映画レビュー1327 『愛しい詐欺師』

前も書きましたがJAIHOそろそろ一旦休止かなと考えているんですが、考え始めた頃から妙にタイ映画に力を入れ始めていて狙い撃ちされているような気がします。

最近追加されるタイ映画は大体常時配信っぽいんですが、今回観たこちらの映画も常時配信、そして日本初配信だそうです。

愛しい詐欺師

The Con-Heartist
監督
脚本
出演

ナデート・クギミヤ
ピムチャノック・ルーウィセートパイブーン
ティティ・マハーヨーターラック
ポンサトーン・ジョンウィラート
カタリヤー・メーキントッシュ
チャンタウィット・タナセーウィー

音楽
公開

2020年12月3日 タイ

上映時間

128分

製作国

タイ

視聴環境

JAIHO(Fire TV Stick・TV)

愛しい詐欺師

詐欺師映画らしい二転三転が◎。

8.0
詐欺師に協力してもらって元カレ詐欺師を懲らしめるぞの巻
  • 詐欺ろうとして失敗した詐欺師と組んで借金元凶の元カレからふんだくる計画
  • 素人女性2人+プロ男性2人の混成チームで元カレを欺けるか
  • ラブコメっぽいタイトルながらラブは控え目
  • やや小ネタ多めでノリについていきにくさも

あらすじ

相変わらずこの手のコメディ仕立てのタイ映画は面白いなと満足なんですが、ただネットでも評価は賛否両論といったところで、それもよくわかるぐらいには少しクセのある映画でもあるかなと思います。

借金返済に苦しむ模様をYouTubeで軽快に伝えながら暮らすイナ(ピムチャノック・ルーウィセートパイブーン)は、大胆にも動画で自らの連絡先と口座番号を公開し「助けて〜!」と懇願。

そんなものは当然悪用する輩が現れるのが世の常、その情報を元に電話をかけてきた税務署員を名乗る男から「55000バーツの還付が受けられるんだけど口座確認の手続きに前払いが必要で…」的な、日本でもよくある還付金詐欺的な電話がかかってきまして、困窮しているイナは渡りに船とばかりに手続きを進めます。

が、受取人が個人名なのはおかしい…とピンときたイナは元銀行員の人脈を活用して受取人を調べ上げ、これは詐欺だと気付いて反転攻勢、会話を録音して「バラすぞ」と相手を脅します。

音を上げた詐欺男のタワー(ナデート・クギミヤ)は「ちょっと借金返済に協力するから録音消して」と泣きを入れ、イナは鼻息荒くとりあえず会って話すぞとアポを取り付け。

タワーと会ったイナは、借金の原因は元カレのペット(ティティ・マハーヨーターラック)の奨学金を肩代わりしたためと理由を話し…ていたところに問題のペットが偶然通りがかり、読唇術が得意なタワーは彼がかつてイナに言ったセリフとまったく同じセリフを別の女性に吐いていることをイナに伝え、「あいつは悪いやつだから録音削除を条件に一緒にあいつから金を取ろう」と持ちかけます。

かくしてミイラ取りがミイラ的に詐欺師になったイナ、元カレへのリベンジの始まりです。

どことなく韓国映画を感じさせる雰囲気

僕はこの手の犯罪コメディは大好物なので、期待通りにしっかり楽しませていただきました。

ターゲットは「旅行会社のマネージャー」というなかなかの立場に就いたとは言え元カレという超個人的な一般人だし、「オーシャンズ」シリーズのような大掛かりな詐欺ではないんですが、だからこそある程度ゆるくても許せるし、まさに今もどこかでこんな話が進んでたりしそうなリアル感が逆に良かったですね。

ポイントとしてはやはり「元カレ(ペット)も(ある意味)詐欺師」というところでしょうか。(やってることは詐欺だけどニュアンス的にはヒモが近い雰囲気)

イナはタワーに指摘されるまでまったく騙された自覚もなかったようですが、ペットはイナと同じように女性をカモにお金を貢がせる生活を続けていたようで、それを知って許すまじ、と。

計画には他のメンバーも必要だ、ということでイナの顧客かつ子ども時代の恩師で、イナと同じく借金の返済に苦しんでいるおばさまノンヌット先生も仲間に引き入れ、またタワーの自称兄である詐欺師仲間のジョーンも加わって4人で事に当たります。

ポップな演出とややオーバーな作りはどことなく韓国映画を思わせる雰囲気で、やっぱりタイ映画は「東南アジアの映画」という字面から受けるなんとなく素朴そうなイメージとはまったく違う、洗練された「映画先進国」っぽさがありますね。ほんとに。何度も言ってますけど。

オープニングのYouTube的演出からしてすごく今っぽい、新しい映画だなと感じさせるし、テンポも良くきっちり楽しませてくれます。

ちなみに僕が初めて観た「劇中で新型コロナの影響を描いている」映画でした。日常の当たり前が映画に出てくると新鮮、という不思議な感覚。

序盤はややコメディ色を強めに押し出している印象で、特に舞台となる高級ホテルの営業部長・サムソンのキャラクターはくどいし汚いしで嫌な人多そう。(というか終盤とは言えコロナの影響を描いた映画でこのキャラクターも考えてみたらなかなかすごい)

僕もさすがにもういいよ、っていうかこいつ今までどうやって暮らしてたんだよと思わずにはいられませんでしたが、その辺の事前準備段階が終わって本番の計画が始まってくるともうだいぶこの世界観にも馴染んできて、変に裏読みもせず素直に楽しむことができました。

タイトルからしてラブコメ要素が入ってくるんだろう…と思って観ていましたがその辺はほぼ気にならない程度で、むしろこれは例によって邦題が悪い典型的なパターンのような気がしたんですが原題も似たようなものでした。お、おう…。

ただやっぱり「ターゲットが元カレ」というのが効いてくる面もあり、「詐欺で懲らしめよう」的な表の階層とは別に、2人の男性の間にいる女性という構図も裏に隠れているように見える作りがお上手。

もしかしてノンヌット先生×ジョーンの裏カップルも!? とかちょっと期待してたんですが終始ノンヌット先生はジョーンを白い目で見ていたので草、みたいな。ほんと毎回いい表情で見てたのでそれも密かな見どころです。

ちなみに劇中登場する銀行のJNBC、よく見たら「Japan National Bank of Commerce」と書いてあって「えっ日本の銀行!?」と驚いたんですが、どうやら同じ監督の「ATMエラー」という映画から引き続き使用されている架空の銀行っぽいです。こっちの作品も観てみたい。

なお参考までに、当時もそうかはわかりませんが今現在の1バーツは約4円なので、劇中登場する金額は大体4倍換算すればなんとなく感覚的に理解できます。

前もなにかの映画で書いた気がしますが、そのこと自体覚えていたのでもうこの先タイ映画を観ても金額は把握しやすくなりました。やったね。

大体タイは4倍、韓国は10倍です。地味だけど知っておくと理解しやすくなるので覚えておきましょう。

イケメン好きもどうぞ

終盤の展開はこの手の映画らしく二転三転し、そこもしっかり楽しませてくれます。

ややコメディ的な面でクセが強い感はあるものの、僕のように犯罪コメディ映画が好きであれば何も考えずに楽しめる系の映画だと思うのでその手の御仁にはオススメしたい所存です。

主役のイナを演じた女優さんは見た目的にはそこまで好みでもないかなーと思いつつ観ていましたが、段々かわいく見えてくるのが不思議。真っ直ぐで健気なキャラが良いですね。

タワーとペットは違ったベクトルのイケメンでそっち方面を期待しても楽しめそうだし、「ただ美男美女が出てるだけ」の中身空っぽ映画とは一線を画した「ちゃんと面白い」映画になっていると思います。

やっぱりタイ映画、いいよねと毎度のことながら書き記してこの項を終えましょう。こういう「普通に楽しめる」レベルの映画なのにJAIHOが持ってこないと観られないっていうのもどうなんだと苦言も残しておきます。

このシーンがイイ!

ずっとジョーンがズルい映画なんですが、「価格交渉のため上司に電話連絡するシーン」とかもうズルすぎて最高でした。

あともう超小ネタだけどジョーンが高級車に乗って去っていくシーンが一番笑った。

ココが○

軽めながらちゃんと詐欺映画になってるし、非常に卒なくまとまった良い映画だと思います。

同じような映画でもアメリカ映画だと「なんか観たことあるな」になりがちなので、ちょっと角度が違って見えるという意味でこの手の映画がちょっとマイナーめの国で作られると新鮮でいいなと。

聞き飽きた曲も他国のカバーだと新鮮に聞こえる、みたいな感覚。

ココが×

上に書きましたが、特に前半はコメディ色が強すぎるきらいがあり、そこで「なんかこのノリ好きになれないな…」ってなっちゃう人は結構いそうな気はします。

でも後半はしっかり緊張感も出てくるし、ちょっと辛抱して観てもらえればと。

MVA

主演のピムチャノック・ルーウィセートパイブーンは表情豊かですごく良かったんですが、でもやっぱりこの映画はこの人を外すことができません。

ポンサトーン・ジョンウィラート(ジョーン役)

プロ詐欺師の一人、タワーの(自称)兄。七三分け。

もうのっけから胡散臭さ満点なんですが、でもペットの前で営業担当として振る舞うとすごくそれっぽい、いかにもちゃんとした(?)詐欺師感が素晴らしい。

そして何より面白い。一番笑わせてくれました。めっちゃいいキャラしてるし多分この映画が面白かった人はみんな好きになると思います。

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