映画レビュー0804 『ソウル・キッチン』
やぁ。ネトフリ終了間際鑑賞おじさんだよ。
ソウル・キッチン
ドイツ映画っぽくない! 人間愛溢れる名コメディ。
- ダメ人間による愛すべきレストランのアレコレ
- 登場人物みんな「愛すべきダメ人間」感があって素敵
- ドイツ映画らしからぬ娯楽的観やすさ
- 劇伴もポイント
偉そうに「ドイツ映画らしからぬ」とか書いてますが全然詳しくありません。詳しくありませんが、でもなんか…ドイツっぽくない。
フツーの人によるちょっとイイ話感漂うコメディということで、僕にとってはかなりドンピシャなジャンルの映画でした。おまけに主人公はダメ人間、もっと言えば腰痛持ちという点までシンパシーがマジハンパねーって。流行りに乗っておきますけども。
でもこれを掲載する頃はかなり微妙なタイミングのズレを感じさせるだろうねっていう。まあね。後々振り返って「ああ、そういや流行ってたね」みたいなのがわかるのも続けていくことの利点なのでね。大目に見ておくれよと。
主人公のジノスは「ソウル・キッチン」のオーナー兼シェフってやつですがそんな立派な肩書に見合った風でもなく、むしろなんでこんな大きい店を構えられるのか不思議なレベル。いかにもその辺の怠惰な兄ちゃん、って感じです。
ただ店自体は広いもののかなり古い建物みたいだし、厨房設備もかなりお粗末なので格安の居抜きっぽい雰囲気のお店ですね。ジノス自身の料理の腕も褒められたものでは無いんですが、でもなぜかそこそこ繁盛しているという。立地が良いんでしょうか。
ジノスにはなんだかんだ喧嘩しつつも溺愛している恋人がいるんですが、彼女は物語冒頭に中国へ赴任することになってしまい、一人寂しく彼女を待つことになります。skypeのやり方教えてもらったりして。いやらしい。
彼女がいなくなった直後にジノスは厨房設備の移動中にギックリ腰をやっちゃってですね、コレはまずいぞと。料理できんぞと。
仕方なく彼は別の(おそらく)一流店でシェフを勤めていながらブチ切れて客のテーブルに包丁を突き刺したためにクビになったシェインを雇い入れるんですが、彼の作る料理は「ソウル・キッチン」の客層に合わず、いきなり閑古鳥でお店も危機に陥ります。
さらに前後しますが窃盗で服役中のジノスの兄・イリアスが「仮出所したから形だけでも良いから雇ってくれよ」とやってきてこれまたフラグ感満載、さらにさらに久しぶりに合った旧友が今は不動産業を営んでいるってことで「ソウル・キッチンを買わせてくれないか」とジノスに打診してきたりといろいろ火種があちこちにボコボコのボコなわけです。
仮出所の兄、買収打診、遠くへ行ってしまった彼女、トラブルメーカーのシェフ、離れた客たち、そして腰痛…! どうなるソウル・キッチン…!!(安っぽいまとめ)
あえて書くまでも無いですが、やはり舞台的にはあの「なんプロ史上最低映画」の称号を戴く某映画を彷彿とさせるため、正直観るべきかどうか悩んだ部分もありました。違うだろうとは思いつつ、結構なトラウマなのでね…。なんかジャケットの雰囲気も似てる気がするし。
ところがどっこい、こちらはかなりの良作でしたよということで観てよかった。結果。
内容的にはいわゆる僕が好きな「一般人寄り添い系コメディ」と言っていいでしょう。フツーの人がいろいろありつつエンディングに向かう日常ドラマをややコメディタッチで描く映画です。
正直、僕が観てきたドイツの映画は、大体手を変え品を変え第二次世界大戦の反省を描く映画ばっかりだったので、こういうフツーの人のフツーの日常を軽めのコメディタッチに載せて見せる映画というのは初めてで結構意外でした。
劇伴の使い方にしてもアメリカ映画っぽいこなれた感があったし、なんとなくノリで場が動いていく(良い意味での)いい加減さもドイツのイメージにそぐわない感じで、「おー、ドイツにもこういう映画あるんだー」と嬉しい誤算。
まあそりゃあるでしょって話なんですが、でもいざ観てみると結構新鮮で。なので「ドイツ映画」に難解とか真面目とかイメージをお持ちの方はそんな肩肘張らずに観ても大丈夫だよ、とお伝えしておきたいところ。テンポも良いし(若干ストレートなエロはありますが)誰にでもオススメできるタイプの映画ですね。
僕は最初、どーも主人公の雰囲気にあんまり惹かれなくて乗りにくい部分があったんですが、ただずーっと観てるとめちゃくちゃいいやつなんですよね。主人公が。クセがありそうな雰囲気なんだけどすごくいいやつっていう。
初対面で「なんかあんまり仲良くなれなそうなタイプ」と思ってたらすげーいいやつで超仲良くなっちゃった、みたいな。そういうタイプの主人公。わかりづらいことこの上ありませんがそうなんです。
頼まれたら断らないし、ちょっとヤンチャしそうなシチュエーションでもそういう素振りもなく真面目だし。最初はただの無気力野郎なのかなって思ってたんですが、ずーっと追っていくとそうじゃない、ってことに気付くんですよ。
この「追っていくと本当にいいやつなんだな、っていうのがわかる」展開がすごく好きでした。あからさまにいいやつ感を漂わせることなく、時間が経つごとに「はー、ジノスいいやつだなぁ…」ってしんみり思わせてくれる感じ。ガサツで無気力なように見えて、実際は親しい人たちへの熱い心とレストランへの思いを持っているというその性格描写が結構グッと来て、後になればなるほど主人公が好きになる、応援したくなるような作りが良かったですねぇ…。
ジノスははっきり言ってお金はないし、行き当たりばったりな生き方は決して褒められないんですが、でも裏をかいて騙してやろうとかそういう気持ちが一切ない、文字通り裏表のない素直な人なので、こっちも素直な気持ちで観ていられるし、うまく行ってほしいと心から思える。この「心から思える」状態で話を追えるのは実はなかなかあんまりなかったりもするので、そういうストレートに楽しめる映画として実はかなりレベルの高い映画なんじゃないかなーと思います。
当然ながら途中でわかりやすいヒールっぽい人も出てくれば、悪い予感がするような展開もあちこちに出てくるし、ある意味ではいろいろベタなストーリーではあるんですが、ただ「ジノスいいやつだから良い方に行って欲しい」と素直に思いながら観られるだけですごく楽しめるんですよね。
実は何気にすごくいいキャラだと思います。ジノス。そう思えるシーンが序盤からさりげなく散りばめられていて、僕のように「実はレストランに爆弾が仕掛けられてて全員殺してのサイコパスエンドちゃうか」とか疑っちゃうような疑心暗鬼の塊のような人でも最終的には心が浄化されるような良いコメディでした。
ドイツ産コメディということでなかなかメジャーになりきれない面はあると思いますが、しかしどうして結構な良作なので、この手の「一般人寄り添い系コメディ」が好きな方はぜひ観て頂きたいなと!
このシーンがイイ!
上に書いた通り、ところどころで「ジノスいいやつだなー」と思わせてくれるさりげないシーンがすごく好きだったんですが、具体的にどことかは忘れたので割愛します。(ひどい)
ということで単純にシェインが包丁投げるシーンが好き。笑う。
ココが○
軽く楽しめるコメディながらきっちり成長物語の面もあるし、フツーの人の人生における大きな出来事をギュッと詰め込んで見せてくれる覗き見感はなかなかのもの。こういう映画ほんっと好き。
ココが×
やっぱりコメディ故のご都合主義的展開はところどころあるので、その辺はあんまり気にしない方が良いでしょう。
MVA
いいやつジノスサイコーと言いつつ、選ぶのはこの人。
ビロル・ユーネル(シェイン・ヴァイス役)
ギックリ腰をやっちゃったジノスが雇い入れたトラブルメーカーの天才シェフ。
すげーダンディでかっこいいけどすげー危険な雰囲気も漂っててすげーいい役者さんだな、と思いました。「ブラピの兄だよ」って言われると信じちゃうぐらいブラピ感もあって。
正直もっと出番があったらいいなーと思いましたが、ただ出番の少なさの割に強い印象を残す役だったし、そういう意味でも他とはちょっと違う格みたいなものを(役柄的にも)感じましたね。