映画レビュー1150 『子猫をお願い』
今回もJAIHOより。
JAIHOはインド映画もそうですが、アジアのインディーズ系(この映画は厳密にはインディーズではないようですが)も推してくれているので新鮮です。
子猫をお願い

誰もが通る道を情感豊かに描いた傑作。
- 環境が変わって今までのようには関係性を保てない5人の群像劇
- 誰もが共感できる等身大の物語を、丁寧に丹念に描く
- 学歴や家父長制の“生きづらさ”も見事に織り込む
- ショートカットのペ・ドゥナが暴力的なかわいさ
あらすじ
先日観た「小公女」は本当に年に1回出会えるかどうかの傑作でしたが、これも同じような匂いを感じる傑作でした。あまりにも良かったので即座にもう一度観ましたよ。自分としてはかなりレアなケース。ただそれには映画の良さともう一つ理由があったんですが…。
インチョンの商業高校を卒業した5人。無邪気に笑い合う仲の良かった面々は全員進学せずに社会へ出ることに。
それぞれが新しい環境に悩みを抱える中、「月に一度は会わないと友情が壊れるよ!」と機会を作って集まる5人。
しかし環境が変わったことでそれぞれの価値観も微妙に差が出てきてしまい、ところどころで少しずつほころびが顕になっていきます。
みんなの仲を取り持つ者、友達であるが故に扱いがぞんざいになっていく者、友達にも言えない悩みで闇を抱えていく者…それぞれの思いを抱えながら、卒業から時間が経つにつれて友情の形が変わっていく彼女たちのこれからはどうなるのでしょうか。
友達とは、友情とは
果たしてこの映画について何を書けばいいのか…適切な表現が浮かばない、言語化出来ない細やかな機微の魅力に溢れる映画だと思います。本当に良かった。
序盤〜中盤は、割と普通の女子たちの日常を狭い範囲の群像劇でなんとなく観ているだけのような気がしていたんですが、振り返るとところどころに“兆し”のようなものが見え隠れしていて、学生時代の「狭いが故に変わることのない関係性」が社会に出たことで一気に不可逆的な進行を見せ始めるある種の残酷さが見事に描かれている映画でした。
それでもやっぱり「仲良しだよね?」と確かめたい、関係性を保ちたいテヒ(ペ・ドゥナ)がみんなの潤滑油になろうと頑張るものの、コネ入社から上を目指したくて精一杯のヘジュ(イ・ヨウォン)は仕事のことが中心に来すぎて友達のことはなおざりだし、経済的な余裕の無さから誘われても乗り気になれないジヨン(オク・チヨン)はいつも不機嫌そうで一番の親友だったヘジュとも距離ができてしまう。双子のピリュ(イ・ウンシル)とオンジョ(イ・ウンジュ)は脳天気すぎて微妙な変化にも気付かない。そこがこの2人の利点でもあるのが面白いところなんですが、ただ「5人の友情」の力学の上では役に立たないのも事実で、それ故中心となる3人の感情に5人の関係性は揺れ動いていくことになります。
なんだかんだ文句を言いつつも5人を繋ぎ止めておこうと連絡を取り、フォローし続けるテヒの優しさが本当に天使のようで、自分もこうありたいと思いつつ、でも実際はヘジュのように自分のことに精一杯だったような気もするし、今は去ってしまった友達のことを思い出しながら、自分の思い出と重ねて後悔だったり懐かしさだったりをそこに見るわけです。いやーたまらない。この映画。
さらに最初にも書いた通り、日本以上に学歴や家父長制の力学が強く作用していると言われる韓国社会(しかも今よりもさらに強いと思われる20年前)における女性の生きづらさやコンプレックスも織り込みつつ、かと言ってそれを声高に叫ぶわけでもなく受け入れながら折り合いをつけて生きていく彼女たちの姿は、とても生き生きとしていて軽やか。やもすると重くなりがちな話でありつつも深刻になりすぎず、優しい気持ちで見守ることが出来るのは、どこか彼女たちに“強かさ”のようなものが見えているからなのかもしれません。
危ない道を歩んでいくことになる人もいる中で、それでもまだ希望を持って見ることができたのは、やはりそこでも寄り添ってくれる“友達”の存在があるから。
友達とは何なのか、自分がどういう友達でありたいのか、いろんな問題を見せ、そして答えてくれる物語は本当に素晴らしかったです。
紛うことなき傑作
また20年前の韓国と言うロケーションの良さにも触れておきたいところ。
とは言っても今の韓国に詳しくもないんですが、なんとなくテヒの実家のサウナは少し古そうだし今は無さそうだなとか、ジヨンの住む地域はもっと開発されてるんじゃないかなとか、5人で買い物に行くソウルのショッピングモールに感じる微妙な古めかしさとか、絶妙に「この頃だけの世界」に二十歳前後の女優陣が等身大の演技を見事に封じ込めた、このときにしか作れなかった世界をすごく感じたんですよね。
「離れる人はみんな嫌いだから離れるわけじゃない」とかところどころですごく印象的なセリフが登場したり、穴を掘って寒さをしのぎながら喧嘩する「自分たちしか経験していない思い出」が描かれていたり、なんでもないような1シーン1シーンがすごくキラキラしていて素晴らしいんですよ。あちこちで彼女たちの考えや性格が見えてくるし、その細やかな描写の積み重ねでそれぞれに対して思い入れも深まってくる。
あいつ嫌なヤツだなとか思うことはあっても、同時にそう言う行動を取ってしまうのも仕方がない彼女なりの立場もしっかり理解できるし、誰かが悪いわけではなく不可抗力的に離れていくことになる友情が切なく、同時に愛おしく感じられる物語になっているのもたまりません。
いろいろ言いたいことはありますが、ネタバレになるとアレなのでこの辺で一旦終わりましょう。
特に同年代の女性はいろいろ受け取るものが多い映画ではないかと思いますが、年代も性別もまったく違うおっさんでもたまらない傑作だったので、この映画は間違いなく「傑作」と認定したいと思います。理解できない人のことは知りません。ぜひ観てください。
このシーンがイイ!
もう名シーンだらけなんですが、一つ挙げるとすれば…テヒが買ってきたナイフの“出番”のシーン。すごく印象的でした。
それと誕生日会終わりに終電がなくなるぞーって走るシーンがなんだかグッときました。すごく身近な感じがして。
あとおばあちゃんにやたら餃子勧められるシーン。ああいう何気ないシーンがまたすごくよかった。果たして美味しかったのかな…。その後またお店の前で餃子食べてるのも妙に心に残ったな。肉まんみたいにして食べてるペ・ドゥナがかわいい。
ココが○
いいところだらけ。どこが良いのかはぜひ観て確認して欲しいので、物語とあんまり関係ないところで言えば、タイトルにある「子猫」がまーかわいい。むちゃくちゃかわいい。お願いされたい。
それと携帯(ガラケー)メールとかタイプライターの文字入力を画面に出す演出とか、結構最近の流行りの先取りっぽくてそこも新鮮で良かったですね。
ココが×
淡々と日常を描いた話なので、ハマらない人は驚くほどハマらないような気もする。そこに込められた丁寧な描写に心を奪われるかどうかが境目なのかも。
それととある劇的なシーンでちょっとだけオーバーな音楽がかぶさったのがもったいないなぁというのと、ラストシーンの勢いが全体のトーンに合っていない気がして、もう少し見せ方が違った方が良かったような違和感が少しありました。
でも言いたいことからすればあれぐらいドカッとやって良いのかもしれないですね。どうだ! って。
MVA
主要3人皆さんすごく良かったんですが、僕はもうこの人に完全にやられてしまったので。
ペ・ドゥナ(テヒ役)
実家のサウナを手伝うショートカット女子。優しさの塊。
不勉強なことに僕は名前含めてこの映画で初めてこの方を知ったんですが、日本でも映画に出てるしハリウッドにも出てるしで韓国でも相当な世界的女優さんなんですね。
二十歳そこそこでこの魅力ですからね…それも納得ですよ。もうむちゃくちゃかわいくて魅力的だし、表情もすごく細やかで完璧でした。真っ赤なミトンとボーダーの服が死ぬほど似合っててこっちも死んだ。久々に衝撃を受けた女優さんでした。
って前回衝撃を受けた女優さんは「ハッピー・ニュー・イヤー」のディーピカー神なので最近なんですけど。
ただディーピカー神はあまりにもかわいくて衝撃を受けたんですが、ペ・ドゥナはかわいさも去ることながら…存在感みたいなものがものすごくて、また一段上の衝撃だったんですよね…。オーラが出てるような衝撃。彼女の他の映画が観たくてしょうがない。
続けざまに2回観たのは、物語の良さももちろんですが、半分以上は彼女見たさでした。それぐらい衝撃。ペ・ドゥナショック。
ちなみにネットのレビューでは「のんにしか見えない」とペ・ドゥナのんちゃん似説が多く見られましたが、僕はそれよりイ・ヨウォンのともさかりえ似感の方が強かったことを書いておきたいと思います。

