映画レビュー0271 『フル・モンティ』

最近さすがに「これ観たかったんだよね!」みたいなのは減ってきて、レンタルはだいぶ「たまがわ」推薦からのチョイスが増えてます。ただそれもなんか悔しいので、なんプロ発信も増やしていきたい! と意気込んでいますなんだか買い付けに走る配給会社の人間な気分。

今回の映画はタイトルこそ知ってはいましたが、内容はまったく知らず。タイトルはいわゆる「スッポンポン」という意味っぽいです。

フル・モンティ

The Full Monty
監督
ピーター・カッタネオ
脚本
出演
スティーヴ・ヒューイソン
ポール・バーバー
ヒューゴ・スピアー
ウィリアム・スネイプ
音楽
公開
1997年8月29日 イギリス
上映時間
91分
製作国
イギリス・アメリカ
視聴環境
TSUTAYA DISCASレンタル(ブルーレイ・TV)

フル・モンティ

失業と離婚で最愛の息子と会うことすらままならない状況に追い込まれたガズは、男性ストリップのショーが活況であることを聞き、親友やかつての上司、自殺を助けた男たちを仲間に引き入れ、自分たちもやって一儲けしようと企む。

上品なお下品映画。イギリス映画らしい良さがキラリ。

9.0

いやー、いいですね。

あの「キンキーブーツ」よろしく、イギリス映画の良作にはこの手の映画が多いみたいですが、「労働者の敗者復活を笑いを織り交ぜながら描くハートフルコメディ」的な素敵な作品でした。

舞台は不況のまっただ中にある工業地帯。

主人公と親友は失業中、かつての上司は奥さんに半年間失業を隠しながら職安通い。そこに自殺未遂で知り合った男も混ざってたり、その他の二人は特に生活に関する描写は無いものの、ハッキリ言ってどいつもこいつも「人生の敗者」です。その敗者たちが一発逆転を狙って、安易に今流行ってるらしい男性ストリップに乗り出してみるか、というお話。

その安易さだったり、「10ポンドで1000人」の計算がすぐできなかったり、とてもオツムがいい人たちとは思えません。元上司のジェラルドはそれなりに賢そうですが、失業を奥さんに黙って半年も擬似通勤を繰り返す辺り、やっぱり健全な人ではありません。

そういったいかにも等身大な人たちが「自分たちでもできるんだ」と頑張ろうとするストーリーで、個別のエピソードはどれも普通と言えば普通。驚くような展開も、逆転満塁ホームランもありません。

だが、そこがいい。的な。

この辺がいかにもイギリス映画っぽいですよねー。真っ当で、等身大で、「まるで映画みたいだな」なんて形容詞がまったく当てはまらない普通さ。その普通さ故に、すべてを信じきってやり切るわけでもなく、最後の最後までウダウダウダウダやるかやるまいか悩みます。その他夫婦のことであったり仕事のことであったり、これまた普通に悩みます。そんな普通の人たちの悩みや葛藤が、いかにも「生きてるなぁ」と感じさせる描写、そこがすごく好きだな、と思いました。

僕はこの手の話弱いですね。人間誰しも悩みはあって弱いんだぞ、っていう表現がうまい映画はどうしても感情移入しちゃいます。

この映画も基本はコメディだし、やることが男性ストリップだしで、観ようによってはかなり下品ではあるんですが、ただそれは本当に表面上の話で、実際の中身は本当に普通の人たちの悩みながらの生き方を描いた映画なので、「ふざけたような話を真面目にやろうとする人たち」という意味でも「キンキーブーツ」に近いものがありました。

観るまでは、勝手に「デビューしてもうまく行かず、そこからアレコレして売れるようになる」ような映画なのかと思ってましたが、実際は「ストリップをやるか否か悩みながら、稽古したり日々を生きていく」映画です。言ってみれば、本当に普通の人たちが、成功をつかめるかどうかの日々を追うだけ。ただ、やっぱりイギリス映画はこの手の「愛すべき一般人ががんばる話」が抜群にうまいな~いいな~と思います。

アメリカ映画とドコが違うのか、はっきりとした答えは今日も出ませんでしたが、なんとなく全体的に真面目で、どこか“人間そのものに対する賛美”の匂いがあると思う。もっと言えば、労働者階級の大事さ、“一般人”が世の中を支えてるんだぞ、という根源的な価値観を持っている国なんだな、という気がします。

アメリカがそうじゃないかどうかはわかりませんが、イギリスに関しては、きっとこういう映画にシンパシーを覚える人たちが多いということは、それだけ「末端には末端のプライドがあって、価値がある」ことを国民性として知っているのかな、と思いました。

映画とは華やかで、夢のような世界を観せてくれる良さがあるのも事実ですが、そういう華やかな世界で、末端の人たちに光を当てよう、という文化があるイギリス映画って素晴らしいなと思います。

僕含め、当然ながら観る側は大多数が“末端”なわけで、そういう人たちに嫌味なく、媚も売らず、真面目にエールを送るぞ、という姿勢はやっぱり素敵だなぁと思いますね。…とだいぶ本線から逸れたレビューになりました。

内容は結構しっかり笑わせてくれたりするので、あんまり肩肘張らずに適当に観て、なんかちょっと温かい気持ちになれればいいかな、という感じの映画だと思います。オススメ。

このシーンがイイ!

一番笑ったのは窓から部屋に入っていくシーンだったんですが、一番好きだったのは、みんなで並んでる時についつい踊り出しちゃうシーン。良かったですねぇ。

ココが○

細かく笑わせてくれるので、非常にサービス精神旺盛な映画だと思います。その上短いのでサラッと観られるのがまた○。

あとはこの手の話では割とベタな気もしますが、「悪い人がいない」というのはやっぱりいいですね。誰かをあざ笑う作りではないところはコメディながら清々しさすらあります。

それともう一点、今回ブルーレイで観ましたが、映像がひじょーに綺麗でした。てっきり5~6年前辺りの映画なのかと思ったぐらい。しっかり丁寧にリマスタリングしてますね~。この映画への愛情を感じます。

ココが×

ただ今回はテンポの良さもあって、ちょっと短さがもったいない気もしました。もう少し観たいな、という愛すべき人たちではあったので。

あとは、最後まで観ると少しライト過ぎるというか、結局物語的にはうまくまとまったようで何も解決していない物足りなさみたいなのがありました。“バチッとハマった”ような感覚のある映画ではないです。

それもまた日常っぽくてよくはあるんですが、その最後のまとまりという意味では「キンキーブーツ」の方が(良くも悪くも映画らしいという意味で)上だったかな、と。

MVA

主人公チームどの人もそれなりに味があって好きでしたが、選ぶならこの人だなぁと。

ウィリアム・スネイプ(ネイサン役)

主人公ガズの一人息子。

いかにもイギリスの子供らしい、「おぼっちゃま」っぽいかわいさと真面目さ。スネたりもするけど素直だし、言うべきときはきちっと言うしで、「ただの息子」ではない存在感とそのかわいさが抜群でしたね~。

でも調べたらこの映画しか出てないとか。なんかあったのかな。そんなに小さい子どもではなかったですが、“意志のある子役”としてかなりいい役者さんだな、と思っただけに意外です。

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