映画レビュー0943 『人生タクシー』
今日も元気にネトフリ終了間際シリーズ。
これどっかでオススメされたのを見ていて、いつか観ようと思ってたやつですね。久々のイラン映画。
人生タクシー
ジャファル・パナヒ
ジャファル・パナヒ
ジャファル・パナヒ
2015年4月15日 フランス
82分
イラン
Netflix(PS4・TV)
舞台裏を考えればすごい映画なんだけど面白いかと言われると…。
- 政情不安のイランならではのゲリラドキュメンタリー(風)映画
- 普通の人々の言葉から現在のイランを浮き彫りにする
- ただし作り物感もあり、素直に受け取れない気も
- 映画外の知識もある程度必要
あらすじ
結構期待していたんですが…久しぶりに超のつく眠みに襲われましたね…。途中一旦仮眠を取って再開するもまた眠かったという。監督ごめんよ。観たタイミングも良くなかったよ…。
主人公はタクシー運転手のおっちゃん。ですが彼こそがこの映画の監督であり、世界的にも著名な人物であるジャファル・パナヒさんでございます。おそらく「イランの映画監督」として真っ先に名前が挙がるであろうあのアッバス・キアロスタミ監督のお弟子さんです。
彼はタクシーのフロントガラス手前にカメラを設置し、乗せたお客さんや監督との会話を通じて(映画が作られた)今現在のイランのリアルを観客に伝えます。
起こる出来事や会話はどうってことのないものから劇的なものまでいろいろありますが、それらを見つめることで今のイランの末端の国民がどういう状況に置かれているのか、そもそも「イランってどんな国」なのかを教えてくれるような作り。
最後にもちょっとした出来事で映画が〆られますが、総じて「イランの日常を国民側から伝える」内容の映画です。
そもそもなぜこんな映画なのか
僕もあとから調べて知ったんですが、なぜ彼がこのような形(タクシー運転手になって備え付けのカメラで映画を撮影)でこの映画を作ったのかは、劇中ではあまり語られない彼特有の事情が影響していて、これを事前に知っているか否かでだいぶこの映画の観え方が変わってくるんじゃないかと思いますが、早い話が彼はイラン政府から目をつけられていて、なんと政府から「20年間の映画製作禁止」を命じられている人物なんですね。
なので「タクシー運転手になりました」というテイでカメラを回し、ありのままの現在を切り取ることで今イランが抱えている問題の一端を伝えようという内容になっているわけです。
それでも(やっぱり)本国では上映に至らなかったそうですが、国外ではこの斬新な技法が絶賛を集め、ベルリン国際映画祭では金熊賞を受賞するほど評価されたようです。
その手法やイランという国を主題にしていることからもわかる通り、内容としてはゴリゴリの社会派映画の側面が強く、娯楽的要素は皆無と言っていいです。なので「置かれている状況故に変化球で映画を作り出そうとする意欲とアイデア」には素直に感心したんですが、とは言え正直に言って「映画として面白いか」と聞かれればハイとは答えにくいものがありました。
僕がつけている評価はあくまで「観て面白いか」の完全主観評価でしかないので、そういう意味では眠くもなるしぶっちゃけ頑張って観るほどのものでもなかったな、という印象。
ただしこれが上記のように映画外の部分の、国際情勢やら監督の状況やらを考えると…なかなか味のある面白い立ち位置の作品であることもまた事実です。
ドキュメンタリー? モキュメンタリー?
ただ、どうしても引っかかったのがその作り方の部分で。
これ、実際どうなのかははっきりと明言されていない(僕の調査不足かもしれない)んですが、映画の体裁としては完全にドキュメンタリーなものの、どう観ても作り物感が拭えないんですよ。
いかにも監督が訴えたいことを登場人物(タクシーのお客さん)にお誂え向きとばかりに代弁させているような印象が強く、簡単に言えば作為的すぎるように観えたんですよね。全体的に。
確かに上記のような監督自身の環境を考えれば、ドキュメンタリーのフリして国外に伝えたい内容を撮ってパッケージにする、って考えもわかるんですが、ただそこにどうしても監督の功名心のようなものが見え隠れしている気がして、そこがどうも…ウーンみたいな。
さすがに「どうだ俺の演出エッジが効いてるだろ」的な演出で僕が嫌いな監督(ダニー・●イルとか)とかとは同じ見方をするべきではないのもわかってはいるものの、やっぱり「ドキュメンタリーのフリして監督の作為が透けて見える」作り自体が好きではないので、それ故にこの映画は…ちょっと引っかかる部分が大きかったかなと。
ただくどいようですが事情を考えれば責められない話なので、この辺は単なる映画に対する好みの問題だと思ってください。単純に僕の見方が子供なだけかもしれません。
世界を知る意味では貴重な一本
聞いた話では、例え日本人であろうとイランに入国した経験があるとアメリカへの入国がひどく面倒になる(いろいろ調べられる)んだとか。
ご承知の通り、日本はほぼアメリカの属国みたいなものなので、当然ながらそれだけ“知りにくい対岸”にあるのがイランという国だと言えると思います。
そんな国の内情を知るのには良い題材だと思うんですが、その“生々しさ”が作りものであるとなると、そこまで評価するのも難しいのではないかなというのが僕個人の感想です。
むしろこの映画の評価の大半は、描かれる内容よりも当局の目をかいくぐって世界にイランの姿を問おうとした監督のクリエイティビティに対して、なのではないでしょうか。おそらく。
国際情勢に興味があるなら、イランという国のごく一部の生活に根ざした国民の姿から現実を知るという意味で、とても価値がある一本であることも間違いないでしょう。
このシーンがイイ!
特にここが、っていうのはなかったかなぁ…。
ココが○
裏を返せば大半の先進国では取られない技法の映画なので、そういう意味では貴重だし変わった目線の映画と言えるでしょう。
ココが×
やっぱり作り物であることを認識せざるを得ない、ある種の“胡散臭さ”でしょうか。
特に病院まで運ぶくだりと、エンディング。この辺で観ていて白けるような感覚がありました。
MVA
まーきっちり出てる人はこの人ぐらいしかいないし、ってことで順当に。
ジャファル・パナヒ(本人)
タクシー運転手と化した監督。
すごく温和でいい人そうなんですよね。でも国から目をつけられちゃってて気の毒。もっと伸び伸びと映画を作れる環境に行って欲しいような気もするけど、こういう人が“内部にいる”ことが大事なのもまた事実ですからね…。
次はどんな映画を撮るんだろう…気になる。