映画レビュー1366 『ザ・ハント ナチスに狙われた男』
今回はJAIHOより、なんとなくチョイス系。北欧の映画もいいよね、ってことで。
ザ・ハント ナチスに狙われた男
ハラルド・ズワルト
ペッテル・スカブラン
トーマス・グルスタッド
ジョナサン・リース=マイヤーズ
マリー・ブロックス
マッツ・ショーグルド・ペターソン
ベガール・ホール
2017年12月25日 ノルウェー
135分
ノルウェー
JAIHO(Fire TV Stick・TV)
生き残ることの壮絶さを生々しく。
- ギリギリ逃げたは良いものの、靴すら無い状況で入ったのは雪山
- 各地の協力者に助けられつつ、ギリギリの逃走劇を繰り返す
- 追うナチス将校は1人も逃したことのない執念深い男
- 壮絶の一言
あらすじ
ただただ逃げる、ちょっと変わったナチス映画ですが、非常に実直な作りで良かったです。
1943年、ナチス占領可のノルウェー。
極秘任務を受け、12人で破壊活動を行おうとしていた兵士たちがナチスに捕らえられ、1人はその場で射殺され、10人は連行、唯一そこからギリギリ逃げたのがヤン(トーマス・グルスタッド)という男でした。
彼は裸足で雪山に走り去り、さらに足に銃撃まで受けていたのでもはや見つかるのも時間の問題かと思われましたが、想像を絶するタフさで氷点下の湖に隠れ、なんとか近くに暮らす人の協力を得ながら逃げていきます。
ナチスでは「死んだが死体が浮かんでこなかった」という報告を信用しない将校のカート(ジョナサン・リース=マイヤーズ)が彼を執拗に追い、何度もギリギリのところまで迫りますがあと一歩届きません。
ヤンが目指すのはスウェーデン国境。しかしどんどんとやせ細っていく彼にそこまでの体力があるのか…結果はいかに。
思いの詰まった命
結果はいかに、とか書いといてなんですが、実はオープニングはよくある「今の主人公(ヤン)の姿」から始まるので、彼が逃げられることはわかりきっています。ごめんね。
生き残った彼がどんな逃走劇を繰り広げたのか、それを追っていく“だけ”の映画ではあるんですが…まあリアルで壮絶な映画でしたね。本当に。
舞台がノルウェー、しかも雪山ということもあって始終寒そうでこんなんすぐ死ぬわと思いつつ観るんですが、まあヤンの執念とタフさには感服します。
そうそう、この話も例によって実話ベースだそうで、これがまた創作だったら「いくらなんでも」と思うところですが、実際に生き残ったよと言われるともう何も言えずただただ感服するばかり。
逃亡先で何度もナチスをよく思っていない人たちの援助を受けつつ、「あなたが生き残ったことには意味がある」とか「生きないとダメだ」とか言われるんですよ。
つまりきっとヤン一人だったら「もういい、無理」で死んじゃってもおかしくないぐらいに相当にきつい状況の中、周りの人たちの思いもあって“生き抜かざるを得ない”ことになるわけで、その姿は本当に凄まじいものがありました。
この手の映画は当然「自分だったらどうだろう」と考えながら観るんですが、まず間違いなくすぐ死ぬと思うんですよね。「もう無理」どころか最初に撃たれた時点で「あーもうダメだわー」ってなっちゃいそう。
そんな軟弱野郎と比較するのは論外ですが、しかしなぜそこまで彼を突き動かすものがあるのか。
それはやっぱり「自分の命だけではない」からなんでしょう。オープニングで彼が逃げると同時に捕らえられた10人の兵士は、逃げたヤンの行方を突き止めるためにナチスからこれまた壮絶な拷問を受けます。そして明くる日、処刑されると…。
もちろんそのことをヤンが細かく理解していたはずもないんですが、ただ「自分のために拷問を受け、処刑された」ことは情報が入ってくるし、聞かなかったとしても「そうなる」だろうことは容易に想像できるはずで、まずその同僚たちの命を背負っている意識、後ろめたさは間違いなくあるでしょう。自分だけが生き延びて“しまった”こと。
そしてさっきも書いたように、協力してくれる人たちからも「生き延びなければダメだ」と言われ続けるわけです。そもそもそんな言葉にされなくても、命の危険を冒して自分の逃走に協力してくれている時点で彼らの命もまた背負っているわけで、自分一人の命ではなくなっていくんですよね。どんどん。どんどん重くなる。
なのでもう時間が経つごとに「“生きる”ではなく“死ねない”」状態になっていくんですよ。ここで死んだらすべてが無駄になる、と。
そもそも捕らえられるきっかけとなった任務は失敗に終わっていて、それ故に彼自身が持っている情報というのは敵方(ナチス)はともかく味方にはそこまで重要とも思えません。秘密を知ったとか誰かを殺ったとかそういうものもまるでなく、ただ裸で帰るだけの兵士なんですよ。
それでも誰もが生きろと彼の命をつないでいくのは、彼が「生きて生還すること」そのことにまた希望を込めている部分もあるだろうし、逃走の成功自体が大きな抵抗運動の成果になる部分もあったんだろうと思います。
そんな様々な思いが込められた命なので、ヤンとしても本来の「生への執着」を遥かに超える意志の力を持つことになったのではないでしょうか。
それを踏まえてでも自分だったらやっぱりすぐ諦めてそうで己のダメさに涙するんですが、でも“協力する側”にはいたいなと強く思いましたね…。密告していい思いをするのではなく、自分が危険でもなんとか協力するぐらいの気概は持っていたいなと。
これもまた戦争の一面
もう本当に「逃げるだけ」の映画だし、逃走に協力してくれる人が出てくる映画は他にもいっぱいあるしで特に目新しさは無い映画のはずなんですが…徹底的に「逃げる」ことにフォーカスを当て、リアルに描いた“実話ベース”である点が他との差別化になっていたかもしれず、「なんか観たことあるなぁ」と思うこともなく終始緊張感もあって良かったです。
非常に地味な映画ではありますが、雪山のように静かで無駄がない映画でもあるので戦争の悲惨さを直視したいときにぜひ。詩的なこと言ったね。
このシーンがイイ!
少女が絵をくれるシーンはグッと来ましたねぇ…。
それと「夢の中でダンスする」シーンも印象的でした。唯一元気なヤンを観られたシーンだったかも。
ココが○
実話ベースに垣間見える脚色があんまり感じられなかった気がして、その真面目な作りが良かったです。勝手な想像でしか無いんですが。
あくまで「脚色がなかった」ではなく「感じられなかった」のがミソですね。うまく騙してくれたというか。いや実際にほとんど脚色してない可能性もあるけども。
ココが×
まあ痛そうなんですよ。拷問にせよ逃げるシーンにせよ。そういうのが苦手な人は絶対しんどいと思います。
MVA
ジョナサン・リース=マイヤーズが結構渋くて良い男になったねと思いましたが、まあこの映画はこの人でしょう。
トーマス・グルスタッド(ヤン役)
逃げた主人公。
役が役なので段々やせ細って骨と皮に近くなっていく役作りもまた壮絶でした。すごい。
本当に弱っていく雰囲気もすごくよく出てたし、文句なしですね。