映画レビュー1287 『迷子の警察音楽隊』
今回はウォッチパーティより。
自分で候補を選ぶときは会社で(これ重要)全作品チェックしているつもりなんですがこうして知らない映画が出てくるのが不思議。
あれ全部は出てこないんでしょうね、きっと。AmazonプライムビデオのUIは結構不満が多いんですが所詮世の中のUI意識なんてこんなものなんでしょう。ゲーム会社のストアも超クソですからねソニーお前のことだ!
迷子の警察音楽隊
エラン・コリリン
エラン・コリリン
サッソン・ガーベイ
ロニ・エルカベッツ
サーレフ・バクリ
カリファ・ナトゥール
ルビ・モスコヴィッチ
シュロミ・アヴラハム
ハビブ・シェハーデ・ハンナ
2007年9月13日 イスラエル
87分
イスラエル・フランス・アメリカ
Amazonプライム・ビデオ ウォッチパーティ(iMac)
絵になる構図、考えさせる間でしっぽり魅せる大人の映画。
- いろいろ手違いで予定外の街に一泊することになった音楽隊の一日
- 行くあてもない面々は親切で気っ風の良い食堂の女主人に泊めてもらうことに
- それぞれのバックグラウンドをしみじみ描く、一夜限りの友情
- 絵の良さ、間の良さで魅せる大人の映画
あらすじ
実に良かったんですが、この良さがわかるのはそれなりに歳を取り、同時に映画を摂取してこないと伝わりにくいものがあるような気もして、実はなかなか上級者向けの映画かもしれません。
1990年代、友好のためだったかなんだったか、エジプトのとある警察音楽隊がイスラエルに招かれ、文化センターで演奏を行うことに。
しかし手違いなのか空港には出迎えも一切おらず、やむなく自分たちで目的地へ向かうことにしたのでした。
若干態度の悪いナンパ野郎の団員、カーレド(サーレフ・バクリ)がJRで言うところのみどりの窓口的なところでナンパしつつ行き先を告げ、言われたバスに乗って現地へ着いたところで特に何もなさそうな街で降ろされる一行。
近くの暇そうな食堂に行き、“ここが目的地なのか”確認するとどうやら一文字違いの辺境の街に来てしまったようです。
途方に暮れる面々は歩いて目的地を目指しますが、誇り高き団長のトゥフィーク(サッソン・ガーベイ)以外の団員は「腹が減った、先に飯だ」とまるでドイツの道端でテント寝を強制させられた「ここをキャンプ地とする」原因を作った大泉洋と嬉野先生のような言い様で食事を要求。
折れた団長は一旦さっきの食堂に戻り、食事を摂ることにしたのでした。
そこで再度いろいろ聞いたところ、この日はもうバスが来ないこと、そしてこの街にはホテルがないことを告げられほとほと困り果てる面々。
そんな彼らを見て、食堂の女主人ディナ(ロニ・エルカベッツ)は「うちとこの店に泊まりな! 残った連中は常連の家に行きな!」と豪快な差配によって一行はこの街に泊まることになりました。
ディナの家に行ったのは団長トゥフィークとナンパ野郎カーレド。何かが起こる予感…!
やがて「街に行くけど一緒に行くかい?」と誘われた二人、ついていく団長と別行動を選ぶカーレド、そして他の2か所で泊まる団員たち含め、それぞれの異国の地での一夜はどのようなものになるのでしょうか。
女主人のかっこよさ
画面から乾いた空気が伝わってくるようなザラついた質感に、やや黄みがかって彩度が低めの色彩とほぼ固定カメラで展開する映像が非常に味わい深い、なんだかずっと心に残りそうな、ジワジワ染みてくるような映画でした。
ほろ酔いレベルで軽くお酒を飲みながらしみじみ観たくなるような映画で、なんとも言えない空気感がたまりませんでしたね。すごく好きな世界でした。
印象としては「バグダッド・カフェ」に似た、いかにも玄人受けしそうな作りというか。話もそうですが、それ以上に雰囲気が良い映画です。
話としては、最初と最後こそ「一団」ですが、メインとなる夜のパートは3か所にわかれたそれぞれのパートが描かれる、ちょっと群像劇っぽい内容になっています。
当然その中にも軽重がありまして、メインとなるのは団長とディナのお話。次いで一人外に出たカーレド、さらに常連客の家に行った3人、そして店に泊まった3人はほとんど出てこない不遇の存在、という感じ。
やはりメインとなる団長とディナの、それぞれの過去を徐々に明かしていく物語が特に良くて、始めは必要最小限の言葉しか発しなかった団長が、時間とともに少しずつ心を開いて会話が続くようになっていく姿にじんわり来ます。
団長はひどく真面目で実直なキャラクターなだけに、そこに至るまでに背負ってきたものが伝わってくるセリフは背景を想像させるに不足なく、また彼のその重い扉を出会った初日で開けてしまうディナのかっこよさ、人間力の高さの相性がすごく良い。
まあとにかくこの女主人・ディナがめちゃくちゃ素敵なんですよ。見た目も美人ですが、何よりも立ち居振る舞いが本当にかっこよくて。
自分が同じ状況にいたとしても果たしてここまで異国から来た人に親切にできるのか、そしてそれだけでなく「友人として」スッと懐に入り込めるような態度を取れるのかと言われれば絶対に無理だと思ってしまうぐらいに人間が出来てます。
相手の懐に入り込むということは裏を返せば自らの弱さもさらけ出しているわけで、そして弱みをさらけ出せるということはそれだけ自分に自信があるわけで、彼女のその人間性にはものすごく考えさせられるものがありましたね。
こうなりたい、こういう人間でいたいと一瞬で憧れさせる強烈な魅力を持った人でした。自分が似たタイプではないからなおさらそう感じるんでしょう。
対する団長はプライドで立っているような人に見えたので、ある意味では正反対の二人が友情を育んでいく姿はすごく眩しくて、この二人だけでもすごく良い映画になっていたと思います。
一方で準主人公とも言えるカーレドの話もなかなか良くて、こちらはこちらで年相応のそれっぽいエピソードに仕上がっているのも素晴らしい。
最後の“アレ”は余計かな…という気もしましたが、いろいろ踏まえるとあれが正しいのかなという気もするし、かと言ってネタバレになるから何も書けないしでよくわからないレビューになっております。いつものことです。
間を置いてまた観たい
ところどころで音楽や映画の話が出てきて、根底に文化的な交流を描いているのも良いですね。
違う国の人間でも、同じ文化を通って来たことで通じ合える良さというか。僕が香港に行って「Mr.Boo好きです」って言ったら仲良くなれるんじゃないか、みたいな。(まずタイトルが通じなさそうだけど)
ご多分に漏れず地味な映画ではあるし、目立ってここが良いと言える部分も無いんですが、すごく琴線に触れてくる映画で得も言われぬ良さがありました。
展開への興味が湧くとか手に汗握るとかそういうのとは無縁ながら、自分が異国の地で困ったときにもてなされているような心地よさがあったり、不便だし不安だったけど一生忘れない思い出になるなと確信する旅を一緒に味わっているような良さがあって。
これはちょっと間を置いてまた観たくなる映画ですね。人間関係に疲れたとき、ディナのホスピタリティに触れればリセットされてもう一度頑張れそうな気がする、そんな映画でした。
このシーンがイイ!
カーレドがパピに「女性との接し方」を教えるシーンがものすごく良かったですね。僕が男だからかもしれませんが。すごくいろいろ考えちゃって。
ココが○
もう本当にそこら中にいる普通の人間たちを描いたドラマだったのでその辺もすごく好きです。
ある一日を切り取って「生きるとはこういうこと」みたいな。生きることと同時に「人とつながること」を教えてくれるような映画で、そこがすごく良かった。
ココが×
ジャンル的には「コメディドラマ」なんですが、ややシュールな部分はあるものの笑える映画ではないです。
「喜劇」ではあるのでコメディではありますが、ただなんとなく邦題の緩さも相まって求めるものとのギャップが生じかねない映画だなとは思います。
MVA
これはもうこの人しかいないでしょう。
ロニ・エルカベッツ(ディナ役)
食堂の女主人。めちゃくちゃかっこいい。
すごく綺麗だし本当にかっこよくて、出てくるだけでグッと来ちゃう。食堂にいるときのポニーテールがより素敵。
ただ調べたら若くして亡くなっていました…すごく残念だしショック。めちゃくちゃいい役者さんだったのになぁ…。