映画レビュー0450 『グランド・ブダペスト・ホテル』
今月はちょっと劇場で観たい映画が結構多そうなんですが、トップバッターはこの前「ラスト・ベガス」を観に行った時に手にとったチラシで「こりゃ絶対面白いだろ!!」と思ったコチラの映画です。
グランド・ブダペスト・ホテル
映画好きならきっとハマる! この世界だけで大満足。
えらいもんでそこそこ映画を観ていると、大体オープニングタイトルの入れ方で「おっ、この映画は期待できるね」とかわかるじゃないですか。さすがにそこだけで「悪い」かどうかまでは言い切れませんが、「良い」かどうか、はわかるんですよね。こりゃー良い映画だな、ってワクワクさせてくれる感じ。
この映画はまさにそのパターンで、オープニングタイトルのサラリと控えめな、でもすごくおしゃれな入れ方を観て、「これはもう確実に期待できる」と確信させてもらったんですが、その期待を裏切らない素晴らしい映画でした。
もう「映画が好き」という人にとってはとにかくたまらない世界で、雰囲気、色使い、動き、大小あらゆる要素から“良い映画臭”がにじみ出ている、もう一言で言えば「タマラン」としか言いようのない名作でしたね。いやほんと、たまらなかったです。
上映中、ずーっとニヤニヤしちゃって。「くぅー、いいねぇ~」っていう。ウェス・アンダーソン監督の映画は初めて観ましたが、こういう映画を撮る人だとわかったので、今後はもっといろいろ観たいなと思います。
主人公は高級ホテル「グランド・ブダペスト・ホテル」のコンシェルジュ、グスタフ。
彼に殺人の容疑がかけられ、新人ベルボーイのゼロとともに逃げ回りつつ、自らの潔白を証明するために事件の真相を追う…という物語。ストーリーとしてはサスペンスですが、雰囲気的にはコメディドラマっぽい色合いが強く、ジャンル的には「コメディサスペンス」って感じでしょうか。
サスペンスなだけにややグロい描写もサラリと挿入されるので、あくまで「大人向けの娯楽サスペンス・コメディ味」みたいな。ひじょーに細かいいろんな部分で機微というか、あざとくないセンスを見せつけてくれる映画なので、やっぱりそれなりにそういう意図を汲み取れる大人向けに作ってある印象。
もうこれだけの傑作(と言っていいと思います)になると、「ウダウダ言わねーでとっとと観ろや!」で終わりたいぐらいなんですが、一応ちょこっと語らせて頂きます。
一番わかりやすく目につくのは美術面だと思うんですよね。
パステルカラー&原色をメインに、絵本のような、おもちゃ箱をひっくり返したような、いかにも女子ウケが良さそうな世界。その世界をほぼ正面&真横から、一貫してパン(左右)、ティルト(上下)、ドリー(平行移動)ってなカメラワークで演出し続けるんですが、このカメラワークがものすごく印象的で。
カット割はそんなにめちゃくちゃ速いわけでもないんですが、同じシーン内のパンやティルトで時間経過を描いていることが多いので、展開もサクサク早く進むように感じられるし、同時に登場人物たちもやや早歩きがデフォルトなのですごくテンポ良く、コミカルに見える作り。このサクサク感がすごく気持ちよくてたまりません。
きっと言葉で書いても伝わらないと思うので、観るのが一番だと思うんですけどね。とにかくこのテンポとカメラワークから来る良い意味での軽さ、コミカルな雰囲気がこの映画のキモだと思います。
そしてそれを彩る、唯一無二の劇伴。なんなんでしょうか。アレクサンドル・デスプラらしいっちゃらしいんですが、いかにもちょい歴史あるヨーロッパっぽい劇伴。
と思うんですが。これがまたむちゃくちゃいいんですよ。オシャレでかわいくて。カメラワーク、テンポ、美術、そして劇伴と、映画の基本要素全部が全力でイメージを作り上げている、徹底した世界観の素晴らしさ。でもただ女子ウケのいい、甘いかわいいだけの世界ではなくて、ちょっぴりほろ苦い味わいも混ぜ込まれている辺りがこれまた最高で。見た目はかわいいけど味はほんのりビターなチョコレートのような映画とでも言いましょうか。まあホント、この辺は観て感じていただけたらと思います。
そして映画の世界を構築する上でもっとも重要なアイテムの一つが映画を彩る役者陣になるわけですが、こちらもまた豪華絢爛で素晴らしいキャスティング。
主役はレイフ・ファインズがさすがの安定感で魅せてくれるわけですが、他にもジュード・ロウやトム・ウィルキンソン、ビル・マーレイと言った名優陣も、出演時間は短いもののみんな印象的な役柄で映画に華を添えてますよ、っと。陳腐ですが本当に「華を添えている」感じなんですよ。これが。
ストーリーについては、コメディ含みなだけに結構勢い任せな面も強いので、「サスペンスとして」見たらいろいろ気になる点も出てはきます。最後は最後で、もう少しきっちり描いて欲しかった気もしました。
が!
そんなの関係ないんですよね。この映画は。ストーリーなんてどうでもいい、って言うぐらい、描かれている世界の魅力が強すぎて。正直、100分では物足りない。もーっとこの世界にいたかった、そういう映画です。
そういう意味では、ストーリーは全然違いますが、「Dr.パルナサスの鏡」や「シザーハンズ」のような、その世界から別れるのがすごくもったいないと思わされる映画でした。
いやー、素晴らしい。この映画を上映しないシネコンなんて潰れちまえばいい、と思いますね。死ねコンだ、なんつって。ほんと。
ただ、注意散漫な感じでテキトーに見ちゃうと、細かい部分の作りこみや演技を見逃してこの世界に入り込めなくなる可能性もあるので、これまたぜひとも劇場で観るべき映画だと思います。で、ソフト化されたら家でもガッツリ観るぞ、と。
家に付き合いたての女子を連れてくるぜ、なんて男子はぜひゲットしておいていただきたい。センスある女子なら絶対イチコロです。引っかからない女子なんてフッちまえばいいんだよバカヤロー!!
と熱くなってしまいましたが、ワタクシにはその予定はまったくないので、ソフト化されたらゲットして一人ニマニマしながらまた観ようかなと思っております。心は泣いてますけどね。一人なのでね。
っとこの映画のような、ちょっとほろ苦さも含ませつつのレビュー終了、と。うまいねどーも。
このシーンがイイ!
もう名シーンだらけで選べないんですが、やっぱり一つ挙げるならオープニングでしょうか。
タイトルの入れ方もそうですが、CGではなく絵(たぶん)を背景に、ミニチュアのようなゴンドラがトコトコ山を登ってホテル全景、というあの流れ。あの時点で映画好きなら心奪われるはずです。
ココが○
全部。これほどまで「全部いい」って映画もなかなかないです。
ココが×
最後がちょっとあっさりなんですよねー。そこだけ惜しい。ただこれは「もっと観たい!」っていう気持ちのせいなのかもしれません。
MVA
悩ましい! 悩ましいですが…この人かな。
トニー・レヴォロリ(ゼロ・モスタファ役)
新人ベルボーイ君。
演技がうまい! って感じではないんですが、なんというか…朴訥なイメージがすごく絵本っぽさにマッチしてるんですよね。
大げさに感情を込められると「ちょっと違うなー」って役だと思うんですよ。なんというか…「心を持った人形」みたいな雰囲気が、この映画の雰囲気とすごくあってるんです。というか彼の存在もまたこの映画を形作る大きな要素の一つだったと思います。お見事でした。
ちなみに余談ですが、レイトショーで観たあと売店も閉まっていたんですが、ウロウロしていた店員さんを捕まえてパンフレットを買いました。
このパンフレットがまた映画の雰囲気そのままで素晴らしい作りなんですが、実は映画のパンフレット自体、買うのは「インセプション」以来なんですよね。いかに良かったか推して知るべしってやつですよ。「これぞ映画だ!」と感動しました。ハイ。