映画レビュー1453 『女王陛下のお気に入り』
公開当時から結構な評判だったので当然のように観たいと思っていましたが、例によって配信終了が来るよということでね。観ましたけども。
女王陛下のお気に入り
デボラ・デイヴィス
トニー・マクナマラ
オリヴィア・コールマン
エマ・ストーン
レイチェル・ワイズ
ニコラス・ホルト
ジョー・アルウィン
マーク・ゲイティス
2018年11月23日 アメリカ
120分
アメリカ
Amazonプライム・ビデオ(Fire TV Stick・TV)

人間ワイコー。
- 女王側近を頼って宮廷へやってきた女中、徐々に“お気に入り”として頭角を現す
- やがて熾烈さを増す側近とのポジション争い
- 厳かで絢爛豪華な宮殿の内部で行われるバッチバチでドロドロのバトル
- 歴史if物としても楽しめる
あらすじ
ヨルゴス・ランティモス作品なので結構構えていたんですが、とてもランティモス作品とは思えないぐらいにいい意味で大衆向けになった内容で評判通り面白かったですね。
舞台は18世紀初頭、フランスと戦争中のイギリス王室のお話。
言わずとしれた国のトップであるアン女王(オリヴィア・コールマン)は少女時代からの親友で隠し事もせず率直に物を申す側近のマールバラ公爵夫人・サラ(レイチェル・ワイズ)に頼りっきり、「子どもがそのまま大きくなった」ようなわがままさで日々過ごしております。
そんな中、没落貴族の娘アビゲイル(エマ・ストーン)はサラとの縁戚関係を利用して宮中に職を得ようと宮殿にやってきて、住み込み下働きの女中の仕事を得ます。
ある日、女王が通風に苦しんでいることを知ったアビゲイルは薬草の知識を活かして薬を作り、無断で女王の足に塗るとサラは激怒、鞭打ちの刑となりますが、しかし女王が足の痛みが和らいだことを告げるとサラは処分を撤回し、アビゲイルはめでたく昇進。
こうして「サラの右腕」的なポジションになったアビゲイルは徐々に頭角を現していき、やがてサラの座すら脅かす存在になっていきますが…あとはご覧ください。
実際にあったかも物語
嫉妬と欲と憎悪と愛情が渦巻くドロドロの宮廷バトル、この手の話は万国共通で面白いのねと感心ですよ。人間って昔からこういう話好きだよなぁ。
主な登場人物は皆さん史実にも登場する実在の人物であり、“結果”もほぼ一緒なのですごく簡単にまとめてしまえば「史実に沿った話」と言えなくはないので、「実はアン女王の近辺ではこういうことがあってこうなったのでは…」みたいな穿った予想を映画にしました、みたいなイメージでしょうか。「内実を事細かにほじくり出した下世話な歴史」的な。
例えば「円満離婚です」とかよく言ってるけど実際は円満じゃなかったんでしょ? 実はこういうことがあったんでしょ? みたいな下衆の勘繰りを広げた感じというか。
僕がWikipediaで学習した自慢の付け焼き刃から察するに、実際のところアン女王の側近としてのサラとアビゲイルの歴史については、この映画で描かれる「女の争い」みたいなものよりかは双方のそばにいる政治家の立ち位置によるところが大きかった(要は右翼を取るか左翼を取るか的な感じ)っぽいようなんですが、その辺も若干描かれつつ中心は「気まぐれなアン女王がどっちを取るか」を権力欲に絡めて面白おかしく物語化した映画、という印象です。
なのでこれを持って「こんなことがあったのかー」と事実と見なしてしまうのは当然危険だと思いますが、しかし「国王(女王)と言えど人間」なのも確かなので「ワンチャンこういうことがあった可能性はあるよな」みたいな、片足…いや片足の指先ぐらいは事実に突っ込んでんじゃねーのと見える辺りが絶妙に生々しくて面白いところです。
その辺踏まえた上でこの映画を振り返ると、やっぱり避けて通れないのは「同性愛描写」の部分でしょう。
これについては事実かどうかもわかりませんが、自慢のWikipedia情報によると後にサラが「(アン女王は)同性愛の傾向がある」と暴露したとのことなので、この字面のニュアンスそのままだとすると「迫られたことがある」ぐらいなのかなと思いますが、しかしサラ自身の保身のために「あった」とはっきり言えなかった可能性もあるのでこれまたなんとも言えません。
いずれにしてもこの同性愛部分をピックアップした方がセンセーショナル(言い換えれば下世話)で物語として面白くなるし、話も動かしやすいから上手く利用した、という感じでしょうか。
多分この要素を取っ払っちゃうと、下世話な部分を除いたとしても人間の奥深い部分の嫉妬とか愛情とかそれを利用した権力闘争とかの面白みや生々しさが希薄になってしまうような気がするので、この部分は「単なるゴシップ」的に持ってきたわけではないのも間違いないところでしょう。
ちなみに観ているとわかるとは思いますが、アン女王の「足を揉んで」が“行為”を意味しています。「復讐は私にまかせて」でちんこの隠語が“鳥”だったのと同じようなものですね。(多分違う)
こういう話になるととかく過激に描きがちな映画が目に付く昨今、言葉で示すだけで映像ではあまり直接的に描かずご想像にお任せします的な作りなのも好きでした。(オリヴィア・コールマンのそれが観たくないとかでなく)
観やすく深い
僕が他に観たことがあるヨルゴス・ランティモス監督の映画は「アルプス」と「ロブスター」だけではありますが、(面白いけど)結構なクセを感じるその2作と比べるとこの映画は最初に書いた通りかなりランティモスみが薄めで、誰が観てもきっとそれなりに面白さを感じるであろう作りでありつつ、深読みしようとすればできる部分も結構あるなかなか懐深い作りなのもすごい。
ボケーっと観てても面白いし、疑ってかかるといろいろ見えてきそうな点も面白いというか。
一応ジャンルとしてはコメディになるみたいなんですが、それも理解しつつただコメディ的な面白みよりも人間の怖さの方を強く感じる話だったし、もう全世界ラッコだけになればいいのにと思いました。はい。
ただまあ権力を目指すときとその座についたときとの差みたいなものも万国共通…というかほとんどの人間がそうじゃないのかと思っちゃう生々しさで、そういう人間の嫌な面を面白く見せちゃうランティモスすげーな、というのは間違いのないところです。
結局金も力もない一般人が一番この手の“毒素”に当たらずに済んで気楽でいい…のかもしれないですね。いつもお慰み的にそう思うようにしてますけども。
このシーンがイイ!
エンディングかなぁ。
ここもいろいろ深読みできる部分で、他の人の考察を見て「なるほどー」と思ったんですが、しかし絵面のみから見出だせる心情的な面だけでもなかなか考えてしまう部分があり、良かったですね。
あと結婚初夜のシーンもすごく印象的で笑っちゃうやら情けないやら…。
ココが○
これは僕だけの問題かもしれないんですが、結構この時代を舞台にした映画ってイマイチ盛り上がらなかったり上辺の会話ばかりで退屈なイメージが強い中、この映画はなかなかエグいというか良い意味で品がない、今の時代っぽい話に感じられるのが良かったですね。みんな等身大で。
多分アレですね、歴史上の人物だろうがあまり遠慮せず人間らしく描いたのが良かった、ってことなんでしょうね。
あと密かに劇伴がすごく良かったですね。終始不穏さを上手く感じさせてくれて。
ココが×
エンディングもそうですが、ちょっと理解しづらいところもちょこちょこあるのでその辺は注意、って感じでしょうか。
僕もしたり顔でいろいろ書いていますが多分この映画に込められた意味の半分も理解していない気がします。おそらくもっとすごい映画なんじゃないかなと。
MVA
中心となる御三方は皆さん見事に演じていて、演技の上でもバッチバチでしたね。全員一歩も引かない演技合戦、って感じで本当に良かったんですが、まあでもやっぱりこの人かな。
オリヴィア・コールマン(アン女王役)
女王様。
わがままで高慢だけどちょっとかわいげもあるというか、サポートしてあげないとまずいと感じさせる絶妙な無能さみたいなものが非常にお上手でした。さすが主演女優賞。
一方でいい感じのおばちゃん感もあり、そこがまた同性愛の生々しさを浮き立たせていたのもすごいなと。
アン女王、こんな感じだったんだろうな…と考えちゃうリアルさが本当に見事でしたね。


