューが消えてしまって欠番となっているため、鑑賞から約1年経ってはいますが思い出しつつレビューを書きたいと思います。
本来であれば再鑑賞して書きたいところなんですが、JAIHOでの配信も終了し、現状おそらく観る手段がないのでやむを得ず特例としてこういう形を取っていますが、いつも以上に参考程度に読んでいただければと。
ただ映画としては他の数多ある映画以上に記憶に残る映画でもあったので、細かい部分はともかく割と内容は覚えています。
最善の人生
イ・ウジョン
イ・ウジョン
『最善の人生』
イム・ソルア
パン・ミナ
シム・ダルギ
ハン・ソンミン
イ・ミンフィ
2021年9月1日 韓国
109分
韓国
JAIHO(Fire TV Stick・TV)
狭い社会の閉鎖的な環境が導く“最善”。
- それぞれに不満を抱え、一緒に家出を決意する3人
- 最初は楽しく暮らしていたものの、やがて共同生活は終わりを告げ…
- 学生時代らしい関係性の変化を鋭く描いた一作
- JKにしか見えない主演パン・ミナ、まさかのアラサー
あらすじ
鑑賞当時は良かったけど不満あり、みたいな感じだったんですが、思い出すためにいろいろ調べたりしていると逆に存在感が増してくるというか…改めて思い起こすとすごく印象深い一本でしたね。
テジョンの女子高に通う18歳のガンイ(パン・ミナ)、アラム(シム・ダルギ)、ソヨン(ハン・ソンミン)は親友同士でいつも一緒に行動しています。
中でもソヨンはモデルを目指しているだけに美人として有名で、さらに成績優秀とあって教師たちに気に入られていて、そのおかげで何か問題を起こしても彼女といることで処分が甘くなるような特典付き。いわゆる「スクールカーストのトップ」にいるような女子です。
一方アラムは変わり者として見られていて、スクールカーストの下位…なんなら外にいるようなタイプ。その分誰とも分け隔てなく接するのは彼女の才能なんでしょう。
そんな二人の存在が“すべて”と言える主人公のガンイは、スクールカーストの中でも特に目立たず「普通の子」です。
ある日突然ソヨンから「一緒に家出しない?」と誘われた二人。父親からの暴力に悩むアラム、傍目には大きな問題がなさそうなのにとにかく家を出たいと思っていたガンイも同意し、揃ってソウルへ出ていくことに。
その後いろいろあって3人は半地下の家を借りて共同生活を開始。最初は楽しかった生活ですが、お金のない3人は徐々にすれ違いが目立ち始め、やがて生活は破綻。元の生活に戻っていくことになるんですが…。
リアルな“狭い社会”の関係性
3人の少女たちの関係性の変化を描く青春映画。
結末の“強さ”は良くも悪くも韓国映画らしい鮮烈なもので、とは言えそれが嘘くさくもない丁寧なシナリオが質の高さを感じさせます。
「少女たち」と書きましたが、最も「その辺のJKっぽい」主人公ガンイを演じるパン・ミナは元アイドルで撮影当時27歳。これが一番の衝撃というウワサです。
良い意味でかわいすぎず(磨けば光りそうな)平凡さを持ったルックス…に見せるすごさ。「大人になったら美人になるだろうね」と思わせるJK時代を、実際に美人なのにそう感じさせない髪型やメイクで本物っぽく見せるキャスティングがまー素晴らしかったですね。
共同の家出生活を経て関係性が変わっていく3人の姿を追った映画なんですが、いかにも学生時代らしい“狭い社会”でのドラスティックな変化は誰しも何らかの記憶に引っかかりそうな“居心地の悪さ”があり、ここまで大きなものでなくても「学生時代の残酷さ、不条理」を改めて見つめ直すきっかけになる映画ではないでしょうか。
やはり学生だからこその条件が整ったが故の物語というところにこの映画のリアリティがあり、「家出をする(できる)環境」であったり「親友たちと毎日のように遊ぶ」生活であったり「社会を知らない」閉鎖性であったり、もうとことん結末に向けて舞台装置が揃ってしまったがための“最善の人生”というね…いやこれ邦題も素晴らしいですよ。
ちなみに英題の「Snowball」はそのまま雪玉という意味ですが、劇中に雪は出てきません。なんなら暑い日の方が多い。
じゃあなんでか…というとこれは「転がりだしてどんどん大きくなる」という意味での雪玉ってことなんでしょう。些細なことから始まって、気付けば取り返しのつかない大きなものになっている、と。
三者三様のキャラクター、環境の違いも見事で、最も平凡で最も不満を感じていないであろう主人公のガンイが最も大きな不条理を受けて最も重大な事態を招く…というのもいろいろと考えさせられるものがあります。
ひたすら持ち上げられて生きてきたソヨンはともかく、最も虐げられていたはずのアラムはそれでも最も優しさを感じる面もあり、おそらくは最も強い人でもあったんでしょう。その強さがないがためにこの映画の結末を引き起こしてしまうガンイ、そして同様にソヨンの“弱さ”にもいろいろと考えてしまうお話でした。
「子猫をお願い」を経て
フィルマークスのレビューで、ある人が「子猫をお願い」になぞらえて「もう子猫を預かってくれる人はいない」と書いていて、なるほどなぁとひたすらに頷きました。確かにあの双子がいたから他の3人が“こうならずに済んだ”とも言えるかもしれない。
僕も最初のレビュー時に「子猫をお願い」と比べて何かを書いた記憶があります。確か…序盤3人で遊んでいるときに何気なくかかる劇伴も「子猫をお願い」っぽかったんですよね。ちょっとシンセの音色が入った曲で。そして実際に猫も出てきます。
「韓国の女性青春映画」と言えばやっぱり「子猫をお願い」が一番に出てくるのは珍しくないはずで、それを踏まえての今作というのは間違いないでしょう。
ひたすら優しかったペ・ドゥナ演じるテヒが5人を繋ぎ止めていたのに比べ、同じく優しいガンイが2人を大切に思っていても“繋ぎ止めきれなかった”事実を思うととても悲しいものがあります。
ということで調べつつ思い出して書きましたが、やっぱり振り返れば振り返るほどいい映画だった気がしてきますね…。
観客に解釈を委ね、語りすぎない手法で考えさせる内容もとても良かったし、やっぱりこれはもう一度JAIHOに再配信してもらいたいですね…。
このシーンがイイ!
やっぱり…夏の夜のとある出来事が一番印象的でした。あれが一つのターニングポイントだったことも間違いなく…。
それと同じく共同生活中に街灯を消そうとするガンイのシーンもすごく覚えてます。あそこにも観る側がいろいろと察してしまう饒舌さがあって。
ココが○
まあなんでこんなにリアルかつビビッドに学生生活を描けるのかなぁと1年経っても思います。この切れ味は韓国映画ならでは…なのではないでしょうか。
ココが×
重い映画ではあるのでやっぱりある程度ズシーンと来ますね…。ハッピーになれる映画ではないです。
MVA
アラム役の女優さんもビジュアル優先ではないからこその演技派感があってとても良かったんですが、やっぱりなんだかんだこの人かなと。
パン・ミナ(ガンイ役)
主人公。当時27歳、でもJKにしか見えない。
上にも書いた通りメイクも質素なこともあって見た目としてはあまり目立たない「普通の女子」っぽいんですが、それでも優しさであったり葛藤であったり目力であったり、まあとにかく記憶に残る演技が素晴らしかったです。とてもアイドル出身だとは思えませんでした。それは偏見ではなく、最初から俳優を目指してそこに立っているとしか思えないぐらい職業女優っぽい力強さを感じて。
本国でもかなり評価されたようなんですが、今のところ映画の出演はこれだけのようです。他でも見てみたいなぁ。