映画レビュー1210 『5つの銅貨』
今回もJAIHOから。BSでやってそうな古い映画、たまに観たくなるのでこういう映画を配信してくれるのもありがたいですね。
5つの銅貨
メルヴィル・シェイヴルソン
ジャック・ローズ
メルヴィル・シェイヴルソン
ダニー・ケイ
バーバラ・ベル・ゲデス
ルイ・アームストロング
ハリー・ガーディノ
チューズデイ・ウェルド
スーザン・ゴードン
リース・スティーヴンス
1959年6月18日 アメリカ
117分
アメリカ
JAIHO(Fire TV Stick・TV)

今観るとなかなか贅沢。
- 家族ドラマを交えた王道音楽映画
- ルイ・アームストロングが結構出てきて演奏してくれる贅沢さ
- 演奏はレッド・ニコルズ本人が吹き替えを担当
- 往年のファッションやセット等も見どころ
あらすじ
序盤はちょっと主人公のキャラクター的に乗れなかったんですが、最終的には泣いちゃったよ案件です。わかっちゃいるけどズルいぜ的な。
非常に王道な内容の音楽映画なんですが、王道故良いよねと言うことで。
1920年代、田舎からニューヨークへコルネット本持って出てきた青年レッド・ニコルズ(ダニー・ケイ)はとある楽団に入団。同じ楽団にいたトニー(ハリー・ガーディノ)に誘われダブルデート的に夜の街へ繰り出し、評判のサックス奏者ルイ・アームストロング(本人)がいる酒場へ遊びに行って飛び入りでセッションしたりと好き放題した結果、乗り気でなかったデート相手のボビー(バーバラ・ベル・ゲデス)がなぜかベタボレしてきてめでたく結婚。
いろんなバンドに参加してはトラブルを起こして別のバンドへ移籍を繰り返し、やがて自らが中心となって「ファイブ・ペニーズ楽団」を結成、評判を呼んで仕事も順調でしたが、家族を顧みなかったことでとある事件が起きまして…あとはご覧くださいませ。
ルイ・アームストロングが見られるだけでもお得
実在したコルネット奏者、レッド・ニコルズの半生を描いた映画です。映画化される人物としてはあまり(日本人には)メジャーな人物ではなさそうだし、本国においても渋めの大河ドラマ的な感じでしょうか。
実在の人物がテーマなだけに一応史実に忠実な内容なんだろうとは思うんですが、メインの脇役ぐらいのレベルで登場するルイ・アームストロングのエピソードは創作っぽい気がします。なんとなく。
とは言えですよ、その「メインの脇役ぐらいの重要キャラとしてルイ・アームストロングが出てくる」ことの贅沢さは当時よりも今のほうが大きいんじゃないかと思うので、その一点だけでもかなり価値のある映画ではないでしょうか。もはやレジェンドと言える彼が当然吹きまくるし歌も披露してくれます。
対するレッド・ニコルズももちろん主役なだけに素晴らしい演奏(と歌)を聞かせてくれ、演じるダニー・ケイもやるじゃない…と思っていたらコルネットは吹き替えらしく、担当したのはなんと当時まだご存命だったレッド・ニコルズご本人とのこと。いわゆる「ワン チャンス」方式ですね。(いわゆるなのか)
歌もかなり多いのでミュージカルっぽさもあるんですが、基本はコルネットなのでジャズの色合いも濃く、そっち方面が好きな僕としてもご満悦の音楽映画でした。
まー主人公でもないのでこう言ってしまうのも申し訳ないんですが、やっぱりルイ・アームストロングの“ライブ”が見られるだけでものすごく貴重だしありがたかったですね。
もちろんYouTubeとかで調べればいくらでも出てくるんでしょうが、そのつもりで観ていなくてうっかり観られちゃったお得感と言うか。ご飯食べに行ったらサービスでデザートが出てくるような喜び。
そんなわけで音楽的にはかなり好みの映画だったものの、序盤〜中盤の主人公はあまり好きなキャラクターではなかったので、正直終盤まではあまり入り込めずにいました。
特に序盤は主人公が若いからか鼻持ちならないキャラクターだったし、物語関係なくダニー・ケイの芸を見せるのが目的かのようなタクシー内のシーンとか何度と無く「もういいよ」と突っ込むぐらいに鼻につくシーンもあって。ボビーも止めろや。
そもそもボビーも最初はかなり嫌がってたくせに店ご一緒しただけで急にベタボレてんじゃねぇよ、みたいなことも思いましたがその辺は尺の関係もあってさっさと馴れ初めを済ませたいご意向もわかるのでいちいち文句を言うのはやめましょう。
まあそんな感じで序盤は好きになれずにいた主人公ですが、それがきちんとフリとして後に生きてくる辺りがいかにも昔の映画らしい丁寧な王道感と言うか、まあわかりやすく乗せられちゃった良いお客さんになっちまったな俺も、と言うところです。
ラストはもうわかりきってはいたもののズルい。思わずホロリですよ。予想はしてても「こうなってほしい」、その願いをストレートに拾い上げてくれる物語はなんだかんだ染みました。
家族がテーマの音楽映画
それこそ「ボヘミアン・ラプソディ」であったり「ジャージー・ボーイズ」であったり、あの辺りと似た音楽映画ではありますが、この映画はそれらよりも“家族”に重きを置いたお話になっているのがポイントでしょうか。
いまだ独身の自分が言うのもなんですが、家族で泣かせにくるのはズルいぜとティッシュ片手に思うわけです。なんかいやらしい言い方だけどそっちの使い方じゃないです。
ちなみにフィルマークスで「勧めてくれたお父さんに感謝」的なレビューを見たんですが、この映画を(多分)娘に勧めるお父さんはきっと良いお父さんのはずだしその話自体が良いなと思いますね。半分は自己投影して「いいお父さんでしょ」と思わせに来てる可能性もありそうですがそれはそれでかわいいし。
おそらく日本人のほぼ誰も知らない人物の伝記で、なおかつ古い映画なんですが、それでも今なお楽しめる良作と言うことで色褪せない魅力のある映画と言っていいでしょう。時代を反映したオールドファッションも素敵です。
このシーンがイイ!
ラストシーンかなー。わかっちゃいるけどズルいぜ!
ココが○
まあやっぱりサッチモですよ。すごく楽しそうに演奏し、唯一無二の魅力ある歌。彼が重要なキャラとして出てくるだけで観る価値あり。
ココが×
上に書いたように、「それレッド・ニコルズじゃなくてダニー・ケイでしょ」みたいなシーンがあるのはいかがなものかと。いやこっちの勝手な想像だけど。ちょっと序盤のキャラのクセが強い。
MVA
実際に演奏してたらダニー・ケイかなーと思うんですがそうではなかったのとイマイチ愛せなかったのでこちらの方に。
バーバラ・ベル・ゲデス(ボビー・メレディス役)
レッド・ニコルズの妻。歌手でもあります。
若い頃から中年まできっちり演じていたのと、気が強そうな面と優しそうな雰囲気とが両立した存在感も良かったです。
ちなみに劇中娘ちゃんに「お母さんもう32だからボケちゃったのよ」と言われていて衝撃を受けました。32でボケ扱い…!