映画レビュー0573 『スポットライト 世紀のスクープ』

本当はこっちを先に観に行く予定だったんですが、なかなか観に行けず。まだギリやってて良かったです。

ご存知、今年発表になったアカデミー賞作品賞受賞作品。

スポットライト 世紀のスクープ

Spotlight
監督
トム・マッカーシー
脚本
トム・マッカーシー
音楽
公開
2015年11月6日 アメリカ
上映時間
129分
製作国
アメリカ

スポットライト 世紀のスクープ

「ボストン・グローブ」紙に新たに編集局長として赴任して来たバロンは、同紙の調査報道部隊「スポットライト」チームに、ある神父の児童虐待事件を取材してはどうかと提案する。やがてこの事件が氷山の一角であることを知った記者たちは、慎重に取材を重ねていき…。

テーマも映画も超一流、社会派の大傑作。

10

かねてより書いている通り僕は社会派の映画が大好物なので、その分甘くなりがちな面はあると思いますが、しかしもうまったくケチのつけようがない、素晴らしく緊張感溢れる傑作だと思います。

このテの映画は「良い映画だね」という部分で高評価を付けがちな部分もあるし、それはそれで間違っていないとは思いますが、この映画に関しては「良い映画」である以上に「面白い映画」で、それ故こりゃすげーわ、と思わざるをえないという。むちゃくちゃ面白かったし、むちゃくちゃ考えさせられました。

一応お断りしておきますが、何分社会派の映画なので、それなりに人を選ぶ面はあると思います。前回の「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」は(過去作品を観ておけば)誰でも楽しめる人を選ばない良さがありましたが、こちらは少し好みが分かれるのは確かでしょう。

そんなに難しい話は出てこないんですが、ただところどころで知らない・わからない人がいそうなものも(重要ではない情報ということもあって)特に説明もなく進むので、対象年齢は高めかな、と。「バンビーノの呪い」とか「埋め草」とか、知らないとナニソレ的な単語がたまに出てきます。ただ物語を大枠で理解する分には影響はないので、あまり心配する必要もないでしょう。むしろ最近の映画にありがちな、固有名詞の多さの方がハードルになるかもしれません。出てくる人は大抵後でも登場する人なので、「この人はこの名前」と意識しながら観るといいかもしれません。

さて、前フリが長くなりましたが。

地方紙の調査報道班が神父の児童虐待事件を追ううちに「児童性愛癖を持つ神父の多さ」に気付き、それを記事にしようと奔走するもしがらみやら圧力やらで苦労しつつ、特ダネを掴むまでを追う物語。どこまで脚色しているかは不明ですが、基本的な内容は事実を元にしているようです。

「やっぱ一人は女子いないとねー。画面が寂しいもんねー」と思って観ていましたが、実際のところ「スポットライト」チームの面々は実在の人たちがモデルになっているようで、レイチェル・マクアダムスほどかわいいかはわかりませんが女性もメンバーにいた模様。穿った見方してごめんよ。

要素要素を見ていくと、結構やっぱり地味な映画ではあるんですよね。

新任編集局長が嫌なやつ、とか社内に抵抗勢力がいる、とかそういうありがちな盛り上げ方もなく。なんなら新任編集局長はすごくクレバーでかっこいいという。

当然「夜の取材中に急に襲われてグッバイ」とかも無いです。安心。

僕はそういう部分がすごく好きだったんですが、ただ要素としてはやっぱり地味な感は拭えません。これは「調査報道」自体が華やかなようで地味である、というリアリティにつながっているのかもしれませんが、しかしそんなことはどうでもよくて、地味なくせに面白いんですよね。これがすごいな、と。

すごく地力のある映画という感じで、映画としては全然違うんですが「裏切りのサーカス」と似たような力強さを感じました。画面を観ているだけで身が引き締まるというか、「こりゃ真剣に観ないと失礼だぞ」と思わせる雰囲気があるような。

そもそも「調査報道」というもの自体、映画のテーマとして面白くしやすいし、惹き付けやすいものだとは思うんですが、その報道の対象がタブー視されている教会・神父(さらに宗教・バチカンという権威)という記号の上に、さらに事件が児童虐待という、これまた語ること自体がはばかられやすい犯罪である、という部分で興味を惹きやすい面もあるでしょう。

そして何より、実話ベースなわけで。

相手は強大で、市民からの支持もある組織で、かたや事件自体は被害者の心情的にあまり触れられて欲しくないデリケートな問題ということもあって、まあいろいろと難しい案件であるのは想像に難くありません。そういうテーマに切り込んでいく人たちというのはやっぱり問答無用でかっこいいし、先が気になるわけです。

おまけにどんどん明らかになっていく事実の大きさにまた驚くと同時に興味を惹かれ、どんどん先が気になるという見事なストーリー。さらにこの問題が隠されていた背景には、隠蔽体質に金儲け、事なかれ主義に同調圧力…と見事なまでに今の世の中の問題が凝縮されていて、まったく他人事ではない部分も大きい。「ふーん、アメリカは大変だねぇ」では済まされないんですよね。

全然日本でもあり得る話だし、むしろ残念なことに日本のジャーナリズムにここまで骨のある行動は期待できないだけに、(同じ問題に限らず)表面化していないだけのような気がしてなりません。

見たくないものは見えていない方が幸せなのか。いろいろと考えさせられることも間違いありません。

「報道したら誰が責任を取るんだ?」「では報道しない責任は誰が取るんですか?」というセリフが刺さります。

新聞業界はもう斜陽産業と言われて久しいですが、新聞がネットその他に勝とうとするならこういう調査報道以外に道はないと思うんですけどね。政権に尻尾振ってるだけでお金がもらえる某ナベツネ新聞とか某3K新聞とかの記者たちこそ観るべき映画だと思いますが、まあ彼らの最も優れた才能は思考停止、という残念な方々なので、観たところで面白さすらわからないかもしれませんが。入ってきた頃はこの「スポットライト」の人たちのように、熱い記者魂があったと思うんですけどね…。

話が逸れました。

簡単に言うと、「追っているテーマが面白い」×「映画としての作りも素晴らしい」の相乗効果でそりゃどうあがいてもすごい映画になるべや、というお話。

こういう地味な映画はソフトが出たらでいいや、と思いがちかもしれませんが、むしろこういう映画こそ映画館で観るべきです。集中力が違います。無駄に3Dにしてこないし。僕はギリギリ間に合って劇場で観られて大変幸せでした。

社会派好きを自認するなら絶対観るべき。観ないなら「社会派好き」を返上すべきというレベル。超オススメ。

このシーンがイイ!

印象的なシーンも結構ありましたが、編集局長が「一言言っておきたい」って語る場面、あそこよかったなー。

ココが○

いいところだらけなのでとにかく観ろ、と。

上に書いていない点としては、まず役者陣がレイチェル・マクアダムス以外はとにかくむさ苦しいオッサン・爺さんだらけなんですが、これがまた素晴らしく良かったです。地味に爺さん好きの方々にもオススメしたい。

それと劇伴がこれまた素晴らしい。こういう映画の場合、割と控えめで物語を邪魔しない劇伴が多い気がしますが、この映画は少し主張していて、ピアノ主体でやや不安を感じさせつつ緊張感を高める曲の数々がとても良かったです。

ココが×

映画そのものについては文句ありません。エンディングも完璧な閉じ方だと思います。

ただ、内容とは直接関係ないですが、やっぱり…邦題が良くない。酷評するほどひどいというわけではないんですが、それでも「世紀のスクープ」はちょっと表現として陳腐すぎて、この映画の重厚さや緊張感とマッチしていません。もうちょっと考えて欲しかったなー…。

MVA

マーク・ラファロが少し若めの雰囲気の役でしたが、さすがの演技で文句なし。とてもこの人が緑色になって巨大化して暴れるようには見えません。

最近「社会派紅一点」として引っ張りだこな気がするレイチェル・マクアダムスもさすが。最近の活躍ぶりに個人的評価がうなぎのぼりです。好きです。結婚してください。

マイケル・キートンは少し抑えめながら安定感のある演技でこれまた○。その他脇役陣もお見事で、今回かなり悩みましたが…この人かなー。

リーヴ・シュレイバー(マーティ・バロン役)

新任の編集局長。

登場シーンは主要メンバーと比べると少なめですが、でも渋くてかっこいいんだ。この人が。穏やかで知的でダンディかつ編集局長らしい鋭さを併せ持った素晴らしい佇まい。こんな上司が欲しい。

それと次点で、お気に入りでもあるスタンリー・トゥッチ。今回、普段とかなり印象が違います。

しばらく観ていて「うーん、この人のこの表情…観たことある…うー…スタンリー・トゥッチか!?」と結構経ってから気付いたぐらい、印象が違います。そもそも今回ハゲてないし。

ただ個性的でとっつきにくいものの人権派の優秀な弁護士、という難しい役どころを完璧に演じている辺り、やっぱりこの人すごいな、と。この人の演技もまた必見です。

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