映画レビュー0761 『鷲は舞いおりた』
本日は久しぶりにBS録画から。タイトルがかっこえーですな。
鷲は舞いおりた
ナチス・ドイツが主人公という意味では珍しく面白いテーマながら、やや間延びした流れがもったいない。
原作はイギリスとアメリカで鬼売れした小説だそうですが、当時としては珍しい史実とフィクションを織り交ぜつつ「リアルなドイツ軍人」を描いた物語としてそれはそれは大変な人気だったようです。
映画としては序盤〜中盤にかけての説明部分に若干まだるっこしさを感じる面があり、「この人出さなくてもよくね?」みたいな人も何人か見受けられたりしてもうちょっとサクサク進めて欲しいなぁと思いつつ観ていましたが、しかしどうしてなかなか「ナチス・ドイツ中間管理職の悲哀」みたいなものもあってですね。味のある映画だなぁと思います。
物語は第二次世界大戦中、敗戦が色濃くなってきたドイツ軍において、難度の高い作戦だった「ムッソリーニ救出作戦」が成功に終わったことに気を良くしたアドルフ・ヒトラーが、「同じようにチャーチルを誘拐すれば起死回生の一手になるのではないか」と考えたのが物語の発端です。この「ムッソリーニ救出作戦」までは史実に則った話のようで、それ以降がこの映画(小説)の創作部分、ということでしょう。
「チャーチル」は言うまでもありませんが当時のイギリス首相、ウィンストン・チャーチルのことですが、当初は総統の思いつきですぐ忘れるだろうと考えていた国防軍情報部長官のヴィルヘルム・カナリス提督は、「一応計画を作りはしましたよ」という…まあ自己弁護用程度の考えで、部下であるマックス・ラードル大佐に計画立案を命じます。ところがラードル大佐はイギリスにいるスパイからチャーチルが療養のために小さな村を訪れるという情報を聞き、「これはもしかしたら実現可能かもしれない」と本腰を入れて計画を考え始めます。
ですがカナリス提督はこんな実現不可能な計画を実行に移してその失敗の責任を負わされたらたまったもんじゃない、ということで一旦計画を破棄させますが、しかしこの計画を聞きつけた親衛隊長官、おなじみハインリヒ・ヒムラーによって「カナリスには知られないように実行すべし」ということで“すべてに優先して彼(ラードル大佐)の作戦に協力するように”というヒトラーからの印籠を手にしたラードル大佐により、精鋭を集めて計画を実行に移す…というお話です。
主人公は3人、1人目は計画の指揮官となるラードル大佐。おなじみロバート・デュヴァルが演じます。
2人目は現地で支援を担当するアイルランド出身の工作員、リーアム・デブリン。これまたおなじみドナルド・サザーランドが演じます。
3人目は現場指揮官として実行部隊を指揮する“歴戦の強者”、クルト・シュタイナー中佐。これもおなじみ演じるのはマイケル・ケイン。
そう、この3人がみなさん2018年現在いまだご存命どころか現役の大俳優、っていうのがね。今の時代から観る価値を感じさせるところです。それなりに映画が好きであればこの3人が共演している、っていうだけでワクワクもんでしょう。僕もマイケル・ケインの若い頃(って言っても40代ですが)は初めて観ましたが、まーやっぱりいい男でしたね。かなり重要な役柄なだけに、この配役も納得でした。
さて、そんな3人が無謀と思われるチャーチル誘拐作戦に従事し、史実としては当然チャーチルは誘拐されていないはずだし失敗に終わるんじゃないのと思って観ていたら…っとこの辺は観ていただきましょう。その「史実と創作の組み合わせ」っぷりの妙が伺えるなかなか面白いお話ではありました。
ご覧のように主人公はドイツ軍の軍人とその協力者であり、敵はイギリス軍ということになるので、よくある第二次世界大戦モノの映画としては異色と言っていい内容だと思います。僕としてもこういう話は初めて観ました。
何せいまだ活躍中の名優たちが主人公として登場し、それなりに人物像も描かれつつの内容なだけに感情移入もしていくので、不思議と作戦の成功を祈りつつ観る感じになるのが面白いところ。どう考えたって悪い方なんですけどね、ドイツ軍は。でもやっぱり主観によって感覚が変わるっていうのはこういう物語ならではの楽しみだと思います。
脇役としてヒムラーが登場することからも伺えるように、前々から書いていますが「記号化した悪」、共通前提としてのわかりやすい登場人物たちのおかげで、特に珍しい予備知識も無くすんなり入っていけるのはこの手の映画のいいところでしょう。会話だけですがボルマンの名前も出てきたりして。「おっ、南米に逃げたやつだね」みたいな。ゴルゴ13かよ、っていう。そういう他の創作物ともつながる固有名詞というのは(その個々の善悪は置いといて)やっぱり観ていて興味を惹かれるものがあります。
ただ、映画としてはちょーっとのんびりしている部分が長いので、正直飽きてくる感覚はありました。特に序盤のリーアムが村に潜入してからの少女とのやり取りとか、(原作に忠実とは言え)この話いるのかなーみたいなのが結構続くので、ちょっと緊張感が欠ける面はあったと思います。秘密裏の作戦の割にスピード感が無い感じで。そこが残念でした。
作戦自体もあまり周辺事情(イギリス側の話とか)は描かれず、あくまでドイツ軍の実行部隊が中心の物語なんですが、観客に計画の細部が告げられることもないのでイマイチ狙いもわかりづらいし、無謀な計画の割にハラハラさせてくれないもどかしさはありました。実行する村が村だけに仕方ないのかもしれませんが、ちょっと牧歌的すぎる感じ。
とは言えやっぱり珍しい「現場のドイツ軍」が中心の物語は今もってしても貴重な部分があったし、ナチス・ドイツと言えど人間であり組織人でもあるという話の流れはなかなか味があったなと思います。
やっぱり何と言っても主演の3人がこの3人なだけに、映画好きなら今観る価値も十分あるのではないでしょうか。
このシーンがイイ!
ネタバレになっちゃうのでしっかり書けないんですが…終盤、ラードル大佐が部下にかけるセリフのシーンがすごく良かったですね。
やっぱりロバート・デュヴァルいいわー。
ココが○
主人公がドイツ側であること、今も活躍する名優たちの共演が観られること、戦争映画らしい余韻があること。この辺りでしょうか。
ココが×
もう少し前半コンパクトにしてくれれば…かなり良い映画として印象に残った気がします。
MVA
まーさすがのお三方でどの人でも良いんだよな〜。正直。
ロバート・デュヴァルはやや登場シーン少なめでしたが、やっぱり貫禄があるので立場的にも申し分無いんですよね。いやー、良い。
ドナルド・サザーランドはいつもの奇人的ポジションではなく、やや色男感のある役回り。ちょっとドーナル君風味でした。こういう役は初めて観たから新鮮だったなぁ。やっぱりこの人も役者ですね。残念ながらなんでもジャックになっちゃう息子より断然上手い。
マイケル・ケインも色男感ありつつ、己の正義に忠実な信念の人って感じが良かったですねー。当然良い。
さて、誰にするかということで…この人にしましょう。
ドナルド・サザーランド(リーアム・デブリン役)
アイルランド出身の支援担当員。
軍人役ではないので当然ながら一番軍人っぽくないんですが、大学教員という役どころにふさわしい知性と色男感がイイ。ほんとなんでもできるねこの人、って感じで良かったです。
ちなみにドナルド・サザーランドとロバート・デュヴァルはこの前に「M★A★S★H マッシュ」でアメリカ軍人として共演しているだけに、当たり前ですが全然違う役回りをしっかり演じている辺り素晴らしいねと。