映画レビュー0823 『ストレンジャー・ザン・パラダイス』
今回は久しぶりにBS録画よりチョイス。
ネトフリは基本的に新し目の映画が多いので、BS録画から選ぶ時は反動で古い映画になりがちです。
ストレンジャー・ザン・パラダイス
何もない中に何かある。
- 若い男女の何もない日常ロードムービー
- シュールに笑わせるコメディ仕立て
- ものすごく熱狂的に好きな人がいそうな雰囲気
映画好きを自認していながらお恥ずかしいことに監督も作品名も知らなかったんですが、ジム・ジャームッシュ監督の長編2作目ということで結構名作扱いを受けている映画の模様。
全編モノクロで劣化した風の映像で作られた、公開年よりもかなり古そうに見える映画です。時代設定も不明なんですが、なんとなく…車も古いし50年代ぐらいじゃないのかなぁ。適当な予想。
主人公のウィリーはハンガリー出身で今はニューヨークに住んでいるんですが、どうもハンガリー出身というのは隠したいらしく、「俺は生粋のアメリカ人だぜ」然に振る舞う若者でございます。クリーブランドに住む同じくハンガリー出身の叔母さんからの電話でも「ハンガリー語はやめてくれ」と何度も言っているように、もうハンガリーは捨ててアメリカ人なんだ、的なプライドが強い様子。
そんな叔母さんからの電話で、従妹のエヴァがハンガリーからアメリカに来るんだけどアタシは10日間入院するから面倒見ておくれ、と強引に頼まれ、やむなく彼女と短い共同生活を始めます。
エヴァは10代後半ぐらいの少女なんですが、彼女は彼女で自分が強めの結構風変わりな女子で、ウィリーはウィリーで無愛想なのでなかなか二人は仲良くもならずぎこちない二人暮らしなんですが、ある日彼女がタバコその他ちょっとしたものを盗んできたことでウィリーは彼女を認め、ようやくちょっとずつ楽しい生活になってきた…ところで10日間終了、彼女は叔母の待つクリーブランドへ旅立つことに。
それから1年後、ポーカーのイカサマと競馬であぶく銭を作ったウィリーと彼の親友・エディの二人は、エディ兄に車を借りて「クリーブランドへ行くか!」ということでエヴァに会いに車を走らせる…というお話です。
ぶっちゃけ半分ネタバレではあるんですがこれを書かないと何も書けない…ということでもう最初に書いちゃってますが、本当に最後まで「何もない」話です。ただ若い男二人+女子がちょっと遠出をする、その辺の兄ちゃんたちのただのお休みを観てるだけ的な映画でした。
なのでもうはっきり言ってつまんないんですよね。話としては。途中までは「これがもしや前振りで…!」とか「エヴァがもしかして…!」とかいろいろ考えながら観ていたんですが、あまりにも何も起きないので「ああ、これこのまま行くパターンだな」と眠くなりながら観てたら案の定何もないという。
徹頭徹尾何もなく、感情に訴えてくるようなものもない…いかにも斜に構えたオシャレ映画っぽい雰囲気の映画なんですが、ただその「何もない」中にホンの少し心に残る何かがあって、その何かの正体がわからないまま不思議な後味に浸る、というなかなか珍しいタイプの感覚を覚える映画ではありました。
一応はコメディというか…真顔の登場人物たちからシュールな笑いを受け取るような“間”の妙がある映画なので、もしかしたら構えとしてはツッコミを考えながら観るのが正しいのかも知れません。
それと、(多分)すべてのシーンの切り替わりにそこそこ長いブラックアウトが挟まるんですよね。セリフの終わりや音が入りつつ1〜2秒ぐらい。その作りが他にない余韻を残していて、その僅かな時間で心情やら状況やらに思いを巡らせるというのはなかなか面白い作りだと思いました。
きっとこれはこういうことなんだな、彼はこう思ったんだな、この後こうしたいんだな…と一つ一つ整理して次に進む感じが…続いてる物語なんだけどオムニバスっぽいような、独特の雰囲気を作り出していて、そこに味がある映画だなと思います。
僕が観た中では、この手のオシャレ映画っぽさで言えば「バッファロー'66」っぽい感じもあるし、ロードムービーという意味では「ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア」っぽいちょっとヤンチャな雰囲気もあるし、シュールさでは「さよなら、人類」っぽさもある、そんないくつかの映画をごちゃ混ぜにしたようななかなか不思議な映画でした。
面白くはないんですけどね。くどいようですが。ただ、何か引っかかるという不思議な感覚。
正直オススメしようとは思いませんが、こういう雰囲気が好きな人は間違いなくいるし、興味があるなら会話の妙を楽しむだけと割り切って観てみるのも良いと思います。
僕は割と答えがない映画は好きではないのでイマイチでしたが、そうではない人にはマイベストに入り得るポテンシャルがある映画かも。
このシーンがイイ!
やっぱりみんなでグラサンかけるシーンかなぁ。あそこは好き。
それと叔母ちゃんが(多分)ポーカー強いのがね。笑っちゃうよね。
ココが○
やっぱり独特の雰囲気はあるので、好きな人は本当に好きになる映画だと思います。自分が引っかかりそうな人は観てみると良いでしょう。
ココが×
「何もない」以上、全体的にフラットで特に感情が動かされるような部分が無いのはちょっとキツい。もう少しグッと来る何かが欲しかった。
MVA
なんでもウィリーとエディの男コンビを演じた二人はどっちもミュージシャンだとか。なんとなくわかる気はする。そんなアウトロー感が魅力的ではありましたが、この人にします。
エスター・バリント(エヴァ役)
アメリカにやってきた従妹。
特にかわいいわけでもないんですが、どことなく垢抜けない素の雰囲気が「中学の同級生」みたいな素人感があって、そこが魅力的だなーと。
すごく美人の従妹だともう性的な想像しか出てこなくなっちゃうので、「そう感じさせないリアルなかわいさ」はなかなか貴重なイメージだと思います。
変わり者のようで再会を喜ぶ無邪気さも良かったし、これまた映画同様不思議な魅力のある人でした。ちなみに彼女もミュージシャンらしいです。