映画レビュー0690 『スパイダーマン:ホームカミング』
先週アップしようと思ってすっかり忘れておりました。
お盆休み真っ只中の先々週日曜日、IMAX3Dにて鑑賞。「メッセージ」以来の劇場ってことで…今年は行けてないなー。
スパイダーマン:ホームカミング
悪役の描き方もお見事な完璧リブートMCU版スパイダーマン。
MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース=一連のマーベルヒーロー映画シリーズ)版スパイダーマンということで、過去のスパイダーマンシリーズとは異なる新たなシリーズとなります。
僕はスパイダーマンに関しては最初の1作目(トビー・マグワイア主演の「スパイダーマン」)のみ観ていて、最低限の知識のみある(クモに噛まれて能力開花したとか両親はいなくておじさんに育てられたとか)ような…まあ「特に好きでもない一般人」的な立ち位置と思って頂いて問題ないでしょう。その「スパイダーマン」は娯楽映画的に特に悪くなかったような記憶があるんですが、とは言え「なんとしても続編は観ないと!」と鼻息荒く楽しみにするほどのものでもなくて、なんとなく観ないでいたらMCU版が来ちゃったよ、という感じ。
さて、今作のスパイダーマンはすでに「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」でお披露目を済ませており、また今作でもそのシビル・ウォーでも特段能力開花のご紹介話も無かったため、MCU版スパイダーマンは「もうわかってんでしょ」的なポジションでのスタートとなります。いい加減散々やってるしみんな知ってんでしょ、みたいな。クモに噛まれりゃこうなるのよ、と。そんな大前提の中スタート。
事実、スパイダーマンは数あるMCUキャラの中でも屈指の…なんなら一番じゃないか、ってぐらいに人気キャラらしく、例えば僕が大昔やっていたカプコンの対戦格闘ゲームでも「ついにスパイダーマンが参戦!!」ととんでもない煽りとともにご登場なさったことからもわかる通り、世界的には相当な人気を博するヒーロー=ご存知感が強いので、改めて一から説明することは放棄し、完全に「MCUの中に組み込まれたスパイダーマン」として作られた映画です。
舞台は「シビル・ウォー」の2ヶ月後からスタート…ではあるんですが、その前日譚として約8年前、最初の「アベンジャーズ」で多大な被害を被ったニューヨークの解体工事を請け負った工事業者の(たぶん)社長・エイドリアンが、工事のために人もトラックも増やして…要は復興事業のために力を入れるぞ、とリソースを費やしたところで「この仕事は私たちがやるからあんたたちはお役御免よ」とお払い箱にされてしまう場面から始まります。社員たちも自分の家族も養わなければいけないのにこんな理不尽なことがあって良いのか…と途方に暮れるエイドリアンですが、その解体工事の現場で拾ったチタウリの残骸にとんでもないエネルギーがあることに気付き、これを武器として裏に流せば金が稼げる、ということで裏社会に身を投じていく、というのが最初に語られる場面。
このエイドリアンが原作におけるヴィラン(悪役)です。演じるのはマイケル・キートン。
どうやらそのお役御免にした連中には政府とスタークインダストリーズ(トニー・スターク=アイアンマンの会社)が関わっているらしい、ということでアベンジャーズに対しても敵意を抱く前日譚、というところ。
で、8年後の本編ですが、「シビル・ウォー」で華々しく(と本人は思っている)デビューしたスパイダーマン=ピーター・パーカーは、自分をスカウトしてくれたトニー・スタークにアピールするべく、トニーとの橋渡し役となったトニーの運転手ハッピー・ホーガンに連日「15時には学校終わるからそれ以降いつでもヒーロー活動できまっせ!」的に連絡しまくり、しかしハッピー・ホーガンは連日シカトしまくりという日々。
こうなったら自分の実力を認めさせるしか無い、と本業(学業)もおろそかに日々自警活動を繰り返していくうち、謎の武器…つまりは前日譚で語られたエイドリアンが作った武器を持った連中と戦うこととなり、やがてエイドリアンと対峙していく、という物語になっています。
まずこの辺の入り口からもわかる通り、かなり濃密に「アイアンマン」の舞台と関わっていて、トニー・スターク役のロバート・ダウニー・Jrはもちろん、ハッピー・ホーガン役のジョン・ファブローも「普通の脇役レベル」で出てきます。要は単なるカメオ出演レベル(の人もいましたが)ではなくかなり物語に関わってくるので、まずアイアンマンファンとしてもたまらない映画になっているぞ、と。
最初に書いた通り「なぜスパイダーマンになったのか」その他諸々のスパイダーマン入門編のお話はバッサリ省かれ、代わりにトニー・スタークとの関わりだったり、彼にもらったスーツ(コスチューム)にジャービス的な人工知能が入っていたり、そのスーツのおかげで糸を飛ばすだけでも過去とは違う多様な能力が身についていたりと、かなり「MCUの映画です」という作りを全面に押し出しています。
つまるところスパイダーマン入門編を省いたおかげで、スパイダーマンが生まれた→MCUに参戦、という流れではなく、MCUありきのスパイダーマンという映画になっているので、まずMCUの世界を知っておいた方が楽しめるのは間違いないでしょう。ただそれは悪いと言うことではなく、MCUが好きな人たちには理解もしやすくてたまらない世界観だし、(MCUとしては)後発のヒーロー…だけど“大物すぎる”人気ヒーローを、違和感なく見事にMCUの世界に混ぜてきたという、かなりうまい作り方で世界をつなげてきているなーと感心しました。
ピーター・パーカーを演じる主演のトム・ホランドは「インポッシブル」の子供役も記憶に新しかったはずが、気付けばナイスな青年になっていましたね。「シビル・ウォー」の時も思いましたが、良い意味で軽くて若さほとばしる少年っぽさがまさにピッタリでドハマリしています。
この映画は「スパイダーマンとアベンジャーズの関わりを描いたヒーロー映画」であると同時に、「ピーター・パーカーの恋愛含みの学校生活」を描いた青春映画でもあります。なかなか「アクションスーパーヒーロー青春映画」というのは珍しいと思いますが、その二面性を見事に体現するトム・ホランドというチョイスは素晴らしいの一言。「背伸びして憧れのヒーローになりたい高校生」という等身大の少年を見事に演じきっている上に、映画自体もこの上なく青春映画とヒーロー映画を両立した高レベルなバランスを見せてくれ、いややっぱマーベルすげーな、と思うことウケアイ。
が、その青春映画とヒーロー映画の両面を持っているとなると、普通にやるとどうしても分離しがちだと思うんですよね。ヒーローはヒーロー、学校は学校、みたいな。そこをつなぐ接着剤となるのが…ネタバレになるので書きませんが、それがとんでもなく素晴らしくてですね。このアイデアはすげーな、と唸りました。うおーそう来るか! と。
スパイダーマンという若いヒーローだからこそできる物語だし、同時に過去のMCUという実績があるからこその広がりでもあるし、まあ本当に今回も見事にMCUの強みを最大限利用した、とんでもなくよく出来た娯楽映画に仕上がっていると思います。
僕の中ではMCUの映画は「アイアンマン」が一番で、その他はちょっと落ちる印象だったんですが、このスパイダーマンはアイアンマンに肉薄するぐらいよく出来ていたと思います。めちゃくちゃ面白かったです。
もう一つ触れておきたいのが、悪役(ヴィラン)の描き方。
流石に今の御時世「勧善懲悪」で進められないのは当然にしても、悪は悪と割り切れないこのマイケル・キートン演じるエイドリアンのキャラ設定がすごくイイ。
開幕でまず観客に同情させ、悪いやつなんだけど気持ちはわかる、家族のために戦う男なんだというところをフォーカスしてくれたおかげでものすごく深みのある戦いになっていると思います。彼についてはもっと語りたいところもありますが、あんまり語ると興を削ぐのでこの辺にしておきましょう。
他にもスパイダーマンらしいスピーディーで独特なアクションの見せ方もまったく文句がないし、さらに「今までのスパイダーマン」にMCU的スーツ機能のおかげでより能力が強化されて今後が楽しみになるという、まさに進化を遂げた“MCU版スパイダーマン”として見事な仕上がりと言っていいでしょう。
MCU好きであれば必見、100%観るべき映画と言えます。オススメ!!
このシーンがイイ!
やっぱり「ホームカミング」の日でしょうね。どの場面とか詳細を書くとこれまた興を削ぐので観ていただくとして。
あと半分余談ですが、IMAX 3Dのカウントダウンがスパイダーマンバージョンになってましたね。映画固有のカウントダウンは初めて観たので結構びっくり。
ココが○
まあ本当にこれだけヒーローを描いてきて、まだ新しい切り口で作りますかと唸るレベルで「知っているけど新しい世界」を見せてくれています。そこが本当にすごい。おなじみのメンバーに一人くわえて、その彼の周辺の世界で新しい表現を作り上げるすごさ。まだまだMCU、マンネリとは程遠いぜ! と言ったところでしょうか。
あとは非常に地味なところで僕がすごく良いなと思ったのは、つまらないお決まりを入れてこなかった点。具体的には車のライトの付け方を教えてもらったシーン。
「よしわかった!」でライトを付けたと思ったらワイパーでした、みたいなベッタベタなギャグが入るのかと思ってたんですがそれはなく。このシーンに端的に現れていると思うんですが、全体的にテンポを大事にして無駄なことを入れず、自信を持ってきっちり娯楽映画を作っている感じが素晴らしいですね。
体育の授業で「僕の親友の先生の言うことを聞くんだ」というキャップの映像の横に立つ先生がキャップの紹介する手とは逆の位置に立っているズレっぷりとか、さりげない部分でうまさが感じられる映画だと思います。
ココが×
映画自体にはまったく不満はありませんが、本編とは無関係に2点ほど。
まず1点は予告編。かなりいいシーンを使ってくれています。やめてくれというレベルで。要はネタバレ感がすごい。これだけビッグネームの映画なんだからそんな良いシーン使わなくても客入るでしょ? と思う。クソです。日本の配給会社の仕事でしょうか。なのでこれから観るけどまだ予告編はチェックしてないぞ、という方はぜひ観ないでおいて頂きたいところ。
次に毎度のことですが3D。奥行きは若干今までよりもあったかな、という気はしたんですが、それ故か今度はミニチュア感がひどく強調されているように感じました。スパイダーマンというキャラクターの動きにも関係しているのかもしれませんが、全体的にどの場面でも引くとミニチュアっぽいんですよね。これはもう観ないと感覚的に伝わらないと思うんですが。
まあ、早い話がいつも通り3Dはやめてくれというお話。もっとIMAX2Dの上映増やしてくれよ…。
MVA
やっぱり皆さんとても良かったんですよねー。
ロバート・ダウニー・Jrは当然いつもの通り面白いし、ジョン・ファブローも無愛想な感じが最高で。謎のおばさん推しを背負うマリサ・トメイもやっぱりステキで。50過ぎてるとは思えない。
親友・ネッド役のジェイコブ・バタロンもハリウッド的にはマイノリティな容姿で大胆な起用だったと思いますが、これまたドンピシャで良かった。でもやっぱりこの映画は二人の中心人物、トム・ホランドかマイケル・キートンか、というところですが…。
トム・ホランド(ピーター・パーカー/スパイダーマン役)
もーね、やっぱりすごく良いんですよ。トム・ホランド。
彼のかわいさはこの年齢層の男性俳優では唯一無二ではないでしょうか。青春模様も混ざった映画なだけに、この容姿と声はとても大事だと思います。すごく良かった。
それとやっぱりマイケル・キートンも同じぐらいすごく良かったです。バットマンでメジャーになり、バードマンで復活して今回もまた空飛ぶオッサンをやったよ、という。その時点でたまらない。
最後にもう一点、触れておきたいのがヒロインのリズ役を演じるローラ・ハリアー…ではなくて彼女の親友らしき女子。
そう、あの「ナイスガイズ!」のアンガーリー・ライスが演じているんですよ!! もう最初に出てきた瞬間にゾワゾワしました。「もしや…ライスちゃんじゃ!!」と。役柄的にはさして大きくもなく出て来る場面も多くはないんですが、もう出てきてくれただけで嬉しいという。ぜーったいこの子スターになると思うんだよな…。楽しみすぎます。