映画レビュー0791 『ナイロビの蜂』
今回は特にネトフリ終了間際で観たい映画もなく、BS録画分も気が乗らず、じゃあネトフリから無作為に…と思って探してたんですが気付けばかなりいろんな映画が追加されてたりして、こりゃーネトフリだけで一生暮らせるなと逆に怖くなりましたね。劇場に観に行った映画も結構追加されていて。マジで観きれないよコレ。
で、なんとなく「最近ゆるい映画ばっかり選びがちじゃないのかダメ人間」と危機感を抱き、少しシビアそうな映画ということでこちらをチョイスしましたが内容についてはよくわかっていません。
元はと言えば「観ていないビル・ナイの出演作を観ようキャンペーン」の一環として俎上に上っていてずっと観たかった映画だったんですが、そんな話は聞いてねーよと。わかってます。
ナイロビの蜂
愛のサスペンス。
- ジョン・ル・カレ原作のサスペンス…だけど大きな柱は“愛”
- 実際にありそうな話なのがさすが
- ジョン・ル・カレ原作にしては時代背景の古さがない
- やや込み入っているのでわかりづらさがあるので要集中力
ということで当ブログ(というか僕が観たものでは)「われらが背きし者」以来ですかね、ジョン・ル・カレ原作の映画です。
僕はジョン・ル・カレ原作映画は基本的に外さない、かなりレベルが高い映画が多いと思っているので今回も期待していたんですが、この映画もまた…他の原作映画とはまたちょっと違った切なさを感じる良い映画でした。
ただダメだとわかりつつも今回久しぶりにお昼ご飯を食べた直後に観始めたもんで、お決まりのごとく眠くなってですね。だいぶ中身が理解しきれてなかったような気がしますごめんよ。ごめんよカレ。
主人公はレイフ・ファインズ演じるイギリス人外交官のジャスティン。
ジャスティンって言われるともうどうしても「レッツゴージャスティーン!」を思い出しちゃって笑っちゃうんですがすごく真面目な映画なので笑わないでください。なお「レッツゴージャスティーン!」を知らない方はググってください。見たところでよくわからないかもしれませんがすごいんです。
レイフ・ファインズはついこの前「シンドラーのリスト」での強烈な悪役を観てからの超善人役という振り幅180度の演技がさすが感強め。今回の役どころはそれこそ虫も殺さないような、いかにもイギリス人外交官です然とした紳士で優しく、そして人間味溢れる等身大の人物です。
彼にはかなり年下の奥さん・テッサがいてかなりラブラブだったようなんですが、その彼女は物語開始早々に遺体となって発見されます。とは言えこの奥さん、演じるのはレイチェル・ワイズということで当然ながら出てきて死ぬだけの役ではなく、彼女との思い出や彼女がのめり込んでいった“ある調査”を回想シーンの形で散りばめながら、彼女が足を踏み入れていった陰謀に向き合い、また自らも危険にさらされていく“普通の人”ジャスティンを通して真相に迫る、という物語です。
ちなみにテッサは役の上では24歳という設定のようなんですが、さすがにどう見ても当時(30代半ば)のレイチェル・ワイズが24歳は無理があるんじゃねーのと一応文句を言っておきましょう。役柄的にはさすがによく合っていたと思うので、そしたら別に設定変えて30ぐらいにすればよかったんジャネーノと思います。
さて、よくある「巻き込まれ系事件をたどった結果陰謀が」的なお話っぽい雰囲気ですが、このお話の特徴であり珍しいところとしては、やっぱり「夫婦関係とその周辺」のお話が結構大きなウェイトを占めている点だと思います。
亡くなった奥さんは、発見される2日前に「最近ずっと行動をともにしていた男性医師」であるアーノルドと一緒に調査へ向かい、そして奥さんだけが遺体となって発見されるというスタートの時点でやっぱりざわつくじゃないですか。
さらに回想シーンでどうやらジャスティンの同僚が彼女に想いを寄せていたっぽいことも匂わされ、さらにさらに彼女は自分がのめり込んでいった調査について夫には何も知らせていなかったため、ジャスティンは彼女の愛情が本物だったのか、彼女は自分を愛していたのか…彼女を愛するが故に悩みを深めていくという…これがもうね、辛いぞと。
なぜテッサは死んでしまったのか、そして彼女が命をかけてまで進めていた調査とは何だったのか…それを追っていくジャスティンの姿を見ることで観客も追体験し、徐々に明かされる陰謀でワオ、というサスペンス…なんですが、上記の通り軸にあるのはジャスティンとテッサ夫婦の愛のお話で、事件とその背後にある陰謀についてのお話はやや見せ方が込み入り過ぎてわかりづらく、夫婦のお話の余韻と事件の余韻のギャップが強い映画だなぁと感じました。
夫婦を主体に捉えると、ものすごく良い映画だと思うんですよ。感情のたどり方も決着の付け方も良いと思います。なので、感想としては「良い映画だったな…」なんですが、ただ二人がその関係性を見つめ直すきっかけになった事件の方はというと、あまり事前の説明も無く登場人物についての予備知識も少ないまま過去と現実を混在させながら進むので、サスペンス的に言えばもうちょっとストレートに見せて欲しかったし、惜しい映画だなと思います。
一応ジャンル的にはサスペンスに入れましたが、実際は恋愛映画なのかもしれません。それぐらい、夫婦の愛情の描写が重要な物語になっているし、反面その分事件部分の描写が少し丁寧さに欠ける印象。もっと言えば社会派的な要素もかなり強いんですが、そっちにしても恋愛とサスペンスを絡ませたことでちょっと中途半端に感じられる面があり、いろいろと惜しい映画だなぁと思います。感覚的には“「ブラッド・ダイヤモンド」の恋愛寄り版(娯楽要素少なめ)”ってところでしょうか。
主人公ジャスティンの危機もいろいろ描かれる割には結構あっさりと核心に近付いていくような感覚もあったし、ベースが良いだけに…見せ方がもうちょっとうまければ傑作足り得たんじゃないかなぁと残念でした。
派手さも無いのでそこそこ映画好きの人向けの映画だとは思いますが、であればもうちょっとうまく回して欲しかった気がします。
とは言え実力派俳優たちが主体で静かな魅力のある映画だとも思うし、一度観てみても損はしないのではないでしょうか。原作読んでみたいなー。
このシーンがイイ!
んー、やっぱりエンディングかなぁ…。ロケーションがすごく良くてね。そこにレイフ・ファインズの表情がまた…。
ココが○
なかなか珍しいタイプの「社会派サスペンス純愛映画」なので、多分ハマる人はものすごくハマるんじゃないかなー。観終わった後にいろいろ考えさせられることは間違いなく、それだけ感情的に動かされる面はあるんじゃないかなと思います。
ココが×
やっぱりいろいろモヤモヤするんですよ。事件の構造的に。そこがリアルでもあるしよくできているとも言えるんですが、ただそういう構造なんだからもう少し丁寧に描いて欲しかった面もあるし、やっぱりサスペンスとしてはもう一つ、というところだと思います。
MVA
期待のビル・ナイは出番が少なめでちょっと残念。ただ役としてはあんまり観ないタイプのビル・ナイだったので意外と満足でした。
嬉しかったのはポスルスさんだなー。もう亡くなって久しいですが、久しぶりに観られて良かった。
でも結局はこちらの方になります。
レイフ・ファインズ(ジャスティン・クエイル役)
何せちょっと前に悪役で観ていたので、やっぱり役でいろいろ変わってすごいなーという単純な感想。ほんと普通の外交官っぽくてね。強くもないし、悩みも深いしで。さすがの演技だと思います。
対する奥さんのレイチェル・ワイズにしても、上に書いた通り設定年齢的には無理がありつつも、役柄的にはすごく良かったですね。ちょっとのめり込みがちなタイプ感が。