映画レビュー1364 『史上最高のカンパイ! 戦地にビールを届けた男』
今回はなんとなくAppleTVの気分だったのでこちら。どんな気分かは自分にもわかりません。
史上最高のカンパイ! 戦地にビールを届けた男
ピーター・ファレリー
ブライアン・カリー
ピート・ジョーンズ
『The Greatest Beer Run Ever:
A Memoir of Friendship, Loyalty and War』
ジョアンナ・モロイ
ジョン“チッキー”・ドナヒュー
デイヴ・パーマー
2022年9月30日 各国
126分
アメリカ
Apple TV+(Fire TV Stick・TV)
主人公が脳天気すぎて。
- ベトナム戦争時、行方不明となった親友探しも兼ねてかつての友たちへビールを届ける
- 奇遇な出会いと生来の軽さで戦地を渡り歩く主人公
- 次第に過酷さを増していく戦況を前に無事帰国できるのか
- こんなアホなやついるか…? と思ったら驚きの実話
あらすじ
今になっても描かれるところを見ると、やっぱりアメリカにとってベトナム戦争は相当なトラウマなんだろうなと思いますね。
ただ正直戦争映画としてもコメディ映画としても中途半端な感もあり、もう少しどちらかに寄せてほしい気もしました。
昼までウダウダ寝て酒を食らってはまた寝る、お気楽生活を送っている元海兵隊員のチッキー・ドナヒュー(ザック・エフロン)は、親友のトミーが戦地で行方不明になったと聞きます。
一方街では若者たちによる戦争反対のデモが拡大しており、戦地へ行ったトミーを始めとした友人たちを誇りに思えと反発したチッキーと一悶着、その後またもバーに行ったチッキーがウダウダクドクド管を巻いていたらバーのマスターである“大佐”(ビル・マーレイ)が「あいつらにビールでも届けてやりたい」と口にするのを聞き、「俺が届ける!」と酔っ払いの思いつきで立候補。
次第に後に引けなくなった彼はビールとともに街の人達からの願いも携えて、単身ベトナムの戦地へ向かうのでした。
主人公がお気楽すぎる戦争映画
なんとなく一時期のディカプリオがやりそうな役だなと思ったんですが、あんまりこういった役のイメージがないザック・エフロンが結構しっかりと演じていてなかなか新鮮でした。そろそろこういうのもやっていかないと、ってモードチェンジなのかな。
戦地で「ビールを届けに来たよ」と言うと間違いなく「そのためだけに来たのか!?」と呆れられるチッキーの大冒険、そりゃそうでしょこんなバカどこにもいないよと思ったらびっくり実話だそうで。マジでこんなバカいたんだ…!
僕にはこの手の勢いだけですべてを成し得るような行動力と短絡さがないのである意味羨ましくもありましたが、しかし同時にどう考えても迷惑だし“根回ししてなさすぎる”ところがどうにも好きになれず、なんか「俺がやればなんでもうまくいく」みたいな根拠のない前向きさが少し鼻につく感覚もあり、つまらなくはないんだけどモヤモヤするような映画でした。
メタ的に捉えれば、この脳天気な主人公の姿を追うことでベトナム戦争の前線がどういうものだったのかを捉え直し、戦争の残酷さや無意味さをもう一度問いかけるようなメッセージとして価値があるとは思うんですが、それにしても「観客の目」である主人公があまりにもお気楽能天気で前線に迷惑をかけているのも間違いないだけに、もうちょっと彼の変化なり成長なりをしっかり描くような形にした方がグッと来たんじゃないかなぁと思います。
一応そういう目線もあるんですがそれ以上にお気楽さが勝ってしまった印象で、であればもっとコメディに振っても良かったんじゃないかとも思います。もう一押し足りない映画、って感じ。
大物的にはビル・マーレイとラッセル・クロウが出てくるんですが、どっちも結構中途半端でもうちょっと絡んできた方が深くなったような気もするんですよね。
ビル・マーレイは完全にちょい役みたいなものでしたが、ラッセル・クロウについてはなかなか良い役でもあっただけに、彼との時間の方にもう少し重きを置いてほしかった。その方が「ベトナム戦争の実際」を語るのに良かっただろうし。
終盤までは長いことお気楽迷惑かけフェーズなので、主人公に共感しにくいのがネックだなと思います。
ベトナム戦争映画としては…
ただそもそも実話としてこの人が戦地にビールを届けた話がベースになっている以上、あんまり深刻に描くのも違う…となったのもわからなくはないんですよね。
あくまで戦争の話は環境の話でしかなくて、本題はやっぱり「お気楽野郎が成し遂げたバカな偉業の話」ってことなんでしょう。
であればやっぱりもっとコメディに…と堂々巡り。
決して悪い映画でもつまらない映画でもないんですけどね。それなりに楽しめるんですが、でもやっぱり扱っている事象(ベトナム戦争)を考えるとあんまり気楽に観られないし何か説教じみたものを受け取りたい気持ちもあるんですよ。
僕にとってベトナム戦争映画と言えばやっぱり「ディア・ハンター」だし、「グッドモーニング, ベトナム」なので、その辺りと比べると…どうしても「お気楽すぎるだろこいつ」という思いが強くなってしまい、悲しみを描いても刺さりにくいのが残念でした。
このシーンがイイ!
最前線に行ったときにボロクソに怒られるのがすごく良かったですね。そうだよその通りだよ、って観客の思いを代弁してくれて。
ココが○
こんな話が実話としてあった、ということが知られただけでも意味がある…かもしれない。いろんな意味ですごい人がいたもんだ。
ココが×
結局は主人公のキャラクターとその変遷の描き方なんでしょうね。直面した出来事に対して成長している感があんまりなかったので。
MVA
主人公の性格は置いといて、彼を演じるという意味ではザック・エフロンは良かったと思います。
ただ今回は久しぶりにこの人に。
ラッセル・クロウ(アーサー・コーツ役)
チッキーが出会った戦場ジャーナリスト。
戦場ジャーナリストとしては太り過ぎじゃないですかねと思いますがそこは大目に見ましょう。
やっぱりラッセル・クロウは声が激渋だからこういうジャーナリスト役の言葉に重みが出て良いんですよね。久しぶりに良い役やってるところを観た気がします。