映画レビュー1021 『TENET テネット』
さーやってまいりましたよ。ド変態監督クリストファー・ノーラン最新作。
このご時世なので、ノーランファンのみならず世界中の映画館の期待を一身に背負った超大作でございます。
当然ながら僕は死ぬほど楽しみにしていて、鼻息荒く公開当日に行ってやろうかと思っていたんですが翌日が会員サービスデーだったこともあって翌日の土曜日に行ってきました。鼻息が経済合理性に負けた形です。
ちなみに僕はもうこの映画を観る前から「絶対に今年No.1」だと心の中で決定していたんですが、チラホラと聞こえてくる「難解過ぎる」評判もあって果たしてどうなることやら…と期待半分期待半分で観に行ってきましたよ。(期待のみ)
なお、コロナの影響もあり劇場鑑賞はなんと1月の「ナイブズ・アウト」以来8か月近くぶりになります。ひさびさー。
TENET テネット
ジョン・デヴィッド・ワシントン
ロバート・パティンソン
エリザベス・デビッキ
ディンプル・カパディア
ヒメーシュ・パテル
クレマンス・ポエジー
アーロン・テイラー=ジョンソン
マーティン・ドノヴァン
マイケル・ケイン
ケネス・ブラナー
2020年8月26日 イギリス
151分
アメリカ・イギリス
IMAXレーザー(2D)

期待通りのノーラン節炸裂!進化したド変態映画。
- “時間を逆行する”物質や人物たちの鍵を握る武器商人を追う“名もなき男”
- タイムリープものとは少し違った“時間”を操るSFサスペンス
- 映像で脳が混乱しがちなものの物語自体は程よい難易度
- 相変わらず頭のおかしい作りでノーランマニア大満足
あらすじ
改めて書きますが、本編(下にあるクリックして開く赤文字の箇所以外)はネタバレ無しで安心のレビューになりますよぉー。と言いつつ果たしてレビューなんて書けるんかいな、という不安感しかないわけですが。
ちなみにいろいろ賛否両論出回っておりますが、僕は完全に“賛”の側でちょー面白かったです。当然理解度なんて大したものではないと思いますが、それでも(ノーランが好きだから褒めるとかでは断じて無く)本当に面白かったし最高でした。打ちのめされましたね。劇場でね。
この感覚は「インセプション」以来で、「インセプションみたいな脳が沸騰する映画をハァハァ」と求めていた勢としては完全に期待通りのものでしたが、しかし「インセプション」と比べると少しだけ気持ちよさに欠ける面その他不満もあり、残念ながら満点ならず、と。
いやでも満点で良いとは思うけどね、実際…。映画でこんな体験させてくれるのって本当にノーランだけですよ…。
オープニングはウクライナ・キエフのオペラハウスで突如起きたテロ事件から。前に観た長い予告編(プロローグ)はこれだったんですね。
テロ開始直後にまるでそのテロを予期していたかのように準備万端に制圧に向かう特殊部隊の面々。劇場に来ていた一般客の皆さんは催眠ガスのようなもので眠らされますが、VIP席に陣取る重要人物らしき男とその護衛たちは起きたまま。
彼らは危機を予感していたようですが、そこにやってきた一人の“名もなき男(ジョン・デヴィッド・ワシントン)”が仲間とわかり、ともに脱走。とある“重要物質”を手に無事逃げ切った…かのように見えましたが名もなき男は捕らえられ、拷問にかけられます。
拷問中、敵の隙を突いて自殺用のカプセルを飲み込んだ名もなき男。死んだかと思いきや目を覚まし、一人の男から「テストは合格だ」と告げられ、とある任務への参加を依頼されます。
その任務とは、「時間を逆行する物質を操る」勢力との戦い。なんでもその勢力は世界滅亡を企てているとのことで…。
おっとこれから先はご覧くださいましよ。
説明するのも難しい
もうあらすじを書くのも悩むしなんとも説明が難しい、いや難しすぎる映画ですねこれは。村西とおる的な。おまたせいたしました、おまたせしすぎたかもしれません的な。
映画好きではない人に「どういう映画なの?」と聞かれてどう説明すれば良いのかサッパリわからない、相変わらずのド変態脚本ですよ。
「インセプション」はまだ説明するという意味ではそんなに難しいものではなかったですが、この映画はそこからさらに先に進んでどう他人に伝えれば良いのかまったくわからないという…なんなんだこの話。でも面白い不思議。
まあ興を削がない程度に…というか、僕が思う「事前に知っておいたほうがむしろ良いんじゃないか」という大枠のお話を書きましょう。
まず大前提として、この映画の世界は「インターステラー」同様にもう先が見えてしまっているらしいんですよ。気候変動やら何やら理由ははっきりしませんが、もう地球はダメだぞと。
で、「インターステラー」の場合は別の星を探そう、というオーソドックスなSF的展開によってああいう話になったわけですが、こっちは「未来がダメなら過去があるやん」ということで“過去に戻っていこうとする”勢力がいるらしい、という話なわけです。
その辺のギミックやらなんやらは観ていただくとして、お話としてはその“時間を逆行する”勢力が未来にいて、その勢力との仲介役となる“現代人”がこの映画の悪役であるケネス・ブラナー演じるセイターさんですよと。
その“時間を逆行する”にはエントロピーがどーたらこーたら言っていますが、これは物理学的なアプローチでリアルなお話らしいぞ(インターステラー同様、物理学者のキップ・ソーンが監修しているとのこと)、って程度の理解で十分です。というか「そういう世界のお話」で片付けて構いません。そこ深堀りし始めたら理解なんてムリだし。
とにかく「時間を逆行して巡行する側(普通の人々)から世界を奪おうとしている」人たちと戦うお話だと思っておけば、大枠の部分を理解しやすいのではないかなと思います。
それなりに不満もあり
公開前から話題になっていた「巡行する(普通の)人と逆行する人の格闘シーン」を始め、巡行 vs 逆行のシーンがちょくちょく出てくるのが見どころの一つなんですが、やっぱり「そういうもの」とはわかっていても違和感がすごいせいか、脳が混乱するんでしょうね。
その違和感のせいで「何が何やらようわからん」みたいな感想になりがちなのかなと思うんですが、ただ話自体はそこまで複雑でもなく、比較的オーソドックスなタイムリープ(厳密にはタイムリープではないんですが言葉のイメージ的に便宜上使ってます)もの的な展開なので、この手のSFが好きな人(つまりおれ)にはヨダレものの展開だったし、ところどころ「これはもしやアレなのでは…!」と予想して当たる気持ちよさもあり、時間をテーマにしたSFが好きであればぜひ一度チャレンジしてみて欲しい映画ですね。
なんと言っても前作「ダンケルク」が(面白かったものの)少し自分の求めるノーラン映画=インセプション的なものとは違ったためにガッカリした面があったので、再びこっちの脳みそフル回転系映画を作ってくれた喜びたるや語り尽くせないものがありました。
逆に言えばこういう難解な、頭を使って観ないといけないタイプの映画を作ってこそのノーランだと思うし、そこに対する賛否両論なんて屁でもないぜと気にせずにこっちの変態方面の映画を作り続けてほしいと強く思います。
だが…!
「完全にやられた」別世界の体験だった「インセプション」と比べると、まったく文句がないというわけでもなく。
まずオープニングのテロ事件以降の序盤〜中盤がとにかくハイペースでサクサク進みます。考えさせる間も無ければ情報提供も少なく、説明もヒントも最小限でサクサク進行。
これの何が良くない、ってわかりづらい以上に“段取り踏んでます”感がものすごく強まるんですよね。
「とりあえず後半に向けて見せておかないと行けない人・情報を手当り次第パッパと見せていく」「はいこれ見たね、はいじゃあ次」ってな感じですよ。
とにかく「そこに至る」前後も移動も全部切って、情報として必要最低限の要素を見せるためのシーンがひたすら続く印象で、すごく作り物感というか…編集に意図が漂いすぎちゃってこの世界に入り込むのを邪魔している印象が強かったです。
もうね、はっきり言いますよ。
3時間でええやん!
ノーラン映画なんて長いのが当然、そのつもりで期待してる人も多い(2時間半も長いけど)じゃないですか。だったらそんな急がないでいいからもう少しだけ丁寧に見せて3時間の映画にしちゃえばより長く楽しめるし最高じゃねーかよ、って話ですよ。
監督のせいでは無いかもしれません。ワーナーの上層部の意向かもしれません。「2時間半程度に収めろ」って。でも実際にジャンボジェット買って突撃させちゃう監督がそんなこと言われないだろうし言われたところで「わかりました」でもないだろうからやっぱりノーランがこういう方向性で編集したんだと思うんですけどね。
見せたい世界は中盤以降だからそこに至るまでは最小限に、ってことなんだろうとは思うんですが、でもやっぱり映画に入り込むための雰囲気作りとして前半も重要だと思うんですよ。「インセプション」でディカプリオがエレン・ペイジに夢の世界を説明していたようにね。
“名もなき男”と同じく観客も巻き込まれている形を強調したかったのかもしれませんが、僕としてはそれよりももっと長く見せてほしかったし、それによってよりこの世界について理解を深めたかったし、何より「段取りです」と感じさせて欲しくなかった。
結局、名もなき男をテストした男の言う“組織”が何なのかもよくわからないし、そもそもあのおっさんがどんな人なのかもわからないしで序盤はわからないことだらけ。むしろ終盤より序盤がサッパリですよ。
ここだけは本当に残念でした。もっと膀胱の大きさを信じてほしかった。おれたちの。
世界一の変態が世界一期待されているという謎
まーしかしね。
改めてこんな変態で難解な映画が「映画館に客を呼び戻すための切り札」であるということ、そしてこの変態映画監督が事実上「世界一の娯楽超大作を作る監督」というポジションに収まっている事実が一番の謎です。それが何よりも一番難解なテーマだと思う。
僕はもうむちゃくちゃ好きな監督だし、今回はその期待にガッツリ応えてくれる最高の変態っぷりを発揮してくれたと思いますが、しかしこれもまたかなり人を選ぶ映画であることは間違いないと思うんですよ。
事実、僕のツイッター上では「わかんなかったけど別にわかりたいとも思わねーし」みたいなクソダサいカッコつけツイートしてる人間が山程いました。(別に理解できないのがかっこ悪いと言っているわけではなく、理解できなかったことを強がってプライド保護に走る姿勢がかっこ悪い)
ある程度映画を観ている人であればぜひ観て欲しいなと思いますが、もう今のノーランの立ち位置的にはその程度の観客にリーチすればいいというレベルではないわけで、果たして王様のブランチを観て「話題だしこれ行ってみようかな」って思う人たちにこの映画が刺さるのか、というかノーランの作風が刺さるのかというのはかなり疑問。
むしろ「洋画ってやっぱり難しいしもういいかな…」ってなりそうで怖い。
これは別に日本に限った話ではなく、どの国でも似たような問題がある話だと思うんですよね。
どの国でも「この年No.1の超大作」=最も広い客層が観に来る映画、なんだけど内容にクセがありすぎて賛否両論になってしまう、という。
これは別に悪いことだって言ってるわけじゃないですよ。なんでそんな尖った作家が世界一の娯楽大作を作る座に収まってるのかが不思議でしょうがない、って言ってるんです。
おそらくは映画の「理解しやすい面白さ・エモさ」を「過去にない作風の新鮮さ」が超えた稀有な例なんだろうと思うんですが、実際はなぜこうなったのかはわかりません。
ただ僕としては、ノーランにはずっとこの手の変態脳みそ沸騰系映画を作り続けてほしいと願っているだけに、妙に薄く広くリーチした結果誹謗中傷がまかり通ってこういう映画を作らなくなっちゃうと困るんですよ。
もっとも賛否両論程度で方向性を変えちゃうようなヤワな作家ではないと思いますが、ただ売上=予算に直結してくるだけに…できるだけ真っ当に評価されて欲しいんですよね。
なにせ今回はコロナ後の劇場再開の期待を一手に担っているだけに…極端に言えば映画界そのものを背負った映画なので、「わかんなかったけどわかりたいとも思わねーしこんな映画クソ」みたいなクソ野郎が跋扈されると困るじゃないですか。
そこが心配であり、またなんでその役目を担う人がノーランなんだっていうのが現代版世界の七不思議だな、というどうでもいい余談です。
とりあえず公開はまだ始まったばかりでこれからもしばらく上映はしていると思うので、われこそはという方はぜひ劇場に観に行ってください。それこそ今後の映画興行の行く末を占う上でかなり重要な映画なので、とにかくできるだけ劇場に行って観て欲しい映画ではあります。さっきの話と矛盾していますが。
僕も最低でももう一回観に行く予定です。次はドルビーシネマで。
おそらく2回目はもっといろいろ理解できるものがあると思うんですよね。インセプションもそうだったように。
2回目すら楽しみ、っていうのはやっぱり…普通の映画じゃないですよ。
このシーンがイイ!
印象的なシーンはたくさんありましたが…。
映画的な見せ方としてはやっぱり空港でのバトルでしょう。不思議なバトルで気持ち悪いやらすごいやら。実物のジャンボジェット突っ込ませたシーンは思わず笑いました。笑っちゃうよあんなの。
エモさで言えば、終盤の某飛び込みシーン。「なるほどー!」と唸りました。
ココが○
まーね、期待通りにドエライ映画を作ってくれましたよ。ノーラン師匠。もう師匠ですわ。
どういう脳みそしてたらこんな話作れるのか、まったく意味がわかりません。脳の構造がおかしい。
ココが×
ところどころ疑問点や矛盾を感じるところもあり、さすがに僕のようなポンコツ野郎が思ったポイントはすべてきっちり説明できるんだろうと思いますが、逆に言えば「一発ですべてを理解できる」のは相当少数派だろうと思われるので、やっぱりなんだかんだ難しい映画の部類に属するのかなとは思います。なので人を選ぶかなと。
あとは上に書いた通り、序盤〜中盤の段取り感がつくづく残念。サクサクしすぎてて「情報提示してます」感が強く感じられちゃう。
あと邦題も「TENET」だけでよくね? バカにしてるのかな??
MVA
今回僕にとっては馴染みのある俳優さんはあまり出ていなかったんですが、しかしやっぱり皆さん良かったです。
最も馴染みのある俳優さんであるケネス・ブラナーは悪役でしたが、今まで観てきた小悪党的な役と違って純然たる悪役をきっちり演じていたのが印象的。なかなか良かったですよ。
主演のジョン・デヴィッド・ワシントンはあのデンゼル・ワシントンの息子さんだそうですが、普通っぽさと達人感とどちらもきっちり感じられてよかったです。ただ、この人が役と演技どちらも良すぎて完全に食われちゃった印象。
ロバート・パティンソン(ニール役)
名もなき男の相棒となる人物。
彼は彼でいろいろワケアリっぽさもあるんですが、しかしそのワケアリ感も最後まで観れば納得のものだし、とにかくめちゃくちゃいい役でした。
今までこの人は「青白いトワイライトシリーズの人」程度の認識だったんですが、もう完全にやられましたね。めちゃくちゃ魅力的で。表情も素晴らしい。
「インセプション」で言うところのJGLのようなヒット感。今度はバットマンをやるそうなのでこれまた楽しみになりました。
それと外せないのがエリザベス・デビッキ。もうむちゃくちゃ美人。死ぬほど美人でびっくり。超クールで超かっこいい。
この人がヒロイン、っていうのがまた素晴らしかったですね。かわいくて守りたい的なヒロインではなく、クールだけど悲劇的なヒロイン。そして説得力しか無いルックス。
「こんな美人、人間にいるんだ」って思うぐらいに美人でした。凄まじいほどの美しさでしたよ…。

